019.けんの師匠と難しい話
「はい、そこまでー」
素振りを百回ほどしたところで、ぱんと手を叩く音がした。あまり重くない木刀を下ろしたところで、師匠の方を振り返る。
「モイチノ王国の召喚基準がわからないけど、少なくとも勇者としては問題ないくらいメキメキ成長してると思うわよ」
「あ、ありがとうございます」
「うん。今日はこのくらいにしときましょうね」
そんなことを言ってくれたのはカサイ・カレンさん。私の武術の師匠であり、魔法使いの家系における異端児のお姉さんである。
多分クロさんよりも高い身長に引き締まった筋肉、スレンダーにしてマッチョ……というのかな、とにかくそういう体型が羨ましい。
あとめっちゃきらきらひかる金髪。後ろひとつ結びにしてるのは動きやすいから、らしいけど……短くしないんだ。そこがちょっと不思議。
ま、そのあたりはともかくとして。
「魔王様からねえ、あんまり無理させないでくれって言われてるの。甘やかしたいんじゃないかしらね」
「えー、何ですかそれ」
「私には敬語なのに、魔王様にはタメ口を許されてる時点で十分甘やかされてるけどね」
「あう」
そう言われて気がついた。私、クロさんには敬語使って話してない……カレンさんに使ってるのはまあ、師匠だからなんだけど。
でも考えてみたら、クロさんは王様なんだもんなあ。うっわやっべ、と思ってももう後の祭りな気がする。
「い、今からでも敬語に変えたほうがいいでしょうか……」
「それはそれで、魔王様凹むと思うからやめときなさい。変なところが繊細だから、あの方」
凹むのか、あの猫魔王。タメ口の方がいいのか、と思ったんだけどそうか。
周り、みんな敬語なんだ。だってクロさんは王様だから。それなら、私だけでもタメ口で話したほうが、クロさんには嬉しいのかも知れない。
でもさあ。
「めんどくさい……」
「そうね」
言葉遣いで凹まれても困るなあ、とカレンさんと顔を見合わせて苦笑した。
ま、凹んだら凹んだでごろごろふにふにしてやるつもりだけどさ。……うん、こういう扱いしてるんだな、私。国王で魔王なのに、ちっとも怖がってないし敬ってないし。だってでっかい猫だから、可愛いんだもん。
そこまで考えて、ふと気がついた。
「そう言えば、ミカさんは敬語使ってるんですよね……」
「彼女は自分から仕えに来たから」
「そうなんですか?」
「うん」
あれ、そうだっけ?
そう言えばミカさんについて、詳しい話は聞いてない気がするなあ。何というか、聞く機会がなかったみたいな。何でこのお城にいるのか、知らなくても別に問題ないからね。
だけど、うん。他所の国の王族の端っこに当たる人が、何でか別の国で王様のお世話係なんて変だよね。
「隠してはいないはずだけどまあ、概要だけ教えるわね」
「はい」
カレンさんが教えてくれるみたいなので、おとなしく聞くことにしよう。詳しいことは、カレンさんから聞いたんだけどってミカさんに聞けば済みそうだし。
「彼女が、シロガネ国王族の係累……親戚だっていうのは知ってるわよね?」
「あ、はい。それは聞きました」
そう言えば、何故そこは教えてくれたんだろうね? 別の世界から来たんだから、私がミカさんのこと詳しく知る必要もなさげなんだけど。
シロガネ国の王族のご先祖様に、私みたいに別の世界から来た人たちが入ってるらしいけどさあ。……だからどうだって話。
「まあ本人、別にそんなの知ったこっちゃないんだけど。たまたまモイチノ王国にいたときにそれが知られてねえ……慌てて逃げ出してきた、というかラーナン魔王国を頼ってきたわけ」
「……何で逃げたんですか?」
「シロガネ国の王族の親戚だから。手っ取り早く言えばそういうことね」
「……」
よく分からん。
よく分からんけど、少なくとも餅の国が何やらあくどいことを考えたってのは想像がつく。だって私がそうされたから。
王族の親戚を人質にとったり、勝手に自分とこの偉いさんの嫁にしたり、はたまた私みたいに操ったり……ああもう、何をしたっておかしくないと思えるのがすごい。
「何にしろ、餅の国がゲスいってのは変わりがないわけですね」
「変わんないわねえ」
カレンさんにも納得されたので、やっぱり餅の国はゲスい国らしい。というか、こちらに来てまだ一ヶ月も経ってない私がそう考えて、その前……もう何十年もこの世界で暮らしてるカレンさんが納得するということはつまり。
餅の国って、昔からあんな感じだったわけ?
「……どのくらい前から変わってないんですか」
「そうねえ……多分百年単位? よくまあ国が続いてるわねえ、って私も思うもの」
百年レベルで、あの国はあんな国。
いやほんと、よく続いてるわ。周りの国に潰されててもおかしくない……というのはアニメとかゲームとかの影響かな、と思うんだけども。
「まあ、潰せない事情っていうのもあると言えばあるけどね。そう簡単に戦争なんて起こしたら、次は自分の国が危なくなるって話」
ただ、カレンさんの言葉を私が理解できるかどうかは、まだわかんない。




