「ネコ生活」
「ネコ生活」
「クサッ!!」
夢さえ見れない深い眠りの暗闇から一瞬で俺を現実世界に引き戻す。
そんな強烈なにおい。
「またお前か、バナナ。」
バナナは我が家に住んでいる猫達の一匹。
一番の古株で元オス。宦官?
現在我が家には三匹の猫達が住み着いているけれど、三匹全員去勢されている。
引き取った時にはすで去勢されていた。
個人的には「何もそこまで…。」とも思うのだけど、世の流れがそうなっているので逆らえない。
動物愛護や環境保護の観点からも、こうする事が必要だと言うのが彼等の主張。
自然環境や動物を守ると言うのなら、この世界で最も環境を壊し野生動物を虐げる人種についても触れるべき。
もうすぐ100億とか増えすぎでしょ。
去勢を勧める人達は、まずは自分を含め身の回りの人々にも去勢をお勧めするべきなのでは?
と、思っていても口には出さない。
袋叩きにあうからね。
彼等思った以上に攻撃的。
目が覚めた瞬間から、一気に思考が爆発する。
ーーダメだ、完全に覚醒しちゃった。
時刻を確認すると、まだ朝の4時。
このまま二度寝しちゃうと7時前に起きるだなんて不可能だ。
ーー良かったな、バナナ。明日が土曜日で。
ーー平日だったらガチでキレてる。
ーーニャンコ相手でも容赦しない。
眠る前、夜中にご飯の要求で起こされる事のないように、一皿だけ猫のご飯を用意している。
きっとソレが空っぽなのだ。
バナナ以外の猫達に食べられてしまったに違いない。
猫達の不満の表明手段はいくつかあるのだけど、この匂いの攻撃は結構きつい。
バナナの不満も高レベル。
トイレで必死にウンコを出しそのまま俺の枕元にやってきて、お尻を俺の頭に向けて座り込むのだ。
「わかったから、ちょっと待ってろ。」
頭が完全覚醒したからと言って、寝起きの体までしっかり動くとは限らない。
少し足元がおぼつかないけれど、バナナを蹴飛ばさないよう慎重に立ち上がり、部屋の明かりをつけて、猫のご飯の用意に取り掛かる。
満足そうにご飯を食べるバナナの背中を確認したら、猫のトイレのお掃除だ。
早く匂いの元凶を処理してしまわないと、部屋中にこの強烈な匂いが行き渡ってしまう。
羨ましいほど立派なウンコを処理して、掘り返された猫砂を馴らす。
「よしッ!完璧!」
トイレ掃除を終えて立ち上がったら、コチラを見つめる気配に気づく。
りんごとすもも。我が家の姫達。
「お前達まで起きてきちゃったのか…。」
足元に駆け寄り、スネのあたりに頭を擦り付けてくる、姫達二匹。
「わかった、わかりました。今準備するから。」
そう言って引き出しに隠してある猫用のオヤツを取り出す。
ソレを両方の手のひらの上に出し、りんごとすももの前にしゃがみ込む。
凄い勢いでガッツク姫達。
我が家の猫達はオヤツを手の上からしか食べない。
床に置いてもお皿に乗せても匂いを確認するだけで、決して口をつけたりしない。
オヤツはこうして直接手のひらから食べさせて貰うのが猫達のオキテになっているようだ。
面倒だけど可愛い奴等。
食べ終わると満足そうに顔を洗い出す。
ーー本当、お前達は卑怯だな。
ーー顔を洗う仕草だけで、そんなに可愛く見えるだなんて絶対ズルイ!!
姫達の満足そうな仕草を見つめていると、背中に強烈な視線を感じた。
バナナだ。
「わかってるよ、お前だけ仲間はずれになんてしないから!」
そう言って、再び引き出しからオヤツを取り出し、手の上に乗せバナナの前にしゃがみ込む。
さっきご飯を食べたはずなのに、これまた凄い勢いで喰らい尽くす。
「満足したか?」
俺は猫達の唾液でベタベタになった手を洗いに洗面所へ向かう。
向かう途中に家の中に3個置いてある猫用の水の器をひとつ回収。
手を洗ったら器を洗い水で満たす。
「あとふたつも回収するか。」
水を入れなおした器を元の位置にセットして、次の器の回収に向かう。
回収してキッチンに向かう途中、ザッザッと猫砂を引っ掻き回す音が聞こえた。
「こんどは誰だよ。」
キッチンで回収した器を洗い水を貼る。その器を元の位置にセットしたら再び猫のトイレへ直行。
「スッキリしたか?」
入れ違いになるすももの頭を軽くなで、猫トイレ用の小型シャベルを手に持ってオシッコの後処理を開始。
「随分たくさん出たな。我慢とかするなよ?」
猫砂を馴らしながら、背後にいるだろうすももに向かって言葉を投げる。
「ふぅ。これでよしッ。」
俺は三つ目の猫用の水を交換するため立ち上がる。
背後に居ると思っていたすももの姿はそこにはなく、りんごが両脚を放り出してお腹の毛のお手入れをしていた。
「あんまりお腹を舐めるなよ?お腹の毛が周りより薄くなってきてるから。」
そう言って無理矢理な体勢のりんごの後頭部を軽くなでて行く。
最後の器を回収しキッチンで丁寧に洗い水を貼る。
ーーこれをセットしたら俺もコーヒーでも飲もう。
完全に目が覚めてしまったので、二度寝する気はない。
それに随分と体が冷えてきたので、暖かいモノが欲しくなったのだ。
三つ目の器をセットして再びキッチンへと向かう。
ザッザッザッ。
ーー今度はりんごか…。
案の定、りんごがトイレの中にいる。
とっくに用は済んでいて、今は猫砂を引っ掻き回すのに夢中の様子。
りんごの気が済むまで待ってから猫用トイレの掃除を開始。
ーーうんうん、いつもの感じ。
ーー多すぎず少なすぎず。
生き物の排泄物は健康のバロメーター。
処理する時はなるべく丁寧に観察するように心がけている。
ーー素人判断だけれど、りんごに異常はないみたい。
キッチンに向かい手を洗う。
コーヒーの為にお湯を沸かし、カップとミルクを準備する。
猫達は満足したのか、目の届く範囲には居ない。
音を立てないように気をつけているけれど、流石にこれだけバタバタしているのだ、普通は目を覚ますだろうと思うのだけど、うちの嫁様は起きてこない。ぐっすり熟睡。羨ましい。
鋼鉄のメンタル。内緒でそう呼んでいる。
暖かいコーヒーを飲んでいると、カフェインの効果なんて迷信じゃないの?って文句を言いたくなるくらい強い眠気が襲ってきた。
明日はお休み、仕事はない。
お昼頃までゴロゴロしてても大丈夫。
「寝直すか。」
そう呟いて俺は再び自分に与えられた寝床に戻る。
すっかり冷えた布団の温度に一瞬だけ頭が覚醒しそうになるけれど、横になったらすぐに意識は閉ざされた。
「邪魔!早く起きてご飯食べちゃって!片付かないんだから!」
うちの可愛い嫁様が俺に向かって何かを訴えている。
だけどボンヤリしている俺の頭では何を言っているのかまったく理解できない。処理できない。
分かるのは今すぐココを退去せねばならないと言う事だけ。
「おはよう…。」
「ハイハイ、おはよう。でももうお昼だからね!」
嫁様が勢いよく言葉を並べる。
ーーそんなに寝ちゃったのか。
洗面所に向かう途中、猫用の水の器を回収する。
歯を磨いて顔を洗い、やや覚醒したところで猫用の器を洗う。
水を入れ元の位置にセット。
その足でキッチンに向かう。
お湯を沸かしてコーヒーの準備。
ふとリビングの方を見ると、猫達用のモフモフ絨毯の上に三匹が絡まるようになって眠ってる。
ーーいい気なもんだ。
「ご飯はテーブルの上にあるから。レンジで温めてから食べてね。」
と別の部屋から嫁様の声が響いてくる。
「わかった~。」
間延びした返事を返して、言われ通りレンジで温めてなおしてから食べる。
食べ終わると
「私、今から買い物に出るから。トイレの掃除も終わってるし洗濯モノも干した。あとは掃除機なんだけど、出来たらでいいからお願いね。」
早口でそう言い残し、ドタバタと玄関へと向かう。
その様子を見ていて、夜中の事を思い出す。
「猫達には俺があんな風に見えてるのかもね。」
そう思うとなんだか無性に可笑しくなった。
我が家の可愛い嫁様からは、きっと俺は猫達と同列。
図体ばっかりでっかくて意思の疎通が言葉で出来る、少し不恰好な猫。
朝ごはんを用意してもらい、ご飯の買い出しまでしてくれる。
おまけに今日は俺の当番だったトイレ掃除まで終わっているのだ。
ーーありがとう。
ご飯を食べたら窓を開け、空気を入れ替え掃除をしよう。
本物の猫達が天敵認定している、騒音大王の掃除機をかけ、部屋の隅っこに固まった猫の毛達を吸い込んでやる。まさに一網打尽。いや一毛打尽?
猫達は心底嫌がるだろうけど、この時だけは俺はお前達の天敵だ。
恐れをなして逃げ惑うがいい。
そうしなきと、俺が怖い目にあうからね。
ーーわかってね、バナナ。
ーーわかるよね?りんご。
ーー嫌わないでね?すもも。
怖くて可愛い我が家の嫁様に愛想尽かされないよう頑張らないとネ。




