5話
それ以来、私の周りでは何も起こらなくなりました。
ただ、あの日の出来事は病院中の噂になり、しばらくはその話題で持ち切りでした。
怖くて辞めて行く人もいるくらいです。
病院での派閥争いはまだ続いるようでしたが、以前程ではありませんでした。
葉山さんはすっかり大人しくなり、あの日の事を話題にする事はありませんでしたが、葉山さんの腕にはくっきりと腕の跡が残っていて、しばらく消える事はありませんでした。
―――ある日の昼休み時間の事です。
私は毎日お弁当を作って職場に持って行っていました。
精神科には運動場があり、秋には毎年、患者さんと一緒に運動会を楽しむのです。
その運動場で、お昼を食べるのを日課にしていました。
お弁当を食べていると、私の顔の目の前に白く輝く蝶が羽ばたいていました。
私はその蝶が山村さんだとすぐわかりました。
その蝶はしばらく私の目の前に羽ばたいていましたが、私の身体の周りを3回程周り、再び私の目の前に来て、じっとこちらを見ている様子でした。
そして、その白く輝く蝶は真っすぐに天に導かれるように上へ上へと飛んで行きました。
「山村さん、私の話を聞いてくれてありがとう。天国で奥さんとお子さんを見守ってあげてね」
私は声に出してそう言いました。