016.ぶらっしんぐでい
「今日は、クロ様のブラッシングをしましょう」
「本当っ!?」
ミカさんの提案に、私は思わずはしゃいじゃった。
いやだって、あのでっかい猫のブラッシングだよ? めっちゃやりがいあるじゃない!
「やっぱり、やってみたかったですか」
「それはもちろん」
「ですよねー。私も初めてやったときはめちゃめちゃ楽しかったですし」
うん、ミカさんも私と同じだよね。分かる分かる。
犬好きのひとは犬系のひとたちのブラッシングとかやるのかなあ。ドーコさんたちはあまり毛が長くないけど、メイドさんの中にはコリーみたいなのとかポメラニアンみたいなのもいたし。
「あ、ほぼ全身やりますからね。大変なので、覚悟して下さい」
「全身?」
なんと、なんと。
あの超でっかい猫の全身をブラッシングできるなんて、夢のようじゃないか。
……ん、全身?
「お、お腹とかしっぽとかも?」
「はい、急所以外は全てです」
ああ、やっぱさすがに普通の猫なら大丈夫なところでもだめだよね。ぱんつ履いてるのかな、クロさん。
しかし、あの長毛をブラッシングかあ。枝毛カットとかもやるんだろうか、それに。
「……さすがに編むのはだめだよね?」
「うっかり暴れたりしたらもつれて、最悪切る羽目になりますからねえ」
「おーけー分かった。全力でブラッシングする」
猫の毛はブラッシングするだけにしよう、と私は心に決めた。もし切ることがあるならミカさん、先輩におまかせする。
「というわけでクロ様。ブラッシングのお時間です」
「私もやるから、覚悟してね!」
「なんだとー!?」
クロさん自身は、ブラッシングはあまり好きじゃないみたい。はて、気持ちいいと思うのだが、どうしてだろう?
「だ、だってミカ、お前がブラシしたら、たまに毛が引っかかって痛いんだぞー!」
「ちょっと力が入っただけじゃないですか!」
「……ミカさん、力任せはどうかと思う……」
ああ、ミカさんのやり方がまずかったのか。しかし、よくお世話係に残ってるなあ。クロさんなら、すぐに首にしそうなもんだけど。一応、ちゃんと王様なんだしね。
「だって、クロ様身体が大きいから大変なんですもん……」
「分かった任せろ私がやる」
「大丈夫かあ? アキラ……」
何か涙目になってるんだけど、クロさん。魔王だろしっかりしろ可愛いけど、ってそうじゃないな。
あと、毛が引っかかるの思い出してるんだろうなあ。ああもう可愛い。
「毛がモサモサもつれたり毛玉できたりする魔王なんて、かっこよくないですと何度も申し上げておりますよね? クロ様」
「せっかく綺麗な毛並みなんだから、ちゃんとしないともったいないよ? あとミカさんは、ゆっくりやろう」
「う……」
「は、はい」
なぜか、この場にいる中で一番後輩な私が場を仕切る感じになってしまった。でも、猫さんが痛がってブラッシング嫌がるのはかわいそうだよ。
さて、ブラッシングのためにクロさんは、ぱんつ……ではなく褌一丁になった。赤い地に色とりどりの花があしらわれた柄の布……この国寒いから、下着だけでも派手にしようとか考えたのかな。ま、かわいいよね。
とりあえず、ソファに座らせて頭から……おお。
「頭は綺麗だねえ」
「城内では普段から見られる場所ですからね。こまめにブラッシングしてるんです」
「自分でも毛づくろいしてるしな」
「そこはするんだ」
毛づくろい、といったところでクロさんが見せた仕草が全力で猫なのが笑える。笑わないけど。
長毛だから頬とか、耳の裏とか、ゆっくりと梳いてみせる。ミカさんも、最初のほうだときちんとやれてると思うんだけど。
で、ごろんと横になってもらって背中。さすがに一部もしゃっともつれてるところがあるのは……あー、ウエスト。ベルトとかでこすれるのかな。
「痛かったらごめんねー」
「わっ、あまりひっぱるにゃー」
「うん、ごめんごめん」
「もつれすぎてるようだったら、切りますよ」
「大丈夫、ほぐれた」
「ほんとか? すごいぞ、アキラ!」
……褒めても何も出ないよ、クロさん。切らなくていい程度にしかもつれてなかっただけだし、何とかほぐせたし。
お風呂にもちゃんと入っているというか無理やり洗われていると言うか……ともかく、お手入れされてるから毛の質が柔らかいおかげで、ほぐれやすくなってるんだと思う。基本的にはゆるーくブラシをかけるだけで、何とかなるっぽいし。
「腰のあたりがちょっともじゃもじゃってなってるなあ。これ、椅子に座るから?」
「そうですね。まあ、クロ様とかアキラさんとこのメイドさんみたいな獣人族だと、どうしてもそうなりますよね」
「会議、多いからなあ……」
褌なので、お尻のギリギリまで梳くはめになった。ただ、しっかり引き締まってるお尻なので何の問題もないよね。肝心なところは見えてないし……というかこれは猫、でかい猫。猫のお尻なんて、猫が身近にいるなら見慣れてるもんね。




