040.お土産は美味しいものを
リューミさんが呼び鈴を鳴らして、部下の人を呼んだ。口元から牙が見えるくらいで、ほかは人間にしか見えないその人にリューミさんは手早くマスダくんから得た情報を伝え、城内の探索を急ぐように指示した。
「頼むぞ」
「分かりました」
部下の人はリューミさんと、それから私たちにも頭を下げてから扉の向こうに消える。それを見送ってからリューミさんは、こちらを振り返った。
「すぐに見つかるとは思わんが、まあそう時間もかからんだろう」
「お仕事、ご苦労さまです」
「ああ」
ミカさんの言葉に、リューミさんが苦笑する。……あ、なんか疲れてる感じ。
そうか、事務の仕事とかしないといけないのに私たちの相手してくれてたんだもんなあ。
「あ、そろそろ失礼しないと」
「そ、そうですね」
「そうか」
自然に見えるように、お茶を飲みきって立ち上がる。ミカさんも慌てて立ち上がったのを見て、リューミさんは……やっぱりほっとしてんじゃん。うわあ、長居しちゃったよ。ごめんなさい……と思ってたら、「少し待て」と戸棚の方に向かっていった。
戻ってきたその手の上には、四十センチくらいの横長の箱ひとつとノートくらいのサイズの箱二つが載っている。厚みはどっちも同じくらい。
「日持ちのする茶菓子だ、これを持っていけ。こちらの大きい箱を魔王様に、小さい方はお前たちにだ」
「わ、ありがとうございますー」
わお、お土産もらっちゃった。というか、クロさんとこに持ってくついでって感じ?
「いいんですか?」
「マスダくんやヤマダくんと遊んでくれたからな。些細な礼だ」
一応あちらの考えを伺うように質問したミカさんに、ちゃんと答えてくれる。うむ、これはまじでもらっていっていいらしい。クロさんとこにも持っていかないとね、うん。
出入り口の方まで移動すると、メイドさんが扉を開けてくれる。そこを通り抜ける前に、リューミさんは言ってくれた。
「マスダくんは、引き続きこちらで預かろう。私が在室しているときなら、いつでも来てくれて構わんぞ」
「ありがとうございます」
「わっかりましたー」
いや、私が来てもマスダくんの言葉分かんないから、ミカさんと一緒になるんだろうけどさ。
でも、またマスダくんには会いたいし。ほどほどの回数ですぐに帰るようにすれば、大丈夫だよね?
「しゃあ」
「しゃ、しゃ」
「しゃあ!」
伝書蛇たちも、私にはわからない言葉で会話してる。多分またねーとかそんな感じのご挨拶、なんだろう。
「良かったね、センダくん。それでは、失礼いたします」
「それじゃあ」
「ああ。魔王様によろしく」
お互いに挨拶をして、扉がゆっくりと閉まった。……すごい、閉じきるときにほとんど音がしなかった。あのメイドさん、どうやって扉の音させなかったんだろう。ま、いいか。
「ヤマダくん、なんて?」
どんな挨拶してたのか、マスダくんはともかくヤマダくんのほうが気になったので、ミカさんに聞いてみよう。センダくん経由で、何言ったかは分かってると思うし。
「また遊びに来てね、だって」
「しゃい!」
「そっか」
おお、あの引っ込み思案らしいヤマダくんが遊びに来てね、か。よほど嬉しかったんだろうなあ、お友達……おともだちだよね? できたんだし。
「じゃあ、また行こうか。今度は、こっちもお土産持って」
「そうですねえ。クロ様にはまた、スケジュール調整していただかないといけませんけど」
「そのためのお菓子だよ、きっと」
「あ、なるほど」
持たされた箱は、まあまあ重い。日持ちのするお菓子だっていうから、クッキーとかそのあたりなのかなと思うんだけど。いや、この世界だとどういうのが日持ちするかわかんないんだけどね。
「んー、おいひい」
結論としては、フィナンシェだった。私がそう呼んでるだけで、この世界ではなんて呼ぶのか知らないけど私の知識の中にある一番近いお菓子はそれだ。
夕食の後、せっかくなので一個食べてみたんだけどちょっと甘めで美味しいな。これ、お茶に合う……だからお茶菓子か、そうだよね。
「リューミ様がお土産をくださったなんて、よほどご機嫌がよろしかったのでしょうね」
「自分とこの伝書蛇にお友達できたって感じだったからねえ」
ドーコさんが、お茶を淹れて持ってきてくれた。うん、ほんとに合うー。
これ、ドーコさんにもあげようかな。そうしよう、うん。
「ドーコさんも食べなよ。せっかくこれだけくれたんだし」
「メイドは、仕えている主と同じところでは食べないものなんです」
「そうなの?」
「そうなんです」
え、そうなんだ……そういえばドーコさんもベルミさんも、ご飯ここで食べないよねえ。そういうもんなのかな?
個人的には一緒に食べてほしいけど、なんかあったらリューミさんとかうるさいだろうなあ。
でも、フィナンシェは美味しいからドーコさんにも食べてほしいし。
「めんどくさいねえ。……よし」
ここに来てから、生活するためとかでいろいろ品物は揃えてる。その中から綺麗なハンカチを出してきて、そこにいくつかフィナンシェを包んだ。
「じゃあ、これ持ってって。私からあげるんならいいんだよね?」
「え、あ、はい」
その包みを手渡して、私はまっすぐにドーコさんを見た。私たちだって、リューミさんからお菓子もらったんだし。おすそ分けくらい、してもいいはずだよね。
「ベルミさんとくらいなら、分けっこできると思うんだけど」
「ありがとうございます!」
ドーコさんも今度は喜んで受け取ってくれたから、大丈夫だと思う。うん。




