010.もうひとりのお世話係
「ここが、俺のプライベートルームだ」
そう言ってクロさんが通してくれたお部屋は、割と普通の部屋だった。ただ……やっぱり王様の部屋だもんね、広いったらもー。
その中でもやたらとベッドが大きいというか、あのーあれだ、猫用ベッドのでっかい版、丸いやつ。布団はふかふかしてるし毛布も質が良さそうだし……毛布や家具で爪を研ぐってことはないみたいね。ちょっとほっとした。
ちなみに、お城の奥の方、高くはないけど眺めのいい場所にある。ちらりと見えたいかにもお城っぽい塔は、見張りのためのものらしい。後倉庫とか……へえ。
しかし。
「少しは警戒しなさいよ。私、一応あなたの討伐に連れてこられた勇者よ?」
「しかし、勇者アキラはそうするつもりはないだろう?」
「そりゃそうだけど」
そうほいほい、自分の部屋に連れてくるのもどうかと思うのよね。まあ、たしかに私はクロさんのお世話係とやらをやることになるんだから、当然仕事場はここらへんになるけどさ。
……さて、そのお部屋には先客、というか多分私の先輩になる人がいた。うん、人。とりあえず獣耳もしっぽも角もない、ぱっと見て普通の人に見える女の子がいた。
私と同い年くらいかな、明るいブラウンの髪の毛をみつあみにして、ドーコさんたちとはなんか形の違うメイド服……じゃないわこれ。青のワンピースの上に普通のエプロンつけてメイド服っぽくしてるんだ。ん、これもメイド服かな?
「クロ様、おかえりなさーい。そちらが勇者さんですか?」
「あ、はい、一応」
「うむ。俺が拾ってきた、勇者アキラだ」
私の横でえっへん、と胸を張るクロさん。いやまあ確かに拾われたんだけど、何というかなあ……猫だし魔王だし、言葉を選べってのが無理なのかもね。気にしないほうがいいか、うん。
「勇者アキラさんですね。あたしはタチバナ・ミカっていいます。よろしくお願いしまーす」
「あ、はい。友堂晶です」
ミカさんっていうのか。……クロさんといい、何というか馴染みのある名前なのよねえ。ドーコさんやベルミさんは置いといて。
というか、勇者いらないよねえ。いい加減、言っておくか。
「……前から思ってたんだけど、クロさん」
「何だ? 勇者アキラ」
「その勇者アキラっての、やめない?」
「にゃ?」
変なところだけ、猫語になるよねえこのひと。まあそれはそれとして。
「名前はアキラなので、そう呼んでもらえると私は嬉しいんだけど」
「……む。分かった、アキラだな」
「アキラさん、でいいんですか?」
「それで、お願いします」
そうそう。ミカさんにも勇者アキラさんとか呼ばれたら、さすがに顔がひきつるわ。あと長い。
あきら、あきらと口の中で練習してるらしいクロさんがちょっと微笑ましく思えた……というか、練習しないと駄目なのか、魔王。
しばらくして「おお、そうだ」とクロさんの意識が現実に戻ってきた。なにかと思ったら、どうやらミカさんのことみたい。
「ミカもな、俺の客人待遇なんだ。シロガネ国の王族につながる家系の末裔でな、我が国には少し前に来たところだ」
「え、そうなんですか?」
「遠い親戚ですよう。ご先祖様が、クロ様のご先祖様であるビャッコ様と仲良くて国の外に出ちゃったんですから」
シロガネ国って、何度か話に出た国の名前だよね。クロさんの国とはまあまあ仲良い国で……そこの王族の親戚って、へえと思ったんだけど。
クロさんのご先祖と仲良くて国出ちゃったって、それはそれで変わり者なのかも知れない。国自体は続いてるんだから、まあいいとしようか。
「だから、アキラさんも気にしなくていいです! 私のことはミカで!」
「あ、はい」
よく分からないけれど、私の『勇者アキラ』みたいにクロさんから変な呼ばれ方をされてたのかもしれないね、ミカさん。
と言うか、この組み合わせでクロさんのお世話係って……一体何やるんだろ。食事の準備とか掃除とか?
「お世話係といいましても、食事は担当がおりますしお掃除も専門家がおりますので、主にクロ様のお相手をすることがお仕事になりますね」
聞いてみたらミカさん、あっさりとそんなふうに答えてくれた。
「お相手って言うと、額ぐりぐりとか」
「何しろ猫種族ですから。お昼寝のときに毛皮のお手入れをするとか、喉をごろごろするとかもありますよ」
「……」
露骨に猫だ。お世話係ってあれか、つまりお猫様のお相手をさせていただく役回りか。
……それで交代要員がいないとか、どういうこっちゃ。これだけでっかい猫だから、遊ぶのに体力いるとかそう言う話かもしれないな。普通の猫をじゃらしてて、えらく疲れた事あるもん、猫じゃらしとか振り回した腕がもう、翌日筋肉痛でさ。
「というか、それでお仕事に」
「なるんですねー、これが。ぐりぐりとかごろごろとかしてあげないと、クロ様機嫌悪くなるんですよう。そうなると手がつけられなくなるとかで」
「書類にサインしまくったり、あんまり会いたくもない連中と話しなきゃならなかったりするんだぞ。機嫌も悪くなるだろう!」
ミカさんが楽しそうに事情を教えてくれて、それにクロさんがわかりやすく同意する。
なるほど。気まぐれお猫様のご機嫌取りをして、頑張って魔王様をやっていただくお仕事か。そりゃ確かに仕事になるな……王様のサインがないと回らない仕事とかあるだろうしさ。
ま、頑張ってみるかなー。




