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プロローグ 27 朝食

 次回は9月8日に投稿するでおま。ちなみに抜山蓋世ばつさんがいせって捲土重来と同様に良い意味では使わない四字熟語なんだぜ!どっちも項羽が負けた時のエピソードに使われた言葉だからな!

 「さあ、飯だ。飯。気を取り直していっぱい食べようぜ!!」


 数分後にはフライドチキン、茹でた山菜とキノコのサラダ、数枚のパンが皿の上に乗せられて、スープ皿にはホワイトシチューが全員に行き渡っていた。

 これほど早くに配膳が終わったのもみんなの協力があったお陰である。

 

 速人は微笑ましい朝食の風景を遠巻きに見守っていた。別段、意図して彼らと距離を置いているわけではない。お代わりが必要になって時に鍋の前で準備をしているだけだ。

 そうこうしているうちにまたエイリークがつまみ食いをしようとしてレミーに手をつねられていた。

 これではどちらが保護者かわからない。


 「それではいただきまーす!」


 やや首の位置がおかしいことになっているエイリークが挨拶すると共に朝食が始まった。

 みんなよほど腹が減っていた為か、一心不乱に食事に没頭する。

 その最中、いつの間にか隣にいた雪近が速人に耳打ちする。


 「速人。あの、俺もアレを食べなきゃ駄目なのか?」


 雪近はフライドチキンを見ていた。

 雪近は日本人が肉食を禁忌としていた時代の人間である。毒を食えと言われているも同然だろう。

 ただの好き嫌いならば手段を問わず口の中に入れるつもりだったが事情が事情だけに無理強いは出来ない。

 さてどうしたものか、と速人は考える。


 「そういえばさっきディーが目を覚ましたとか言ってたな。ちょっとテントまで行って飯が食えるかどうか聞いて来い。お粥くらいならすぐに用意できるから」


 「その出来れば俺もお粥の方がいいんだけどさ」


 「わかった。お前用に別に用意してやるよ。言っとくがパン粥か麦粥だからな。米のお粥は無理だ。あ

と、念の為に言っておくがみんなの前にはまだ連れて来るなよ」


 ディーはヨトゥンという巨人族の出身である。

 速人は彼の手足に彫られた「黄金の腕輪ドラウプニル」という入れ墨を見て、そのことに気がついていた。

 察しの良いダグザやソリトン、エイリークはその事に気がついているかもしれない。

 さらにヨトゥンたちは敵対する種族が多いことでも有名なのだ。どうせディーを手放すことになるのであれば敵の情報を吐き出させてからの方が得策というものである。


 「了解。じゃあ俺の飯のことは頼んだぜ」


 雪近は苦笑しながらテントの方に歩いて行く。


 どこまでもおめでたい男だ、と速人は冷笑する。


 魂までも凍てついてしまいそうなオーラを放つ速人に背後から声をかけてようとする者たちがいた。


 「速人。お前に謝らなければならないことがる。実はお前が料理を作ってくれている間、風呂敷を勝手に広げてしまったのだ」


 速人はそれとなしに足元に置いてある自分の風呂敷包みを見ていた。

 結び目が違う。

 中の荷物の配置がぐちゃぐちゃになっている。

 事前にレミーから聞かされていたことだが、これは明らかにダグザたちが中を調べた結果だろう。

 下手人はエイリークか、マルグリットあたりか。


 首の骨を折っておくべきだったな、とも考えた。


 しかし、速人は追求せずに惚けることにした。


 「ああ、その話ならレミーがさっき話してくれたよ。俺は気にしてないから安心してしてくれ。例えるなら世の中で勝手に他人を信用して「この人は善人」だと思い込んだ挙句に騙されて損をしたとしてもそれはやっぱり騙された側が一方的に悪いのは当たり前のことだからね。まあ、人を騙すような人間がまともな死に方をしたって話も聞いたことが無いし。ところで詐欺師の葬式ってどんな種類の人間が来るのか興味ある?……でも出来ることなら人の荷物を漁った張本人から直接、謝罪の言葉が聞きたかった、か……なあ?」


 速人は途中からどんよりとした目つきになっていた。

 話が終わった後に、立てた親指を下に向ける。

 暴力に訴えることはないが今回の一件は忘れないという意味らしい。


 ダグザとソリトンたちは身に積まされるような思いで速人の話を聞くことになった。

 ハンスとモーガンが娘のシエラを連れて速人の前に現れる。夫婦そろって大型だった。


 「速人!!娘のシエラを助けてくれてどうもありがとう!!」


 森全体に響きそうな大きな声で礼を言うとハンスは豪快に頭を下げた。

 ハンスに続いてモーガンとシエラも頭を下げる。


 (声までヤーマダに似ている)


 速人は頭を下げたままの西武ライオンズのユニフォームの似合いそうな巨漢を諫める。


 「どうか頭を上げてください。ハンスさん。俺は平和(と殺戮)を愛するヌンチャク使いとして当然のことをしたまで、です」


 「そうか!!だが、お前が俺の命よりも大切な娘の窮地を救ってくれたことには変わりない!!礼を言うぞ!!」


 ハンスは速人を力いっぱい抱き締めた。


 メキメキメキッッ。


 ハンスの怪力が速人の胸骨を圧迫し、死に至らしめようとする。

 速人は笑顔のまま口の端から血を流していた。


 「このお馬鹿ッ!!速人君が死んじまうでしょうか!!……ごめんね、速人君。ハンスのヤツは子供の頃から力加減ってものが苦手なんだよ」


 いつの間にか速人の顔はリ・ガズィのパーソナルカラーのようになっていた。


 ミシミシミシ。


 臓器がさらに圧迫されて呼吸が困難になっている。このままでは顔色がティターンズカラーになってしまうのも時間の問題だろう。


 「お父さん!速人をいい加減放してあげて!きっと苦しいって言ってるよ!」


 シエラも父親を睨んでいる。

 この前もシエラを抱き締めた時に力加減を間違えて大変なことになる一歩手前だったのだ。

 ハンスは慌てて速人を解放する。

 

 速人は咄嗟にポケットの中を探ったが手遅れだった。

 今のベアハッグで完全にヌンチャクが破壊されてしまったのだ。


 速人は頭を抱えて両膝をついてしまった。以前にも増して声のかけにくい状況になってしまった。


 「速人。お前が子供たちを助ける為に一人で大喰らいと戦ってくれたという話は先ほどレミーから教えてもらった。皆を代表して礼を言う。ありがとう」


 速人の瞳は光を、即ち生きるための力そのものを失っていた。

 わずかに原形を保っていれば別の材料を使って組み立てることも可能だった。

 しかし、粉微塵になるまで破壊されては修復することは不可能だ。

 材料は集まっているが設計図を書く、試作品を作るといった様々な手間を考えると気が遠くなってきた。


 「子供たちを救出し、食事の世話までしてくれたお前にこんな頼みごとをするのは図々しいとは思うが、魔獣の出現は別の魔獣の出現に繋がる可能性もある。自治都市周辺の平和を守る為にも、お前が倒した大喰らいの遺体を我々に譲ってはくれないか。自治都市まで同行してくれたならば十分な報酬も用意しよう。悪い話ではないはずだ」


 「タダでいいぞ。だけど風呂敷の中身はヌンチャクの材料だからそのままにして欲しいな」


 風呂敷という聞きなれない単語を聞いてダグザは首を傾げる。

 速人の視線の先を見て、雪近に再び包んでもらった袋のようなものであることに気がついた。


 「安心しろ。それはお前の持ち物だ。原則として新人ニューマンは財産を持つことは許されない立場だが、今回は特例だ。私の名においてその包みの中身を持ち出さないことを約束しよう」


 ダグザは魔獣の研究者として高揚していた。

 速人の持ち帰った風呂敷の中身には爪や牙、腕骨が綺麗な状態で残っていたことを記憶している。

 そもそも死後間もない大喰らいの遺骸を入手する機会など滅多にない。

 外殻の一部でも持ち帰れば、魔獣の成体に関する研究も進むというものだ。


 「よし。みんなに大喰らいのことを説明しなければなるまい。広場に戻るぞ」


 ダグザは鼻息を荒くして、一人広場に戻って行った。肩を落として落胆している速人にソリトンが声をかける。


 「速人。俺からも礼を言わせてくれ。息子を、シグルズの危機を救ってくれてありがとう。だが年長者の義務として説教もさせてもらうぞ。大喰らいのような凶暴な魔獣に出会った時は戦うよりもまず先に大人おれたちを、仲間を頼れ」


 「ソリトンさん。大喰らいの目的がレミーたちじゃなかったら俺も逃げていたよ」


 ソリトンは腕を組んで少し考える。

 仮に自分が速人と同じ立場ならばおそらくはそうしていただろう。

 昔、ソリトンは今のレミーたちのように大人たちの言うことを聞かずに狩りに出かけた時は獣から思わぬ反撃を受けて迷惑をかけることになってしまった。

 過去の苦い経験から珍しく説教をしようと思ったがやはり慣れないことはしない方が良いらしい。


 ソリトンは苦笑しながら速人の頭を撫でた。


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