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第十五話 レミーの部屋

 次回は12月19日に投稿します。実はアインの部屋の話とセットで出すつもりだったのですが、五千字を楽勝で越えてしまったので分割させてもらいました。すいません。

 俺は後ろから黙々とついてくるレミーの様子を伺いながら歩いていた。

 何という圧迫感プレッシャー、正直背後から獰猛な虎でも連れているような気配が伝わってくるので非常に居心地が悪い。

 ここは一つ、前向きな提案でカチコチに固まったレミーをリラックスさせてあげよう。

 

 「次はレミーの部屋なんだけど、やっぱり止めておかないか?」


 ギロリ!!

 レミーの視線が以前よりも剣吞なものになったような気がする。

 

 「理由は?」


 レミーの歩みが少しばかり遅くなった。

 目つきもまたよく研いだ刃物に劣らないほど鋭いものになっている。

 流石の俺もこの時ばかりは身の危険を感じた。


 「ホラ。何といっても女の子の部屋だし。家族でも男に見られるのは抵抗があるんじゃないかな、と思って」


 レミーはその場で急に立ち止まる。


 良かった。冷静さを取り戻してくれたのか。


 「ははは。やけに弱気じゃないか、速人。自分の仕事には自信があるんだろ?だったらさっさと案内すれやゴラァッッ!!」


 結局、俺は背後から蹴りを入れられながらもレミーたちを部屋の前まで案内することになった。

 ぶち切れたレミーを見たエイリークとマルグリットは早くも大人モードに戻っている。


 「レミー。女の子がお客様の前で大きな声を出すもんじゃないぞ」


 エイリークはさわやなか表情でレミーの乱暴な行動を非難する。


 ギヌロッ!!

 その直後、レミーが反射的に睨みつけるとマルグリットの背後に隠れた。


 「そうそう。お父さんの言う通りさね。いつまでも自分のことを俺とか言ってたら駄目だよ。アンタはお姉さんなんだからさ」


 とマルグリットは怒り爆発状態のレミーに最悪の諫言をしてくる。

 俺が知る限りでも「姉、兄」と呼ばれる立場の人種は「お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから我慢しなさい」と言われると瞬間湯沸かし器のようにご機嫌メーターがふり切れてしまうらしい(※ふじわらしのぶ調べ)。

 一方、ダグザたちにとってはマルグリットの説教は理不尽極まりないものだったらしく三者三様といった具合で苦虫を噛み潰したような顔つきになっていた。


 レミーは自分を諫めようと試みるマルグリットの手を強引に振り払った。


 「母ちゃん。汗でベタベタになった手で触れないでくれる?あと口臭きつい」


 「なッ!!」


 レミーのそれまで母娘おやこの繋がり断ち切ってしまうような冷たい言葉を前にマルグリットは動けなくなってしまう。

 その間にも手と手をすり合わせたり、自分の呼気を確認しているところはご愛敬というものだろう。

 そんな傷心のマルグリットの前に夫エイリークが現れる。


 「レミー!お前、母ちゃんに何てことを言うんだ!…大丈夫だよ、ハニー。俺はいつも近くにいるから慣れてるからね」


 ドグッ!!


 マルグリットの痛烈な横蹴りを食らってエイリークが廊下の反対側まで吹っ飛んだ。

 そのまま壁に激突し、咳込みながらゲロゲロと何かを吐き出している。


 ダグザとハンスが壁を作り、アインに現場を見せないようにしていた。


 ソリトンは壁に叩きつけられ、嘔吐しているエイリークを介抱していた。


 俺は雪近に行ってバケツを用意させ、汚物ともども手早く拭きとった。

 改装したばかりなのに。おっさんのあれを始末しながら俺は砂を噛むような思いをしていた。


 「さっきうちの両親が言ってたけど、まだ入ったことがある部屋じゃないから誰に見られても気にしねえよ。嫌な時は昨日まで使っていた下の部屋を使うつもりだし」


 「まあ冷静に考えればそうなんだがな。レミーの部屋の内装は俺のアイディアじゃなくてアムのアイディアを採用したものなんだ」


 その時、俺はうっとりとしながらレミーに似合う部屋の装飾について語り出すアメリアの温和な笑顔を思い出してしまった。

 彼女が用意したものは色彩に富んだ花束というかお花畑のような装飾だった。

 俺は部屋の壁を白に塗り替えた後に、アメリアに言われた通りに飾りつけを施していったのである。


 「てめえ、絶対わざとだろ!!」


 俺のにやけた顔が気に入らなかったのか、レミーは俺の襟首を掴んだ。

 だが俺自身、故意であることは認めるがレミーを貶める為ではないとだけは言っておこう。


 「待ちな、レミー。アタシも昔はアンタみたいに意地這って自分のことを「俺」とか言ってたけど周りから言われて結局は今みたいに収まっちまったのさ。アタシからのアドバイスだけどさ、やっぱり自分で一度見極めてから決めた方がいいと思うんだ。後悔しない為にもね」


 「母ちゃん、言ってること矛盾してないか?」


 「うん、アタシもそう思う。けどね、結婚式の時にドレス着て鏡の前に立った時に思ったんだ。アグネスに、死んじまったアンタのお祖母ちゃんにこの姿を見せてやりたかったってさ。レミーとアタシじゃあ全然違うけど、後悔だけはして欲しくないんだ」


 マルグリットはそう言って力無く笑った。


 俺が知る限りではエイリークの母アグネスは戦争中に怪我をして、それが原因で亡くなったらしい。

 死ぬほどの怪我では無かったのだが、医療物資が不足して他人を優先した為に治療が遅れてしまったという話だ。

 多分、レミーも祖母についていろいろと聞かされていた為に思うところがあり、そのまま黙り込んでしまった。


 「というわけで、速人。よろしく」


 「畏まりました。マダム」


 マルグリットはレミーの部屋の扉を指でさした。

 俺は首を縦に振った後、ラズベリーの飾り付けがついた白い扉を開ける。

 その後、レミーが静止する間も無く両親と三人のおっさんが部屋の内部に入った。


 レミーは唖然とした表情で事の成り行きを見守っている。


 「うわー!女の子の部屋だねー!」


 レミーの部屋の広さは大体エイリークたちの部屋の半分くらいである。

 実はそれでも結構広い。

 部屋に入ってまず目に入るのが白い机と小物が入った大きな棚だった。

 早速、マルグリットは机の引き出しを開けたりしている。

 引き出しに入っているのは豪華な装丁の日記(未使用)くらいだが。

 エイリークの家の二階には立派な机や椅子がたくさんあったので、それを利用させてもらったのだ。ダグザ曰く、ダールがエイリークの為に送った品だそうだ。

 まさか送り主も贈って早々に二階に捨てられたとは思わなかっただろう。

 ちなみに机は白く塗った後に赤いリボンなどで飾りつけをしておいた。


 こんなこともあろうかとシルバニアファミリーで少女の部屋を予習しておいた経験が生きた。


 流石は俺だ。


 「リボン、要らねえよ」


 レミーはそう言っていたが、リボンを外そうとはしなかった。

 案外、気に言ってくれているのかもしれない。

 部屋の奥にはクローゼットと小さな机、ベッドが置いてあった。

 クローゼットは上から花柄のカバーなどをかけて季節感などを演出してみた。

 机の上には小さな花瓶などを置いて、ふと落ち込んでしまった時などに気分が明るくなるよう配慮してある。

 ベッドカバーには花柄のものを使い、枠にも花をあしらったものを用意しておいた。

 欲を言えば、天蓋つきのベッドにしたかったのだが予算の関係上今回は見送ることになった。


 レミーは春や花を基調とした部屋の装飾を気に入った様子で見ている。


 「レミーも気に入ってくれたようだし、我々は部屋を出ることにしよう」


 ダグザの提案にソリトンとハンスが頷いた。

 エイリークとマルグリットは部屋の飾りつけに夢中になっている。


 「そうだな。俺がレミーの部屋に入ったことがケイティやアムに怒られるどころではすまないだろう」


 「同感だ。シエラとモーガンもきっと怒るだろう」


 ソリトンとハンスは遠回しにエイリークたちに部屋を出るよう言っているつもりだが、二人は相変わらすいろいろと見て回っている。


 「エイリーク、マギー。我々はレミーに悪いから部屋を出ようと言っているんだ。聞こえているなら何か言ったらどうなんだ?」


 「おいおい。ダグ、ここは俺の家だぜ?何でお前の言うことを聞かなきゃならねえんだよ」


 二人はソリトンとハンスによって実力で部屋から退去させられた。

 そして、当のレミーはクローゼットの中を見ながらどんな服をしまっておこうかと嬉しそうに独り言ちている。

 レミーの邪魔するのも気が引けるので、俺はみんなと一緒に部屋の外に出ていることにした。

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