表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/101

004.美味しいご飯は最強

 それからしばらくして。


「失礼しますー。お食事をお持ちしましたー」

「うにゃっ!」


 ノックの音にびっくりしたのか、クロさんが慌ててベッドからずさっと後ずさりした。というか、後ろに軽く飛んだ気がする。ああ、猫って驚くとあんな感じに動くことあるもんなあ……やっぱり猫じゃないか、クロさん。


「は、入っていいぞ」

「はーい。それじゃ失礼しますー」


 あわあわと取り繕うクロさんを、ドーコさんはジト目で見てるだけだ。まあうん、気持ちはわかる。

 で、扉が開いて食事……というか、お鍋とマグカップがワゴンに乗って運ばれてきた。持ってきてくれたのは、ドーコさんによく似た、赤っぽい毛並みのドーベルマンメイドさん。


「妹のベルミでございます。どうぞよしなに」

「ベルミですー。お姉ちゃんと一緒に、勇者様のお世話をさせていただきますですー!」

「あ、うん。ありがとう、よろしくね」


 ああ、姉妹なのか、そりゃ似てるわ。というかドーベルマンなんて私、基本的に見分けつかないけどね……毛色が違うんで、この二人はどうにかなりそう。青っぽくてキリッとしてるのがドーコさんで、赤っぽくてどことなく甘えん坊っぽいのがベルミさん、と。


「はい、どーぞー。人間さんが食べられるお野菜とお肉使ってますから、大丈夫ですよー」

「うん。いただきます」

「ちょっと待ったあ!」


 ベルミさんがお鍋からマグカップに移してくれたスープをもらおうとしたところで、なぜかクロさんがストップを掛けた。何でだよこの特大黒猫魔王様。


「まだ……えーと、アキラは意識が戻ったばかりなので、スープを飲むにしても少しずつにせねばならん!」

「はいはいクロ様、はいあーんをやりたいんでしょうあーんを」

「先に言うな!」


 ため息を付きながらドーコさんが言ったセリフ、クロさんてば否定しないんだ。ってか、はいあーんってスープでか? ……ああ、スプーンあるな。これでやりたいのかこの猫魔王様は。


「申し訳ありません、アキラ様。一度やれば気が済むと思いますので……」

「えー……一度だけだよ?」

「やった!」

「……いつものことなんですけどー、クロ様めっちゃ嬉しそうですー」


 一度やれば気が済む、んならまあしょうがないか。そう思ってドーコさんの申し出を受け入れたら、クロさんは目をキラキラさせている。ベルミさんは顔をひきつらせてるし……というか、これはいつものことなの? いつもって何だいつもって。

 そんなことを考えているうちに、クロさんはマグカップのスープをスプーンですくった。ふうふうと息を吹きかけてから私の前に差し出して、何というか偉そうに命じる。もしかしてクロさん、猫舌だな? 猫だけに。


「と、というわけで勇者アキラよ! あーんをするのだ!」

「偉そうに言っても、さっきの額ぐりぐりは忘れませんからね?」


 なんてーか、子供が偉そうにしてる感じでとっても微笑ましい。だから私は、素直にあーんと口を大きく開けて差し上げた。

 そっと流し込まれるスープを口に含んで味わって、こくんと飲み下す。サラサラした液体はほんのりと野菜や肉のかけらを伴って、喉からお腹の中に落ちた。あ、口の中にお肉がある。噛み締めてから飲み込もう。


「ん、おいしい」

「それはようございました」

「よかったですー」


 素直に、というか何も考えずに口から出た感想に、犬メイドさん姉妹が揃って耳をぴんと立てた。あと、パタパタという音も聞こえるので二人してしっぽ振ってるな、これ。見せてほしいなあ、しっぽパタパタしてるドーベルマンメイドさんの後ろ姿。


「そうか、美味しいか! やはり我が城のシェフは最高だな!」

「クロ様、お褒めの言葉は本人たちに直接お伝えしたほうがよろしいかと」

「うむ、後で行ってくる!」


 ドーコさんに言われて喜ぶクロさんも、マントがばさばさ言っている。やっぱりその下、猫のしっぽがあるな? ああもう、見せろってば握りたい。このサイズなら、クロさんのしっぽはさぞ長くてかっこいいだろうし。いや、鍵しっぽでも短いのでも可愛いとは思うけど。

 薄味なんだけど、野菜や肉のだしがしっかり出ていて美味しいスープ。それが入ったマグカップを、そっと持たせてもらった。一気に飲み干すにはちょっと熱いからゆっくり、少しずつ飲むことにしよう。


「ゆっくり飲んでいいんだよね?」

「そうですね。少なくとも三日間は眠っておられたのですから、あまり臓腑に負担を与えるわけには参りません。急に詰め込もうとなさらず、無理のない範囲で」

「はーい」


 ドーコさんにもそう言われたしね。自分で飲めなかったら……ドーコさんかベルミさんかにあーんしてもらうことになるのか。……ま、いいか今更。


「このお鍋は保温の魔法が掛かってますから、夜ご飯くらいまでなら温かいですよー。ゆっくり飲んでもだいじょぶですー」

「そうなんだ」


 ベルミさんが、楽しそうにお鍋のことを教えてくれた。いいなあ魔法のある世界、めっちゃ便利じゃね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ