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003.呪い呪われ助けられ

「それでクロ様」


 ぺんぺん、とドーコさんがクロさんの額を叩いた。「な、なんだ?」と顔を起こしたクロさんは、やっぱりごめん寝から起きた普通の黒猫に見える。サイズでかいけど。

 きっちり仕切ってくれるドーコさんがいないと、どうも話が進まないみたい。そのドーコさんが、クロさんに尋ねてくれた。私の扱いについて、だ。


「アキラ様ですが。身分としてはクロ様のお客人、ということでよろしいのですね」

「ああ、それで頼むぞ。食事は大丈夫だよな」

「うちの厨房を何だと思ってるんですか。人間のシェフもおりますから、何の問題もありません」

「あれ。この国、人間もいるんだ?」


 思わず声を上げちゃった。いやだって、私はまだ二人しか見てないけど犬と猫だし、その二人の話からしてどうやらこの国はそういうひとたちばかりがいる国みたいだし。


「まあ、人の世で生きにくい者もいるからな」

「魔族でも姿形が人とそう変わらぬ者もおりますし、アキラ様のように他国からの客人もおいでになることがございます。魔族の国であっても、人が暮らすにおきましては何の問題もございません」

「なるほどねえ」


 クロさんとドーコさんの説明に、そういうことかと納得する。

 そうだ、クロさんの国って餅の国以外の外国とはそれなりに上手くやってるって言ってたっけ。それなら、お互いに行き来があってもおかしくないんだよね。お隣の国から、何かの用事で人が来ることは当然あるわけだし。それに、もしかしたらこっちのほうが住みやすいなんて人もいるかも知れないしね。

 じゃあ、普通にご飯は食べられそうかな。この世界のご飯、ちゃんと食べた記憶がほとんどないんでどういうのか分からないんだけど。


「アキラ様には後ほど、軽いお食事をお届けいたします。モイチノの手にあった頃には、さほど食事をなさっておられなかったようなので」

「あー。あっちにいたときのことって実はあんまり覚えてないんだよね、どういうわけか」

「ほう?」


 それで素直に答えたら、クロさんの目がきらんと光った。ああ、こういう表情……しても大きな黒猫だよ、間違いなく。さっき虎を主張してたけれど無理無理無理。

 ま、そこらへんはともかく。


「私、別の世界からこの世界に呼ばれて来たんだけどね。勇者よ、魔王を倒してくれって言われて剣と鎧準備してくれたんだけど、その鎧着てからほとんど記憶がないのよ」

「ああ、あの鎧だな」


 手っ取り早くまとめて話すと、クロさんは腕を組んで深く頷いてくれた。

 一応、鎧を着た状態で向かい合ってたようだし、クロさんも私が着てたやつのことは知ってるみたいね。

 そうして、その鎧について私には衝撃的なことを言ってくれた。


「呪いがかかっているようだったから、ひとまず回収して解析させておるぞ」

「呪い」


 ……まじかー。あの鎧、呪いの鎧だったのかー。

 いや、何でわざわざ勇者呼び出してそんな鎧着せるのよ。そのおかげで私、何かえらいことになってるかもしれないし……冗談じゃないわ、あの餅の国。

 そう考えたのは私だけじゃなかったようで。


「どうして勇者に、と申しますかアキラ様に呪いをかけて戦わせているのだ、とクロ様はお怒りだったそうですが」

「当たり前だ。自分の意志で戦っているのならまだいいが、呪いによる強制なんて俺は好かん」


 二人して、耳がぴるんぴるんと震えている。ううむ、どちらも指で挟んでふにふにしたい。

 あと、毛が逆立ってるのが分かる。怒ってる怒ってる……これ、私のために怒ってくれてるのかな。

 そっか。


「……ということは、クロさんは私を助けてくれたことになるんだ」

「…………う、うむ」

「そうなりますね」


 あ、クロさんてばぷいと視線そらした。その割に……背中のマントがこう、ゆらゆらと揺らめいている。これはあれだ、下で猫のしっぽがゆらゆらしているに違いない。

 ドーコさんは何となくドヤ顔。犬でもドヤ顔って分かるんだな……うちの魔王様すごいだろう、とか思ってるのかもね。

 いかんいかん、猫は良すぎる。犬も好きなのでドーコさんもいいけれど、猫も好きだからクロさんもいいし。

 くっ……もしかして私、とっても良い国に来られたんじゃないだろうか。それもこれも、クロさんが私を助けてくれたおかげってことになる。これはお礼を言わなくては。


「そっか。じゃあ、助けてくれてありがとうございます! おかげで私、呪いから解放されたんですよね!」

「にゃっ」


 思いっきりお礼を言ったら、クロさんの背筋がぴんと伸びた。いや、猫だけど猫背じゃなかったんだけどね。

 もしかして、大声で言っちゃったから驚かせたかな。ごめんごめん。


「ま、まあそういうことだな。うん、俺偉い」

「は?」


 なんて思ってたらクロさんは、私にぐりぐりと額を押し付けてきた。ちょっと待て、これは猫が普通にやる仕草じゃないか。

 やっぱり猫じゃん。そう突っ込んだりしたら虎だって主張するんだろうから、言葉にはしてあげないけどね。


「クロ様は、アキラ様になつかれたようでございますね」

「……これ、なつかれてるよね?」

「はい」


 額でぐりぐりする魔王様と、その頭を思わず撫でまくる勇者を見ながらしれっと言ってのけるドーコさん、実はとっても大物なのかもしれない。

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