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第一話 サバイバー!!っていう番組、誰か覚えてる??

ついに一章に突入します。次回は11月07日に更新する予定です!!


 「世界にたった九本しか存在しない神樹ユグドラシルの頂上に生まれる一片ひとひらの葉。それらを全て集めた時に、原初の記憶を宿す神樹(ユグドラシルにして神なる竜)、ピュトーンのが蘇る。かの神樹の宿す宝玉、如意宝珠を手にした者こそが新しい世界の主となる」



 ”帝国”の初代皇帝ダナンが流浪の魔術師から授かった言葉である。ダナンはミーミルという巨人族の奴隷だったドヴェルクたちを解放して、彼らの本拠地であった霊峰ユトガルドを制圧し帝国の礎”ダナンの国”をを築いたという。



 ダナンの死後、かの皇帝の継嗣たちを長とした五つの国に分かれてしまったが時を経て西のハイエルフの国が一つになったことをきっかけにまた元の一つに戻ったという。それが現在のダナン連合帝国だ。



 初代皇帝、或いは始祖と呼ばれるダナンにナインスリーブスの統一を果たすという意志があったのかどうか伝書、口伝の類が発見されていない以上は真実を知ることは出来ない。


 それは誰にも出来ないはずなのだ。


 しかし帝国は世界統一をダナンの遺命として掲げ、版図を広げ今に至る。それが今を生きる者が個人の遺志を好き勝手に解釈した結果なのか、もしくは本当に天から啓示を受けそこに至ったかなど当人たちにしかわからないだろう。


 かくして歪み、捻じ曲げられたダナンの大望は今も生き続ける。

 太陽、月光の如く人々の行く先を照らし続けるのだ。

 この俺、不破速人にとってのヌンチャクのように。


 左肩から胸を、胸から右の腰にさらに背後に回って右の方に肩からヌンチャク(※練習用)が姿を現した。

 以前よりも勢いを増し激しく、力強くヌンチャクはあたかも生き物の如く存在を誇示した。

 同時に全身から滲み出た汗が宙を舞った。

 その決意に淀み無く、されど五体を焦がす熱量は高まるばかり。

 その時、動が静に転する。俺は片足立ちになって動きを止めた。


 

 あれから一週間が経過していた。

 寄る辺を失い、復讐だけを胸に抱き餓鬼畜生のように彷徨っていた俺が「見た目保護欲をそそる可愛い動物がいるから家で飼ってやろう」的な理由で「童心を大切にしすぎて体は大人だが、精神年齢は三歳児くらいの男」エイリークの保護下におかれて既に27日間が経過したのだ。

 この約一か月間は激動の日々だった。都市に到着してから俺は不眠不休で都市下層域にあるエイリークの家を掃除していたのだ。


 エイリークとその家族が都市上層に引っ越してからエイリークの両親の遠い親戚である町内会の顔役のような男が、いつエイリークたちが戻って来てもいいように管理してくれていたのだが元の家主が共産主義圏の主要都市にある公衆便所よろしく(※動画などを参考にしよう。食事前ないし食事中に見ることはお薦めしない)汚していたので結果として結構な労力を費やすわけにあったが元の世界で「おもてなし小僧」と呼ばれ、周囲の大人たちから畏怖を集めていた俺にとっては楽な仕事だったことは言うまでもない。


 とにかく帰還して早々にキャラバン「草原の羊たち」に所属する調査隊の隊員たちは、俺という人間の有用性を認めることになった。


 このヌンチャクなどが、掃除用具の操作に活かされていることなど凡愚どもには想像することも出来なまい。

 俺は左右二伸ばされたヌンチャクの柄を両手に取る。そして俺は昨日までの出来事に思いを馳せながら左右にヌンチャクを振り回すのであった。


 

 第十六都市の下層域にあるエイリークの家に到着したのは、その日の夜中のことだった。

 町の入り口で別れたマルグリット、レミーとアインらはダグザの家で過ごすことになり、俺とエイリーク、雪近とディーは様子見をかねて半年前までエイリークたちが暮らしていたエイリークの生家に移動していた。

 雪近と俺は新人ニューマンという出生の事情から宿に泊まることが出来ない。

 いや宿の主人の厚意で泊まることが出来たとしても他の客が嫌がるのは間違いないことだったので、辞退させてもらった。

 ディーは本人の遺志により雪近に同行することを望んだのでそのまま連れて行くことになったという次第である。


 

 エイリークの提案で俺たちは一足先にエイリークの生家に向かった。どこか懐かしい住居が立ち並ぶ街中を通りながら、俺は周囲を見渡す。

 エイリークは度々すれ違う人々に軽い挨拶をしていた。

 そんな中、エイリークは豪快に雪近の肩を叩き「またしばらく面倒を見ることになった」と説明をしていた。

 雪近はエイリークに倣ってにこやかに挨拶をしていた。


 エイリークの話の内容から察するに、以前雪近はここいらで暮らしていたことがあるらしい。


 一方、俺とディーは用意しておいた頭巾をかぶりながら頭を下げる。

 ナインスリーブスの住人であるディーは問題がないが素性ゆえに正体を隠しておく必要があったからだ。



 町の住人たちは半ば呆れながら、故郷に戻って来たエイリークを歓迎していた。

 俺は道の交叉路などに作られたガス燈を見ながら頭の中で町内の地図を思い描いていた。

 ふと、となりでディーが欠伸をもらす。やれやれ仕方ない、と俺はディーの肩を軽く突いた。


 「んっ。…何?」


 白く整った柔和な面立ちが俺の目の前に現れる。

 ディーは瞳の端に涙を浮かべ、長い銀色のまつ毛をパチクリとしながら大きく口を開いて欠伸をした。


 この緊張感の無さに俺はかなりイラッときていた。


 「ディー、あんまり眠そうにしていると道の真ん中ですっ転ぶぞ。なんなら俺が尻の穴からレッドペッパーつめて点火してやろうか?世界の景色が変わって見えるぞ」


 「止めてよ!!お通じが悪いとか、そういうレベルの話じゃすまなくなるじゃないか!!」


 ディーは慌てて俺から距離を置く。

 尻穴を両手でガードしているが、さて何秒持つかというところだ。

 まあ、こんな茹ですぎたホワイトアズパラみたいな男を懲らしめる為にレッドペッパーを使うなどという愚かな行為を俺がするはずもないが。


 見かねた雪近が俺とディーの間に割って入って来る。


 「速人。お前な、何やってるんだよ。くだらねーことやってねーで早く仕事を終わらせようぜ」


 雪近が己の分際も弁えずに俺に説教をしてきた。


 生意気な。


 本来なら二人まとめて柱に括ってから尻穴に一味唐辛子を詰めて点火してやるところだが正論には違いないので止めてやることにした。


 「いちいち恐ろしいことを口にするんじゃねーよ!!そもそも唐辛子を他人様の尻に詰めるとかどういう発想だよ!!」


 むむっ。どうやら思ったことをそのまま口にしていたようだ。


 俺は二人に背を向けて、エイリークの家から荷物を運び出すことにした。


 エイリークの話によると半年前、引っ越し先に持って行けそうにない家具全般を家に置いたままにされているそうだ。

 エイリークはまだ近所にあいさつ回りに行っているので俺は時間を無駄にしたくはなかったので家の掃除をすることにしたのだ。

 

 荷物の整理。ゴミ捨て。清掃という手順にするつもりだった。


 都市上層から家具が届くのは明日以降になるので明日までには家の中を空っぽにしておきたい。

 と袖を捲り上げ、やる気を出している俺を微妙な顔つきで雪近とディーが見ている。


 「その、こういうことを言える立場じゃないのはわかっているつもりなんだがよ。今日はもう遅いし、エイリークの旦那も休んでおけって言ってから。なあ?」


 雪近は同意を求めるようにディーを見ている。

 ディーはすぐに頭を縦に振った。

 次の瞬間、俺の中で怒りゲージが100%を超えた。


 「ヨシッ!!今、決めたッ!!貴様らはケツの穴にこれでもかってくらい火薬つめて宙に打ち上げるッ!!」


 俺は縄を持って二人ににじり寄る。

 俺としては何かにつけて休むことばかり考えている学生気分の抜けない社会人くずれのような糞虫を生理的に受け付けない。


 ゆえに。

 

 亀甲縛りにしてから庭に植えてある大きな木に吊し上げておくことにした。

 その後、背後から蓑虫のような姿になった雪近とディーから助けを求めるような声を聞いたが聞こえないフリをして衣類や食器の入った木箱を持ち出す。

 これらの品々は流石に半年も放置してあるので使えないだろうと、エイリークたちが判断した結果である。

 壁の外側にまとめて出しておけば後日業者が持って行ってくれるらしい。



 まだまだ廃棄物の処理に対して寛容な時代なんだな。


 そんなことを考えながら俺は黙々と作業をこなしていた。



 「おう。真面目にやってるか?いいか、この家では俺がボスだ。俺が黒い、と言えば白い犬を見ても黒い犬です、と言え。ここじゃあ俺がルールだ。わかったな?…って何でこんなことになってンだよ!!???」



 エイリークの声が聞こえたかと思えば素っ頓狂な一人芝居が始まった。

 俺はジト目でエイリークの声が聞こえてきた方角を睨む。

 薄暗くてよく見えなかったが家の出入口の敷居のあたりにエイリークとソリトンが立っていた。

 全員が驚愕の表情で亀甲縛りにされ逆さ宙づりにされているディーと雪近を凝視している。

 ソリトンは咳払いをすると一緒に来ていたシグルズとアメリア、新顔の婦人二人に初老の男に説明をしてから縄を外し、二人を地面に降ろしていた。


 なるほど。アメリアに似た凛とした雰囲気を持つ中年の女性がソリトンの妻ケイティで、残りの二人がケイティの両親というところか。

 シグルズとアメリアの容姿に共通する箇所が見られる。俺はせっせと荷物をまとめながら横目でソリトン一家を観察していた。


 「お前の、その冷静さが既に理解できねえんだよ!!」


 エイリークは言うや否や強烈なローキックを放ってきた。


 甘い。


 甘いと言わざるを得ない。


 俺は歯を食いしばり、全身の筋肉を引き締めてダメージに備える。

 重爆、そんな言葉が似つかわしい痛みと衝撃が俺の右半身を駆け抜けた。

 エイリークは奇襲成功とばかりにニヤリと笑った。


 だが次の瞬間、エイリークは後ろから壮年の男に殴られた。

 エイリークは自分の身に何が起こったか理解できなかったようだ。


 つくづく頭の悪いヤツだ。


 わkりやすいように絵面えづら的に説明しよう。



 140センチに満たない子供が身長185センチの筋肉質のマッチョマンに蹴られて吹っ飛んだ(もちろん吹き飛んだわけではない。浮身、スリッピングアウェーと呼ばれる防御動作で予め攻撃を受ける方角に沿って身体を移動させておいたのだ)のだ。


 「ごめんなさい。エイリーク様。今日はもうぶたないで…」


 ことさら俺はエイリークに許しを求める。


 「エイリーク!!アンタは何やってンのよ!!」


 手近な棒切れでエイリークはソリトンの妻と、その母親にボコボコに殴られていた。

 こうしてエイリークは顔が痣だらけになるまで一方的に袋叩きにされた。

 縄をほどかれた雪近とディーは女性陣によりボロキレにされたエイリークを介抱する。

 一方、俺は主人に打ちのめされて泣く子供のふりをしながら、うわ言のように「あれは擬態だ。フェイクニュースだ」とわけのわからない呻くエイリークを嘲笑った。

 

 エイリークが連れて来たのは近所に住むソリトンとソリトンの妻の両親だった。

 俺たちの紹介をするつもりで家に招待したらしい。

 エイリーク一家が不在の時にちなみに庭の雑草や井戸の管理などをしてくれたのはソリトンの義父ベックと義母のコレットらしい。

 ソリトンの妻ケイティとその両親はエイリークの両親が健在だった頃からのつき合いであることも教えてもらった。

 弟分のソリトンやハンス、修道院に引き取られた当初はかなり荒んでいたマルグリットたちを受け入れてくれた家族同然の人々なので、唯我独尊のエイリークも未だに頭が上がらないとのことだ。


 と殴られてすぎて北斗の拳のハート様みたいな顔になってしまったエイリークに代わってソリトンが話をしてくれた。


 なるほど。シグルズは移動中に度々アメリアから「今回の悪戯はお母さんに打ち明けます」と言われては泣いていたが俺は何となく言葉の意味を理解することが出来た。


 「速人君。キチカさん。それにディー君、でしたか。よろしければ今日はうちで一緒に夕食を食べませんか?お母さんが腕によりをかけて用意してくれたんですよ」


 「えっ?」


 両手を広げ、にこやかに告げるアメリアを見た雪近の顔が一瞬で真っ青になっていた。


 「大丈夫だ。安心しろ、キチカ。アムは、今日の夕食に手を触れていない。俺がちゃんと見張っていたからな」


 ソリトンは深刻な顔で耳打ちをする。近くにいたシグルズは何度も頭を縦に振る。

 そう言えば帰りがてらにレミーが「アムが料理を作ると必ず何人か倒れちまうんだ。かく言う俺もぶっ倒れたことがある」と教えてくれた。



 その後、ソリトンとアメリアが会話の内容が原因で何度か揉める場面もあったが夕食は無事に終わった。

 

 俺たちはソリトンの家族に深々と頭を下げ、エイリークの家に戻った。俺は食後に寝落ちしてしまったエイリークを抱きかかえながら帰宅することになる。

 まあ100kgかそこらなら許容範囲なので問題なく家に帰ることが出来たのは言うまでもない。

 俺たちはエイリークの家に到着すると一階の居間で寝ることにした。

 先ほどまとめた荷物にソリトンの家から借りて来たシーツなどをかぶせて即席のベッドを作る。

 俺は無駄にでかいエイリークをベッドに優しく置いた。

 次に俺は調子を崩しているディーの為に専用の寝床を作ってやることにした。

 ついでに手持無沙汰のディーと雪近がもうしわけなさそうに俺を見ているので玄関をホウキで軽く掃いてくるように言いつける。

 奴らは申し訳程度の仕事を与えられた小学校低学年の生徒のようにはしゃぎながら掃除を始める。

 

 

 俺の中で再び怒りゲージが点灯しつつあった。



 数分後、俺はディーと雪近用の寝床を完成させる。

 外はまだ少し寒い季節なのだが、魔法による空調が効いている為に風邪の心配はないと考えても問題ないだろう。

 俺は玄関先にいる二人を呼びつけてさっさよ寝るように言った。


 「お前らはさっさと寝ろ。これ以上起きていられても迷惑なだけだ」


 俺のぶっきらぼうな様子に驚いた雪近がすぐに反論する。正直なところ、エイリークもこの二人も仕事というか掃除の邪魔でしかなかった。掃除のプロにはそれなりのやり方というものがあるのだ。


 「お前はどうするんだよ?今日は十分すぎるほど頑張ったんだから一緒に寝ようぜ?」


 うんうん、とディーも頭を振っていた。


 「俺は明日の朝ご飯とか、掃除の続きとかあるからまだ起きてる。それともまた縛られたいのか?」


 俺がドスの利いた声で言うと雪近とディーは脱兎の如く自分たちの為に用意された寝床の方まで逃げて行ってしまった。

 俺はホウキとバケツを手に戦場に舞い戻る。


 そう、家事とは自分との戦いなのだ!!


 そして俺は新たなる戦いの日々を予感して闘志を昂らせていた。


 続くッッ!!!!

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