004
書きたいものは増えるけど、文章にならないスランプ
ようやく家に着いたが、外はまだ薄暗い時間のままだった。シャワーを浴びた後でも数時間は眠ることができそうだ。まあ、少なくとも今日だけは休むつもりでいたが。
「勉強は、まあそんなに得意じゃないからどうにかしないと、なんだが」
シャワーを浴びるために着替えを用意し、バスタオルを手に取ったところで気が付いた。
俺、今は女の身体なんだよな?
いやいや、自分の身体なんだ、何もおかしな気を起こす要因なんてないじゃないかと考え直しながらも、どうにもそわそわと落ち着かない感じになってしまった。
まあ、どうにかなるだろうとも考えて服を脱ぎ……なんとなく前半身を隠してしまう。どうにかなるはずもなく、変に意識してしまう。
気恥ずかしいという感覚は考えていても仕方ないだろうし、いずれは慣れるものだと割り切るしかない。……鏡の中にいる女の身体をしている自分は、可愛らしい系の顔だな、と思ってしまった。
この身体の髪の毛は相当長い。切りに行くのが勿体ない、と感じるほどだ。
「どうやって洗うんだ、これ」
長すぎる髪の毛というだけで相当に洗いにくく、水を吸うと重さもとんでもないことになった。5キロくらいは重くなってるんじゃないか……?
手間取ったが、時間をかければなんとかなった。リンスやシャンプーも増えていて、なんとなくの今まで通りの洗い方では済まさない、という覚悟に似たような何かを感じた。というか、この冗談みたいに長い髪の毛を乾かす時間も考えたら、本当に学校を休まない限りは寝ることもできないかもしれない。あるいは遅刻してしまうか……?
母さんに遭遇して向かうように言われる可能性もあったが、幸か不幸か今日の母さんは早朝勤務だったので、朝から怒られてしまうようなことはないだろう。まあ昼に遭遇したら何かしら言われる可能性がないという訳でもないが。
まあ、別に仮病っていう訳でもないから大丈夫だろうか。
「何を悩んでるか知らんが、早いところ交代してくれよ。更衣室に居座られたら、俺だってシャワーが浴びられないんだぜ?」
洗面所の外からセーヤの声が聞こえた。元が男だから、としれっと入ってくるような気がしていたが、さすがにそこまでデリカシーがないような存在ではなかったらしい。
女の身体になった自分が、こいつがはいってくることを気にするのかという疑問があったが、よく知らない奴が風呂前に更衣室に入ってくるなんて男のままだったとしても嫌だ。想像の中では男のままの俺がセーヤに蹴りを入れているが、まあそんな『もしかしたら』を考えたところでどうにもならないのだ。早いうちに髪の毛を乾かしてしまわねば……うん、本当にこれはどのくらいかかるんだろうか。女性の風呂の時間が長い、というのはこういうことも理由になっているんだろう。
男の時の考えのままだったので、軽く洗って簡単に髪の毛を洗ってどうにかしようとしていたのだが、予定の3倍以上の時間がかかってしまった。シャワーを浴びている最中は、いろいろと大変だったりしたので女体がどうのだとか、そういったものを気にしている余裕はなかった。
慣れてきたらどうなるんだろう、という不安が湧いてきた。俺は、まさか自分が自分の女体に興奮するとは思っていないが、慣れたあとに緊張しなくなったとして、それが自分の身体だからなのか、それとも精神性が女子のものになったのかというのが区別が付けられない。
「さすがにそのあたりは杞憂かな、」
どうせ考えたって仕方ないことなんだし、そもそもそうなる前に身体を取り戻せばいいのだ。まあそうなるならば、バイトの時間を増やさないといけないわけで、もしかしたら今回以上に労働がきついものになるのかもしれない。
洗面所でそうやって纏まらない考えごとをしながら、ドライヤーをぼんやりと頭に当てていたら、だんだんと眠くなってきた。
時計を見れば、午前の4時半。もう夕方になるくらいのような感覚だったが、たぶん時差ボケみたいな感じなんだろう。もしくは疲労が溜まってておかしな感覚になっているか。
髪の毛を完全には乾かせていないが、さすがにこの程度までやれば問題ないだろう。どうにも違和感しか感じない寝間着ではあるが、それを着てベッドに倒れこんだ。
難しいことを考えるのは、起きてからで問題ないだろう。