039.しんじてほしい
そこからしばらくの間センダくんとヤマダくん、そして緑色の子の会話を見ながらお茶の時間となった。
いやだって、私はどの子の言葉も分からないんだもん。さっきのアライグマっぽいメイドさんにお茶淹れてもらって、のんびり眺めてるしかやることがない。
机で書類作業をやりながら、伝書蛇たちのやり取りを眺めているリューミさんがひどくほんわかな顔をしていることに気づく。ミカさんにちらりと視線を向けると、しーと人差し指立てられた。うん、変なこと言って怒らせたくないよねー。
「マスダくん、というそうです。主の名前はごめんなさい、と」
「それは、致し方あるまいな。こういう任務につかせるのだ、主の命で言えないことは多々あろう」
「まあ、ぺらぺらしゃべるような子じゃ信頼できないもんねえ」
基本的に、緑……マスダくんというらしいその子との会話はセンダくんが担当しているようだ。ヤマダくんも気を使ってはいるようだけど、多分どう話していいかわからないとかそういう感じだね、あれ。
「本当に、お城の中を調べて報告するだけなのね?」
「しゃ」
ミカさんの質問に頷くのは、さすがに私でも分かる。マスダくんは、そういう役目を言いつけられてこのお城に来たんだろう。ちっちゃいのに大変だなあ……伝書蛇って。
その次に、リューミさんが尋ねた。
「主は、城の中にいるのか?」
「しゃっ」
「……どうしてですか、と聞いています」
マスダくんからセンダくん、そしてミカさん。経由された短い質問を受けて、リューミさんは真剣な顔をしてマスダくんを見つめる。
「お前のその姿では、ひとりで外をうろついていては寒くて仕方がないはずだ。何かに入れられてきたか、主がお前を連れてきたかだろうと推測できる」
「……」
「もし主なり関係者が連れてきたのであれば、その者もそのまま城内に潜んでいる可能性がある。わざわざ入り込めたのだから、自分で情報を集めない手はない」
毛の生えていない伝書蛇。センダくんは、外に出たりするときにちゃんと上着を着るんだよね。マスダくんも毛が生えていないから、外から自分ひとりで来るのは寒いよね、ということね。
「………………しゃ」
「おられる、とのことです」
「そうか」
マスダくんの、小さな小さな返事に皆がそうか、という表情になる。この子の主が誰なのか、どこにいるのか、聞くものだと思ったんだけど。
「後はこちらで調べよう。よく言ってくれた」
「……………………しゃい」
リューミさん、マスダくんに気を使ったのかな。そう言ってくれたことにこくり、とマスダくんが頷いた。
ああ、でもそうか。自分の主が城の中にいる、その事実を口にするだけでもこの子には、つらいんだろうなあ。多分主は、自分が城にいることも秘密にしたいだろうから。
その事を言っちゃったマスダくんは、果たしてどうなるんだろう?
「お前の主の待遇は、当人次第だ。そこは、お前の責任ではないからな」
リューミさんは……何となくだけど、マスダくんのことは大事にしてくれると思った。いやだって、あんなにおとなしいヤマダくんがなついてるみたいだし。伝書蛇だって魔物ってか動物だから、そういったあたり敏感だと思うんだよね。
にしても。
猫のクロさんも可愛いけど、伝書蛇たちも可愛いよねえ。あー、目の保養目の保養。
「どうしたんですか? アキラさん」
何かうっとりしてたら、ミカさんが訝しげにこっち見てきた。あー、今私きっと変な顔してたんだろうなあ。
「私の元いた世界って、こういう蛇っていないんだよね。ペットとして飼う人はいるけど、身近で見たことはないし」
「そうなんですか」
「たまたまこの世界では伝書蛇が便利だっただけで、他に使えるものがあるならそちらにするかもしれんしな」
不思議そうな顔をするミカさんに対し、リューミさんはすぐに理解してくれた。……郵便どころかスマホだのインターネットだの、いろいろありますよーなんて言いそうになったけど原理知らないもんね。説明できないからやめとこう。
「そもそも翼の生えた蛇なんていないもん。それに、こんなに愛想のいい子たちも」
「しゃ?」
「ぴゃっ」
思わず手を伸ばして撫でると、センダくんはおとなしく撫でられてくれた。ヤマダくんは一瞬ビクついたけど、その後はおとなしい……うんごめん、考えてみたら今会ったばかりだもんね。
「ヤマダくん。アキラ殿は、魔王様のお世話係を仰せつかっている。大丈夫だと思うぞ?」
「思う、なんだー」
「う」
「しゃ?」
あ、ごめん。意地悪言っちゃったかな? リューミさんは顔引きつらせちゃったし、ヤマダくんは首かしげてるし。
うんまあ、自分でも自分がちゃんと安全なのか、とかそういうところ、わからないしね。クロさんやリューミさん、お世話係のみんなやメイドさんたちがいてくれてるけど、果たして。
「……今のところ、私はアキラ殿に関しては安全だと思っている。でなければ、魔王様のお世話係になど任じるわけもないからな」
でも、そっぽ向きながらリューミさんがそう言ってくれたのは、嬉しいな。




