041.魔王という存在
リューミさんとこに行った、翌日。
「うむ、うまいな」
「しゃ、しゃー」
「タカダくんもうまいか? よしよし」
昨日のうちに届けておいた焼き菓子は、無事クロさんの舌にマッチしたらしい。タカダくんと一緒に、もぐもぐ食べている。
ミカさんはクロさんのお茶周りを、私はクロさんの背中をブラッシング中。う、また引っかかった。長毛種って、これがあるんだよなあ。
「クロさん、ブラッシング大変だよう」
「毛が長いからなあ。単純に寝てるだけでももつれたりすることがあるし」
独り言のつもりで呟いたら、答えが返ってきた。あー、そうなんだなるほど。
「ああ、寝癖か。クロさんの毛、柔らかいもんねえ」
「さすがに、刈り込むわけにも行きませんしね」
枝毛っぽいところとかは、私とミカさんでぼちぼち切ってるんだけどね。でもそうか、変にこんがらがったらまとめて切っちゃう、ってことになるかもしれないかあ。
「ビャッコ様の子孫なだけに、虎刈りになりそー」
「やめろ子供の頃を思い出す」
「……されたのですか?」
「森の中で遊んでて、木々や枯れ草が引っかかりまくって取れなかったんだ……」
「あー」
ダジャレのつもりで言ったんだけど、どうやらガチだったらしい。ごめんクロさん、トラウマ再燃させたかも。
でも、森の中で子猫が遊ぶ光景、ちょっと見てみたかった気がする。草まみれになって涙目、とか脳内再生余裕だよ、うん。
「今でも、戦や視察などでそういう事になったら遠慮なく切る、とはリューミに言われているんだが」
クロさんはそんな事を言って、焼き菓子をもう一つ口の中に放り込んだ。あー、リューミさんなら言いそう。
というか、戦争でそんなことになるってことはつまり、だ。
「おとなしく後ろに引っ込んでてください、ということですよ。国王陛下なんですから」
小さくため息をつきながらミカさんが言った、そういうこと。
クロさんは、国王のくせに先頭に立って戦う、ってことだ。いや、それだめなんじゃないの?
「私を拾ったときも、先頭に立ってたんだって? 王様なんだから、後ろでどっしり構えてたほうがかっこいいよ?」
リューミさんの気持ちも分かるから、私はどうにかしてクロさんを後ろに引っ込めるように言葉を……選んだつもりだけど、大丈夫かな? こんな言い方。
でも、私の使った単語にクロさんの耳がぴるん、と反応した。あ、こっち向いた目も丸くなってる。
「……かっこいい?」
「そうだよう。王様にはお仕事の能力も必要だろうけど、クロさんにはリューミさんやいっぱい部下がいるんだからフォローしてくれるよ。でも、王様自身のかっこよさはクロさん自身が出すものでしょ?」
実際はどうだか、私は王様や王女様をやったことがないから分からない。でも、こうだといいなあなんてことをだばだば口に出してみたら、クロさんも「む……そ、そうか?」と何か乗り気になってきた。だって、耳がこっち向いてるもん。
「そんなことを言われたのは、初めてだぞ」
「まあ、外面のかっこよさなんて指摘するひと、あまりいませんからねえ」
ミカさんの言葉に、私もそうそうと頷く。……でもさ、どうせ仕える王様ならかっこいいほうがいいじゃない?
「それに、クロさん自身が前に出てくる状況ってさ。相手からしてみたら、クロさんさえ倒せばこの国は終わりなんだってとってもやる気になるじゃない?」
「リューミ様がそばにいるでしょうけれど、多分クロ様のほうがお強いですしねえ」
「いや、リューミも結構強いぞ? あいつ、あれでも龍なんだから」
クロさんの言い方からすると、リューミさんってもしかしてドラゴンチェンジとかできるんだろうか。……その前にクロさん、魔物色々拾ってきてるよねえ? その中に、ドラゴンとかいるんじゃないの?
それに、何となくだけどリューミさんよりクロさんのほうが強い、と私も思う。龍より強い猫ってどんなんだと思うけど、でもそうでもなきゃ魔王様なんてやってないよね。
「でも……私の世界の架空の話でごめんだけど、魔王ってのは最後の最後に出てくるもんだと思うの。私とかリューミさんとかを打ち破って、その最後に登場する存在」
「架空の話?」
「物語、おとぎ話ともいうかな。私の世界、そういうの多いんだ」
「うにゃ」
ゲームとかアニメとか言ってもわかんないかもしれないから、こういう言い方で私の考えを二人に伝える。うーん、文化の違いって難しいね。
でも、しばらくして二人は、笑ってくれた。
「確かに、クロ様って外交用の甲冑お持ちですものね。あれを着て出ていったら、敵対者にとっては最後の敵っぽくないですか?」
「あー、あれか……言われてみれば、そうだな」
外交用の甲冑って、訳解んないよね。
でも、例えば餅の国から使者が来た場合なんかはそれ着て立つと結構圧力になるらしい。逆に仲のいい国の人が来たときには、最低でも兜は外すとか。中身見せたら、可愛い大猫だもんねえ、クロさん。
「……中身見せるんなら、ちゃんと毛皮のお手入れしないとね!」
「うにゃー。頼むぞアキラー」
はいはい、頼まれました。




