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プロローグ 34 今日もポカポカ!ダールさん一家!!

次回は10月29日に更新するぜ!!ゴウ!!ファイト!!

 魔法杖ワンドの先端から上空に向かって光の球が放たれた。光球の形状、上昇する時に出る独特の高音は打ち上げ花火を速人に思い出させる。速人の予想ではトランシーバーのようなもので連絡を取り合うものと思っていたが実際は違っていた。

 後で知った話だが、魔法を使って雑に情報交換すると今度は別の術者が魔法を使って望外もしくは盗聴される可能性があるからだそうだ。

 光球は空の遥か高くまで上昇すると、四散してしまった。セイルの話によると風の精霊の力を借りて上昇し、光と音の精霊の力を借りて上空を飛ぶ他のボルク隊の隊員たちに伝達するらしい。光という単語を聞くと一瞬で地球を何周もする先入観があったのだが、意外にも光の精霊の行動範囲は限定されていると速人はダグザに聞かれた。

 光球がバラバラになった直後に現れた光の糸は遥か上空を流れる風を伝い、セイルとベンツェルの連絡を受け取った隊員たちは各々の使い魔である鉄の乗騎の機首を下げ次々と地上を目指して降下していった。


 かくして夕暮れの時が迫る中、十数機もの巨大な甲虫を模した使い魔たちが姿を現す。心臓部の魔晶石から仮初の命を与えられたこの鋼の獣は、古の龍の名を取って風精獣リンドブルムと呼ばれた。外観こそ甲虫に似ていたが龍鬚、龍爪、龍尾、逆鱗といった龍の特徴が残されていた。

 いまだに強い「龍」信仰を持つ小人族の作り出す工芸品アーティファクトの名残りである。

 さらに乗騎に跨っていた機械仕掛けの魔法の鎧、自動鎧オートメイルを身にまとった戦士たちがセイルたちのもとにやって来た。

 この時代においても強化外骨格として知られる自動鎧だが、目の前にある戦闘用に造られたものは決して軽い代物ではない。ああまでも思うがままに動き回れるのは過酷な訓練の賜物なんだろう。


 気がつくと速人たちの目の前にはダンバインとサイバスターを足して二で割ったようなデザインの鎧を着た男が立っていた。


 他の竜騎兵たちは旧知であろう調査隊の人間と話をしている。


  彼らを殺す必要はないのか、と速人は隠し持った毒物を塗ったナイフを鞘に納めた。

  背後で速人を監視していたソリトンとダグザの額に汗が浮かぶ。


 やはりこの殺人餓鬼を放っておくべきではない、と思い知らされたのである。


  とりあえず背後から音もなく接近したソリトンは速人のナイフを没収したという。


 「それ俺のキーアイテムだから、後で返してね」


  ふるふるふる。ソリトンは無言で首を横に振った。


  速人たちの前に現れた青い鎧を着た壮年の男の前にゆっくりとセイルが近づいた。男は一瞬、相手が誰だかわからなかった様子で混乱している。


 「おお。レナード、何年ぶりじゃあ。ほえほえ。ワシらはこの通り、元気百倍じゃああ」


 このわずかな間に何があった。レナードは変わり果てた元同僚の姿にドン引きしてしまった。


 「うまいのう。お茶、うまいのう」


  いつも背筋を伸ばし、胸を張って歩いていたはずのベンツェルは猫背になって茶を啜っていた。

 除隊する前は入隊したばかりの新人たちの背中を叩いたりして、その健在ぶりを誇示していたかつてのベンツェルの姿を知っているだけにレナードの受けた衝撃は大きい。


 「なッ!!……セイッ!!ベンッ!!卿らの身に一体何があったというのだ!!」


 「坊ちゃんがな、ワシらのようなお爺ちゃんが一緒にいるとお友達にからかわれるから近くには来ないでほしいと。ううう……、実の孫にも言われたことがないと言うのに。ワシは何をどこで間違ってしまったのじゃああ」


 「泣くな、セイル。我が友よ。現世におけるワシらの役目は終わってしまったのじゃ。老兵は去るのみ。さあ家に帰って肩身の狭い思いをしながら残された時間を生きようではないか」


 レナードと他のボルク隊の隊員たちは縋るような目でダグザを見ている。次は自分たちが邪険な扱いを受けるのではないか、という恐怖心が生まれた為だろう。

 自分には万に一つも責任はないことを承知の上でダグザは落胆しきってしまったセイルとベンツェルを慰めた。


 エイリークたちは苦心するダグザの姿を関わりたくないので遠巻きに見守ったと言う。


 ダグザが実家の旧臣たちと揉めている間に空の上から一際大きな風精獣が降りて来ていた。二本の足が着陸すると同時に地面が震動する。身体も他の風精獣に比べると二、三倍くらいサイズが大きい。巨獣の直立した姿は人智の到底及ばぬ領域に君臨する魔神の如き威容を備えていた。

 首のつけ根にある鞍には黒衣の男が跨っていた。男は鞍に括りつけてあった飾り太刀を外すと、一気に飛び降りてきた。

 巨獣の上から地面まではかなりの高さがあったが、黒衣の男はものとせずに無事に着地する。

 エイリークは「ケッ!ジジイがはしゃいでるんじゃねーよ」と陰口を叩いた。

 黒衣の男が速人たちの方に向かって歩き出すと同時にボルク隊の面々は御仁を迎える為に列を為す。そして男が目的の場所に辿り着く頃には、先頭に2人、左右14人と規則正しく整列していた。


 黒衣の男は鎧に魔力を送り込み、頭部のマスクを自動展開する。この男の装着している鎧もまた自動鎧オートメイルだった。


 「欲しい。俺もあれが欲しい。蒸着ッ!!とか言って一瞬で着てみたい!!」


 速人は思わず呻いてしまった。しかし、エイリークが軽く肩を叩いて諫める。


 「止めておけ。俺も昔お前と同じようなことを考えたがあれはメッチャ重い上に魔力の消費が半端無えから。爺さん連中が見栄で来ているタダの骨とう品だ」


 エイリークは「どうせ聞こえまい」と嘲笑う。しかし、ダールの頭が微かな反応を見せた。重厚なヘルメットの下に隠された鋭利な刃物を思わせる視線がエイリークを捉えた。エイリークの口の動きを見ている。


 攻撃力アップ!!ダールの視線はさらに鋭いものになった!!


 本来なら飛んで行ってすぐに躾けてやりたいところだが家を出る前に「普段から威圧感が半端ない」と妻に説教を受けたばかりだった。男は胸に溜めた息を吐く。我が子とエイリークたちからは目立った負傷者が出ている様子はない。


 とりあえずエイリークへの躾けは後回しにして(※エイリーク死亡フラグ)現状を確認をする為にダールトンは騎士然と整列する旧臣たちのもとに歩いて行った。


 黒い鎧の装飾は竜のウロコを模した重剛なものであるにも関わらず、男の足音は静かなものだった。

 速人は自動鎧オートメイルの性能か、生来の立ち振る舞いゆえか決めかねてしまう。

 速人が何気にソリトンの方を見ると「両方だ」と目で語る。かくして黒衣の男は勇壮な竜騎兵たちの前に立った。レナードという男は黒衣の男に頭を下げ、軽く挨拶をする。


 「お待ちしておりました、若様。此度の救難探索におかれましては若様の慧眼はまことに素晴らしく、ご先祖さまに恥じぬ若様の御姿を前に我らの指揮は高まる一方で坊ちゃんとそのお友達が無事であったこともひとえに若様の」


 と言いかけたところで、若様が息を吸い込む。そして、雷鳴の如き一喝が周囲を凍りつかせた。


 「私を若様と呼ぶな!!五十の、それも限りなく六十に近い年齢の男を捕まえて何が若様だッ!!いいか、レナード、卿らにとって私は父や祖父に比べて見劣りするものかも知れんが私にも矜持というものがある。今後一切、私を若様と呼ぶなッ!!」


 全員が両手で耳に栓をしなければならぬほどの大声だった。

 しかしレナードと元ボルク隊の老人たちは嬉しそうな顔をしている。おそらくダグザの父親ダールトンとは彼らにとって象徴化された偶像、アイドルのようなものなのだろう。


 発声は武術の骨子であり、現代ヌンチャク道の第一人者である李永周は独特のかけ声でも有名な人物である。しかし「スキル・高級耳栓」クラスの耐性を持つ速人は平然として受け止める。


 「申し訳ありません、若様。それでは若様のことをこれからは何と呼べばよろしいのでしょうか?」


 鎧のカラーリング的にダンバイン的なレナードが頭を下げながら質問をする。ダールはヘルメットの側頭部と顎の拘束具を外し、素顔を外気にさらした。


 「ダールトン殿だな。卿らは私より年上だ。それが妥当と言えよう」


 速人はダールの素顔を見た時に驚きを隠すことが出来なかった。後ろで束ねたウェーブのかかった艶のある黒い髪。

 灰色の入った青い瞳はダグザと同じものだったが威圧感は十割増しというところだった。

 ほどよく高く形の整った鼻、薄い唇の血色は死人のように青ざめている。吐く息は氷のように冷たいのではないかと邪推していまうほどである。

 つまりこのダールという男は全体的に細面で美丈夫といっても問題は無いのだが、息子のダグザ同様に人相自体が険しすぎて常に近寄り難い印象だった。


 「これは……、SSR闇堕ちダグザッッ!!」←イベント限定ガチャ


 ダールは速人を一瞥する。気まぐれに速人を見たのかもしれないが圧迫感の強すぎるダールの目つきを見ればそう感じてしまうことも仕方ない。しかし、この中でダールの機嫌がそれほど悪くないということに気がついたダグザが父親の元に駆け寄る。


 「畏れながら、父上。今回はどのような御用向きで私どものところにまで赴かれたのですか?先ほどセイルに問いただしたところによりますれば第十六都市の存亡の危機に関わる事案だと聞き及んでおりますが」


 ダールの表情が不快から暗黒に変わった。実の息子であるダグザでも変容ぶりにその場で硬直してしまうほどである。


 「待ちなさい、ダグザ。君は今、私のことを聞きなれない呼称で呼びはしなかったか?私は君が生まれた時からずっと君のことを見てきたつもりが父上と呼ばれたことは一度もない。故に、いつものようにパパと呼びなさい」


 何という羞恥プレイ。速人はダグザの心中を察した為か、俯いてしまった。


 親子二人の再会を喜んでいるのはジジイ連中くらいだろう。


 「もうしわけありません。パパ」


 「それでよろしい。君の質問に関してだが、調査隊が誰一人欠けること無く発見されたことで概ね目的は達成されたと言っておこう」


 ダグザに「パパ」と呼ばれて満足したダールは柔和な笑顔を浮かべていた。だが周囲には悪人が善人を罠に陥れた後に見せる闇の微笑にしか見えなかった。


 今もまだ「クックック……」と不気味に笑っている。そこにエイリークが割り込んで来た。


 「ダールのおっちゃん!!そうじゃなくて俺らは何で滅亡とかそういう単語が出て来たっていう話をしてるんだって!!」


 「そんなことか、エイリーク。実に他愛無い話だな。もしもダグザの身に何かがあればルギオン家は御家断絶になってしまうだろう?市議会の首魁たる私とその後継者であるダグザが姿を消すことになれば都市は今まで通りの自治体制を守っていくことなど出来ないだろう」


 ダールは前髪をかき上げ、胸を前に逸らす。ルギオン家の旧家臣たちから滝のような拍手が送られた。

 レナードは眦にハンカチを当て涙を拭き取り、老人たちは「流石は若様!!」と大絶賛している。


 「ダールがどれほどダグのことを心配していることは俺たちにだってわかる。だが、俺たちが知りたいのはそういう話じゃない。アンタがこうして大軍を率いてやってきた理由だ。俺たちの実力は知っているだろう?」


 エイリークとダグザもソリトンの言葉に同調するようにうんうんと頷いている。


 「実は、ここだけの話にしてもらいたいのだが危険種と呼ばれる魔獣の中でも上位に位置する大喰らい、学術名ミズサメクマオオガメ(水鮫熊大亀)が出現したと防衛軍から報告があったのだ」


 ダールは深刻な顔をしながら「終わったコンテンツ」、「オワコン」について語り出した。


 周囲が緊張した空気に包まれる中、速人はゆっくりと次の策を実行に移す為に動き出していた。

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