012.自分の扱い
「疲れたにゃー!」
「おかえりなさいませー!」
「おかえりなさーい」
私たちが食事を済ませたお昼過ぎになって、クロさんが戻ってきた。ソファの背もたれに手をかけて、思いっきり伸びる。
……猫全開じゃね? さすがに後ろ足で頭とかは掻かないみたいだけど。
「すぐにご飯手配しますねー。お風呂は入ってこられたようですね」
「頼むぞー。会議室から出たところでリューミにとっ捕まったんだ」
「リューミさんって……クロさん、あの人にお風呂に放り込まれたんですか……」
「クロ様、お風呂嫌いなんで」
全力で猫だな。もう、クロさんイコールおっきな猫と思って相手しよう。
しかし、ミカさんがお風呂入ってきたと分かるくらい、クロさんの毛皮からはいい香りがする。ボディソープ……はさすがにないか、石鹸だろうな。きっちり全身を、自分で洗ったのか洗われたのか……多分後者。風呂嫌いがきっちり洗うわけないわ。
「……いつもああなんですか」
「いつもああなんです。あ、アキラさん、テーブルとソファのお片付けお願いします」
「あ、はい」
おっと。そうだよね、部屋の主がご飯食べるんだから、ちゃんと準備しないとね。
急いで自分たちの作業してた書類とか縫い物とかを片付けて、一抱えくらいある大きなクッションを持ってくる。確か、この辺に置いとけばいいんだっけかな。
「おお、アキラ。気が利くなー」
「一応、ミカさんからいろいろ教わったし。ここでいいの?」
「いいぞ。こうやって、ごろーん」
自分でごろーんと言いながらクッション抱えて横になる魔王がいるか。いるな、目の前に。
まあいい。おとなしくしている間にテーブルの上を拭いて、ミカさんが帰ってくるのを待とう。
ミカさんがクロさんの食事の載ったワゴンを持ってきて、クロさんがぺろっと平らげた。ごく普通のフルコース……ってわけでもないかな。パンと前菜とメインの魚料理にあとデザートと食後はミルク、という感じだった。私たちとそんなに変わらないんだけど、いいのかな? 一応王様なのにさ。
ま、クロさん自身は満足してるみたいだからいいか。
「うむ、美味かったぞ」
「お褒めいただきありがとうございます! 夕食も、ご期待くださいませ!」
「もちろんだ。待っておるぞ」
食事を引き取りに来た担当のメイドさんに、クロさんはとっても嬉しそうに言葉をかけた。あー、褒めて伸ばすタイプか、この猫魔王。いいなー、うちの親とか担任教師とか、叱ればやる気が出るだろうなんてタイプだったもんなあ。
「それでは失礼します」とワゴンを押してメイドさんが退室した後、クロさんはまたソファにごろーんと横になった。行儀が悪い……とは思うんだけど、世界違うし相手魔王だしなあ。ツッコんでいいのやら、と思ってたら。
「クロ様お行儀悪いです。立つのが面倒なら座ったままでいて下さい」
「うにゃー……だって、会議しんどかったんだもん」
「あーよしよしよし、お疲れ様でしたねー」
「ほんと、疲れたぞー」
あー、ミカさんがマジで不機嫌な猫の喉ごろごろして甘やかしてる。やっぱり魔王とか言っても猫は猫だな。
というか、何の会議だったんだろ。
「またモイチノの連中、こそこそ探ってるようだな。主にアキラ、お前のことを探しているらしい」
「餅の国? まだやってんの、あいつら」
「相変わらず面倒ですね、あの国は」
あー、餅の国についてだったのか、議題。私を探してるって、勇者だからかな?
「ほれ、アキラを召喚したであろう。禁忌魔法を使用したという証となるからな、とっとと消し去りたいんだろうさ」
「うげ」
証拠隠滅狙いかー! やってらんねえわ、自分たちで勝手にやっといて。
あー、でもまあこの城にいたら多少はマシかな、と思う。クロさんもいるし、リューミさんとかも魔王のお城に敵は入れるつもりないだろうしね。
「何なら、シロガネに連絡しましょうか?」
「頼めるかー? 文は俺が書いておく」
「お任せ下さい。センダくんがいますから」
「しゃあ!」
へえ、ミカさんの提案あっさり通るんだ。というか、シロガネ国に手紙送って協力頼むってことかな。
あ、でも私たちみたいな者が別の国と連絡取るのって大丈夫なのかな? スパイとか思われたら大変だし。
「シロガネだっけ、お国と連絡取れるの?」
「クロ様の許可をいただければ。やり取りする文章はちゃんとチェックされますし」
「スパイ防止とか何とかでなー。めんどくさいんだよ、うちの大臣ども」
「いやそこはきっちりしようよ。というか、私の扱いだって何か言われたんじゃないの?」
「よく分かったな!」
「分かるわ!」
やっぱりな! つーか気をつけろよ国王だろこの猫!
なんて思ってたら何故か、ひょいとクロさんの腕の中に抱き込まれた。あー、石鹸のいい匂いがまだ残ってるわー。
「だって、俺が拾ったんだもん。俺のだもん」
「クロ様、ご自身が連れてきた者に対してはいつもこうなんですよ」
いや、俺のって言われても……ま、しょうがないか。ミカさんにも苦笑されてるしなあ。
というか、早めに自分の立ち位置きっちり定めないとだめだね、こりゃ。世界の流れに流されそうだ。




