031.肉球は最高
いつも、クロさんは私の頭撫でるんだよね。いや、気持ちいいのはいいんだけどさ……というか、私あなたのお世話係じゃなかったっけ? 何で愛玩動物扱いされてんだろ。ま、いいけど。
「クロさん」
「みゃっ」
なので私は、一応申し出てみることにする。愛玩動物というかペット扱いなら、少しはワガママも許されるでしょう。いや、どうせ大したことではないし。
「肉球触らせてください」
「いつもなでているではないか」
「なでてもらうのと、こっちから触るのとは違うんです」
「そ、そうか。いいぞ」
私より大きい、猫の魔王様。その手の肉球を、ぜひぜひこう自分の手でもふもふふにふにとですね、やってみたかったわけよ。
クロさんはそれを許可してくれて、そっと両手のひらを差し出してくれた。おおう、黒猫だからか濃い茶色のつややかでぷにぷにな肉球が、今目の前に。
「では失礼」と一応声だけかけて、まずは指先でぷにっとつついてみた。うむ、ふわっと柔らかい。それに、表面もしっとりしててこう、全力で顔をうずめたくなる感触だ。普通の猫なら、頬とかに当ててもらうもんなんだけど、クロさんだし。
「大きいですねー」
「大きいのを求めるなら、ユーアのほうがいいぞ?」
「私はクロさんのを触りたいんです」
「……そうか」
そんなふうに言いながら、クロさんもまんざらでもなさそうである。……ごめんミカさん、しばらく続行するわ。一応仕事は終わってるはずだし。
いや、ぶっちゃけるとさ。ユーアさんの肉球、触らせてもらったことがあるんだけどちょっと硬いんだよね。「まあ、熊は戦種族だからねえ」って笑ってたけどね、ユーアさん。いや、硬い肉球が悪いわけじゃないんだけどさ。
……そういえば、ミカさんはあんまりクロさんの肉球に興味示さないみたいだな。何でだろ? こんなにふかふかしていつまでも触っていたいのに。
「ミカさんは肉球触らないんですか?」
「私、どちらかといえば犬派ですから」
「そうなんだよなー」
おう、クロさんもご存知だったのか。なるほど、ミカさんは犬派と。どちらかといえば、ということは猫嫌いってわけではなさそうだよね。そうでなきゃ、クロさんのお世話係なんて続いてないし。
「もちろん猫系も大好きですけども、クロ様は人懐こいタイプだからあれなんですけど、猫系って気まぐれなところありますから」
「なるほどー」
そうか。犬派ってそういう感じのとこあるよね。たしかに猫は気まぐれで、だから相手するのが大変なこともある。それが平気か苦手か……そのへんは個人差よね、個人差。
で、私の意見を口にする。
「私はどっちも好きだなあ、虫がちょっと苦手なくらいで」
「ほう」
「まあ」
あれ、二人の関心がこっちに向かった。虫……の魔族は、まあいてもおかしくないよね。私、見たことはないんだけど。
その理由を、クロさんがサラッと教えてくれた。
「まあ、俺の配下に虫系はいるが、そもそも外見をあまり好まれていない種族でな。あやつらも分かっているのか、一部を除いてほとんど人前には出ん」
「一部?」
「蝶や甲虫などの、彩りが美しい種族だな」
「あー」
蝶は確かに綺麗だよねえ、羽。ああいうのが、こっちにもいるんだ。甲虫は……なんだろ、カナブンとかかな? 元の世界で、夜ガラス戸にぶつかってきたやつとか覚えてる。カブトムシとかクワガタとかもいるんだったら、なんか強そう。
……なお、黒くて素早いアレはものすごく苦手である。名前すら口にしたくないくらい、ね。
「蝶の方々は、踊り子や歌姫などをやっておられることが多いですよね。街に出たら見かけることもありますから、今度行きましょう」
「あ、行く行く!」
ミカさんが誘ってくれたのに、二つ返事で答える。そうそう、私、城下町にまだ出てないんだよね。一度、遊びに行ってみたいな。よし行こう、決めた。
「ふむ。なら、二人で行ってくるといい。ドーコやベルミを連れて行っても構わんぞ。いきなり明日行きたい、と言われても困るがな」
「ほんと? ありがとう、やった!」
クロさんからも許可が出たから、予定を組まないとね。やったね初めての城下町。
そりゃ、明日行くなんて言ったらお世話係のシフトとか大変だもんねえ。そのくらいは心得てるって。
「……虫たちが出てこんのは、こちら側に捕食者がいることもあるらしい」
「捕食?」
不意に続いたクロさんの言葉に、首を傾げた。ああ、虫の話が続いてるんだ。
ところで捕食って、食べるってことだよね。こちら側って何だろう……猫とか熊とか、って意味かな?
「……食べるの?」
「食べますね。主に肉食系の獣人などは」
「ま、さすがに今じゃ虫獣人を食うのは禁止されてるけどな」
ほんとに食べるんだ。ミカさんも知ってるってことは、ごく当たり前のことみたいね。
「この辺はもともと寒い地域で、肉食の獣や魔族には厳しいんだ。その結果、虫も食うようになってな」
「……」
……そっか。肉食だと普通、草食の獣とか食べるもんね。その数が少なかったり、見つからなかったりするから、虫まで食べるようになったのか。
その結果、虫獣人……獣かどうかはこの際置いといて、その虫さんたちはあまり人前に顔を出さなくなった。見目のいい蝶や甲虫のひとたちは、見目のおかげで食べられにくいとかそういう話、か。
たかが肉球から、偉いところまで話が行くもんだ。あーもふもふもふもふもふもふ、やっぱりこの感触はいいわ。




