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第二十二話 追跡者 アルノルト

 次回は一月九日、僕(45歳)の成人式に投稿しちゃいますですう!ああ、待ちきれないな。成人式。どんな服を着て行こうかしらん!もちろん用意するのは迷彩服と防弾ヘルメットにガスマスク!見敵必殺

(サーチアンドデストロイ)だね!新成人、うるさいから。

 

 速人たちはすごい格好の人が通りすぎるのを待っていた。


 すごい格好の人は道すがら他のオーク族の人々に呼び止められ、賛辞を受けている。


 アルノルトというファーストネームで呼ばれていることが多かったので、結構な有名人であることは間違いないのだろう。

 今もアルノルトは黒いマントの下に来ている白地に赤と水色の線が入ったシャツを飾る金色のボタンを通行人に見せて自慢している。

 通行人がアルノルトの服装を絶賛する度に雪近とディーは口を押えて、その場にしゃがみ込んでいた。

 種族間の慣習の違いとはこれほどのものか、と速人も思わず視線を逸らしてしまう。


 しかし、それがいけなかった。


 ついに速人たちはアルノルトに見つかってしまったのだ。


 アルノルトは前髪を軽く払いながら、取り巻きを連れて速人たちのいるところまで来た。

 唯一の救いはオーク街の領域テリトリーからやや離れた場所まで来てくれたことだろう。


 アルノルトを先頭にスターウォーズの第一作目(正確には第三部)に登場するハン・ソロの友達の宇宙海賊みたいな服装をした男女が次々と現れる。

 異様な集団の放つ圧倒的な威容を前にしたディーは雪近の背後に隠れてしまった。

 雪近は襲撃に備えて腰に下げた十手を握る。

 そして、この時ばかりは速人もヌンチャクの柄を握って臨戦態勢になっていたという。


 アルノルトは両手を広げ、真っ赤に染めたおかっぱ頭を揺らしながら気さくに笑っている。


 「安心したまえ、少年たち。見ての通り私は怪しいものではない」


 アルノルトはまず左足のつま先を立て、左手を胸に添えて頭を下げてきた。

 赤銅色の長いまつ毛に彩られた陽光を映す淡いエメラルド瞳は生きとし生けるもの全てを労わるかのように輝いていた。


 (これで顔がドナルドマクドナルド風でなければ)


 速人は果てしなく残念な気持ちになっていた。


 アルノルトの後についてきた宇宙海賊(?)のみなさんも同様に頭を下げてくる。

 

 速人たちも相手のならって頭を下げた。


 「先に名乗らせてもらおう。私の名前はアルノルト・ナデウ・バウマン。今さら私の名前を知らぬ者がこの都市まちにいるとは思えんが。今は親戚の経営する商館デパートで事務員などをやっているのさ」


 アルノルトは今度は口元に手を当て、優雅に笑う。


 (こいつの接客は受けたくないな)


 速人はアルノルトの口から彼の家名を聞いた時にソリトンの義父ベックから教えてもらった人物のことを思い出していた。

 かつてオーク族を中心に構成される隊商キャラバン”戦神の矛”を率いていた人物と同姓同名だった。


 アルノルトは首を左右に振ってくせ毛をまとめたおかっぱ頭のバランスを取ろうとしている。

 

 アルノルトの滑稽な姿を見た雪近とディーは後ろを向いてしゃがんでしまった。


 「はじめまして。俺の名前は不破速人といいます」


 速人は深々と頭を下げる。


 正気に戻った雪近とディーもアルノルトたちに名乗った後、頭を下げた。

 通常では出会った者同士が互いに頭を下げるというのはナインスリーブスの常識ではありえない状況である。

 しかし、第十六都市における有力者層に分類されるオーク族と速人たちには明確な身分の差がある為にこのような状況になってしまったのだ。


 双方、居心地の悪さのようなものを感じていた。


 「フワ・ハヤト。ツワウ・ィキチカ(宗雪近という名前をナインスリーブスの人間が発音するとこうなってしまう)。ディー君か。ふむ、覚えたよ。君たちのファッションは最低最悪だが、私は身なりで人を判断しないことにしている。無論、私のようにルックスもインテリジェンスも最高なら言うことはないのだがね」


 (どういう基準だ)


 アルノルトの自慢話を聞いた速人たちの中で体温が急激な速さで失われていった。


 アルノルトはその場でくるりと回って見せた。

 取り巻きたちから感嘆の声が上がる。

 ウィッグを着用しているというわけではないのだが、髪の毛がふわふわと持ち上がる度に速人たちは笑いを堪えなければならなかった。


 「時に速人君とやら。私とアクセサリーの交換などをしてみないかい?たとえば私のこのお気に入りの靴だ。自慢じゃないがヒールが高い。この靴を履いて外を歩けば、成長性ゼロのキミもノッポさんの仲間入りというわけだ」


 アルノルトは両方のつま先を立て、さらに回転する。


 速人は右手の指で飛礫を弄びながらアルノルトの死体を始末する場所について考えていた。

 すでに速人のピンチ力で飛礫から粉末が零れている。


 「あいにく俺にはそのフラミンゴの脚みたいな靴に見合うような衣類は持っていないぜ?」


 「私の脚がフラミンゴ!?ずいぶん詩的な褒め方をするじゃないか!!気に入ったよ!!さあ、早く君が頭にかぶっているそのお面と私の靴を交換してくれ!!何なら現金と引き換えてもいい!!」


 自分の脚をフラミンゴのそれに例えられたことがよほど気に入ったのか、アルノルトは両手を広げて叫んだ。

 しかし、自分の顔を被り物呼ばわりされた速人は違った。すでに彼の瞳は突進する前の王蟲のような目になっている。

 

 次の瞬間、ナウシカの親父を殺したトルメキア兵に襲いかかるユパ様を彷彿させる姿で速人はアルノルトに襲いかかった。

 速人はまずアルノルトに飛びかかると、そのまま地面に引きずり倒してマウントパンチの連打を食らわせる。

 アルノルトは必死の思いで周囲に助けを求めるが誰も助けてはくれない。


 (こんな時はブリッジだ。速人少年と私の体格差は歴然としている。大人の私が本気でブリッジすれば最悪な状況をひっくり返すことも容易いはず…!!)


 アルノルトはへそに力を入れて腹の上に乗っている速人を跳ね上げようとした。

 しかし、下で暴れるアルノルトをロデオのように制して速人はさらに顔面にパンチを叩きこんだ。


 しばらくして雪近が強引に速人をアルノルトの上から引き剥がすまでずっと殴られ続けていた。


 「これは俺の生の顔だ。欲しければ命を懸けて挑んでくることだな」


 速人は地面にツバを吐いてやった。


 速人の乱打によってボロボロにされたアルノルトは涙を拭きながら起き上がる。


 その際に顔のメイクが落ちていたのでハンカチで拭っていた。


 「すまない、少年。まさかそのおめでたい顔が生まれつきの顔だとは思わなかったのだ。それにしても君の顔は実にめでたい。まるで妖精王のお供、ブウブウのようだ。私も子供の頃、ばあやにオベイロンの冒険譚を聞かせてもらったのだよ。我々オークの間では主人公のオベイロンの王子よりもブウブウ君の方が人気があってね。たまには童心に帰ってブウブウのお面をかぶってみようかと…」


 アルノルトはそこまで言いかけて止めた。

 なぜならば彼の目の前にはすざまじい風切り音を立てながらヌンチャクを振り回す速人の姿があったからだ。


 速人はヌンチャクの先端をアルノルトの整った鼻先に突きつける。


 「お前の顔も俺と同じくらいでかくしてやろうか?」


 「いえ。結構です」


 速人の容姿は以前ハンスとモーガンの娘シエラにも言われたことだが、こちらの世界で有名な童話「オベイロンの冒険」に登場するブウブウというオベイロンのお供によく似ているそうだ。


 ようするにブタ鼻のブタ面ということだ。


 話に登場するブウブウは仔猪の皮を被った妖精の子供で、旅先でよく悪戯や失敗をして怒られるお笑い担当の役である。

 たまに機転を利かせてオベイロンを窮地から救い出すこともあるが、その後は必ず活躍を帳消しにするような失敗をしてしまう。


 「おい、おっさん。生まれつき顔がいいからといって、何を言っても許されると思うなよ?」


 速人はアルノルトの襟首を掴んで持ち上げた。

 アルノルトはどちらかといえば若い頃のトム・クルーズに似ている顔だった。


 アルノルトは恐怖のあまり声を出せなくなってしまったので代わりに何度も首を縦に振った。


 その後、恐慌状態から回復したアルノルトから謝罪をかねて近くの屋外カフェに招待されることになった。

 速人たちは仮装行列のような一行とテーブルを囲むことになる。

 屋外カフェは道の中心にあり、区画の中立的な立場に位置する。

 店の従業員たちのアルノルトに対する恭しい態度から、アルノルト自身の提案によって作られた場所なのかもしれない。

 

 実はこのアルノルトという男は速人がベックから聞いただけでも他国からの侵略を数回は防いでいるのだ。

 さらに個人の武勇だけではなく指揮官としての技量が抜きん出ていたとベックが自分のことのように話していたことを覚えている。


 「ところで速人。君たちはこれからどこへ行くつもりなのかね?今下町は誘拐事件が頻発していて治安が悪化している。子供だけで行動するのは大変危険だ・君たちさえよければ私が同行してもいいぞ?」


 アルノルトは魔術で凍らせた濡れタオルを頬に当てている。


 (魔法が存在する世界だと、こういうことが出来るのか)速人は関心しながら真っ赤なリンゴのようになってしまったアルノルトの顔を観察していた。


 「いや。市場に行って買い物をするだけだから大丈夫だ」


 仮にアルノルト一行と合流した場合、悪目立ちしてしまうことは間違いないので丁重に断ることにした。


 その後、速人は情報収集がてらにアルノルトと軽い世間話をする。

 人さらい云々の話についてくわしく聞いてみたが、アルノルトは噂が存在するくらいのことしか知らないようだった。


 帰り際、速人は自分たちの飲み食いをした料金を支払うと言ったがアルノルトに断られてしまった。


 店で出された緑茶のようなん味のする飲み物に興味を持った速人はアルノルトと店員に名前や仕入れ先を聞いた。

 聞くところによれば、これから先に赴く市場で売られている代物らしい。家で出すお茶のレパートリーを増やしたかった速人は買い物のメモの中にモスグリーンという名前のお茶を書き足しておいた。


 「それでは良い旅を」


 速人たちは屋外カフェのスタッフ一同とアルノルト一行らによって送り出された。


 (今後はなるべくこの近くを歩かないようにしよう。変態の知り合いは少ない方が良い)


 速人たちはそのまままっすぐ市場へと続く道を歩いて行く。

 途中、ディーが軒先に生肉が並べてある建物を見つける。

 多くの赤い屋根の建物が並ぶ通り、即ちエルフ街だった。


 「速人。あれってお肉屋さんじゃないのかな?」


 ディーは肉屋の存在を、速人に耳打ちする。

 速人は訝しげな表情で店の様子を見た。


 まず目についたのが、通りの外側には無関心な店員の様子だった。

 故意に無視しているようにしか見えない。


 「止めとけ。あれはエルフ専用の肉屋だ。俺たちが下手に近寄ると警備兵を呼ばれることになるぞ?」


 速人の言葉を証明するように、店先にいた大柄なエルフたちは腕を組んでディーと雪近を遠くから睨んでいた。

 男たちの敵意に満ちた視線に気がついたディーはすぐに歩を早める。

 速人と雪近もエルフの視界から逃れるために早歩きになっていた。


 「ねえ、速人。何であの人たちってば俺たちを見て怒ってるのさ。俺、何もしてないよ?」


 「さっきアルノルトさんが”人さらい”の話をしていただろ。多分、俺たち犯人の仲間だと思わたんじゃないか?」


 速人はエルフたちが追って来ないかと背後の気配に注意しながら、素っ気なく答える。

 歩調は気持ち早めに、いつでも走って逃げる心構えを忘れない。

 

 一方、速人のすげない返事を聞かされたディーは彼らしからぬ嫌悪感を漂うわせる貌となっていた。

 

 おそらくは、ディーが村の中でのけ者にされていったといっても迫害れていたわけではないからだろう。


 要領を得ない速人とディーの会話を不憫に思った雪近が助け舟を出す。


 速人は無能の雪近にしては気の利いた処方だと思った。


 「つまりエルフの連中が出しゃばって来なければならないくらい切迫しているってことだな。速人さんよ?」


 「まあ考えようによってはアルノルトさんたちと遭遇したのも偶然ではないということだ。おそらくは中立的な立場の仲間を集めて街の中を見て回っていたのかもしれないな」


 速人は念の為にもう一度だけ後ろを見た。


 強面のエルフたちは店の人間に指示で再び、店の中に戻る。

 連中の機敏すぎる対応を見た速人は「ここはGTAグランドセフトオートの世界かよ!!」と突っ込んでやりたくなった。


 「アルノルトさん、あんな格好でそんなことを考えてたの?逆に人さらいの仲間って疑われるんじゃない!?」


 たしかにアルノルトたちの見た目は自警団というよりも新ダンスユニットむしろ「アルノルト feat スペースパイレーツボーイズ」だった。


 速人は歩く速度を元に戻し、再び市場を目指す。


 その頃、速人の傍らを歩くディーと雪近は揃って息を切らせていた。

 思わぬ逃避行を強いられた速人たちは神経質になり黙々と歩いた。


 しばらくして三人は市場の敷地内に入ったことを知る。

 周囲の人の気配が、人の作り出す活気が桁違いに増えているのだ。


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