[5]
『拝み屋集団・天正堂三神派、三神三歳の日記』
某月某日、雨。
前回より続き。
以下、Uが自ら語った所による彼女の半生を記しておく。事実関係の確認を取ったわけではないし、全てがUの虚言であるという可能性もゼロではない。
頭痛、悪寒、吐き気、目の痛みが、現在進行形で続く身体の症状。そして耳が悪く、喘息持ち。肺は、十代から続く喫煙により重篤なる弱体化。既往歴としては一歳で「心室中隔欠損」という心臓の壁に穴が開く病が見つかり、両乳房の間を縦に走る三十センチ程の手術痕が今も消えずに残っているそうだ。術後の後遺症として長年不整脈を患っており、時に動悸によって身動きがとれなくなることもあるという。二十歳の時に帯状疱疹にかかり、病状の深刻さから勤めていた会社をやめた。今は、自宅で官能小説を書いて得る収入を頼りに細々と生計を立てている。
離婚歴があり、一年ともたず別れた旦那との間に一子をもうけた。Uが、二十三歳の時だそうだ。病弱であったことと離婚にいたるまでに抱えた心の問題が懸念され、危うく親権を元の旦那に取られる所であったが、苦労の末引き取る事が出来た。が、僅か一歳で子が突然死する。Uも実父を早くに亡くし、高齢の母親と二人暮らしを続けてきたが、今年に入って精神疾患によりその母親も入院。以来、昔ながらの家々が立ちならぶ古い街の一角にて、寂しい一軒家の一人暮らしである。
他人に愚痴って聞かせたくなる気持ちも分かる。同情はせぬが、辛いだろうとは思う。しかし一介の拝み屋である私に身体的な病を癒す術はなく、心の闇とて、本人がそうと自覚している場合は意外にも簡単に手が出せない。私は、ただただ分かったフリだけせぬよう小さく相槌を返すのみに留めた。
そこから数度、電話で話をした。Uは本来明るい性格であるらしく、やがて私に吉凶を占って欲しいと前向きな希望を口にするようになった。本格的な仕事の依頼として引き受けるかどうかは別にしても、会って気の流れを見、あるべき姿へと正して行く方法が助言出来るのならばと思い、快く引き受けた。それから何度か、間隔を開けてではあるが実際に会って話をするようになった。身体の症状をただ口で説明するだけでなく、実際に病院を訪れ科学的な見立てをしてもらって来るように進言したのは、その後間もなくのことだ。
回顧録はここまでとする。