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『レインメーカー』  作者: 新開 水留
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『拝み屋集団・天正堂三神派、三神三歳の日記』



 某月某日、雨。

 Uは、そもそも自分自身の身体の異変を他人に伝えようとしない。頭が痛いとか寒気がするなどの症状は、顔を見れば体調の変化として察する事が出来たし、聞けば、「うん、ガンガンする」「うん、寒い」といった具合に答えて寄越す。しかしこれまで私が関与して来たどの依頼者とも違って、他人に助けを求める姿勢が感じられないのだ。これではまるで、Uに好意を寄せる年寄りがただすり寄っているようにも見え、深入りはすまいと己で律し、自ずと後退して距離を開けるようになった。

 出会ってからしばらくの間は、霊障と呼べるほどの何かがあったわけではない。しかしなんとなく、やはり気にはなるのだ。それが男女の性愛に関連づいた感情でないことは私自身が一番よくわかっている。ではUのどこに気になる部分があるのかと問われても答えようがなく、困った部分ではあった。

 この日はしばらくぶりにUから連絡があり、街中の喫茶店にて落ち合う。少し痩せたようだ。相変わらず顔色が優れず、目が若干充血している。Uは、体調が悪いくせに煙草を人一倍呑む。やめてはどうかと控えめに告げるも、「やめてこの頭痛が治まるんならやめるよ。でも関係ないじゃん。治んないじゃん」と強く反抗してきた。健康のことを思えば…と言葉を継ぎ足しかけるも、今のUには逆効果と踏んでやめておく。

 何故今日、自宅ではなく外で会おうと私を誘い出したのか、その理由を聞く。Uの家を訪れる際にはこれまで、必ず家そのものを祓って来た。そうすることで、人の世の営みから自然派生する『淀み』なども浄化でき、霊障被害者だけでなく病人にとっても利点がある。しかし当然家の外ではその祓いも行えない。するとUは、この日が誕生日なのだ、と言った。一瞬疑ったがどうやら本当のことらしい。私は普段手に何も持たずに外出するくせがあり、唐突な祝い事にはまるきり対応できない。「とりあえず…」と喫茶代の伝票を手前に引き寄せた折、己の左手首にあった数珠が目に入り、抜いて手渡した。

「おっさん臭い」

 と笑いながら、Uはその場で自分の手首に嵌めた。



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