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第百九十話 運命の交錯

次回は12月30日くらいに投稿します。文章の量だけ多くなってごめんなさい。

 

 速人はテントの中に入った後、テーブルの上に乗っている大きな皿を手に取る。

 そして再びスウェンスの席まで移動した。会場ではスウェンスとエイリークたちはケーキを食べながら昔話に花を咲かせている。


 速人は彼らの作る温かい雰囲気を壊さないように注意しながらテーブルの上に二枚の大皿を置いた。


 その頃マティスたちと話をしていたスウェンスは速人が新たに大きな皿を二枚持ってきた事に気がついて驚いていた。

 

 スウェンスは一緒に話をしていたベックとマティスを連れて現場に駆けつける。

 

 一方、速人はスウェンスが到着するまで待ってから皿の上にかかった白い布を捲り上げた。


 「お待たせしました。今日はこっちが本当の主役のケーキです‼」


 速人は大皿に向かって手を伸ばす。

 大きな皿の上にはドーム状の黄色いケーキと軍靴をモチーフとした豪華な飾りつけのケーキが乗せられていた。

 スウェンスは顎を撫でながら感心した様子でケーキを見入っている。


 「お前、本当に凄いな。まさかメリッサの作っていたケーキの本当のレシピがコレだって気づいていたのかよ」


 スウェンスは軍靴の形を模して造られたパウンドケーキを指さす。

 外観にはオレンジ、レモンのドライフルーツ、ボタンにはドレンチェリー、生地の表面にはラム酒の匂いがするシロップが塗られている。

 ベックとマティスはケーキの装飾に圧倒されて何も言えなくなっていたが、遅れて駆けつけたダグザはケーキの正体を素早く看破する。


 「速人。これはもしかして「帝国式皇帝パレードのケーキ」なのか?」


 ダグザは色々な角度からケーキを見つめては感嘆の息を漏らしていた。


 速人はケーキの正体を言い当てられて得意気に豚鼻をブヒッと鳴らす。


 「その通り。これは前にダグザさんの部屋で見せてもらった図鑑に載っていた”ダナン皇帝の勝利を祝うケーキ”だよ。実はこのケーキがメリッサさんの作ったケーキの原点だったんだ」


 ケーキの話題に熱中しているダグザたちの様子を遠間から見ていたレクサは手元の茶色のパウンドケーキと大皿の上のケーキを見比べる。


 全然似ていなかった。


 スウェンスは感心と呆れの半々といった感想を抱きながらケーキを見つめている。


 実はスウェンスは戦争になる前の平和な頃、母親が同じようなケーキを作っている場面を見た事があった。

 その時は”俺は甘い物が嫌いなんだ”とカッコつけて食べる事を断ってしまったが、それから五十年このケーキの姿を見る事は無かった。

 帝国と敵対していた時間が長かったせいかケーキのレシピが消失してしまった事が原因と思われる。


 「大した野郎だぜ。ダグの図鑑に載っていた物とエリーから聞いた話だけを頼りに際限しやがったか」


 スウェンスはケーキの匂いが手で仰いで自分の記憶の中にケーキの姿と照らし合わせた。


 (まあ俺のお袋は料理が上手いってわけじゃないし、流石にこれとは比べものにならないだろうが…ここまであの時の味を作っちまうとはな。世界は広いぜ)


 スウェンスが満足そうに笑っていると、剣呑な表情になったダグザが咳払いをして注目を集める。


 ダグザとつき合いの長いエイリークたちは彼が不機嫌の頂点にある事を察して思わず距離を置いてしまう。

 ダグザは普段から他人をどうこう言って貶めるような真似はしない男だが、自分の父親と祖父が他人を褒めるとやたらと機嫌が悪くなる傾向がある。


 (くっくっく…、ダグザさんのこの反応は面白いな。しばらくはこれでからかってやろうかな)


 速人は底意地の悪そうな笑みを浮かべながらダグザの言葉を待った。


 「オッホン‼まあ今回のお祖父さまの快気祝いのパーティーにおける功績の大半は速人、お前の物である事は認めよう。しかしお祖父さまは私のお祖父さまである事だけは忘れぬよう肝に銘じていただきたい…」


 気がつくとダグザの首には白い腕が巻かれている。


 ぐきっ⁉


 頸椎と軌道に外部から強い力がかかり、ダグザは酸欠状態となる。そして気絶。

 ダグザは操り糸を断たれた人形のうにその場で気絶する。


 「レクサさん…」


 速人はすぐにダグザの首の骨の位置を直した後、背中から活を入れて意識を回復させる。

 どうでも良い知識が首が締まって意識が無くなった場合は、人工呼吸による蘇生や心臓マッサージよりも首の骨の異常にも注意した方がいい。

 簡単な理屈を説明すれば、仮に蘇生に成功しても気道が潰れたままではそう長く生きてはいけないということだろうか。


 (そう外で死にかけた人間を見つけた時は放っておくのが一番なんだ)


 速人はどうにか意識を取り戻したダグザの背中を摩りながら物騒な事を考えていた。


 みんなも事故に遭った人を見かけた時は応急処置よりも警察や医療機関への連絡を優先しよう。


 「だってダグの親方LOVEの話が始まったら長いんだもん!」


 レクサは腕をぶんぶん振りながら駄々をこねる。

 速人は三十五歳で一児の母の取るべき態度としては如何な物かと抗議しようとしたが直前でエイリークに止められる。

 昔なじみの彼らにしてみればレクサの”我”の強い性格は今の始まった事ではないらしく総じて水に流すのが最良の方策であると彼らの眼差しが語っていた。

 速人は当事者でありレクサの配偶者でもあるダグザの様子を見たが”気にするな”と首を縦に振っていた。

 スウェンスはこの場を収めるためにレクサに自重を仄めかす程度に注意する。

 そして速人に至っては人間関係において最も重要な物とは妥協と忍耐であることに気がついた。


 「おいおい、レクサ。それ以上俺の大事な孫をいじめないでくれないか?アレだろ。お前にしてみればダグを俺に取られたみたいに考えているんだろうが、それは大間違いだぜ。やっぱ今のダグにとって一番大切なのは俺みたいな口ばっか達者な爺さんよりも自分で選んだカミさんだって。なあ、ダグ?」


 スウェンスはダダグザの肩を叩いた後、眼力で”俺の言う通りにしろ”と伝えた。

 ダグザは素で祖父の意図を受け取ったらしく嬉しそうに笑いなが頷いている。

 そしてすぐレクサの瞳を見つめながら肩に手を置いた。


 「すまない、レクサ。私とした事がとんだ勘違いをしていたようだ。今の私にとって一番大事なのは君とアダンだ、毎度ながら鈍感な私を許してくれ」


 レクサは口に人差し指を当て、考える仕草をした後におとなしくなった。

 

 マルグリットたちの方に向かうレクサの後ろ姿を見ながら速人は「今のは及第点なんだな…。次からはもっとハイレベルな謝罪を求められるんだろう」と考える。


 レクサは子供時代からの妹分であるモーガン、マルグリット、ケイティらに男を上手く乗りこなした武勇伝を自慢している。

 スウェンスはそんなレクサ達の姿を見ながら若い頃のメリッサ、エリーの事を思い出していた。


 (まあ広い意味であいつらがメリッサの孫みたいなモンなんだろうな…。ああやって女共は図太く…違った、逞しくなっていくもんだ)


 一方、ダグザは首筋を摩りながら皿の上に乗ったもう一つの黄色いケーキを見ていた。

 祖母の作っていたケーキとも、また古の故郷であるダナン帝国で作られていた伝統の軍靴のケーキとも違った特徴を持つ皿の上の逸品にそれとなく妙味を抱く。

 速人にこのケーキを出してきた意図を尋ねようとしたところ先にエイリークとマギーが取り皿を持って押しかけていた。

 ダグザは息を飲んで昔から何かと目をかけている年下の幼なじみたちに機会を譲る。

 今にして思えば、ダグザは自分でこうしたいと思っているからこそエイリークたちの意志を尊重してきたのだ。

 そこに利害など最初はなから存在しないも同然だった。

 エイリークはフォークを軍靴のつま先に向けながら速人に言った。


 「おい速人、これ本当に全部食える物で出来ているのかよ‼実は本物のブーツでしたっていうオチは無しだぜ。ちなみに俺はこの先が尖っている部分が食いてえ。さっさと綺麗に切って寄越せ」

 

 エイリークは端正な顔立ちに極めて下衆な笑みを浮かべながらフォークを突き出す。

 本当は丸ごとかぶりつきたい気持ちだったが、ケーキの出来栄えが精巧すぎて何よりも壊す事は躊躇われた。

 マルグリットも同様に見た瞬間から目をつけていたブーツの紐とボタンの飾りの部分を凝視している。

 

 「速人、アタシはこの金色のボタンみたいのが食べたいのさね。早くしないとケーキの代わりにダグ兄の靴を食べちゃうよ?」


 マルグリットはフォークの先端をダグザの靴に向ける。

 こういう時に律義に父親の作った失敗ブーツを履いて来る性分こそがダグザの長所なのだろう。

 当のダグザはブーツを食べられまいと存在を隠す為にその場で屈んでいた。


 「まあまあ、二人とも。ケーキは逃げないからさ」


 速人は二人の目の前でケーキを注文の通りに切り分ける。

 ケーキの内側からは芳醇な煮詰めたシロップとラム酒の匂いが漂う。

 そして切断面からはナッツ類とレーズンが見えた。

 エイリークとマルグリットは丁寧にカットされたケーキを食べ始める。

 ケーキの場所によって使われている材料が違う為、二人は仲良く互いのケーキを分け合っていた。


 (その優しさの万分の一でもレミーとアインにくれてやれよ…)


 速人はレミーとアインから肉を取り上げて喜ぶ鬼親のようなエイリークたちの姿を思い出しながら呆れていた。


 「おう、速人。俺にも少しでいいから味見をさせてくれないか?他の連中にも食わせてやってくれや」


 そう言ってスウェンスが空の皿を差し出す。

 速人は頷くとすぐにナイフをケーキ本体に入れて解体作業に入る。

 十分もしないうちに軍靴の形をしたケーキは姿を消し、代わりに皿の上には数種類のドライフルーツ、ナッツがバランス良く詰まったパウンドケーキが置かれていた。

 

 もちろんスウェンスが屋敷からやって来た事に気がついたセイルたちの分も忘れてはいない。


 スウェンスはなるべくケーキの外見を損なわないようにフォークを入れる。

 

 そしてまずケーキの外側についていたシロップで煮込んだオレンジを口の中に運んだ。

 最初はオレンジを、次にスポンジ生地と合わせて味わった。

 スウェンスの知る何かの記念日に出される料理の豪華な外見に反して味はお粗末な物ばかりだった。

 しかし今目の前にある速人の作った”初代ダナン皇帝の愛用していた軍靴の形を模したケーキ”は優美な外見に決して引けを取らない出来栄えのケーキだった。

 残念な話だがスウェンスの母親の作ったケーキでは足元にも及ばない代物だろう。

 スウェンスは家のキッチンでメリッサと共に軍靴のケーキを作ろうとしていた母親の姿を思い出しながら苦笑する。

 速人はスウェンスの手元にあるティーカップにハーブティーを注ぎながらケーキの感想を聞いた。


 「ところでスウェンスさん。俺の作ったケーキの味はどうだった?味つけは現代風にアレンジしたんだけど、根っこは変えちゃいないぜ」


 スウェンスは答える前にハーブティーを飲んだ。

 速人の言う通り、軍靴のケーキは材料を増やす事で味のバリエーションを加えているがいつまでも口の中に残るようなくどさがあった。


 「そうだな。美味い事には違い無えが、このしつこい甘さは苦手だな。俺の親父の代の人間なら縁起物って事で喜びそうだが今の連中にはキツイだろ」


 スウェンスは立ち上がって周囲の様子を見たが、皿の上には何も残ってはいなかった。


 (チッ‼裏切り者どもが…)


 スウェンスは心の中で毒づくと椅子に腰を下ろす。

 そして不機嫌そうにティーカップに残ったハーブティーを飲み干してしまった。


 「おい、速人。ケーキはもう無いのかよ⁉このままだと俺様は何をするかわからねえぞ‼」


 エイリークは血に飢えた獣のように殺気を放っていた。

 ソリトンやハンスの皿にケーキが残っていないかと血走った眼で睨みつけている。

 ソリトンとハンスはエイリークの視線に気づいていないフリをしながらハーブティーを飲んでいた。

 

 「根性のひん曲がった連中だね。アタシらにケーキを分けてあげようって気持ちはないのかい?」


 マルグリットは全身から怒気を発しながらテーブルを見て回っている。


 トラッドとセオドアに至っては二匹の獣から身を隠そうとテーブルの下に潜り込んでいた。


 「まあまあ、二人とも。こんな事もあろうかともう一個別のケーキを焼いておいたから、それも食べてみてよ」


 速人はエイリークとマルグリットを手招きしてテントまで呼び寄せた。


 「しゃあねえな‼一丁食ってやるか、なあハニー?」


 「シミったれたケーキだったらタダじゃおかないからね‼」


 エイリークとマルグリットはすぐに皿を持ってテントに向かった。

 テントの中では速人が最後に残った黄色いケーキを切っていた。

 エイリークたちは速人がケーキを切り終えるまでおとなしく見守っている。

 

 速人は二人の持ってきた皿の上を布巾で拭くと黄色いケーキを乗せた。


 ケーキの断面はスポンジ生地でありショウガと柑橘類と蜂蜜を使った特殊な香りがする以外には普通のケーキだった。

 しかし毎日速人の料理を食べているエイリークたちは普通のケーキではないという事を知っていたので用心しながらケーキのフォークを入れる。

 エイリークとマルグリットはアイコンタクトをとった後、二人同時にケーキを口の中に入れた。

 

 そして甘いお菓子を食べた子供のようにニッコリと笑う。


 そのケーキの甘さは果物のように甘く、爽やかな物だった。

 砂糖と果実の甘さが混ざり合い、そこにショウガの辛味と苦味が絡み合い調和を生み出してる。


 (ああ、この味はガキの頃に近所の果樹園から勝手にオレンジを持って行って食べた時のアレだ…)← 犯罪行為 


 (ごめんね。おじさん、おばさん。今度暇な時に手伝いに行くから…)


 エイリークとマルグリットは子供の頃に戻った気分で黄色いケーキの味を堪能した。

 

 同じ頃、スウェンスとダグザも速人の前までやって来てケーキを受け取っていた。

 スウェンスはフォークの先で生地の柔らかさを確かめてからケーキの欠片を口の中に運ぶ。

 生地の口当たりは柔らかく、弾力もあるのでスポンジケーキ独特の単調な食感に飽きるという事が無かった。

 ケーキの一番外側は柑橘類、中はハチミツとジンジャー、最下層には茶色のおそらくは砂糖を焦がして作った生地、土台には薄切りにしたナッツ類が使われていた。


 (だが一番驚くべき点はそこじゃねえ…。この継ぎ目のないケーキは一度のオーブンに入れただけで作られたって事だ…)

 

 スウェンスはケーキの秘密を明かしてやろうとフォークで層ごとに分けた。

 だが、どれほど注意して観察しようと何も見つけることは出来なかった。


 「おい、速人。今回は俺の全面的な敗北だ。こっちの黄色いケーキはどうやって焼いたんだ?」


 スウェンスはケーキを全て平らげてから速人に尋ねる。

 ダグザもスウェンス同様の疑念を抱いたらしく真剣な眼差しを速人に向けた。

 速人はお茶会に集まった他のメンバーにもケーキが乗った皿を渡しながら説明する。


 「ケーキ型の上に水の入ったボウルを置いたりして温度差を作ってオーブンの中で焼いたんだ。俺の住んでいた場所にカステラってお菓子があってね」


 「カステラなら俺も知ってるぜ。ドワーフどもの田舎菓子だな。だが連中のやり方じゃせいぜい出来て二層が限界だ。今、手元にあるコイツは四層はある。どうやったんだ?」


 スウェンスは速人の説明を聞いた後、不愉快そうな顔つきになっていた。

 どうやら角小人レプラコーン族がドワーフ族を嫌っているのは先祖代々らしい。

 ダグザの目つきも険悪な物になっている。


 (クソッ…ドワーフっていう言葉を出す度に怒りやがって。手のかかる祖父と孫だぜ…)


 速人はこれ以上二人の機嫌を損ねないように注意しながら説明を付け足す事にした。


 「仕方ないな。本当は企業秘密なんだけどスウェンスには特別教えてあげるよ。実はケーキを焼いている最中に何度かオーブンから取り出して層ごとに温度差を作るんだよ。タイミングを間違えると土台にしているナッツが焦げて大変な事になるんだけどね」


 速人の説明を聞いた後、スウェンスはソリトンからケーキを借りて土台に使われている溶かした砂糖で固められた砕かれたナッツを見た。


 (なるほど。一番下をある程度冷やしてから分けて焼けば、あたかも一度の”焼き”で作られたケーキに見えるって仕掛けか)


 スウェンスはじっくりと観察してからソリトンにケーキを返した。


 「しかし速人、相変わらず信じられないような技術を使うな」


 「本当は特殊な素材アルミホイルを使ってケーキ型を作るんだけど、いざとなれば手作業でいくらでもカバー出来るんだ。何ならダグザさんに作り方を教えようか?」


 「私がケーキを?言っておくが手作業は得意ではないぞ」


 ダグザは速人の意外な答えを聞いて戸惑いを見せる。


 「おおっ‼いい話じゃねえか、ダグ。俺もダグの焼いたケーキを食ってみてえぜ」


 スウェンスはダグザの肩を叩いて笑った。

 ダグザは赤面しながら首を縦に振る。


 微笑ましい祖父と孫の姿を見たエイリークたちはダグザに向かって大きな声援を送る。

 またダグザとスウェンスの仲睦まじい姿をセイルたちは心の底から喜ぶ。

 スウェンスはダグザと握手を交わした後、皆に向かって手を振って感謝の意を示した。


 程無くしてセイルたちにエリオットとジェナとセオドアとマティスが挨拶をして本当の意味での”お茶会”が始まった。


 速人は女性陣と一緒にお茶と茶菓子の配膳と補充する役柄に徹した。

 

 やがて用意した食べ物と飲み物が全て無くなった頃、速人はスウェンスに声をかけられる。

 スウェンスの周囲の席にはセイルたちが座って速人を待っていた。

 エイリークたちの座っているテーブルではエリオットとセオドアが話題の中心となって談笑を楽しんでいる。

 速人はこの時、今の状態が本来のお茶会の姿であった事に気がついた。


 (やれやれ。本当は俺なんか必要なかったんじゃないか?)


 速人はやや気後れしながらスウェンスたちに向かって頭を下げた。


 スウェンスは破顔して椅子から立ち上がり、速人の為に椅子を用意してくれた。


 「冴えない顔をしているな。今日のお茶会が上手く行ったのはお前さんのおかげだぜ。俺たちじゃこうはいかなかった。皆を代表して礼を言わせてもらう。ありがとうよ、小僧」


 スウェンスは白髪の多くなったダークブラウンの頭を下げる。

 

 ほぼ同時にセイルたちも速人に向かって頭を下げた。


 「まあ俺の実力からすれば当然の結果だけど、それ以上にスウェンスさんが築いてきた皆との絆が強かったって事じゃないかな」


 速人はスウェンスたちに向かって大きく頭を下げる。


 「はっはっは!ダールから話は聞いていたが、本当にお前可愛くねえな‼」


 スウェンスは高笑いしながら速人の頭を鷲掴みにする。


 ギリギリギリッ…。


 鉄の爪が鋼の頭蓋に食い込む。


 「痛えって言ってるだろ‼」


 速人はスウェンスの人差し指と手首をガシっと掴んでアイアンクローを強引に外した。


 「ぎえッ‼」


 スウェンスは痛みのあまり悲鳴をあげる。


 直後少年と老人の視線がぶつかり合い、火花を散らした。


 「ところでお前のような抜け目のない小僧が慈善事業タダでダグの手伝いをするわけが無えよな。ここは一つ、腹を割って話そうじゃねえか」


 スウェンスは椅子に背中を預けて座り込む。


 セイルたちは一体何が始まったのかと動揺しながらスウェンスと速人の姿を交互に見る。

 速人はフッとニヒルな笑みを浮かべるとバックの中から以前倒した魔物”大喰い”の骨を取り出した。


 スウェンスは魔物の下腕骨の一部と思われる物とファスナー式のバックの入り口に注目する。

 現在のナインスリーブスでは構想としてスライド・ファスナー式の開閉装置は存在するが実用には至っていない。

 速人はエイリークの家を修繕する傍らで様々な元の世界の道具を再現していた。


 「これは大型の魔物の骨だな。そうか、これがセイルの行っていた”大喰い”の骨か流石の俺も本物を見るのは初めてだ。それでこっちのバックの入口は何だ?」


 スウェンスはバックの入り口についているスライダーを上下に動かしながら速人に尋ねる。

 速人の作り上げたファスナーは二十一世紀の技術を用いて作られた物なので当然のようにスウェンスの知る旧式のファスナーとは比べものにならぬほど出来が良い。


 「流石はスウェンスさん。俺の作ったファスナーに気がつくとはお目が高い。どちらの品物の説明からしますかな?」


 速人は悪徳商人のような下卑た笑みを浮かべながら言った。


 スウェンスはビッとスライダーを上げると即答する。


 「…両方だ。コレ、ファスナーってヤツだよな。死んだ俺の親父の残した設計書にも何点かあったぜ」


 スウェンスは”大喰い”の骨よりも断然、ファスナーに興味を持っている様子だった。

 

 しかし速人の目的は”大喰い”の骨を使って新しいヌンチャクを作る事だった。

 第十六都市において有数の工房を所有する角小人レプラコーン族の実力者スウェンスならば”大喰い”の骨を加工する術を知っているだろう。


 ジャッ!ジャッ!


 だが速人の思惑とは裏腹にスウェンスはファスナーのスライダーを開閉させて仕組みを観察している。


 速人はファスナーを作る技術をエサに工房を使用する許可を得られないものかと交渉を始めた。


 「スウェンスさん、俺その魔物の骨を使って道具を作りたいんだけどさ。どこかの工房を使う許可を出してくれないかな?そのバックが気に入ったらプレゼントするからさ」


 スウェンスは速人を一瞥すると今度は歯が向かい合ったようなエレメントの部分を見ていた。


 「なるほど。親父のヤツは歯の部分が大雑把だったから上手く嚙み合わなかったってわけか。つうかスゲエな、コレは。お前の発明か?」


 「前に住んでいた場所で俺の父ちゃんがチャック(※チャックは商品名。正式には線ファスナーという)を壊してばかりだったからさ。ある程度は自分で作れるようにしたんだよ」


 スウェンスはジィっとスライダーを最後まで移動させてバックを全開させる。

 すっかりお気に入りの様子だった。


 「材質は木か?それを肴の背骨みたいに布に縫ってあるのか。いや、すげえすげえ」


 「それで骨…」


 スウェンスは速人に向かって左手をひらひらさせて追い払う。

 途方に暮れる速人にエイリークが小声でスウェンスの悪癖について説明をしてくれた。


 「速人、諦めろ。爺ちゃんがああなったらどうしようも無えよ。今日は家に引き上げて別の日に頼みに行こうぜ」


 速人は軽い眩暈を覚え、危うく体制を崩しそうになってしまった。


 「そうさね、速人。今日は諦めな。爺ちゃんが一度、珍しい道具を調べ始めたら止まらないんだよ。早くて…明日の朝くらいまで梃子でも動かないよ」


 マルグリットと他の”高原の羊たち”のメンバーも首を横に振っている。


 速人は救いを求めるようにセイルたちを見たが同じような対応をされた。

 かくして速人は予想外の展開によって新しいヌンチャクの開発を先延ばしされる事になった。

 その日、家に帰った速人は一言も言葉を発せずに普段の倍以上のクォリティの料理を作りエイリークたちに心配されたという。

 スウェンスはスウェンスで速人の持ってきたファスナー式のバックに罹り切りとなり、セイルに自宅まで夕食を届けさせるとそのまま朝までファスナーの機構を徹底気に研究していた。


 そして明くる朝、まだ朝日が昇ってから間もない頃にエリオットたちはサンライズヒルの町に帰る事になった。

 エリオットとセオドアは昨日以来やたらとテンションが低くなってしまった速人を心配して声をかける。


 「おう、速人。元気出せって…なあエリオ?」


 「そうだな。テオの言う通りだ。スウェンスとつき合うなら昨日くらいの出来事は当然だと思った方がいい」


 速人はトンボの死骸のような目でエリオットたちの姿を見た。


 「お前らみたいな愚図に俺の気持ちがわかるかよ…。失敗しないよう精査して計画を立てたのに、自分の責任で水の泡になった俺の気持ちが…」


 速人は不愉快そうに広すぎる額をバチっと叩いた。

 エリオットとセオドアは驚いてその場でガタガタと震え出す。

 速人のあまりの理不尽な対応にエイリークが文句をつけてきた。


 「おい、速人。今回の主役はあくまでエリオとテオと爺ちゃんだろ?まあ昨日の事は仕方ないとして機嫌直せよ。関係者サイドの俺様から言わせればああなった爺ちゃんは婆ちゃんでもお手上げだったと思うぜ?」

 

 速人はフウと重い感じの息を吐いた。

 そしてエイリークに向かって人差し指を突きつけて鉛のような苦言をぶつける。


 「そういう事を知っているなら最初から教えてくれよ、エイリークさん。前述の情報無しに上手く立ち回れるような事、俺には出来ないんだって…、これだから勢いだけで行動して結果出してるするヤツは嫌いなんだよ」


 「テメエ、ここで戦争を始めるつもりかよ…」


 ブチンッ‼


 エイリークは額に血管を浮かべながら速人に近寄る。

 一触即発になってしまったがマティスとジェナが止めに入ってくれたおかげで最悪の状態は免れた。


 人間関係で苦労を積んでいるマティスとジェナをないがしろに出来るほど速人は酷薄ではない。


 マティスは町長という立場からサンライズヒルの町を空ける事に難色を示していたし、ジェナは何でも自分一人で背負い込んでしまうエリオットの事を心配していたはずだ。


 「速人君、今回は私たちに謝罪の機会を与えてくれてどうもありがとう。メリッサさんへの不義理はもうどうしようもない事だが、親方や他の世話になった人々に再会することが出来たのは君のおかげだ。皆を代表して礼を言わせてもらうよ」


 マティスは気恥ずかしそうに速人に向かって手を出した。


 速人はマルグリットに慰めてもらっているエイリークを連れて二人でマティスの大きな手を握る。


 速人の言わんとする事を察したエイリークは複雑な表情でマティスの手を握る。


 「これで”さよなら”なんてのはゴメンだぜ、おっちゃん。おっちゃん達が嫌がろうと俺たちは何度でもサンライズヒルに行くからな」


 速人はエイリークの次にマティスの顔を見た。

 誰かがこうして二人の約束の証人となってやればマティスも姿を消すような事も無いだろう。

 マティスは笑いながらエイリークと速人の手を握る。


 「ああ。今度こそ本当の約束だ。サンライズヒルで待っているからおつでも尋ねてくれ」


 速人はマティスに次いでエリオットとセオドアの元にエイリークを連れて行く。

 三人は何も言わなかったが、再会を誓う握手を交わした。

 マルグリットもジェナと彼女の子供たちに挨拶を済ませる。

 レミーとアインも両親と同じように挨拶をしていた。


 こうしてサンライズヒルの町から来た六人は先導役の老騎士コルキスと共にサンライズヒルの町に帰って行った。

 朝彼らを迎えに来たコルキスはスウェンスたちの為にお茶会を開いてくれた事で速人に何度も礼を言っていた。

 同行していた彼の甥であるトラッドもエリオットとセオドアを町に連れて来てくれた事で速人に礼を言っていた。


 速人は目を伏せながら彼らに向かって深々と頭を下げる。


 彼らの絆が強固な物であったからこそ今回のお茶会が上手く行ったのだ。

 あくまで速人はその手伝いをしたにすぎない。


 速人は雪近とディーを連れて屋敷に戻る。


 今日は誰もまだ朝食を食べていないのだから。


 それから話はその日の午後に移る。

 速人はソリトンとハンスと共に先日のお茶会で使った食料と道具のお礼を言いにアルフォンスの家に向かっていたのである。

 その日は珍しく曇天続きで大市場への続く薄暗い路地を手荷物を持ったソリトンを先頭に三人は歩いていた。


 「ソル‼それにハンスじゃねえか‼俺だよ、オーサーだよ‼」


 駅近くの中通りからやや垂れた長耳の男が速人たちに向かって走ってきた。

 速人は訝し気な視線を男に向けたが、ソリトンとハンスは笑いながら首を横に振る。

 男は三人の前に到着すると白い息を吐きながら膝の上に手を置いた。

 そしてニヤリと笑う。


 速人は男に向かって無言で頭を深く下げる。


 案外、この時から二人は互いを警戒していたのかもしれない。


 「相変わらずそそっかしいな、オーサー。”同盟”の軍じゃ結構な役職に就いているとイアンから聞いているぞ?」


 ソリトンはまだ息の荒いオーサーに向かって手を出す。


 「勘弁してくれよ、二人とも。これでも俺は昇進しないように努力してるんだからと。お前からも何とか言ってやってくれよ、ハンス」


 オーサーは身体に力を言えれ直すと自力で立ち上がった。


 ハンスは笑いながらオーサーの肩を叩く。オーサーは咽ながらもハンスの歓迎を喜んで受け入れた。


 「だっはっはっは!何を言うておる、オーサー。ワシらはお前さんこそが軍のトップに立つべきじゃと思うておるんじゃ!イアンなんぞが居座ったら下のモンが堅苦しくてたまらんじゃろうが!」


 三人の男たちは再会を祝して笑い合う。

 速人は彼らに気づかれないように地面を確認する。

 そしてオーサーが来た方角をじっと見つめていた。


 (俺の想像通り、あるべき物がない。すると下手人はコイツか)


 速人はオーサーの興味が自分に向けられる前に背筋を伸ばして立った。


 三人はその後、各々の近しい状況について情報交換をする。

 ソリトンとハンスはプロ意識の高い男でこちらの情報を流すような真似はしなかった。

 またオーサーの方もエイリークとダグザの所在を聞いたくらいで特に詮索はしない。

 速人はオーサーなる人物が想定以上に曲者くせものである事を察知する。


 そして三人の男たちの話が一段落ついたところで、オーサーはソリトンとハンスに同行している速人について質問をした。


 「なあ、ソル。もしかしてコイツはアレか?エイリークとマギーがまた野生動物を町の中で飼おうとか言い出したんじゃないだろうな。…イノシシは町の中じゃ飼えないってわかったんだろ」


 オーサーは速人と目線が合う位置まで屈んで頭を撫でる。

 

 速人は愛玩動物のように首を振って喜ぶと地面に転がって腹を見せた。

 オーサーは速人の愛らしい姿に目を細める。

 逆に速人が新人ニューマンの少年である事を知っていたソリトンとハンスは唖然とした様子で二人を見守っていた。


 「あのなオーサー。速人はこれでも新人ニューマンだぞ?顔はイノシシに似ているかもしれんが…」


 オーサーはソリトンの話を聞いて驚愕のあまり硬直していた。


 速人は膝と着物についたホコリを払いながら「やれやれ…」と言いながら立ち上がる。


 「あのな。…そういう事はもう少し早く言ってくれよ」


 オーサーは速人に向かって念入りに謝罪した後、都市の正門に向かって歩いて行った。


 街道でまた盗賊が出没したので防衛軍の幹部と話をしなければならないらしい。


 ソリトンとハンスはノートンの起こした事件を思い出してしまったせいか特に質問をせずにオーサーを解放した。

 速人はオーサーの後ろについて行こうとしたが丁重に断られてしまった。

 オーサーは去り際にポケットからクッキーを取り出して速人に渡す。


 「お前、俺の事を心配してくれたのか?いい奴だな…。これはお礼だ、気持ちだけでも受け取っておいてくれ」


 速人は童子のように喜び早速クッキーを口の中に運ぶ。


 オーサーは満足そうに笑うと正門を目指して走り去って行く。

 その途中で彼は通行人にぶつかりそうになり何度も頭を下げていた。


 ソリトンとハンスは笑いながら彼の姿を見守っている。

 

 一方、速人はオーサーから受け取ったクッキーをかじりながら己の推察がより真実に近い事を確信する。

 それから速人はエイリークの家に帰るまで言葉を発せずに黙々と仕事をこなした。


 「…ただいま」


 速人は帰宅後、大市場から持ち出した木箱を自分たちが部屋として使っている小屋の中に置いた。

 幸いにして木箱は釘を使って組み立てられた物だったので容易に解体することが出来た。

 

 速人は木箱の表面に付着している粉の匂いを嗅ぐ。

 わずかな香辛料の匂いが速人の鼻腔に入り込む。

 そして今度は粉の付着していない面に鼻を当てる。

 香辛料の匂いは微かだが残っている。

 間違いない。誰かが自分の体に付着した香辛料とその出所である木箱を処分したのだ。


 (塗っておいたコリアンダーの量は微量だったはずだ。あのエルフ野郎、かなり出来るヤツだな…)


 その時、速人はオーサーの誰からも気を許されそうな顔を思い出していた。


 速人はアルフォンスとアルフォンスの父親が何者かによって大怪我をさせられた事件を知ってから常に大市場と秘密の地下通路の周辺に気を配っていたのである。

 まだ誰にも話してはいないが特に事件現場には幾つもの罠が仕掛けてあった。

 つまりオーサーという男は速人の仕掛けた罠を潜り抜け、平気な顔でソリトンたちから情報収集を行うほどの胆力を持つ非常に厄介な敵であることが判明した。

 速人は木箱の残骸をすぐに処分してエイリークの家に戻った。

 木箱の代用品は後日にアルフォンスの店に持っていくつもりだった。


 その日、速人はエイリークと彼の家族を注意深く観察した。

 既にオーサーがエイリークに接近している可能性も低くは無い。

 エイリークは英雄としての資質を備えた男には違いないが、身内に対しては必要以上に温情をかける癖があった。


 (俺の予想が正しければ、あのオーサーという男は目的の為ならば手段を選ばない人種だろう。エイリークさんの事を信用していないわけではないが情に絆されて面倒な事になる可能性は否定できない。誰も見ていない場所で殺してしまうのが一番手っ取り早いんだが…)


 速人は両生類のように大きな瞳でエイリークをジロジロと見つめる。


 エイリークとマルグリットはさっきから自分の皿の上に乗っていた野菜をアインの皿に移動させている事がバレたのかと考え、少しだけ怯えていた。


 「野菜うめえー!仕事の後に食べる野菜は格別だぜー!」


 「ダーリンの言う通りさね。お野菜のおかげで若返ったような気分さね」


 エイリークとマルグリットはわざと速人に聞こえるように野菜好きをアピールする。


 速人は一瞬、驚いた顔をすると二人の皿にキャベツとブロッコリーとニンジンの入った野菜炒めを追加した。


 エイリークたちは引きつった笑みを浮かべながら野菜炒めをモリモリと食べ出す。


 速人がカートの前に戻るとレミーが突然、話かけてきた。


 「そうだ。速人、今度はお前も家族で外にメシ食いに行く時はついて来いよな」


 レミーからの突然の申し出に速人は戸惑ってしまう。

 第十六都市は他の自治都市に比べて種族同士の軋轢は少ない方だが、それでも新人ニューマンが食堂に出入りする事など歓迎される事は無いだろう。


 「いや俺は別にいいよ…。俺が店に入ったら皆嫌がるだろうし、エイリークさんだって困るだろ?」


 速人はレミーからの思いがけない提案を聞いて消極的な態度になってしまう。

 実際、何かに苦手な雰囲気でもあった。


 「勝手な事を言うなよ。お前だってもうウチの家族みたいな物なんだから、たまには仕事抜きで一緒にメシ食ってもいいだろ?」


 レミーは少しだけ怒っている様子だった。速人は何も答えられない。

 せめてオーサーの正体が明らかになるまでは動くべきではないと考えていたからである。


 「残念だったな、速人。お前とキチカとディーは俺様の一存で強制参加だ。大体だな、お前も知っている店だから種族がどうとか全然気にする必要はないんだって。なあ、ハニー?」


 「うん。ダーリンの言う通りだよ、速人。アタシらの昔なじみの店だからアンタが行っても誰も文句を言ったりはしないさ」


 エイリークとマルグリットはレミーとアインを連れて速人の前に立つ。


 (駄目だ。ここに長居しすぎた…)


 速人はかつてないほどの絶望感に包まる。

 速人の不安をよそに雪近とディーはエイリークの知り合いが経営する食堂に行ける事を喜んでいた。

 

 深夜、速人は意を決してエイリークを尋ねる。

 仮に速人の口からオーサーが一連の事件の首謀者である事を伝えればエイリークは間違いなく反発するだろう。

 しかしオーサーは説得すれば応じるような人間ではない。

 彼は悲壮な決意の下に己の一命を賭けて使命を全うせんとする狂人の類だ。


 (俺は死ぬ事なんか怖くは無い。だけどこの世には絶対に死んではいけない人間がいるんだ)


 速人は居間のソファでマルグリットと一緒に寛いでいるエイリークの前に姿を現した。


 「エイリークさん、大事な話があるんだ…」

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