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第百八十四話 一行、エイリークの家に到着する

 また遅れてしまいました。しかも話が大して進んでいません。ごめんなさい。次回は十一月十日くらいになると思います。すいません。


 「何?エイリークの家に行くだと⁉」


 ジェナは速人の説明を聞くと怪訝な表情になってしまった。

 

 「いや、それは…」


 「なあ、別なところにしないか?」

 

 エリオットとセオドアも賛同しかねるといった様子である。

 ジェナはサンライズヒルから連れてきた自分の子供たちを見ながら言葉を続ける。


 「小さな悪魔よ。こう言っては何だが、私はあの子たちにエイリークの家を見せたくはない。世の中にあんな屋根しかついていない屋敷がある事やあんないい加減な大人が存在する事を知って欲しくは無いのだ。…死者が集う地獄を住処にしているお前にもこれくらいの事はわかるだろう?」


 ジェナは真剣そのものといった表情で速人に訴える。

 今から約二か月前、速人はエイリークの家にやって来た時に”絶望”という言葉の意味を思い知った。

 隊商”高原の羊たち”の皆と別れ、家までの距離が近づく度にレミーとアインの顔が雨雲のように暗くなっていた事を忘れはしない。

 速人とて最初にエイリークの家を見た時はあまりの汚さに絶句してしまったほどである。


 (ジェナさんの気持ちも分かる。確かに以前のエイリークさんの家は廃屋だった…。しかし今は今後の予定について話し合える場所が必要である事もまた事実。さてどう説明したものか…)

 

 「おいおい。主役の俺様を抜きで話を進めるなよ。何ならここで一番強い奴を決めてもいいんだぜ?」

 

 速人がジェナたちを説得する話題について考えていると暇を持て余したエイリークが会話に割り込んでくる。

 このコーヒーフロートを飲む時にバニラアイスが全部溶けるまで混ぜていそうな無神経な男も自分の生まれた家を悪く言われて気分を損ねてしまったのだろうか?


 速人はエイリークの言葉に耳を傾ける事にした。


 「ケッ‼年から年中、テント暮らしのお前らに言われたかねぇよ‼大体俺様の家はつい最近、そこが豚小僧がリノベーションしたんだよ‼これだから情弱はダッセえな‼ハンッ‼」


 エイリークはジェナを片手で突き飛ばした後、得意気に胸を張る。

 

 「ふぐえっ‼」


 「危ない!ジェナッ‼」

 

 ジェナは吹き飛ばされた直後にエリオットが抱き止めたが威力を相殺しきれず最終的には セオドア→ ダグザ →マティスらの協力が必要となった。  


 ジェナとエリオットは咳をしながらマティスとダグザとセオドアに礼を言う。

 三人は気にするなと苦笑していた。


 「エイリーク。お前の気持ちはわからないでもないがな、強がりはその辺にしておけ。ベックとマティスが大勢の人間を集めてお前の家を修理しようとしたが結局は家の中が汚すぎて何も出来なかったじゃないか。悪魔の呪いがどれほどの力を持っているかは知らないが、もしもお前の家を修理していたらこの辺りの住人は皆、死者になっているはずだぞ。なあ、ダーリン?」


 「俺もジェナの意見に賛成だ。エイリークの家は昔のままだろう。ついでに今思い出したんだが下町の川沿いにテントを張るには丁度いい場所があったはずだ。テオ、マティス、今日はそこで泊まる事にしよう。みんなもそれでいいな?」


 セオドアとマティスは互いの顔を見合わせ、同時に頷いた。


 「まあ、仕方ねえよな。あんな家が今さら変わるとも思えねえし…」


 「左様ですとも、セオドア様。今日は私が心を込めてテントを用意しましょう。みんなも頑張ってくれよ?」


 マティスはエリオットとジェナの子供たちに向かってウィンクをする。

 活発な性格の長女と次女、そしてやや内向的な性格の長男は喜んで返事をする。

 マティスは昔なじみと接する時以外は誰に対しても丁寧な立ち振る舞いをする男だったので子供たちから好かれていた。

 最近では仕事の合間を見つけて町の子供たちに読み書きや計算を教えている。


 「父様、私たち姉弟きょうだいも頑張って手伝うからな」


 「私もいっぱい頑張るからいっぱい褒めてくれよ」


 「…僕も頑張るね」

 

 エリオットは三人の子供たちの頭を順に撫でる。

 基本的に力加減の出来ない男なのでかなり痛いのだが子供たちはエリオットにそれを指摘するとふさぎ込んでしまうのを知っているので笑って誤魔化していた。

 ジェナは遠間から子供たちと夫の心温まる交流を嬉しそうに眺めていた。


 「ああ、頼んだぞ。俺は本当に幸せ者だな。こんなに立派な子供たちに恵まれているなんて。エイリーク、お前も見栄を張らずに俺たちのテントに泊って行け」


 エリオットはサンライズヒルから連れてきた子供たちが自分の意見を聞いてくれた事を確認するとエイリークの方を見てニコッと笑う。

 

 「それが親友である俺様に対する態度か‼制裁ラリアット‼‼」

 

 エイリークはフッと爽やかな微笑を浮かべると通りの反対側まで走り去り、その場から猛スピードで直進してエリオットとジェナと子供たちをラリアットでなぎ倒して行った。


 「エリオ、このド天然野郎が…。速人、こいつらが気絶しているうちに俺の家に連れて行くぞ、いいな?」


 エイリークは目を血走らせながら振り返った。

 そして鼻息を荒くしながら気絶しているエリオットを担ぎ上げる。

 速人はエリオットの長男を、マルグリットはジェナを、マティスが長女と次女を持ち上げてエイリークの後ろについて行く。

 キリーとエマはダグザたちと一緒にその後ろをついて行った。

 

 かくして一行はエイリークの家に到着する。


 エイリークの家の前では雪近とディーとアインが門の前に落ちているゴミを拾いながら世間話をしていた。

 アインはエイリークの姿を見つけると雪近とディーを誘って出迎えに来た。


 「お父さん、お帰り!…アレ?そのおじさんはどこで拾ってきたの」


 「エイリークさん、お帰り。その肩の上にいるのはエリオットさんだよね。えっ…、速人と手荒な事はしないって約束してなかったっけ?」


 エイリークは雑なやり方でエリオットを地面に投げた。


 「ぐえっ」


 エリオットは地面に腹をぶつけて小さな悲鳴をあげる。

 エイリークは「ケッ」と息を吐くと今度はアインとディーの頭を撫でてやった。


 「おうっ、今帰ったぞ。愛しい我が子と居候のヒョロ長っ子。キチカもお留守番、ご苦労だったな。そして、エリオ。そこはベッドじゃないからさっさと起きろ。五秒数えるまでに起きないと永遠に眠らせるから」


 エイリークは親指から一本ずつ指を折って行く。明らかに標準以上の速度で時間を数えていた。

 

 「3…」


 ガバッ!

 エリオットはダウン → 気絶 の状態からわずか三秒で起き上がった。

 心なしかまるで霧吹きを浴びせかけられたかのように顔から汗が出ている。

 子供の頃にさんざん味わった恐怖の記憶を一瞬で思い出したのである。


 「お父さん、こっちのおじさんは誰?」


 アインは上半身だけを起こした状態になっているエリオットを指さして尋ねる。

 エリオットはアインの姿を頭から足まで観察した後、エイリークに感想を述べた。


 「うむ。この子がマギーとお前の子供と言われると何となくわかるが、あまり似ていないな。さっきまで一緒にいたレミーという女の子の方がよく似ていると思う」


 「そりゃどうも。俺様としては自分よりもハニーに似た子供の方が良かったんだけどな(※これを聞いたアインはショックを受けている)。おいアイン、コイツが父ちゃんのイトコのエリオットだ。挨拶してやれ」


 アインは両手を合わせてエリオットにお辞儀をする。

 エリオットもアインに向かって会釈をした。


 「初めまして、エリオットさん。僕の名前はアイン、お父さんの子供です。今日は遠くの町からわざわざご苦労さまでした!」


 パチパチパチ。


 アインの挨拶を聞いたディーと雪近とエリオットは彼の礼儀正しさに感銘を受けて拍手を送る。

 アインは微笑んだ後、再度頭を下げた。


 チッ。


 アインは父親の舌打ちの音を聞いてビクリと震える。

 エイリークは眉間にしわを寄せながらアインを後ろに引っ込めてしまった。

 自分よりも息子が褒められた事が気に食わなかったらしい。


 エリオットはエイリークが精神的に全く成長していない事を目の当たりにして苦笑する。


 「なあエリオ君よ、念の為に言っとくがウチのアインが礼儀正しいのは俺様というお手本があってからこそなんだぜ?かなり重要なポイントだから覚えておいてくれよなッ‼」


 エイリークは乱暴にエリオットの金髪を叩いた。

 エリオットは痛みのあまり涙目になっていたが、ここで異論を挟むとさらにひどい目に遭うのを知っていたので無言で何度も肯いていた。

 アインは二人の間に入って止めようとしたが新しい犠牲者が出るだけなので雪近とディーとエリオット本人から思い止まるように言われる。

 かくしてエイリークによってドラムセットのシンバルよろしく叩かれ続けたエリオットは他の面子が到着する頃にはしっかりと意識を失っていた。


 「エイリークッ‼貴様よくも私の大事なダーリンを虐めてくれたな‼」


 ジェナは屋敷の前に到着すると同時に気絶しているエリオットの前に駆け寄る。

 エリオットは涙を流しながら仰向けになって倒れていた。

 彼が汚れないようにシートと枕が用意されていたのは雪近とディーの配慮である。

 ジェナは夫の様子を確認すると短弓ファストボウに矢をつがえて構える。


 「ケケッ、残念だったな。これはタダのスキンシップなので虐めには入りましぇーん!悔しかったら俺に一発入れてみろよ、チビ子ちゃん」


 ジェナはエイリークに向けて矢を放ったが、不可視の盾によって阻まれてしまう。

 エイリークの”妖精王の贈り物”は”発動すると五回飛び道具を防ぐ”以外には使用制限が存在しないのである。

 年甲斐もなくあっかんべーをして挑発するエイリークをジェナはありったけの憎悪を込めて睨んでいる。


 (そろそろ我々の出番だな、速人君)


 (了解だ、ベックさん)


 ジェナが自身の”妖精王の贈り物”を使う前に速人とベックがエイリークを抑え込んで事態は収束した。

 数分後、速人がエイリークに代わってアインをセオドアたちに紹介した。

 アインは内気な性格だが礼儀正しい少年だったので、セオドアたちは”まさかエイリークの息子が⁉”と驚きつつも好印象を抱く。

 その後、都市の外部からやって来たエイリークの友人とその家族らは自己紹介をする。

 アインは自分と同じく姉に虐げられている同年齢のエリオットの息子とすぐに仲良くなっていた。


 「そしてこれがリニューアルした俺様の家だ。どうだ?羨ましいだろう?悔しいだろう?だが、これが現実だ。不世出の英雄である俺様とモブのお前らとの決して埋まることのない差がここにあるのだ‼ウケケケケケケッ‼」


 あんぐり。


 エリオットとセオドアとマティスは大口を開けたままエイリークの屋敷を見ている。

 ジェナに至っては悔しさのあまり顔を手で覆っていた。

 例外としてジェナとエリオットの子供たちは屋敷を取り囲む大きな門と広い中庭を見て素直に感動していた。


 「テオ。すまないが俺を一度殴ってくれないか?どうやらまだ本調子ではないようだ…」


 「お前の気持ちはわかるけどよ…、多分俺にも同じ物が見えてるって事は現実だぜ。それに門の飾りつけは変わっているけど石材とかは元のまんまだ。間違いない、ここはエイリークの家だよ」


 「仰る通りです、セオドア様。この佇まいはまさしく大親方の立てた旧帝国式の門構えです。若い頃親父と一緒に一度だけ屋敷の修理に来たことがありましてね…」


 戦時中に亡くなったマティスの父親は家具職人であり、大工としてダグザの曾祖父エヴァンスの手伝いをしていたらしい。


 (そういえばサンライズヒルの町の建物もマティスさんが建て直したって言ってたな。家に入った時に手直しが必要な部分があるか聞いてみよう)


 速人は屋敷に関する昔話を聞きながら屋内で修復しきれなかった箇所について幾つか質問することを考える。

 

 「あれ?お隣でお父さんの声が聞こえたけどもう帰ってるの?」

 

 その時、隣に住んでいるソリトンとケイティの夫婦が屋敷の前での騒ぎに気がついてやって来る。


 「エイリーク、もう帰って来たのか?帰りは明日になると思っていたんだが…。もしかして一緒にいるのはエリオとテオとマティス先生とキリーとエマとジェナか。予定より多くなっていないか?」


 ソリトンは全員の顔を見ながら落ち着いた様子で呟く。


 実は速人も最近になって気がついた事だが、ソリトンは生まれつき感情の起伏に乏しく普通の人間に照らし合わせれば「どしぇええええええーーッ‼」というくらいに驚いている。

 ソリトンたちの後ろから現れたアメリアとシグルズは目を白黒させながらエリオットたちの姿を見ている。

 時系列的にアメリアが生まれる直前にマティスは第十六都市から引っ越していたので面識はない。

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