009.私の仕事はよいしごと?
「勇者アキラよ、おはよう!」
無作法にばたーんと扉を開いて、クロさんが上機嫌でやってきた。これは朝ごはんがとても美味しかった印、というのがドーコさんやベルミさんの情報である。安上がりだな猫魔王。
「あー、おはようクロさん」
「おはよう……む?」
あら、何ポカーンとしてるのよ。そりゃまあ確かに、私はワンピースの腕をまくってエプロンと三角巾着けて、箒とちりとり持ってるわけだけど。
「勇者アキラよ、何をやっておる」
「部屋掃除。クロさんがしょっちゅう来るから、ほら見て」
「むっ」
そう言ってちりとりの上に山になってる猫の毛を見せてみると、耳がぺたんとなった。そう、クロさんがしょっちゅう遊びに来るたびに落としていく猫毛、である。魔王様の毛って魔力とか何かないのか、とは聞いてみたけど何にもないそうな。残念。
いや、魔力とかあってもおかしくないような綺麗な毛なんだよねえ。全くホントにもったいない、つーかちゃんと毛づくろいしてるのかこの猫は。この前も、同じこと言わなかったか?
「前も言ったと思うんだけど、お手入れちゃんとしてるの? せっかく綺麗な毛並みなんだから、もったいないよ」
「きれい」
私の意図とは違うところに反応したらしく、今度は猫耳がぴんと立った。もしかして、綺麗とかそういうこと言われたことなかったのか、この魔王は。まあ、人前に出る時は基本的にあの鎧兜らしいから、中身が綺麗かどうかわかんないもんねえ。
「き、綺麗か?」
「うん、とっても」
「そ、そうかー」
おお、耳がぴるぴる震えている。しっぽもぴーんと立ってるし、これはわかりやすく機嫌が良くなったな。
でもさ、黒猫のつやつや毛並みってとっても綺麗なんだよね。お手入れというか、ちゃんと洗われて清潔なのは分かるんだけど……あれだ、ブラッシング。こまめにやらないと長毛種なんだし、絡んじゃうよね。
「そうかー綺麗かー嬉しいぞ勇者アキラー」
「わっ」
そんなことを考えていたら、またもや額ぐりぐりが始まった。だから、本当にこれで大丈夫なんだろうか猫魔王。表向きは鎧兜でがっしり武装してるから、大丈夫なのかも知れないなあ。……まあ、よくは知らないけどさ。
「クロ様、またやっていらっしゃる……」
「にゃっ」
ちょうどそこへ、ドーコさんがやってきた。食事の片付けとリネンの取替をしてくれて戻ってきたんだよね。それで入ってきたら魔王様が勇者の脇腹に額ぐりぐりさせてる……うんまあ、頭抱えるのも分かるわ。
それとクロさん、ドーコさんにしろベルミさんにしろ私につけてくれてるんでしょ? そうなると当然、この部屋に入ってくるのは分かってるんだから今更驚かれてもねえ。
というか、さ。
「うちの世界でもなついた猫ってこんな感じなんだけど、どの世界も変わらないのかなあ」
「変わらないのでしょうね、こういうところは」
「そっかあ」
「……うう……」
何か凹んでるクロさんを放置プレイしつつ、ドーコさんとお話をする。……ん、猫という動物、一応この世界にいるのね。そうでなきゃ、ドーコさんはそれ何ですか、とか聞いてきそうだし。
「そう言えば、クロ様」
床で丸くなってるクロさんのところにドーコさんが近づいていって、つんつんと額を突く。ああ、あそこいつも私にぐりぐりしてくる場所だ。よく見たら、毛が軽くもしゃもしゃになってるな。
「アキラ様に何やらお仕事を振りたいとのことでしたが」
「あー。リューミがうるさくてなあ」
耳をぱたんぱたんとさせながら、ドーコさんに答えるクロさん。まあ、私もあんまりのんびりしてると他の人たちに悪いかな、とは思ってるし。
………………餅の国の人には、これっぽっちも思ってないけどね。あくまでも、クロさんの国の人たちによ。
そんなことを考えてたら、ドーコさんが満面の笑み……かどうかはともかく、しっぽをブンブン振りながら言ってしまった。
「ちょうどよいお仕事があるではありませんか。クロ様のお世話が」
『は?』
クロさんのお世話? いや、王様のお世話係なら普通にひとがいるでしょう、ひとが。
いきなりやってきた、しかも人間の勇者がやっていいもんかしら?
「一応お世話係はいるのですが、昼当番に増員をお願いしたいという陳情が来ているようですね」
「何でドーコがそんなことを」
「リューミ様から、良い者がいれば推挙するようにとお話を頂いておりますので」
私をそっちのけにして、二人が会話してる。その中にちょっと、気になる単語があったなあ。
「……昼当番って?」
「夜は夜行性の種族がお世話をしておりますから」
「おお、なるほど」
言われて気がついた。そうだ、ここは人間の国じゃなくってえーと魔族か、そういったひとたちが集まってできた国なんだっけ。
そりゃ、いろんな種族がいるんなら夜がメインのひともいるよね。夜勤はそのひとたちがやるってことか……便利だな魔族って。
で、私は人間だから昼間行動するわけで、そっちの担当に入って欲しいってことか。
「他にも人間がいますから、アキラ様も馴染みやすいのではないかと思いまして」
「ふむ。それがいいかもしれんな」
「人間、いるんですね」
あ、そうなんだ。だったら、いいかも知んない。
「ちょっと、やってみてもいいかな」
だから、私はそう答えた。……猫魔王と犬メイド、しっぽが全力で喜んでいるぞ。おい。




