033.剣を使うは誰のため
「腹のブラッシングはともかく、そこに伝書蛇載せたまま爆睡とな」
「はい」
夜の訓練後、夜食のサンドイッチをもぐもぐ食べてるときにカレンさんに、今日のクロさんのことをお話ししてみた。
カレンさんは一瞬目を見開いて、それから口の中のサンドイッチを飲み込んで、そうして満面の笑みを浮かべて。
「めっちゃ気を許してるねー」
「許されてますよねー」
いやほんと、猫が腹見せたままその上にちっちゃい蛇載せていびきかいてるんだよ。どう考えても、そうとしか思えないじゃん。
「おかげで、あの魔王様守らなくちゃなあ、という感じになっちゃいまして」
「分かるー。あそこまで無防備なとこ見せられちゃあねえ」
「……カレンさんも?」
ひどく軽い口調になってるけど、何でもこれが素らしい。いつもは周囲からすごい一族の人、という目で見られててこう、カッコつけないと怒られるらしいんだよね。今は私と二人でお夜食中だから、リラックスしてる模様。
「ま、ね。一応、クロ様も剣の弟子だし。もうちょっと小さい頃だったけど」
「ああ……」
そうか、カレンさんってクロさんにも剣教えてたんだ……ん、小さい頃?
「……って、えええええ?」
「ん、何?」
いや、そこで再び目を丸くしてこちらを見られても困るって。猫の小さい頃、といえば子猫に決まってるじゃないの。
そうして猫は可愛らしいけれど、特に子猫はとってもとっても可愛いんだから。もしかしてカレンさん、小さいクロさんを見たんですかそうですか。
「カレンさん、小さい頃のクロさん見たんですかもしかしてお腹ぽんぽこりーん、とかですか」
「いや、さすがにそこまでは小さくなかった。残念ながら」
「そ、そうですか残念」
くっ、心の底から残念無念。いや、どうせ自分で見られないんだから仕方ないんだけど。
というか、そうだよね。剣の弟子になったくらいなら、さすがに私の考える子猫ってことはないよね。もうちょっと大きくなってて、あーでも耳がちょっと横についてたら可愛いな、なんてついつい思う。
「……ただの猫好きになってないかしら? あなた」
「ぐっ」
カレンさんに、冷静にツッコミを入れられてしまった。いやまあ、好きなものはしょうがないじゃないの。ちょっと、私の知ってるのとサイズや生活が違うけどさ。
「なってますねえ。もともと、猫も犬も好きなんですが」
「あなたの世界にもいるんだ」
「いますよ。クロさんやドーコさんみたいに、人の生活するようなのはいませんけど……私が知ってる限りは、家でペットとして飼われてることが多いですね」
「なるほどねえ」
幸いというか、カレンさんも私が別の世界から連れてこられたことを知っているのでこういう会話になる。魔術師の家系としてもカレンさん本人としても、別の世界の話には結構興味があるみたい。私は今経験してるからいいけど、こちらの世界の人は私の話でしか知ることはできないからね。
ああ、犬も猫も野生のはいるだろうけど、私は詳しく知らないから話はできないね。うん。
「そりゃ、クロ様のお相手に慣れてるわけだ」
「というか。こちらの猫さんも、私の知ってる猫さんとあんまり変わらなくて助かりましたよ」
私は私の知ってる猫のお相手するやり方でやっただけだもん。それでクロさんがリラックスしてくれて、本当に助かった。間違ってたらがぶり、と食べられててもおかしくない状況なんだよね、一応。
相手、魔王様なんだから。猫だけど。
その猫魔王様を剣の弟子にとっていた、魔術師一族の変わり者であるところのカレンさんは苦笑して、肩をすくめた。
「世界が違っても、変わらないものはあるんだねえ……過去の記録だと、馬の外見が違うって驚かれたらしいけど」
「過去、ですか」
「なんだかんだでこの世界、昔から下衆は下衆だったらしくてね」
「……同じ目にあった人がどれだけいるんだ、って話でしたっけ」
「そうなのよねえ。だから、異世界から人を連れてくる魔術は禁止だっつーのに、モイチノ王国はまったく」
結局、話はそこに戻ってきた。
この世界全体で禁止されてる魔術を使って私を連れてきて、操ってクロさんを倒そうとした餅の国は現在、他の国ほとんどから非難轟々らしい。そりゃそうだよね、と当事者である私も思う。
んで当の餅の国は、自分たちのやることは世界のためであるとか何とか言ってる……らしいんだけど、要するに自分たちが正しいって言いたいだけだよねえ。クロさんが悪い魔王だって主張したいんだろうし、魔族が悪いやつだから滅ぼしたいって思い込んでるんだし。
「冗談じゃないですよねえ。私、もっと頑張らないと」
「ま、剣の腕がちょっといい人間が一人増えたくらいじゃ大して変わりゃしないけどね」
「あうっ」
いや、たしかにカレンさんの言うとおりだけど。
でも、ちょっとでもクロさんの力になりたいな、と思ったから私はそうなりたいわけで。
「クロ様をお側でお守りできるなら、剣の腕は上がったほうがいいに決まってるものね。がんばろ」
「はい!」
だから、私は修業を続けているわけだ。




