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プロローグ 33 ルギオン家の事情

 次回は10月26日に、投稿します。おかしい。必死に書いているはずなのに全然話が前に進まないような気がする。対策を練らねば。

 セイルはレミーの返事を待っている様子だった。

 当のレミーは困惑気味でセイルを見ている。今のところは自分と両親の友人関係から何とか思い出そうとしているが顔どころか名前すら出て来ない。


 「おい。ジジイ。何をやっている。さては坊主に嫌われるようなことをしたのか?」


 レミーとセイルがにらめっこをしている間にもう一人の男が巨大なカミキリムシの上から降りてきた。

 こちらは最初からヘルメットをかぶっていないがセイル同様にレプラコーンの特徴が目立つ容姿だった。 男は目があまり良くないせいか目を細めてレミーの顔を見ている。

 初老の男の顔立ちは整っているが頬と鼻筋についている刀傷のせいでかなりいかつく見える。滅多なことで物怖じしない性格のレミーも流石に怖がっている様子だった。


 「すまねえな、エイリーク。セイルの野郎、最近はすっかりボケちまってよ。ところで俺たちは若様に言われて坊ちゃんを捜しているんだが、坊ちゃんは今どこにいるんだ?」


 レミーは助けを求めるような表情で速人を見ていた。


 もう一人の男はやたらと親しげに話しかけてくるが、レミーにとってはまるで面識のない人物らしい。速人としてはこのまま窮地に陥ったレミーの姿を見ているのも実に趣深いことなのだが、涙目になっているレミーの姿を見ているうちに可哀想になってきたので助け舟を出してやることにした。

 速人はレミーとレプラコーン族の二人組の間に歩いて行った。

 そして、頭を下げて自己紹介を始める。流石にこの時ばかりは普段速人のやることに難癖をつけてくるレミーも黙っていた。


 「はじめまして。俺はエイリークさんのところでお世話になっている速人というものです」


 「私はルギオン家に使えるセイルというものだ。見たところ新顔のようだが、我々に何か用事でもあるのかね?」


 「はい。実は大変申し上げにくいことなのですが、こちらの方はエイリークさんではありません。エイリークさんのご息女のレミーさんです」


 初老の男二人がレミーの姿を見る。たしかに上は白いシャツに袖の無いジャケット、下はハーフパンツといった活動的な服装だが容姿そのものは女性である。

 二人は顔を見合わせた後に笑い合い、そしてレミーに向かって頭を下げた。


 「すまんっ!!」 ×2


 「もういいよ。慣れてるし」


 何か思うところがある為かレミーは渋々ながら許してくれる様子だった。


 「オホン。この前まで赤ん坊だったレミーがここまで大きくなっていることに気がつかず誠にもうしわけないことをした。拙者の名はベンツェル、こちらのセイルともどもルギオン家に仕える者だ」


 ベンツェルと名乗った男は顔を咳払いをしながら、レミーに対して頭を下げてきた。

 セイルも同様に頭を下げる。祖父くらいの年齢の男二人に頭を下げられてレミーは困っている様子だった。

 

 レミーは子供同士のつき合いでも年功序列を気にするタイプなので、案外礼儀正しい性格なのかもしれない。

 速人はセイルとベンツェルの話の中で出た「ルギオン家」という名前が気になっていたのでレミーに聞いてみることにした。


 「レミー。さっきセイルさんとベンツェルさんが言っていたルギオン家って何のことかわかるか?」


 速人に話しかけられたレミーはびくっと震えてしまう。おそらくは心の準備が出来ていなかったのだろう。逆上したレミーは速人を大声で叫ぶ。

 

 「はあ!?何でお前にそんなことを教えなきゃいけないんだよ!!お前ってホント面倒くさいな、ダグの家名だよ!!」


 ここ最近レミーにとって不愉快なことが続いていたせいか怒鳴られてしまった。しかし、収穫はあった。ルギオン家がダグザの実家ならば、おそらくセイルとベンツェルが言う「若」とはダグザのことであり、「坊ちゃん」とはダグザの子供か何かを示す言葉ではなかろうか。


 いや待て。速人の思いつく限りではあの中にダグザと似た特徴を持つ子供はいなかったような気がする。


 「隙アリィッッ!!死ねやゴラアアアアアーーーッッッ!!」


 その時、飛び蹴りが速人の頭に直撃した。相手は憤怒の形相をしたエイリークだった。

 エイリークは今朝からずっと速人が隙を見せるところを狙っていたのだ。消力シャオリーだ。

 速人は意識を繋ぎ、蹴りの威力を外に逃がそうとする。


 しかし横面に左の飛び足刀蹴りを受けた速人は砂煙を巻き起こし、地面を転がりながら倒れ込む。


 消力シャオリー、失敗。


 その後、うつ伏せになった速人にエイリークはストンピングを連打する。


 「オラオラオラオラァァーーッ!!調子こくんじゃねえぞぉぉーーーッッ!!俺が本気になれば手前なんざ余裕でぶっ殺せるんだよぉぉぉーーーッ!!」


 ガスガスガスッ!!

 踏みつけ。別名、下段踵蹴りは人中打ち、金的に次いで必殺度の高い技である。

 エイリークに頭頂部と顔面を何度か蹴られた速人は横転して仰向けになり、両脇を締めてガードを固めた。


 「何だその目は?まさかそこから逆転できるなんて夢を見ているんじゃねえだろうな?ああんッッ!?」


 警戒すべきはハンドスプリングを応用したキックと膝へのタックル。

 前者は股間、顎に当たればエイリークとて無傷ではすまない。エイリークは速やかに右構えに移行し踏みつけからローッキックに切り替える。

 右脚を鞭のようにしならせてガードを固めた速人の腹を狙った。


 速人は距離を取る為に横転しようとするがエイリークはその動きさえ読んでいた。ムエタイの当てることを前提としたローキックではない。これはキックボクシング、空手の思い下段蹴りだ。

 腹に入れば致命傷は避けられないだろう。速人はさらに不利な状況になることを知りながらも両手をクロスガードで下段蹴りを受け止めた。


 「そう簡単に立ち上がれると思ったら大間違いだぞ、糞餓鬼」


 次の瞬間、エイリークは背後からセイルに槍で殴られた。


 目から星が出る、とはこういうことだろう。エイリークは激痛の為、しばらく声をあげることさえ出来ない。

 叩かれた場所を押さえながら周囲を見るとそこにはセイルとベンツェルだけではないソリトンたちの姿もあった。


 皆、呆れた顔でエイリークを見ている。


 「エイリーク、お前は子供相手に何をしている!!家族を持って少しはまともになったかと思えばその体たらく、そもそもお前という男は大人の自覚が足らんのだ。いいか、こんな小さな子供を相手に暴力を振るっていることが若様にバレてみろ。怒鳴られるだけでは済まんぞ」


 セイルは速人の身体についた汚れを払い落とし、頭を撫でてやっていた。

 当の速人は泣いてはいなかったが普通の子供のようにおとなしくしていた。

 セイルに続いてベンツェルもエイリークに説教を始める。


 「全くだ。お前の父マルティネスも息子のお前と競ってばかりの大人げない男だったが、お前まで父親の悪い部分を真似ることはなかろう。坊主、大丈夫か?」


 速人はベンツェルにも頭を撫でられていた。速人は黙って頭を下げる。


 エイリークが悪役プロレスラーのように速人をストンピングを連打している場面を観ていたソリトンを含める仲間たちの視線も厳しいものになっていたことは言うまでもない。

 このままではエイリークの弾劾裁判が始まりそうなので速人はセイルたちにダグザの所在を教えることにした。


 「ところでセイルさん。若様ってダグザさんのことですよね。ダグザさんなら向こうで休憩を取っているはずですよ。よろしければ僕が呼んで来ましょうか?」


 しかし速人の話を聞いたセイルとベンツェルは「ん?」とか「ふむむ」と言って何か要領を得ないような顔をしていた。

 三人の話を聞いていたエイリークは笑いながら事の顛末について教えてくれた。


 「あのな、速人。おっちゃんたちの言っている”若様”ってのはダグの親父のダールのことだ。で坊ちゃんってのは……」


 「オッホン!!オッホン!!」


 わざとらしい咳払いをしながらダグザが現れた。

 ダグザの姿に気がついたセイルとベンツェルは背筋を伸ばし、直立不動の体勢になる。

 速人は二人の折り目正しい姿を見て、兵士としての力量の高さを感じ取っていた。


 「それ以上は言う必要はないぞ、エイリーク。というか恥ずかしいから黙っていろ。セイルとベンツェルもいい加減にしてくれ。仮にも三十路の男が坊ちゃんなどと勘弁して欲しい」


 ダグザの整った美しい容姿は年齢よりも若く見えるが「坊ちゃん」と呼ぶにはいささか年齢が経過しすぎているような気がする。

 現にレミーとエイリークは口を押えながら笑うのを我慢していた。

 しかし、ダグザに「坊ちゃん」と呼ぶことを拒絶された二人は可愛い孫に嫌われてしまった寂寥感漂う老人のようになってしまった。

 ソリトンやハンスが慰めているが二人が回復するには時間を要してしまうことになった。

 

 数分後ダグザに嫌われてしまった思い込みすっかり老け込んでしまったセイルとベンツェルはかなり前に解散したボルク隊を再結成させてダグザを探しに来た理由を話してくれた。

 速人は魔術で起こした火を使って入れた温かいハーブティーの入ったマグカップを手渡す。

 湯気の立つマグカップをふうふうしながらハーブティーを飲むセイルとベンツェルの姿に先ほどの颯爽と空を駆ける竜騎士然とした面影はない。

 二人は速人がいつの間にか用意していたバニラ味のカントリーマアム的なもの(※湿らせた食感のケーキとクッキーの中間のようなお菓子。ヨーロッパにはかばり昔から存在した)を頬張っていた。


 もう何というかタダのジジイだった。


 「ほえほえ。ワシらは昨日いつものように親方の工房にお勤めに行ったのですじゃ。ダグザしゃまも知っての通り最近の親方は工房の奥に引っ込んだまま外に出てくることも無く、その日も注文を受けた靴を十個ばかり修理した後弁当を食って家に帰ろうと思った頃に珍しく若様が工房に戻って来ましてな。うっ」


 セイル、そこでクッキーを喉に詰まらせる。

 すぐにベンツェルが背後に回り、背中を叩いてセイルはことなきを得る。

 何か見ている方が心配になってくるような光景だった。

 速人は少しぬるいお茶を飲むことを勧める。

 セイルは野草を乾かして作ったハーブティーの香気を楽しみながら、茶を啜った。


 「悪いな、坊や。話を戻すが、急に工房を訪ねて来た若様は実家に預けてあった自動鎧を持ち出すと言って聞かなかったのでワシらが理由を尋ねてみるとルギオン家滅亡の危機などと仰られたのでのう。こうしてワシらも武器庫に引っ込めておいた自動鎧を出して何年かぶりに都市まちの外に出たわけじゃ」


 「左様。ルギオン家の長子たる若様が出陣されるというのであれば、御家の槍にして盾である我々が随従することは当然のこと。で、まあそういう感じで意気込んで出てきた矢先に街道で坊ちゃんの使い魔を見かけたので偵察を兼ねて降りてきたわけですじゃ。ふう。小僧、次はもう少しあっついヤツを頼むぞ」


 速人は言われた通りに前に出した茶よりも温かいものをベンツェルに渡した。エイリークは皿の上にあったクッキーに手を伸ばし、そのまま口に放り込む。速人はすぐにエイリークのお茶を用意する。


 「待てよ、ベンのおっちゃん!!ってことはダールのおっちゃんが上にいるのかよ!!」


 ベンツェルの口からダールのことを聞いた途端にエイリークたちの表情が変わった。

 何か会いたくない理由でもあるのだろうか。エイリークだけではなく他の大人たちも騒いでいる。


 「言われてみればそういうことになるな。セイル、すまんが信号弾を打ってくれんか?」


 ベンツェルに言われた直後、セイルは立ち上がる。

 そして腰に下げていた魔法杖ワンドを空に向けた。

 調査隊のメンバーのうち何人かはセイルを止めようとしたがダグザに「手間がかかった分だけ説教が長くなる」と説得されて引き下がってしまった。


 エイリークが放心状態になっていたので速人はぬるめのお茶が入ったマグカップを手渡した。


 「糞ったれ。これじゃあガキのころから何も変わらねえじゃねえか」


 そういってエイリークはマグカップに口をつけずびずびと飲み干した。クッキーを食べて口の中がもっさりと渇いていたので丁度飲み物が欲しくなっていたところだった。


 「それにしても父上の言う滅亡の危機とは一体どういうことなんだ?」


 ダグザの父ダールトンは公私において優秀な男だが、思い込みが激しくよく勘違いで大事を起こす悪い癖がある。

 ダグザは今回の出動もダールの一方的な思い込みから始まったものではないか、と考えていた。


 「まあ、ダールだからな。ホラ。ダグの嫁さんが出産近いから、お前の母ちゃんとソルの嫁さんと一緒にダグの家に入るんだろ。あんまうるさいから体よく追い出されただけじゃないか?」


 何かと騒がしいダールが自分の妻から説教を食らっている場面を想像し、エイリークは苦笑しながら語る。余談になるが後日、エイリークの予想が事実だったことが判明する。


 しかし、ダグザとソリトンはダールの怒りの矛先が自分たちに来ることは間違いないということを知っていたので笑うことが出来なかった。


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