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第二十七話 くず肉の誇り

 次回は1月24日に投稿します。木場先生の「なろう小説の読書録」という作品であらすじなどが紹介されているので気になった方はそちらもご覧ください。

 「速人とやら、先ほど貴様は料理勝負がどうとか言っていたが見ての通り我々は食器よりも重い物を持ったことがない”お嬢様”だ。残念ながら料理どころか厨房にさえ入ったことがない。そんな我々と一体どうやって勝負をするというのだ?」


 カトリは誇らしげに残念な内容の発言をする。アトリも何と声をかけていいやらと言った様子だ。


 「クククッ。そんな貧乏舌どもを下劣なにわかグルメレポーターのようにしてしまのが俺の料理の力だ。お前たちはおとなしく味見役として俺の料理を食べればいい。臓腑が裏返るくらい美味いものを食わせてやるから覚悟しろ!」


 (どういう料理だ!!)


 味方であるラッキーたちもそう言って突っ込んでやりたかったが、今の速人の前では口を噤むしかなかった。

 速人はおもむろに近くにあるゴミ箱(※加工した肉の残りを入れておくもの。普通のゴミ箱とは違う)から変色した肉塊を取り出した。

 正直、熟れすぎている為に表面がヌルヌルしていて異臭を放っている。

 速人は邪悪な微笑を浮かべながらアトリに言った。


 「俺の手にかかれば、この肉とて至高の美食に変わるのだ!!悪のプリキュアみたいな赤いヤツと青いヤツ!!貴様らのような笹寿司の手下みたいな奴等は絶対に許さん!!覚悟しろ!!」


 速人は変色した肉を次々にゴミ箱から取り出した。

 狂乱する速人を見ていたスーツ姿の巨漢の一人が一歩、前に出る。


 「大恩あるドレスデ商会の会長のお嬢様たちを見す見す危険に晒すわかにはいかん!この勝負、このヘムレンが引き受けよう!」


 先ほど雪近と一緒にアルフォンスを捕まえに行った男、ヘムレンだった。

 正直、速人にはスーツ姿の男たちが誰が誰なのかはわからない。(逆にアトリたちは誰が誰だかわかっているような感じだった)

 しかし、ヘムレンの纏うある種の匂いが速人の闘争心に火をつける。


 「この数多の食材の芳香…、ヘムレンとやら!!貴様、料理人か!!」


 速人の嗅覚はヘムレンの肉体にしみ込んだ極上の香気からこの男が一流の料理店に務める料理人であることに気がついていた。

 速人は本格的な料理対決を予見して、投資をむき出しにする。エフェクト的には炎を背負っているような様子だった。

 しかし、当のヘムレンはぎこちない表情で額に汗を浮かべている。速人の放つ闘志を前に委縮してしまったのだ。なぜならば…


 「いや私は確かにドレスデ商会の経営するレストランに勤務しているが、主な仕事はホールスタッフだ…」


 アトリとカトリは二人同時にコケていた。

 

 (何をしに出て来やがった!!)


 当然と言えば当然の感想でもある。

 

  ラッキーも微妙な表情で聞き役に徹していたがヘムレンの勤務先について知った時、態度を急変させた。浅黒い禿頭がには茹蛸のようにいくつもの汗が浮いている。


 「待ってくれ!ドレスデ紹介の経営するレストランとは…ッッ、まさかあのレストラン・アフタヌーンのことか!?」


 第十六都市屈指の名店「レストラン・アフタヌーン」の話は、速人も知っていた。

 都市上層に本部店舗と三つの支店を持つナインスリーブスには珍しい経営展開(※ギルド組合員制が主流である為に商業活動が内向的。ルネサンス期のイタリアみたいな感じ)をしているレストランである。

 噂ではオーナーシェフが変わる以前は高額なだけの三流レストラン以下と揶揄されていたのだが、オーナーシェフが代替わりして以来うなぎ上りで評価を高め今では周辺各国の要人が来訪する超一流の店となったとか。


 (一流店のホールスタッフともなれば、並大抵の味覚の持ち主ではあるまい。相手にとって不足なし)


 シャキンッッ!!!(※英語で書くと「SNIKT!!」)


 速人は陰惨な目つきで口の端を歪めると、ウルヴァリンがアダマンチウム製の爪を手の甲から生やすように懐から包丁を取り出して構えた。

 

 その仕草があまりにも堂に入りすぎていた為にヘムレンは後退りしてしまう。


 そのヘムレンを支えるように背後から二人のスーツ姿の男たちが現れる。

 こちらの男たちもファイアーエムブレムの中ボスたちのようにステータスプレートでも確認しなければ誰が誰だかわからないような男たちだった。


 「ヘムレン!お前一人を死なせやしない!その勝負、このフランシスと!」


 微笑を浮かべながら、フランシスは倒れそうになるヘムレンを背後から支える。

 そしてもう一人の男(後述のアントン)はヘムレンの身体についた汚れを払う。

 ホールスタッフならではの連携である。 


 「このアントンが参戦しようではないか!」


 速人はまるで映画「マトリックス」でエージェント・スミスが増殖している場面に出くわしたような気分になったいた。


 要するにもっと誰が誰だかわからなくなったのだ。 


 (首にお洒落なネクタイを巻いているのがフランシス。額に三日月のような傷跡がある男がアントン。そして、後ろで髪を縛っているのがヘムレンか。これ以上、増えると見分けがつかなくなるからこの辺で打ち止めにしよう)


 速人の視線に気がついたフランシスはネクタイを締め直し、アントンはあえて傷跡を手で隠すような仕草を決めて、最後にヘムレンは緩くウェーブのかかった髪を優しく撫でていた。


 「ところでお前ら、料理作れるのか?」


 アトリはそれとなく尋ねた。

 実は最初から姉のカトリと二人だけで来るつもりだったので特に人選はしていない。

 アトリもヘムレン、フランシス、アントンらがレストラン・アフタヌーンの本部で働いていることぐらいしか知らなかった。


 沈黙の後、三人を代表してヘムレンが答えた。


 「人並みには造れます。しかし料理勝負に参加できるほどの技量は御座いません。より正確に言うと他のスタッフを相手に賄い料理はたまに造りますが、本格的な料理はしばらく作っていませんね。何分店の方が繁盛していて本業以外のことをする余裕がないからであります」


 アトリは「じゃあ何で名乗り出た!!」と大声で突っ込みたかったが、出来なかった。

 言うまでも無くそこには確たる理由が存在するからである。

 実はアトリもカトリも料理はからきしだったのだ。

 さらに作れないどころか常人以下の貧乏舌なので料理の批評など出来ようはずもない。

 アトリとカトリの父親は第十六都市において並ぶ者のないほどの味覚を備えた超一流の料理人だったが、こと味覚に関してはオーク族とは思えないほどの味音痴のドレスデ商会の会長である母親と同程度だった。

 ちなみに二人にはもう一人、弟がいるがこちらも母親と姉たちより少しマシな程度である。

 

 アトリはやり場のない怒りにわなわなと震えながら拳を固く握りしめていた。


 そして、敵方の出場選手(?)が決まったので速人チーム(?)からは雪近とラッキーが審査員として参戦することになった。

 

 「待ちな。その勝負、私が出るよ」

 

 ここで最後に大市場の一般客を代表してシャーリー・ブロードウェイが参戦を表明することになる。 


 「ふんぎゃあ!」

 

 シャーリーの足元にディーが倒れているのは、遅れて名乗り上げようとしたディーが上から降ってきたシャーリーに踏み潰されたからである。


 「何か文句あるかい。細い坊や?」


 ドム系のMSのような太い脚をしたシャーリーがうつ伏せになって倒れるディーに向かって声をかける。


 ディーは恐怖のあまり声を出すことが出来ない。

 雪近とラッキーは目の前の出来事を受け入れられずにガタガタ震えているだけである。

 そんな中、吊られた男(ハングドマン)アルフォンスは嫌悪感を露わにして、地面にツバを吐く。


 「シャーリー!女ごとき出しゃばってんじゃねえ!かかあは引っ込んでろってんだ!」

 

 シャーリーに対して普段の鬱屈した様子からは考えられないほどの啖呵を切る。

 次の瞬間、ナイフエッジのようなシャーリーの視線がアルフォンスを貫く。

 アルフォンスは全身から大量の汗を流した。

 

 「シャーリー…、今週のゴミ出しは俺が全部やっておくよ…」

 

 今のアルフォンスは死に体だった。ラッキーの話では二人は夫婦らしい。

 こうして伝説の義勇兵「鮮血のダンデライオン」ことシャーリー・ブロードウェイの正式参戦が決まった。


 「相手が誰であろうとも結果は変わらない!見さらせ!俺の料理の奥義「安い食材から美味い料理を作る」を!!」

 

 ドン!ドドンッ!!

 

 速人は両手に包丁を構え、まな板に並べた「くさい肉」めがけて勢いよく振り下ろした!!


 (※この話のジャンルは料理バトルではありません)

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