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第十四話 寝室

次回は12月16日に投稿する予定だポロン!ようやく部屋の紹介が終わるかも!

 「次はエイリークさんとマルグリットさんの部屋になるんだけど、本当にいいの?」


 俺は、連中が倉庫を部屋だと勘違いしたことには触れないように気をつけた。


 残る部屋は三つ。夫婦の部屋、レミーの部屋、アインの部屋である。

 いくら長いつき合いがある間柄とはいえ安易に紹介してもよいものか。

 しかしエイリークたちから特に返事が返ってくる気配は無かった。


 俺は二階の踊り場を通り、夫婦の部屋の入り口まで先導する。

 前述の倉庫は家族の部屋よりも広い。あくまで俺の予想にすぎないが、倉庫に要らないものを適当に置いているうちに入れなくなってしまったのではないかと考えている。

 

 空間を活かす知恵が無ければ、どんな豪勢な屋敷もゴミ箱と化す。ふむ。至言だな。


 「なるほど。速人、君の意見はもっともだ。たしかに通常の人間関係ならば親しい仲であったとしても自宅の、さらに私室プライベートルームなどは立ち入るべきではないだろう。しかし…、我々が十年ほど前に新居を構えた時にこの二人が何をしたのかを今さら語るべきではないと思うのだが?」


 その時のダグザの翳かかった表情を見た俺の脳裏には過去にエイリーク夫婦がダグザ家の寝室の中を児童のように駆け回り、あまつさえ聖域たるベッドの上でトランポリンよろしく飛び跳ねる姿がフラッシュバックとなって投影される。

 何よりもいつもより迫力の増したダグザの横顔から「これは私怨絡みの復讐リベンジではない。正当な報復行為アヴェンジだ」と言わんばかりのオーラが漂っていた。

 今のダグザの顔は車田漫画でいうところの顔が黒く塗られ、瞳だけが星のように輝いている状態だった。


 しかし、俺にも案内人としての矜持がある。

 来客から要望リクエストがあろうと一家の主人の許しも無しに最奥へと案内するわけにはいかない。


 だが時遅しかな。


 周囲一体を制圧せんとする異様なオーラは一つから、三つに増えており(※スライムが合体してスライムキングになる一歩手前)もはや俺の一存ではどうすることも出来ないような状態になりつつあった。


 「別にいんじゃね?まだ使ってないわけだし」


 エイリークの第一声、それは正しく鶴の一声であり青天の霹靂でもあった。

 この男には何か考えがあるのか。

 俺は疑いの眼差しを向けるが、それを一向に気にする様子はない。多分何も考えてはいないだろう。


 「アハハッ、今さらこの面子で気にすることなんて無いさね!」


 マルグリットがあっけらかんとした表情で言った。

 レミーが何かしら注意をしようと声をかけるが「大丈夫、大丈夫」と肩を叩いて気にする様子はない。

 おそらくは好奇心の方が勝っているのだろう。

 そして、俺が止める間も無くエイリーク、マルグリットの二人を先頭に部屋の中に入って行った。


 この部屋はドアノブがついた両開きの部屋なので二人同時に手をかける。


 扉の奥には白や黄色、薄い桃色といった自己主張の強くない色合いが広がる空間となっていた。

 俺的には”春”という季節をイメージして用意したものだが、果たして部屋の住人たちは喜んでくれるだろうか。


 「これは、何というか恥ずかしい部屋だな」


 それがこの部屋に入ったダグザの率直な感想だった。

 部屋の主であるエイリークとマルグリットにおいては絶句している。


 その理由とは…。エイリークは背もたれのついた二人掛けソファの上に乗っている2つのクッションの内の一つを手に取る。

 一つはピンク。エイリークが持っているのは青を基調としたカバー付きのクッションだった。

 ピンクの方にはハートとダイヤ、青い方にはスペードとクラブの刺繍が施されている。両方とも俺が作ったものだ。


 余談だが、ナインスリーブスには小アルカナ、大アルカナという考え方が(※元の世界とは少し違った考え方で存在する。頑張って探せばタロットカードもあるかもしれない)あるのでエイリークたちにも青=男性用、赤=女性用という意味が伝わる。


 「全部ペアだよ。何から何まで。速人、お前さ、俺とハニーにこの密室で何をさせるつもりなんだよ!?」


 そう、この夫婦用の部屋にある調度品の全ては二人用のものだった。


 今エイリークが手に持っているクッションは休憩用の背の低い机とセットの椅子用のクッションである。 この部屋には他にも仕事用の机やティーセット、グラスなどが収納された大棚も存在するが全て二つずつ揃えてあったのだ。


 俺の考案したコンセプトは「世間のしがらみを忘れて、二人になれる空間を作る」というものだったのだがエイリークとマルグリットの赤面しながらも一通りの家具を見て回っている様子からするとあながち失敗でも無かったような…。


 ブツン!…??ここで俺の意識が一瞬だけブラックアウトする。


 気がつくと俺は床に倒れていた。

 頭上には右の拳を固めたままのレミーが立っていた。

 しばらくするとレミーは右手を開いて何度か払っていた。


 ああ、そうか。急に殴られたから意識しないで”受けて”しまったのか。


 以前にも言ったような気がするが、元の世界にいたころは修行の時には基本防具を着用しないで直に打ち合いをしていた為に無意識のうちに避けてから打撃を相殺するくせがついてしまっているのだ。

 これを知らないヤツが今レミーがやったように殴ると基礎訓練が十分ではない相手だとたまに逆に殴ってきた方がしっぺ返しをくらうことがあるのだ。


 平たく言うと、刃牙が末堂にやったことみたいになる。


 「てめえ…、俺の家の中になんてものを作りやがったんだ!!ただでさえも両親こいつらが年がら年中くっついて気持ち悪りいって思ってんのに!!うちのバカ親がこれ以上仲良くなって変なことになったらどう責任取ってくれんだよ!!ていうかお前の顔、岩かよ。痛えってもんじゃねえぞ!!」


 目。耳。鼻。口。手、足。良し。ほっぺが痛いけど運動に支障が出るほどではない。


 簡単なヘルスチェックを終えた俺はハンドスプリングの要領ですぐに立ち直った。

 みんなも気絶するほどの大怪我をした時は俺がやったように体の隅々まで意識を張り巡らせて異常がないか確かめるようにしよう。

 意識が覚醒した後に骨折に気がつくと厄介なことになるぞ。


 「だから見学に入る前に許可を取ったんだよ。下の客室のように清潔感を前面に押し出した部屋でも良かったんだけど、そんな誰がやっても同じような仕事を俺がやるわけにはいかないだろ。エイリークさんとマルグリットさんも喜んでいるみたいだぜ?」


 二人でくっついてソファに座ったり、向かい合って名前を呼び合ったりしている。

 新婚さんか!!

 ダグザたちは「いつものアレが始まったか」と呆れた感じで二人がいちゃつく姿を遠巻きに眺めている。 一応、ダグザたちの間では二人が喧嘩するよりはマシという見解で落ち着いているらしい。


 「おい…」


 バックステップで距離を取ってからのステップ・イン・ストレート。

 見事に防御のタイミングを外された。

 スピードと体重の乗ったパンチには流石の俺もグラつく。

 そして、レミーのガトリング砲のようなパンチが俺を襲った。

 機銃から絶え間なく放たれる銃弾のようなパンチを受けながら俺ははっきりと見てしまった。

 レミーがいつの間にかバンテージを拳に巻いている。

 このわずかな間にレミーは俺の防御テクニックを見破っただけではなく、鋼鉄の肉体への対処方法まで思いついていたのか。


 やはり俺の目に狂いは無かった。レミーには是非ともヌンチャク使いになって欲しいものだ。


 ううっ、意識が遠のく。


 「おい、速人。こっちの扉の奥には何があるんだ?」


 俺が襟首を掴まれて生死の境を彷徨っている時に、ハンスが部屋の奥にあるドアに向かって指をさして聞いてきた。

 レミーは荒い息を吐きながらハンスを睨みつける。

 普通に考えれば寝室なのだが、ハンスは気を利かせてというか俺の身の危険を案じて聞いてくれたのだろう。

 襟首の拘束が緩む。

 レミーが俺を一時的に開放してくれたのだ。

 ハンスの質問に何か思うところがあるのか。

 いずれにせよ、コンシェルジェとしての俺の力量が問われる場面には違いあるまい。


 俺は口内に溜まった血をハンカチで拭き取りながら答えることにした。


 「はうう…。その先は夫婦の寝室になっているけど、私的な事情により一般公開は先送りに…」


 これ以上の顔面への攻撃は俺のアイドル活動(※来春予定)に影響する可能性があるので断らせてもらおうとしたが、レミーによって遮られてしまう。


 「いや駄目だ。これ以上盛りのついたりょうしんに好き勝手やらせない為にも一般公開に踏み切る。いいよな、みんな?」


 ずい、と一歩前に出て主張するレミーの姿に俺は次世代のリーダーの姿をみたような気がした。

 やや怯えながらアインは陶然としてダグザ、ソリトン、ハンスらも首を縦に振っている。


 すえおそろしいカリスマ性だった。


 「すげー!見ろよ、ハニー!扉の中に扉がついているぜ!」


 ベッドルームとリビングルームは別々の部屋だったのだが、壁の一部が壊れていたので欠けた部分に大きな扉を設置することで修理した。

 シャッターを模した扉にすることも考えたのだが壁を観戦に壊さなければならないので止めた。

 ゆえに今回はいくつかの部屋と構造的にかぶってしまう懸念を残しながら扉の中に小さな扉をつけるという方式を採用したのである。

 作業中に雪近に手伝ってもらったのだが、鋸の技術が未熟だった為に外枠が歪んでしまったことも今となっては良い思い出でもある。

 その時はディーにも”ぬき”やら”さし”といった凹凸をつけて材木を加工する技術を教えることになったことも付け加えておこう。

 連中も技術を目で盗めるようになればもう少し役に立つのだが。


 などと俺が感慨に浸っている間にエイリークは扉を開けて寝室に入って行ってしまった。

 さてどんな嬌声が聞こえてくるのやらと思えば、入った直後に聞こえてきた声は意外にもおとなしいものだった。


 「おいおいおい。とんだエロ坊主がいたもんだぜ。ここで俺とハニーにベッド会見でもやれっていうかよ?」


 部屋の中央には大人が二人くらい寝ることができるベッドが置かれている。

 俗に言うところのダブルベッドというものだった。

 エイリークはベッドにどしっと腰を下ろして部屋の中を見ている。エイリークの隣に赤面しながら腰をかけたマルグリットは二つに並べられた枕を見ていた。


 「速人。おばさん、こういう冗談は嫌いだよ?」


 いやいや。だから最初に後悔していいかどうか聞いたんだよ。


 部屋の奥には大きな鏡がついた化粧棚があり、さらにその横には壁と一体化したクローゼット、着替え用の空間を作り出す為の折り畳み式の仕切りなどを用意させてもらった。

 クローゼットのスペースを削って着替え室を別に作っても良かったのだが扉の多すぎる部屋というのも落ち着かないという俺の個人的なこだわりによるものである。


 その間、エイリークはしきりにベッドを揺らしながら呟いていた。


 「今日の集まり、この辺でお開きにしない?ねえ…」


 エイリークはハンスとソリトンによってベッドから引き離された。

 マルグリットもまたダグザの無言の圧力に屈して、ベッドから離される。


 「一応言っておくと、こういう風にベッドを一つにしておくこともできるけど。…こうやって二つに分けて使うこともできるんだって。ぐおっ!!」


 レミーの腕が突如、俺の首元に伸びていた。

 俺はそのまま天井に向けて持ち上げられる。

 これはかつて一世を風靡した名レスラー、アンドレ・ザ・ジャイアントの得意技!

 その名も首吊りのネックハンギングツリー

 なかなか渋い技を知っているな、レミー。


 意識が遠のく最中、俺はうっすらと笑っていた。


 「そっちの方を最初に紹介しろ。余計な手間をかけさせるな」


 い、息が出来ない。こうしている間にもキリキリと首が締まっている。

 数ある絞殺刑と呼ばれるプロレス技の中でも脱出が難しいことで知られる技だ。


 耐えろ、耐えるんだ、速人。


 やっぱ無理。


 死ぬ。


 「す、すいません」


 俺はレミーに命令された通りにベッドを二つに分けた。

 エイリークとマルグリットは名残惜しそうに見ていたが、やがてレミーに睨まれてすごすごと引き下がって行く。

 その後、特に質問が無かったので俺は次の部屋を案内することにした。


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