053.まずは第一歩
翌日、ロンカ姫は朝にちょっとだけご挨拶に来てくれた。これからもよろしく、とちゃんとできるんじゃんな挨拶をしてくれて、そのまま戻っていった。今日からもう、仕事はそこそこあるらしい。
で、姫と私たちとの文化交流……を建前としたお茶会、つーか女子会の件だけど。
「まあ、そのくらいの日程調整であれば構いませんが」
あっさりとリューミさんが請け負ってくれた。扱いいいな、って思ったんだけどさ、リューミさんとしても思うところはあるらしい。
「他所様の姫君ですし、下手にこき使うわけにも行きませんからね。うっかり身体でも壊されようものなら、シロガネ国との関係にヒビが入りかねません」
「そこを狙ってイコンの過激派とか、モイチノ王国とかが割り込んで来る可能性もあるからなあ。国同士の関係って、めんどくさいんだぞお?」
「クロ様、今のそのお姿で言われてもあんまり説得力ねーですよ?」
「ありませんな」
ハナコさんが呆れ顔で言うのに、リューミさんがうんうん頷く。
そりゃそうだよね……今のクロさん、ソファに座ってるのはいいんだけどその膝の上に私乗っけて撫でくりまわしてるんだもの。頭。猫と人間逆だ、と私の認識だとなる感じ。
「うー。だって、ロンカ姫にかまってばっかりだったんだもん」
「クロさんだって、お仕事であまりお部屋にいなかったじゃないの」
「そりゃそうだけどなあ」
肉球でほっぺたふにふに。おう、この感触はいつされてもたまらんなあ、あー顔がにやけそう。
ちゃんと爪は引っ込むし、引っ込めてくれてるのが気遣いしてくれてる感じでありがたい。あー、ふにふにふにふに。
「アキラ殿、お顔が少々残念なレベルになっております」
「わあ!」
リューミさんが顔引きつらせながら注意してくれたおかげで、やっぱり顔がにやけてたんだと気がついた。いかん、きっちり修正しないと。
何とか顔を引き締めると、リューミさんはこほんとひとつ咳払いをしてからこの部屋に来た本題に入った。そうだ、何か用事がないとここに来ないよね。
「……ああそうそう、報告です」
「何だ?」
「例のスパイですがすっかり陥落しましてね。知っていることを洗いざらいぶちまけてくれましたよ」
例のスパイって、うさ耳つけてたガーゴイルスキーの偽メイドさんか。がーすけをダシにしたな、リューミさんてば。
「がーすけはどうしてる?」
「すっかり疲れ切っておりますので、さすがに引き離して休ませました」
「そりゃまあ、ひとさまにべたべたされるのは慣れてないからなあ。あいつ」
がーすけの苦労の賜物、とも言える報告書を手渡しながら、さすがにリューミさんもバツが悪い顔をしてる。偽メイドさん、どんだけがーすけに構いまくったんだろう。
というか、動かなければただの石像にしか見えないガーゴイルって、あんまり構われるの慣れてない……よな。うん。
「ガーゴイルって、あんまり他と交流ないですもんね」
「普段は、謁見の間で飾りの代わりやってるんだっけ」
私の考えてること言ってくれたハナコさんに聞いてみたら、「そうですよ」って頷いた。石像にしか見えない利点を生かしての、本来のお仕事はそれだ。
「クロ様に何かあったら敵に向かってがおー、って殺る役目なんですよ」
「護衛役でもあるのに、撫でくりまわされて頬ずりとかされると困るか……」
そりゃ困るわよ、クロさん。というかハナコさん、やるってもしかして殺る、か。そういう雰囲気、言葉の端々に漂ってた。
まあ、国王陛下に何かあったら敵に向かっていく役目なんだから、殺っちゃってもしょうがないよね、とは思う。うーむ、すっかりこっちのやり方に慣れてしまったかも。
「詳しいことは、後で話する。お世話係まで巻き込みたくないからな」
「だったら、アキラ殿をお膝の上から下ろされたほうがよろしいかと」
「今はオフだからな!」
リューミさんのセリフを聞き流しながら、またもふもふ再開。私はずっとこのままでもいいんだけど、この国の人が困るんでないかな?
そんなこと思ってたら、ハナコさんがにこにこ笑いながらどしん、と床を重々しく踏んだ。
「クロ様、そろそろお仕事のお時間でしょう? それでも動かれないのでしたら、アキラちゃんの代わりにこのハナコがお膝を占拠させていただきますが」
「仕事行ってくる!」
慌てて立ち上がりかけて、それでも私のことはそっと膝から下ろしてくれた。そりゃそうだよなクロさん、私の何倍も重いハナコさんを膝の上に載せたら、最低でも立ち上がれなくなるもんなー。
「では魔王様、ご一緒に参りましょう」
「そ、そうする!」
さっきの報告書をしっかり握ったまま、出勤する気満々になった。よしよし、それでこそ我らが魔王様だ。猫だけど。
「いってらっしゃーい。リューミさん、おつかれさまー」
「クロ様を、よろしくお願いいたしますね。それと、ロンカ姫のことも」
「一応、時折様子見には行きますので」
そうそう、ロンカ姫のことも頼んだよー、リューミさん。




