099.膝の上で
オーさんが退室した後も、クロさんは私を放してくれなかった。というか、ここに入るときに持って入られてそのまんまなわけだけど。
「いつまでここにいるのよ」
「……ああ、ちょっとな」
何というか、クロさんの様子が変である。もじもじふにふにざわざわ、耳がぴるぴるぴると震えたり視線があっちこっちいったり。
「あー、ところでアキラ」
「何?」
「そのー、だな」
「うん」
いや、視線さまよわせてないでまっすぐこっち見ろよ。というかはっきり言えよ。
何となく、何となくだが話の目的は予測ついてんだよ猫魔王。
「リューミとか、他の連中から聞いてるかなーと思うんだが」
「何を」
「いや、その、えっと」
聞いてる、一応聞いてるから。
しかしまあ、自分でちゃんと言おうとしてるっぽいのは好感持てるよね。リューミさんとか経由で言ってくることもできるわけだし。
「……トモドー・アキラ」
「はい」
いきなりフルネームで呼ばれたから、思わずきっちり返事してしまったよ。背筋も伸ばしたし。
いやだって、今のクロさんの表情何と言うか、すごく迫力あったから。まだ耳、ぴるぴるしてるけど。
「俺の……その、妃、に、なってくれないか?」
「ふへっ」
ああうん、たしかに話聞いた。
魔族のいろんな種族との兼ね合いとかそういうのがあって、正直私やミカさんのような人間を王妃様に迎えるのがいいらしい、とも。
で、クロさんが選んだのは私、かい。
「そういえば、そんな感じの話は聞いたっけ」
「そ、そうか」
おお、話を聞いたと言ったら急に嬉しそうな顔になった。いや、私はどう答えるか何も言ってないんだけどさ。
でもまあ、クロさんの膝の上に乗って抵抗してない時点で答えたも同然、な気がするけどね。
「うーん……私、クロさんのもふもふな身体や毛並みは好きなんだけど」
「それで構わん」
いやいいのかよ。好意持ってるといえば持ってるわけだけど、今表明した好意の行き先はどう見ても外見だぞ。イケメンの顔とは別の意味で。
でもクロさんは頷いてくれて、それからちょっと愚痴ってくれた。
「世の中、恋愛でくっつける王族なんてそうそういないんだよなあ。一緒に戦った英雄とかならともかく、基本的には見合いだし」
「まあ、だろうねえ」
「中には、釣書と肖像画のやり取りだけで決まるところもあるらしいぞ。モイチノはそう言った傾向だそうだが」
「うあー」
何だ餅の国、色んな方向に駄目な国だったのか。要はメールやSNSだけで結婚相手決めるとか、そういう感じだろ。せめて一度か二度会ったほうがいいんじゃないかな、と思うわけよ。……たまにいきなり結婚してうまくいく人もいるだろうけど、それはそれ。
餅の国って、本気で何で潰れないんだろうと思ったんだけど、魔族嫌いの人たちには需要があるんだよなあ。喧嘩さえふっかけてこなけりゃ、こっちだって無視して済んだのにさ。
「まあ、そういう打算やら他種族との兼ね合いやらいろいろ積み重なった結果なんだが……その、俺としてはお前が妃に一番いいな、と思ったわけで」
毛皮が黒いからわからないけれど、もしかしたらクロさんは今顔を真赤にしてるのではなかろうか。視線があっち行ってるし耳がぺたんとしてるしひげが微妙にしおれてるし、ああもう。
「……ま、いっか」
「にゃ」
今、一瞬にして耳とひげがぴん、と張りを取り戻した。ああもう分かりやすいなあ、この魔王様ってば。
まったく、ほっとけるか。バカ。
「クロさんのお腹を、仕事でなくもふもふできるのは大変に魅力的だし。それに、ミカさんやハナコさんたちと離れずに済むんでしょ?」
「それはもちろん」
それでもちょっぴり回りくどく言ってみるけれど、クロさんの方はすごく嬉しかったのか何度も何度も頷いてきた。ああはいはい、本気でこれはほっとけないわ。
「彼女たちはそのままアキラの世話係になってもらって、友人づきあいを続けられるようにするさ。ロンカ姫とだって」
「やった」
ミカさん、ハナコさん、ロンカ姫。この世界に来てからできた友達とは、そのまま友達でいられそう。よかった。
……元の世界のことも、忘れてはいないんだけど何というかねえ……こっちのほうが結構楽だし。
ほんとに、ま、いっか。
「それじゃ、お世話になります。クロさん」
「うむ、世話をするぞ。アキラ」
これがプロポーズの返事でいいのやら、と思いつつ膝の上で頭を下げる。クロさんの返事を聞いて、ふと思った。
「……これまでと逆、だよね」
「そうだなあ。お前、俺のお世話係だもんな」
うにゃん、と顔ごとぺしゃんとなったクロさんの肉球に、頭を撫でられる。うう、やっぱりこれは捨てられないわ!




