027.にせものうさぎ
「そ、それは、私は新しく入ったもので」
「ふーん。どこの部署? 直属の上司は? 紹介者はどこの誰?」
うろうろと目が泳いでるうさ耳メイドさんを、ハナコさんがガン見しながら問い詰める。というか、そういうのリストにでもなってるのかな。……私はお世話係で、直属の上司はクロさんで……紹介者もクロさん? かな?
うんまあ、そのへんは後で考えよう。それよりどうも、あのうさ耳が気になる。熊のユーアさんも、猫のクロさんも、見えてる耳はリアル耳でぴくぴくとかぷるぷるとか動くんだ。でも、このメイドさんのうさ耳はそうじゃない。
そうすると、だ。
「……あんた、ウサギじゃないよね」
「そ、そんなこと」
ふるふる、と涙目になるメイドさん。いや、あいにくそれでほだされるほど私は間抜けじゃないし。
伸びてるうさ耳を二つまとめてむんずと引っ掴み、真上に引き上げる。おーやっぱり、ずるっと引き抜けたよ。硬めの土台と、髪の後ろで結んだリボンごとね。
「さすがに、普通のウサギさんは耳取れないっしょ」
「だねえ。どこのどなたかしら?」
どすん、とハナコさんの前足が床を叩く。ひっ、と顔をひきつらせた偽ウサギメイドさんの両手両足を、他のメイドさんたちがするするとどこかから出したロープで縛ってしまった。器用だなあ、と思う。
そうしてハナコさんは、メイドさんの一人に指示をした。
「リューミ様呼んできて。怪しい侵入者発見しましたって」
「は、はいっ」
慌てて駆け出していくメイドさんを見送り、ハナコさんがこっちを振り返る。……ごめんね、何もできなくて。
「アキラちゃんはまだ日が浅いから、気にしなくていいからね。修行してるのは知ってるし」
「うん、ごめん。こういうときちゃんと動けないと、お世話係の意味ないもんね」
「そうね」
いやほんと、ちゃんとやらなくちゃいけないことがあるんだから。修行ももっとしっかりしないと、カレンさんに一撃即ダウンさせられるのはゴメンだ。
まあ、私の修行のことはまた後で。それより何より、うさ耳つけてクロさんのお部屋に入り込んできたこの偽ウサギメイド……ああ、ウサギを外してもいいのか。偽メイドさんのことだよね。
「さて。今あなたが何者か言わなくてもいいけど、今言ったほうが楽だと思うわよ?」
「そうなんだ?」
「リューミ様の配下に、口を割らせることが得意な方々がいらっしゃるそうだから」
「ひぇっ……」
ハナコさんはさらっと言ってるけど、それって尋問……ならいい方で、拷問とかやりかねない方々だったりするのかな?
いやまあ、私はそういう目に合わなかっただけましなんだろうな。あっさりここの最高権力者に保護されちゃったしな。
で、顔をひきつらせながらも偽メイドさんは言葉を話そうとはしない。そのへんは、しっかりしてるみたいね。どうせどこかのスパイとか何とか言うパターンだろうけどさ。また餅の国かな、ひょっとして。
「さすがに、クロ様のお部屋に入られちゃあねえ? 放ってはおけないわけよ」
「ぐ、ぐぐぐ……」
「早めに話しちゃったほうが、多分マシだと思うよ?」
うんまあ、一応口添えはしたけどさ。でも偽メイドさん、ぶんぶんと首を横に振った。ああ、こりゃだめかもね。この人が。
だって、今リューミさんが到着したもん。配下らしい兵士を、数名連れて。
「魔王様の私室への侵入者とは、その者か?」
「リューミ様。はい、そうです」
「こんな耳つけて、ウサギのフリしてたんですよ」
かけられた声に頷いたハナコさんに続いて、私は偽うさ耳を差し出した。これ、一応証拠だもんね。提出したほうがいいだろうから、リューミさんに渡す。
「ほう…………む」
偽うさ耳を渡されて、リューミさんは訝しげにそれを眺めていた。で、ふとくんくん、と匂いをかぐ仕草をした。あ、これ、私には無理な点検だ。
「これは、ウサギ種族の毛皮、ではないか?」
「へ?」
ウサギ種族の毛皮。
毛皮。
……毛皮って、つまりウサギさんの皮を剥いで、それで作った偽耳ってこと?
この場合の、ウサギさんって、まさか。
「それは、えーと」
「どう考えても怪しいな。その者を牢まで連行する」
「はっ」
リューミさんの指示に従って、兵士の一人が偽メイドさんをひょいと持ち上げた。それで気がついたけど兵士さん、肌に鱗がついてる。口元も長くて尖った歯が生え揃ってて……あ、分かった。ワニさんだこのひと。へえ、ほんとにいろんな種族がいるんだなあ、この国。
その兵士さんとほか一人が、偽メイドさんを持って行ってしまう。それを見送りながらリューミさんは、こちらに視線を向けた。
「ハナコ殿、アキラ殿。魔王様への説明を任せても良いか?」
「発見者ですしねえ。任されますよ、リューミ様だと説教になりそうですし」
「うぐ」
あ、私たちが説明するの? いやまあ、クロさんなら話聞いてくれそうだし、ハナコさんはしっかりしてるからな。
いや、私もしっかり説明しないとだけど、ね。
「説明しておくから、リューミさんはその人をお願い」
「分かっている。では」
引き受けたことを確認して、リューミさんもこの場を去っていく。そうして。
「アキラ~~~! ハナコ~~~! 無事かああああ!」
「どぅわっ!」
「大丈夫ですよ。ご心配なく」
部屋に駆け込んで来たクロさんを、ハナコさんががっしり受け止めたのはそれからしばらくあとのことだった。
ハナコさん、クロさんの全力突進を止められるんだ。すごいなあ。




