022.副官は務める、魔王の補佐を
「……話にならんな」
おそらくは魔王様に宛てられた、モイチノ王国の紋章が入った封筒。そこには、毒も呪いも入ってはいなかったがろくでもない文が入れられていた。私はそれを読んで、ほとほとかの国の愚かさに呆れさせられる。
「魔王様にお見せするまでもない。『貴様らは何を抜かしてる、馬鹿か』とでも書いて送れ。くれぐれも丁重な言葉でな」
「承知しました」
配下にそう命じ、私は魔王様のもとへ向かう。ま、一応報告はせねばならんしな。
そちらに『派遣』した自分の国の『使者』、そして『護衛』部隊の返還を求める、だと。何を言っているのだ、あやつらは。
使者とは勇者アキラ殿のことであり、護衛部隊とは彼女を引き連れてきた侵攻部隊のことだ。なんで返さねばならん。
「っあー、冗談ではない!」
魔王様の執務室に向かう途中にある空き部屋で、そう叫んだ私は絶対悪くない。だてに魔王様の補佐役を、仰せつかっているわけではないのだー。
「へー。モイチノ王国、そのようなことを言ってきたのか」
「はい。何言ってるんだ、という返事を出すよう指示しておきましたが」
執務室にてざっと伝えると、魔王様はひげを一つ震わせながら呆れ声を挙げられた。一応、言葉を選んで答えるが……魔王様は選ばないんだよなあ。
「俺なら馬鹿かお前ら、って出すけどなあ」
「そのような文ごときで戦に発展したらことですので」
「それもそうか」
いやまあ、私も意訳するとそうなるように返事書け、と命令したけれど。うむ、魔王様と考え方が同じというのは心が晴れやかになるな。自分の指示が間違っていなかったわけだから。
さて、文と返事はどうでもいいが、問題は文の中身だと私は思う。それは魔王様も同じようで。
「何でアキラを取り返したいんだと思う?」
「戦力回復か、証拠隠滅ですかね」
ずばりと来た問いに、さらりと答えてみせた。というより、そのくらいしか思い当たるフシがないからだが。
勇者として召喚されたアキラ殿の戦力が実際どのくらいかは、正直試していないのでわからない。カレン殿によれば素質は十二分にあるので、育てるか暗示なり何なりで能力を引き出すかで良い戦力となるとか。
証拠隠滅は……異世界から人間を召喚した時点で重罪だからな、モイチノ王国は。その証拠であるアキラ殿を回収したいのはやまやまだろう。させないが。
「つまんねえ理由だな」
「つまんない理由ですね」
いずれにしろ、自国の利益のためだからな。魔王様もおっしゃるとおり、つまらない理由でしかない。……己の利益のために動くのは当然とはいえ、さすがに攻め込んだ相手に攻め込ませた道具返せとは厚顔無恥、としか。
「そんなことはさておいて、返事の中身はよくやったぞ。リューミ」
「は、ありがとうございます」
おお、魔王様にお褒めの言葉をいただくことができた。これでまた、私はバリバリ働けるというものだ。
魔王様のプライベートにおける面倒事はお世話係たちに押し付けているようなものなので、こういった仕事上の面倒は私が頑張って見ようではないか……前から見ているけどな!
「絶対いい結果にならないのに、なんで引き渡すとおもうんだろうな、あいつら」
「自分たちこそが世界の長なのだと思いこんでいる……かもしれませんね」
「シロガネ国ならまだしも、なあ」
とりあえずの面倒事はやはり、モイチノ王国の動きだな。じわじわと嫌がらせじみた動きばかりしてくるのは、こちらを挑発しているのか。
我がラーナン魔王国が先に手を出してしまったら、連中は反撃を口実に攻め込んでくる。故に、こちらはひたすら我慢、我慢の一手なのだ。どちらが先にキレるか……だが。
「軍の方、準備を整えておけ。いきなり突入してくるかもしれん。手紙の内容を抑えてくれたのはありがたいが、何しろあいつらだ」
「魔王様の秘密基地を越えられなかった連中ですけどね」
「翼を切っていない馬や……そうだな、長寿の伝書蛇を使ってくるかもしれん。あれはかなりでかくなる」
「ですねえ……分かりました。指示しておきます」
どうやら魔王様は、モイチノ王国側が先にキレると読んでおられるようだ。そうでなくとも、例えば辺境の警備を強化するなどという理由で軍の準備を整える方法はなくもない。モイチノが動くだろう、と読むならなおさら。
なれば、ひとまずは整えておこう。いつ、奴らがブチギレて飛び込んでくるかわからないしな。ところでなんで、魔王様は涙目なんだ?
「……アキラやミカが、出撃するなんてことにはならないよな?」
ああ、お世話係を気に入っているのか。
深夜の警護を兼ねている夜当番のカサノやユーア、その他のメンバーは戦闘力は高い。何なら単体で、十数名の相手ができるという話は聞いている……一応、模擬戦で手腕は見せてもらった。
それに対して、昼当番はあくまで室内の警戒という側面が強いこともあって戦闘力は低めになっている。スメラギ王家に連なる血筋であるミカ殿や、勇者であるアキラ殿も現在の戦闘力は……うーん。
で、魔王様はその者たちに戦わせたくはない、とおっしゃっているわけだ。いや、戦力に数えてないから安心してくれ、とも言いにくいので別の言葉を贈ろう。
「まかり間違っても、魔王城にまで侵攻させはしませんよ」
「頼むぞー。敵に城に入られたら、俺がご先祖様に怒られる」
「その前に私が怒りますよ。我が軍に」
そうだ。そもそも、王が住まう城に敵を接近させるなど、あってはならないのだ。
なあ、愚かなモイチノ王国の者共よ?




