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第三十四話 復活のアルフォンス。でもシャーリーの方が強かった…。

 次回は2月14日、ウフフッ、バレンタインデーに投稿よ!1チョコを期待しているみなさん、とっても甘ーい更新を待っててね。

 いや、実際当日はチョコのパウンドケーキとかシフォンケーキとか焼くんですけどね。

 速人は太い親指を立て、自分に向けて見せる。

 是即ち「お前らに俺を雇う度量があるのか?」と挑発している意味である。


 「調子こいてんじゃねえぞ、馬鹿野郎ッ!!お前みたいな変なチビを実家うちの店で雇えだと?冗談も大概にしろってんだ!!」

 

 ナインスリーブスの常識では考えられぬ暴挙に腹を立てたアトリがものすごい剣幕で反論する。

 この異世界では新人ニューマンと呼ばれる最も新しい種族の立場は無いものに等しい。境遇こそ特殊だが、生まれついての住人であるアトリにとって速人の挑発に満ちた提案はとても許せる代物ではなかったのだ。


 「待て、アトリ。それこそ相手の思う壺というものだ」


 カトリはアトリの肩を強く掴んだ。

 普段は冷やかな目つきも心なしか厳しいものになっている。

 

 カトリは姉として憤るアトリに諭したつもりだった。

 

 (姉の方は思いのほかに冷静か)

 

 しかし、カトリの介入が入る前に速人は次なる”交渉”に入る。

 速人としては上手く事を運んで相手の懐に入れば御の字だが、それ以上にアトリとカトリの父親には興味が湧いていたのだ。


 速人は口内で舌を舐めずった。


 「クックック…。まだ俺の実力を疑っているというなら、ここにレストラン・アフタヌーンのオーナーシェフを連れて来い。料理勝負で白黒をつけてやる」


 速人はアトリとカトリの姉妹とドレスデ商会から出向してきた男たとだけではなく、大市場を訪れている全てのオーク族に向けて殺気を放った。


 熱気を帯びた刃の如き殺気を前に一瞬、ほぼ全員が立ち止まる。


 その場で即座に対応できたものはカトリとアルノルトの二人のみ。

 そして少し遅れてアトリが正気が取り戻す。


 正気に戻った彼女たちの目の前には”胸に七つの傷を男に秘孔を突かれたせいで破裂死という数奇な運命を辿ることになった不運な筋肉モヒカン”のように全身を赤く膨張させた速人の姿があった。


 針で突くと「た!わ?ばああーーッ!!」と断末魔をあげて他界しような風情でさえある。


 「アタイらのとーちんがお前に負けるってのか!?」


 びくん!びくん!


 速人は答える変わりに膨らんだ頭を風船のように膨張、収縮させる。


 どうやら肯定の意味らしい。


 アトリは速人が破裂するような事態だけは避けたかったので、首だけを縦に振る。


 「貴様…。それが最初から目的か…」


 妹に次いでカトリが口を開いた。


 速人は目線だけをカトリに向ける。


 速人が微動する度に頭が膨れ上がっているような気がするので、普段はマイペースなカトリも相手の機嫌を伺いながら話すという不慣れな行為を強いられている。


 そんな中、シャーリーだけは皿に残ったソースを朝食用に買っておいたバケットにつけて食べていた。


 (このタレ。おいしいけど、こういう細かい味つけは私には無理だねえ)


 難しい顔をしながらシャーリーはバスケットの中を漁る。

 そして二本目の大きなバケットを食べ始めた。


 ぐぶぶぶ…、ぐぶっ、ぐぶぶっ。


 速人が何かしら呟いている様子だが誰にも理解することができない。

 仕方ないのでディーと雪近が近くまで行って通訳することになった。


 「ええと、なになに…。”最初はお前たちの父親に興味は無かった。しかし、俺のハンバーグを食べている時に考えが変わった。まさか俺のハンバーグに近い味を出す料理人がいるともなれば話は別だ。実際に会ってどちらかが死ぬまで料理対決する他あるまい”…って!!お前、何考えているんだよ!?」


 雪近は速人の物騒な思惑にノリ突っ込みを入れてしまう。


 同時に速人の頭が空気が抜けた風船よろしく小さくなる。


 脅威は去った、と感じたアルノルトが颯爽と現場に帰還した。

 アルノルトは自前のアイテム”よく冷えたおしぼり”によって速人の顔を拭いてから交渉を再開しようとする。

 

 ふきふきふき。

 

 「速人少年。残念だが君の望みが叶うことはないだろう。なぜならば…って!!また頭を大きくしないでくれんかねッ!?」


 一時は元のサイズにまで戻ったはずの速人の頭がまた十数倍にまで膨張している。


 がしっ。


 さらに速人は充血して真っ赤になった目でアルノルトを睨み、ズボンの端を掴んだ。

 アルノルトは雪近に目くばせをして速人が何を言っているか通訳してもらうことにする。


 「はいはい。それでは…”俺は見ての通り気が短い性格だ。お前の説明次第ではこの辺一体に死体の山が出来る可能性がある。くれぐれも言葉には注意するようにしろよ。あと、金田。力が勝手に集まってもう俺の力じゃどうしようもない。このままじゃ俺の中のカオリが死んじまう。早く、俺を…”って金田って誰だよ!!カオリって誰だよッ!!俺は雪近だっつーの!!いい加減にしろ、デコスケ野郎ッ!!」


 速人は”力の暴走”により膨張を続ける。


 雪近とアルノルトは一歩でも離れようと必死に抵抗するが、日々の家事によって鍛えられた速人の握力からは逃げられない。

 雪近とアルノルト以外の人間たちは遠くに逃れている。

 いくら偉そうなことを言っても所詮は人間。我が身が一番大事なのだ。


 「AKIRAネタ、意外と通じるもんだな。雪近よ」


 ニヤリ。


 速人は普通のサイズに戻っていた。


 その後、速人はアルノルトらによって凶悪殺人犯のように手足を拘束された状態で話すことになった。


 「実はアトリ君とカトリ君のご両親は明後日にも第十四都市に出向されるという話があるのだ。かの都市でエルフ族のレッド同盟と我らが自治都市同盟の間で新たな条約を結ぶ為に会合を開くらしい。会合ではカトリ君とアトリ君の御父上は食事を担当し、お母上はオーク族のノーマ議員の補佐役として随行するそうだ。会合は三日間、さらに移動時間に二日間はかかるのでカトリ君とアトリ君の御父上に会うためには最低でも一週間以上は待たなければならないわけなのだよ」


 現時点でのナインスリーブスにおける二大勢力、レッド同盟とダナン帝国。

 そのどちらにも属さない勢力が結集して生まれたものが自治都市群である。

 大小合わせて45の自治都市が連合という形でまとまっているが、結束力に乏しい。

 近年ではレッド同盟に味方する勢力と、ダナン帝国に味方する勢力に争うこともあるという。

 速人が暮らす第十六都市は中立派の一つであり、中立派の中心的存在が第十四都市だった。


 (要するに都市の代表がエルフなら同盟派。ドワーフなら帝国派。巨人族なら中立派もしくは独立派なんだよな)


 だが、ここで問題にぶち当る。速人にとって目下最大の仮想敵(※エイリークは家の柱をかじる白アリの次くらい)であるカトリとアトリの父親は国際会議の食事会の料理人として抜擢されるような重要人物であるということだ。


 (ここで下手に相手の邪魔をしようものなら、俺が面倒くさい餓鬼というレッテルを貼られる可能性もある。氏は名に生きるもの、と孟嘗君も言っている。非情に悔しいがここは我慢しなければなるまい)


 速人は十歳にして非常に見栄っ張りな性格をしていた。


 「子供の君にこのような話を打ち明けるのは心苦しいことだが、因縁の仇敵とも言うべき二つの勢力を交渉のテーブルにつかせるまで多大な時間を費やしてしまった。しかも機会は一度きりときている。すまないが、今回の対決は見送ってくれまいか?」


 アルノルトは頭を下げる。そして、速人は映画「羊たちの沈黙」序盤のハンニバル・レクター博士のような拘束具をつけられていたので周りからはよく見えなかったが、同意の意味で頭を下げた。


 こうして一応の和解が成立する。


 「そういうわけだ、クソ姉妹。おっさんの借金は後日、俺が分割で返してやるから家に帰りな。…ぬんっ!」


 速人は丹田に意識を集中し、気合と共に拘束具を引き千切る。

 

 (次はもっと強力な拘束具を用意しておこう…)


 速人が手や指の具合を確かめているといつの間にかすぐ近くにアルフォンスが来ていた。

 今のアルフォンスからは嫉妬や卑屈といった負の感情を煽るような気配は感じられない。

 気高い魂を取り戻した一人の男の姿がそこにあったのだ。


 「おい。小僧。勝手なことを言ってんじゃねえぞ。あれはな、俺が作った借金だ。俺が返すに決まってんだろ!!」


 「はんっ。ジイサンよお、調子いいこと言ってんじゃねえよ。アンタみたいな老いぼれに何が出来るってんだ?さっさと家に帰ってゴミの分別でもやってるんだな!!」


 速人はここぞとばかりにアルフォンスを役立たず老人と決めつけて罵倒する。

 あまりのキャラの変わりように周囲も沈黙する。

 だが己の使命を取り戻した一人の男はこの程度の苦難に動じることはない。

 

 逆に胸に燃える闘志を叩きつけてきた。

 本物の男はゴミの分別だってやり遂げて見せるのだ。


 「明日、いや今からブロードウェイ精肉店を再開してやる。こちとら肉の商売に関わって三十年だ。20万PQPくらい返済してやるぜッ!!」


 アルノルトは一歩前に踏み出した。

 腰のあたりに苦痛を覚え、顔を歪ませる。


 しかし、アルフォンスは気力を振り絞って痛みに耐える。

 一度、使命に目覚めた男は如何なる試練も苦と感じなくなるのだ。

 速人は再起を誓ったアルフォンスの姿を見て含み笑いを漏らす。


 (もうこの男に”杖”はいらない。誰に言われるまでもなく目的地まで一人で歩いて行くことだろう。ならば俺のすべきことは路傍の石を避けてやることだ)アルフォンスは速人に向かって右手を差し出した。


 「そういうわけだ、速人。ここはおっさんの面子を立ててくれ」


 「漢の言葉ならば無下にするわけにもいくまい」


 五十歳を過ぎた男と十歳になったばかりの男が対等な立場で握手を交わした。


 大市場のラッキー精肉店近くに集まった人々は握手を交わす二人の姿を拍手で送る。


 「ハッ!勝手にやってろってんだ!」


 すっかり悪役にされてしまったアトリも頬杖をついて二人の姿を見守っていた。

 かくしてハンバーグ対決は速人の勝利によって終局を迎えることになった。


 「盛り上がっているところを申し訳ない。アルフォンス君、君の借りた200万PQPだが私に立て替えさせてもらえんかね?」


 「そういうわけにもいかねえよ。アルフォンスさん。ブロードウェイ精肉店は親父から受け継いだ俺の店だ」


 アルフォンスは腕を組んでアルノルトの方を見ようとしない。

 

 アルノルトは目くばせをして速人に何とかアルフォンスを説得できまいかと思った矢先に、アルフォンスの身体が後方に吹き飛んだ。犯人はシャーリーだっら。


 シャーリーの剛腕の一薙ぎでアルフォンスは地面に叩きつけられた後に動かなくなってしまった。


 速人とアルノルトは目の前の出来事に唖然とする。


 「何カッコつけてんだい。うちは子供と親父とお袋入れて十人以上の大家族だってのに」


 シャーリーは大黒柱のように太い右腕を振り回す。

 そしてマタドールを刺殺した闘牛のように鼻と口から荒い息を吐いている。

 ラッキーと雪近とディーはすぐにアルフォンスを助けに行った。


 「シャーリー君、その怪我人が相手なのだからお手柔らかにした方が…」


 「あん!?」


 全身汗だくになりながらアルノルトはシャーリーに諫言しようとしたが、シャーリーの殺気のこめられた眼光一つで押し黙ってしまった。


 「ところでアルノルト。旦那の借金、払ってくれるんだよね?」


 会話の途中”旦那の借金”のところで、シャーリーの闘気が五割増しになる。


 速人は十字受けの姿勢でこれを何とか防いだ。

 そして、殺気に直接晒されることになったアルノルトは後でパンツの替えが必要になってしまった。


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