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第十話 ダグザ、ダールが近々エイリークの家を訪問することを伝える。ただそれだけの話(※確信犯)。

 次回は12月04日に投稿するですじゃ。

 ダグザは心底疲れた様子で、背中をどっとソファに預けた。


 どしっ……ふかふかふか~。


 そして、ソファのあまりの心地よさにぞっとする。

 ここは本当に自分が幼い頃からよく知るエイリークの家なのか。この後、どこかがら職場の同僚たちが現れて「ドッキリでした~」など単に自分を驚かせる為に用意されたおふざけなのか今のダグザにはわかりようもない。


 ただ一つだけ言えることは「腑に落ちない」それだけのことだった。


 「驚いたよ。昔、俺がこの家で暮らしていた頃は適当な場所にマットを敷いて眠っていたんだがな。今はソファがあるから、その必要はない。良かったな、エイリーク」


 ダグザと違ってソリトンはエイリークの家が生まれ変わったことを喜んでいる様子だった。

 まあ、よく考えてみれば何か問題が生じた時には、エイリークたちは必ずソリトンの家を頼っていたわけだから今後その分の苦労が減ると考えれば妥当か。

 勿論、ソリトンがエイリークを心配していることには変わりないのだが。


 ハンスも関心した様子で、家の中に飾られた絵の話などをしていた。


 「おい、ソル。この絵、懐かしいな。マズル山にまだトール杉が残っているぞ」


 「ああ、そうだな。マズル山にはいい思い出があるわけじゃないが、こうして見ると昔のことを思い出す」


 ハンスとソリトンは絵の前で過去にあった出来事即ちダールがトール杉を処分する決断に至るまでの経緯いきさつの話をしていた。

 彼らの話を聞きながら、俺はエイリークの思い出話と合わせて補完する。


 ソリトン、ハンスらはエイリークの父マルティネスの死や叔父アストライオスの裏切りことは伏せながらも戦時中にマズル山が敵の手に渡ってしまった後にどうやってエイリークたちが追い払ったかという話をしてくれた。

 エイリークは早くから敵が周辺地域の地理や気候の事情を知らないことに気がつき、遊撃隊を編成して奇襲を繰り返すことで敵の戦力を削ったらしい。

 さらにエイリークは劣勢に痺れを切らせた敵にわざと負けて都市まで攻め込ませている間に敵の本拠地を叩き、その勢いで敵から次々と領地を奪い返してた。

 当時の行くところ敵なしといった活躍ぶりから、エイリークは人々から”太陽のたてがみ”を持つ男と称えられるようになったという話だ。


 「へえ。父さんもやる時はやるんだな」


 ソリトン、ハンスらの話を聞いたレミーは今まで知らなかった父親の活躍を耳にして胸を躍らせる。

 普段は父親に対してどことなくそっ気のない態度のレミーだったが今は尊敬の眼差しを向けている。

 しかし、そんなレミーの態度とは裏腹にエイリークの表情はどこかぎこちない。


 「お父さん、すごい人だったんだね」


 レミーに続いてアインもエイリークを褒める。


 エイリークは「ああ…」と曖昧な返事を残し、椅子のところに戻ってしまった。


 「何だよ。父さん、俺たちがせっかく褒めてやったのに。嬉しくないのか?」


 「そういうわけじゃないんだが。昔の、戦争の話で褒められるよりも俺としてはヘアスタイルとか、ハンサム顔とか、引き締まったボディの方を褒めてくれないかなって思ってよ」


 そう言うとエイリークはバスローブを脱いで、ポージングを決める。

 俺と雪近、ディーを除くその場にいた全員が盛大なため息の後に後ろを向いてしまった。


 俺はエイリークに風邪を引いて欲しくはなかったので風呂に入る前に来ていたシャツを渡しておいた。着替え後、エイリークは眉間にしわを寄せながらダグザたちに訪問の理由を聞いた。


 「ところで君たち休みの日なのに俺の家に何の用?……っていうかさ、俺たちってお互いの家を直接訪ねるほど仲良かったっけ??」


 「実はな。父が引っ越したというか出戻ったお前たち一家のことを心配して、明日にでも夕食を共にしようと…」


 エイリークは左手をぴっと伸ばし、ダグザの言葉を遮った。


 俺は二人の漫才を聞きながらソリトンたちにお茶を出している。

 実際、俺はここまで他人の世話になりながら鷹揚な態度で押し切ろうとするエイリークは悪い意味で大それた人物だと思う。

 いっそのことこの無礼然とした無礼者を「まだらの紐」のトリックで殺害した方がいいのかもしれない。


 ソリトンとハンスはお茶を受け取った後に微笑みながら俺に軽く頭を下げていた。

 こんないい加減な人間にもまとも友人がいて、友好的な関係が続いている。


 要は慣れということか。


 「パスだ、パス。パスいち。大体ダグ。お前、俺の聖域サンクチュアリに学校の教頭先生みたいなやつを連れ込んでどうする?俺の新居がそんなに羨ましいのかよ。新手のパワハラかよ?」


 「アタシもダールのことは嫌いじゃないけど、ご飯一緒に食べるのは遠慮したいねえ。ダグ兄だって本当は同じ気分でしょ。ハイ、パスに」


 エイリークとマルグリットは似たもの夫婦だった。


 俺が知る限りでも、この夫婦はダール氏からはかなりの金銭的な援助を受けているはずだ。


 「たしかに私も家族補正はあれど、説教モード全開の父と夕食を共にするのは辛い。だがな、今後のことを考えると適当に機嫌をとっておかないと面倒なことになるぞ」


 俺としても、一人息子でさえも苦手とされるダール氏の本気の説教モードとやらに興味があるが埒が開かないので双方にとって前向きな案を進言することにした。


 俺はやや温度の高めのお茶をダグザの前にそっと差し出す。

 ダグザは軽く会釈した後にティーカップに口をつける。ハーブティーに一口つけると普段からきりっとした顔がわずかに綻ぶ。


 最上の仕事とはこういうことだ。

 俺のどや顔に雪近とディーが尊敬の眼差しをおくる。


 ダグザが落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって、俺は提案した。

 みんな幸福になれる、素晴らしい案件だ。

 

 「エイリーク殿、ダグザ殿。ここは一つ、当家でダール様と職場の同僚の皆様を招いてパーティーなど開いてみてはいかがでしょうか?」


 「!!???」

 

  俺としては素晴らしい提案をしたつもりだったが、二人ともほぼ同時に俺を睨んでいた。エイリークよりも先にダグザが難癖をつけてきた。


 「却下だ。大体、パーティーの準備は誰がするのだ。まさかお前一人でやるつもりか?」


 エイリークの職場の関係者を集めれば、総勢五十人くらいになるだろう。

 小心者ダグザが心配しているのは資金よりも人材面の話らしい。

 しかし、もとの世界では中規模の旅館で宿泊客一日二百人の人間を歓待していた俺にとっては造作もないこと。


 含み笑いをこぼしながら、俺は自信たっぷりに答える。


 「その規模の数ならば私一人で十分でございます。ダグザ殿、どうかご安心を。この速人、出来ぬことはもうしませぬ」


 そういって俺は頭を深々と下げた。

 頭上でダグザの悔しそうに言葉を詰まらせる姿を想像し、俺はニタリと笑っていた。

 

 貴様ら図体ばかりでかくなった出来損ないと俺では能力の格が違うのだ。

 この調子で心をへし折って、開催費を搾り取ってやる。


 「あのよ、お前は知らないかもしれないけどよ。ダールってそういう集まりをやったらまず最初に説教から始めるんだ。そんなパーティーをやってもダール以外は誰も喜ばないと思うぜ」


 エイリークが過去の経緯を交えながら、新たな問題点について語った。

 ダグザたちからのフォローがないところからしてダール氏の説教癖とはよっぽどのことらしい。


 次いでマルグリットがエイリークと同様にダールの説教癖について言ってくる。


 「アタシもエイリークに賛成だね。みんなで楽しくやってる時に大人としての自覚がどうとか、生活態度がどうとかって始まってパーティーが終わるころには参加したことを後悔しているはずだよ」


 エイリークとマルグリットは二人で肯き合っていた。……似た者夫婦め。


 この件に関しては、話を聞いていたソリトンやハンスからは特に否定する意見は出ない。

 ダグザも神妙な面持ちで聞きに徹していた。結論としてはダール氏の説教好きは彼らにとってよっぽどのことらしい。

 しかし、ここでダール氏の心証を良くすることは俺の将来の計画「ヌンチャク競技の国技化プロジェクト」には必須の事項である。


 そこで俺は一計を案じる。


 一見してエイリークたちはダール氏の正体を拒む姿勢を見せているが、その実ダール氏がパーティーに参加すること自体には特に強く否定してこない。

 結論から言えばことは出席するのは構わないが説教は勘弁ということだろう。

 むしろダール氏を仲間外れにするような真似はしたくないと俺は考えていた。


 要するにエイリークたちは基本的に「ダールはいつまでも俺たちを子供あつかいしているから、俺たちのことを認めてくれない」という風に考えているのだろう。


 ならばそこを逆手にとってやるまでだ。


 「お待ちください、御二方。ダールトン様が説教をするのは皆さま方のことを心配すればこそ、つまり親心というものです。若かりし頃ならばともかく家庭を持ち立派になられた今ならばダールトン様の御心が理解できるのではありませんかな?」


 エイリークは俺の発言が余程気に障ったのか金髪を乱暴に掻いた。

 おそらくエイリーク自身も下層での生活が落ち着いたことを報告しなければならないと考えていたのだ。 隣のマルグリットもどうしたものかと頭を捻っている様子だった。


 「この糞餓鬼が…。つくづく嫌な言い方をしやがるな。後で雪近の腕を思いっきりつねってやるからな」


 エイリークは憎々しげに俺を睨んでいる。

 一方、処刑宣告を受けたのにも等しい雪近は青い顔をして俺の方を見ていた。

 俺の腕を狙ってくれれば返礼とばかりに巨漢用の関節技を極めてやったものを。


 「いえいえ。私はエイリーク殿を追い詰めるつもりでこのような提案しているのではありませんですじゃ。ただ、ここでエイリーク殿が御自分の邸宅に招待すればダールトン様の気持ちも変化するのではないでしょうか。たとえば正装に着替えたエイリーク殿が多くの客人と共にダールトン様をお迎えすれば「あの若者がこんな立派な大人になったのか」という具合に」


 正装タキシードという言葉を聞いた途端に、エイリークの渋面がさらに険しいものに変わった。


 「パス、に!!俺タキシードなんて持ってないし!!」


 阿呆が。俺がそんな初歩的な失敗をすると思ったか。

 大男総身に知恵が回りかねる、とはこのことだ。


 「ご安心ください。こんなこともあろうかと、既にエイリーク様が結婚式に着用されたタキシードをサイズあわせの為に仕立屋さんに出してあります。明日には仕上がるでしょう」


 エイリークは露骨に嫌な顔をしていた。


 馬鹿め。俺が以前、この家の荷物整理をしている最中にエイリーク用と思われるタキシードを発見した時にこの計画を思いついたのだ。肉食獣エイリークを罠に追い込むための手段は考えられるだけ用意してあるのだ。


 「結婚式って何年前のやつだよ。…多分、十年くらい前よりビルドアップしているからもうサイズ合わないって」


 エイリークは自分の腹まわりを気にしながら弱気になったいた。

 しかし、周囲の反応は当人とは違って、マルグリット筆頭にタキシード姿になったエイリークを見たいという風向きに変わりつつある。虎鋏とは獲物がもがけばもがくほど牙を食い込ませていくものなのだ。


 「他の雑魚どもはともかく、子供たちとハニーの応援は正直嬉しいけどよ。俺一人でタキシード着るってのは何か恥ずかしいっていうか、…なあ?」


 などと、この期に及んで友人を同伴しなければトイレに行くことが出来ないと宣うエイリークだった。

 しかし、甘いと言わざるを得ないのもまた事実。

 家族や周囲の人間に期待されて、現在の気持ちは「着たい」と「来たくない」が半々になっているだろう。

 

 俺は獲物を追い込む為にハートのエースをゲームの場に出してやった。


「ご安心ください、エイリーク様。奥様のドレスも既に別の仕立屋さんに出してあります。レミーとアインにもエイリークさんたちの子供時代の服を用意してありますので、当日は一家揃って礼服でお客様をお出迎えください」


 「ええっ!?ハニーが俺の為にドレスを着てくれるの!!」


 エイリークは全身をくねくねさせながら喜びを露わにした。

 やはり物語の進行と世界観の説明を同時にやると無駄に時間だけがかかるような気がしてきました。まあ、この程度のハンデ、俺様にかかれば朝飯前の蟯虫検査シートですけどね!!(※汚い)

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