017.猫にもふられ猫もふり
ふと、しっぽの途中で毛の一部がうねっているのを見つけた。あれだ、人間でいう寝癖みたいな感じ。でもしっぽだしなあ、と思って聞いてみる。
「クロさん、ミカさん。しっぽのこれ、座り癖? 寝癖?」
「座り癖ですかね。午前中、謁見があったのでしょう?」
「あー……そうだ、イコンの使者がな」
「イコンって」
お尻の下にしっぽ敷いて座ってたんだな、猫魔王。謁見ってことは、王様の椅子に座ってお城に来た人と色々話してたんだろうなあ。
イコンかあ。聞いたことあるよな、思い出せ私。
「……ああ、黒の神の信者、だっけ」
「そうだ。ただし穏健派でこちらに迷惑はかからないからな、それなりに交流はしている」
クロさんの国とは信じてる神様が違うけど、別に喧嘩してるわけじゃないし強制もしてこないからいいや、ってことね。
同じ神様信じてても喧嘩しに来る国あるしなあ。餅の国とか。
「モイチノ王国の矛先があちらにも向かっていてなあ。それで、情報などを共有することになった」
「さほど国力があるとは思えないのですが、うちとイコン両方に喧嘩売ってるわけですか?」
「そうなる」
国同士の仲が良いとか悪いとか、私はあんまり知らない。ドーコさんたちやミカさんから教えてもらってはいるけれど、実感ないからなあ。日本みたいに新聞やテレビやインターネットで、こまめに話が入ってくるわけでもないしね。
国力、つまり国の力。クロさんの国とイコン、二つの相手を一度にできるほど、その力はないのに無理してるのかよ餅の国。どうなっても知らんぞ、恨みしかないけど。
うーむ、と思っていたらクロさんがちょいちょい、と手招きしてきた。これが本当の招き猫……いや、言葉にはしないけど。
「ミカ、アキラ」
「はい?」
「何?」
ミカさんと一緒に近寄ってみると、ぽふんと頭に手を載せられた。そうして、なでなで。おおう肉球が頭の上に、なかなか柔らかくて良い……じゃなくって。
「お前らに迷惑かけた分、モイチノ王国にはきっちり返してもらうからなあ。そのくらいには、俺は偉いんだぞ」
「え」
「は、はい」
うん、国王で魔王が偉くないわけないのは分かってる。餅の国に私は大変迷惑を掛けられたし……でも、「ら」をつけたってことはだ。
「……ミカさんも?」
「まあ、いろいろありましたから」
「そうなんだ……わっ」
詳しいことを聞く気はないけど、そう言う事があったんだ……と思ってたらいきなり、二人してクロさんの上に引っ張り込まれた。えろい意味ではなく、猫の腹に顔面ダイブしたわけだ。人間大の猫の腹に、だぞ。
「ね、ねこのはら……」
このふにっとした柔らかさ、つやつやの毛並み……はちょっと乱れてるがまあ許容範囲内、程よい温かさ、そして独特の匂い……お風呂入ってもこの猫の匂いってするもんなんだな……ああもう、異世界に来て今最高に幸せな気分だ!
「よく分からんが、人間はこの感触を気に入る奴らが多くてな。アキラはどうだ?」
「最っ高」
「即答ですか……分かりますが」
いやだって、この一言でしか示せる気がしないんだもんこの状況。とかいうミカさんも、私の隣で動く気配がないんですが?
「まあ、腹というのは急所だからな。あまり他人に触らせるものではないのだが、お世話係は別だからな!」
はっはっは、と笑いながら肉球なでなでを続行される……のは大変によろしいもんなのだが、そこに来たセリフがちょっと気になって私は顔だけを上げた。
「あのね、クロさん」
「何だ?」
「受け入れてくれてるのはありがたいけど、ちゃんと気をつけてよ? もし私が餅の国に操られたままだったらどうするの」
「それはないと思うんだが」
うわ断言した。でもほんと、そういう可能性をちゃんと考えてくれないと、王様なんだから。
いや、このでっかい猫を私が暗殺するなんて、可能性でも考えたくないけどさ。あーもふもふやっぱり最高。
「……万が一なら、ミカがいるしな」
「私を買いかぶりすぎですよ、クロ様」
「そうか?」
え。ミカさん、そんなに強いの?
ミカさん自身は謙遜してるけど、クロさんはミカさんがいれば大丈夫、みたいな感じなんだよなあ。
二人の会話を、のんびりもふもふしながら聞こうか。うむ、このもにもに具合がやはり猫の腹だ。
「アキラは別の世界から呼ばれた勇者だが、シロガネ建国王の血を引くお前は、この世界における勇者と言っても過言ではなかろ?」
「だから、言い過ぎですって。確かに血はつながってますけど、うっすーいですもん」
「しゃ? しゃしゃー」
「センダくんまでいうかー」
伝書蛇まで参戦してきたんだけど、私にはタカダくんもセンダくんも、言ってることが分からない。誰か通訳……この場合はミカさんか。聞いてみる。
「何言ってるの?」
「……スメラギ王家の末裔たるミカ様は、紛れもなく勇者にあらせられます、だって」
「わあ」
ごめん、自分のこと偉い持ち上げられてるセリフ言わせてしまって。ミカさん、耳まで真っ赤だねえ。
まあ、センダくんってミカさんの伝書蛇だし。身びいきもあるんだろうな、とは思う。
……ま、しばらくもふもふふにふにもにもにを堪能するか。うん。




