006
もう少し投稿頻度を増やしたい。でも眠気には勝てない
頭痛や腹痛は、正午を迎える頃には収まってきて、自室やトイレ、居間への移動くらいならば大丈夫だろうか、と思える程度にはなっていた。しかしまだ大きく動いたり、振り返ったりすればその瞬間に突き刺さるような痛みを感じて、存在しない何かが後頭部から両眼に刺さっているのではないかと勘違いしてしまうくらいである。
しかし当然ながら『どちらかの目にしか見えない何か』が刺さっているとかそういう事ではなく、ただ単純に身体の不調でしかない。現状は鎮痛剤以外に頼るものは……睡眠薬で無理にでも寝るくらいだが、そちらの選択はまだ選びたくない。そもそも家に睡眠薬が残っているかどうかも怪しいのだが。
「でも、水分くらいはしっかりとっておかないと、だな、ぅぐ」
頭痛のせいで、肺から絞り出した様な呻き声が出てしまった。
セーヤのやつはいつの間にかどこか、おそらく学校に向かっていた。作業が終わったら文句の一つでもつけてやろうかと思っていたのだが、頭痛や腹痛に響きそうだと思いなおしたので、顔を合わせずに済んだのは良かったかもしれない。
理性では済まない衝動のようなものも、目的の対象がなければそのまま霧散してしまう。なんとなく衝動的な思考がきっかけで自分が行動しようとしているのは分かるのだが、それが何なのかはよくわからない。
分かっているならばもう少し落ち着いて行動できるか、あるいは衝動を抑えることもできると思うのだが。
性別が変わったことや、あるいは変な能力を手に入れたせいだと考えておきたいが……仮に原因がそこにあったとしても、いつまでもそれを言い訳にしていてはいけない。自分の制御がうまくいかないのがわかるが、どうにか慣れていくしかない。そう、少なくとも本来の身体を取り戻すまでは。
さすがに24時間どころか半日すら経っていないこの身体。『身体の方が覚えている動作』がいくらかあるが、もう違和感しかない。
「元の身体に戻った時もこんな違和感があるのか……? それは、少し嫌だな」
耳鳴りが酷い。不調は少し違う感じだが、集中力をそぎ落とされるような感覚だ。現状で何かしら集中するべきことがないのは幸いというべきか。
「うぅむ、何をしていようか」
インフルエンザに罹ったりしていた時はすぐに寝るような状況が多かったが、今回は痛みのせいですぐには寝付けないだろう。一旦目が覚めてしまったのもあるし、何か……漫画でも読んでおくか? そう思ったが、部屋の枕元にあったはずの漫画は無くなっていて、しかし少女漫画の類があるわけでもない。小説らしきものが何冊かもともとの漫画本よりも少ない数だけ置いてあった。
これがセーヤの趣味だとは考えたくないのだが。
幸いというか、細かい文字を読めないほどに頭痛がしているわけではないので、一冊手に取ってみる。シリーズ物が最初から途中まで並んでいるようで、続編はまだ販売されていないようだ。
漫画と教科書以外の本は殆ど読まない習慣だったが、ついでの機会でもあるし、試しに読んでみるとしよう。もしかしたら、うまくハマるかもしれないのだし。
すこしばかり日が陰ってくるまで読み進めてしまった。それほど早く読めるわけではないが、結構楽しめている……という風に思っている。普段読んでいる……読んでいた漫画のジャンルに似ているような内容だったことも理由の一つではあるのだろうけれども。
「頭痛はだいぶマシになったか」
窓から外を見て、夕闇の日差しが痛くないと感じて気付いた。鋭い痛みはおさまっている。すべて解決している訳ではないが、このまま活動することはおそらく問題ないだろう。
もし、また何かを探し出せという事を言われたら、それは少し怪しいのだが。
そっちを考えると違う意味での頭痛が訪れそうなので、深くは考えない。
部屋の電気をつけるために立ち上がる。頭痛が激しくなったりしないように、ゆっくり立ち上がり、壁に手をつく。
「よし、これなら大丈夫そうだな」
「それなら良かった。日が暮れてから次の奴を探しに行くぞ」
俺が発言するとそれに応えるように、部屋の外からヤツの声が聞こえた。大丈夫ではなかったことにしたかったが結構大きな声で言ってしまった手前、諦める他なかった。
「それで、どんな奴を探すんだ? 巨人? 小人? それとも植物や自動車か?」
適当に思いつく限りを言ってみる。流れに身を任せるのが正しい選択肢だと言えよう。もういろいろ諦めるべきだ。
「あー、そのうちそいつらをやる可能性がなくもないが、今回は違うな。これから探しに行くのは、『嘆きのオルゴール』ってやつで……簡単に言えば、移動する音源だ」
オルゴールだと言うからには音を探せば……
「いや、音は目に見えないんだが。本体の方が見えたとしても、『聞こえる耳』は持ってないよな?」
こいつと話している時点で聞こえるようになっているのならそれでもいいのだろうが、そもそもこいつと最初に遭遇していた時からこいつの声は聞こえたし姿も見えていたので、こいつは比較基準にはならないだろう。
「ああ、そういったものは貸してないな。そして俺も持っていない」
「正気か? 音源を探すっていうのに、聞き取りができないなんて」
俺が少しばかり苛立ちながらそう返すと、やれやれ、と言わんばかりの態度でこちらを見てきた。どうしてこいつはこっちの神経を逆撫でするのが好きなんだろうか。精神面で良くない状態になればいろいろなパフォーマンスも下がってしまうので正直やめて欲しい。
「まあ待て待て。音が聞き取れなくても、音の振動は分かる。それこそ、青い手品師を相手にした時、あいつの『手品』はコンクリートを砕いただろう? 日食だって、そのまま放置しておけば光を食い荒らしていただろう。あいつらの起こす現象は、この位相に対して、物理的現象として影響するんだ」
「じゃあ、つまりそのまま音として聞くことができる?」
「実際に何かしら音は出ているんだろうが、可聴行範囲外だな。だから、これを使う」
セーヤが取り出したのはかなり細い金属の糸。ピアノ線だとかワイヤーだとかそういう奴だろう。それをピンと張るように両手で構えている。
そのワイヤーは、当然の権利だと主張するように右目にしか見えない。
それにこびり付いた、おそらく俺のものであった血液も同様に、だ。あと青い手品師の残骸のカケラ。
「あとで聞きたいことがある。大丈夫だよな?」
「俺に応えられる範囲であれば、だな」
恐らく答えてもらえないんだろうと思いながらも外に向かい、自転車の鍵を握った。
所謂黄昏時というのだろうか。紫色と橙色の空の色合いが結構好きだったりする。まあ自転車を漕ぎながらなので、あまりよそ見していたら再び死んでしまう可能性がある。探すものが探すものなので、ワイヤーを注視している必要がある……と思ったが、そっちの方はセーヤが確認している。
「やっぱり俺が同行してる必要が感じられないんだが?」
「いやいや、携帯電話の画面を見ながら歩き回っても危険だろう? 自動車や自転車にぶつかりでもしたら俺だって死んでしまうからな。適当な方向に適当に動いてくれればそれで大丈夫だ。ああ、一応方向を要求することはあるかもだが」
「それはいいが、寄りかかるのはやめろ。背筋がゾクゾクするし揺れるから危ないんだが」
「二人乗りをしている時点で危ないだろ、気にすることでもあるまい」
いや、親戚という事になっている程度の関係の男の身体が接触しているのが気持ち悪いだけです。
というか、こういうものは男の方が漕ぐものじゃ……いや、こいつはないな。このままでいい。そもそも、ワイヤーの確認もできるかどうかは怪しいしな。
「とと、次の角右に曲がってくれ」
「りょーかい」
こいつを乗せているような重さを感じないのは幸運か、あるいはこいつの使う道理なのか。
俺以外の誰にも見えていないならばそれが良かったのだが、周りの視線から判断するとそうではないらしい。
「くそ、明日からどうすればいいんだ」
「別に仲良し兄妹に見えるだけだろうに。気にしすぎだよ」
めちゃくちゃな事を言う。ただまあ、兄か……
「いや、何認めようとしてるんだ俺は」
方向の指示を受け、その通りに進んで、オルゴールとやらを探す。