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第百六十七話 拳聖五歌仙、見参‼

 次回は七月十九日に投稿するでおま。近いうちにダグザとかの絵も公開するでおま。ところでおまってどこの言葉でおま。今使ってるのはカプコンのバトルサーキットに登場する主人公の一人、食人植物が使ってたやつなんだけどね。ちなみに俺がつかってたのは「オーストリッチ」って名前のダチョウだ。


 「734。アタシだね。あーあ、今回は頑張ったのに。負けちゃったよー」


 マルグリットは漢数字の書かれた札を持って現れた。

 速人は群衆から猛烈なブーイングを浴びる。

 速人と雪近とディー以外にとってエイリークとマルグリットが当たりクジを引くことは当然の出来事だったのだ。


 レミーは両手を放り出して呆れていたが、逆にアインはさめざめとした面持ちで事態を見守っていた。


 「別に構いやしねえぜ、ハニー。俺様はいつもお前に負けっ放しなんだからよ?ゲハハハッ!」


 エイリークは落ち込んでいるマルグリットに抱きついてキスをしている。

 マルグリットはまんざらでもなさそうにエイリークの頭を撫でたが倫理的な配慮から速人とベックたちによって引き離された。


 続いて速人は次の番号を漢数字とナインスリーブスの数字で「246」と地面に書いた。

 異なる世界の数字はイコールで繋がれている為に誰にでもわかるという仕組みだった。

 この時点で速人はナインスリーブスの簡単な言葉と数字を読み書きすることは出来た。

 

 しかし、いくら待てども「246」の札を持った人間が現れることはない。

 気まずい沈黙が流れる中、レミーがポケットから札を取り出しながら速人の前に現れた。

 ウェーブのかかった母親譲りの赤が入った金髪が陽光の如き輝きを見せる。

 そして、可憐な桜色の唇は父エイリークのようないやらしい笑い方をしている。


 (これが血筋というものか…。レミー、お前の将来が俺は怖いよ)


 速人は成人してエイリーク化したレミーの未来を憂いていた。


 「残念だったな、速人。私は同じ札がもう一枚あるかと思ってわざと出て行かなかったんだよ。246は私だッ!覚えておけ、この雑魚助がッ!」


 べチンッ!


 レミーは速人の顔面中央に向かって札を投げつけた。

 たしかに札には「ニ四六」と書いてある。

 速人はレミーの攻撃的な対応は「ツン期」もしくは「反抗期」の一言で片づけ、次の番号を読み上げる。


 「次は178、178の方はいませんか?」


 速人は人だかりを見渡すふりをしながらアインの様子を見ていた。

 アインはエイリークの長男だけに規格外の幸運を受け継いでいる可能性がある。

 今にして考えるとこれはもう最初から五人枠のうち四人は決まっていたのかもしれない、という反省の念もあった。

 しかし今やっているクジはあくまでエイリークたちの側の都合であり、エリオットとセオドアがそれをどう受け取るかはやはり彼らの判断に委ねられる。

 話を進めて行けば茶会が行われた当時のメンバーを全て集めたところでスウェンスが心を閉ざしてしまえば全ての努力は水泡に帰すのだろう。

 

 速人は世の中のままならぬ複雑さに内心嘆息していた。

 そんな時、シグルズが速人の近くまでやって来て小声で囁いた。


 「あれ?…もしかしてシグが178なのか?」


 「いや俺じゃねえよ。俺は父さんと母さんと同じでクジ運とか弱いし。今はアインの話をしに来たんだけどさ、アイツはエイリークおじさんたちみたいな馬鹿ツキを持ってないんだ」


 シグルズは親指でアインをさす。

 アインは自分の手元にあるクジを見つめながら、花を咲かせる前に枯れてしまったチューリップのように萎れていた。

 とてもではないが声をかけられるような状態ではない。

 ソリトンとケイティとアメリアが慰めようとしていたが元には戻らなかった。

 結果として知らなかったとはいえ残酷な事をしてしまったのかもしれない。

 

 シグルズは速人にアインの事情を説明すると彼を慰める為に戻って行った。

 以前はエイリーク一家の引っ越しのせいでギクシャクしていたアインとシグルズだったが今の屋敷に戻って来てからは良好な関係を築いていた。

 

 速人が一人合点していると別の方角から聞き覚えのある男の叫び声が聞こえて来た。

 

 声の主は、こういう場所で大きな声を出す可能性の低い男ダグザである。

 ダグザは肩で風を切りながら自信満々の表情で速人の前に現れる。

 そして速人に「一七八」という番号札をこれみよがしに叩きつけた。


 「どうだ、速人!ついに私にも運が回ってきたぞ!エイリークと知り合ってからの苦節三十年(※ダグザは現在三十五歳)、ついに私にも晴れ舞台なるものが巡って来たのだ!これより今日は私の立志の日とする!うははははっ!」


 パチパチパチ、と大勢の人間がダグザに向かって拍手を送る。

 エイリークとマルグリットも涙を流しながら兄貴分の栄光を寿いでいた。

 ダグザは余程嬉しかったのか周囲の生暖かい対応を気にせずに両手でVサインを決めながら、泣いている。

 ダグザの妻アレクサンドラもハンカチで涙を拭っていた。

 

 速人は何となく気になってシャーリーの方を見たが、彼女もまた他の人間と同じく拍手をもってダグザを祝福していた。

 この場にいる人間の中で唯一、騒ぎに参加せず孤高を保つアルフォンスに速人は事情を聴くことにした。

 アルフォンスはかなり渋い表情のまま速人に目を合わせずに答えた。


 「アルフォンスさん。ダグザさんってひょっとして今まで一度もクジとか当たった事無いの?」


 「まあな。ガキの頃からエイリークと一緒にいれば誰だってそうなっちまう。それでマギーってのもエイリークと同じくらいの幸運の持ち主だかな。まあダグはアイツらの中で最年長だから色々と我慢しなきゃならないことが多くてよ…」


 アルフォンスは万感の思いを込めて目を閉じる。

 かつてエイリークが帝国との衝突を避ける為に、帝国を実質的に支配するナル家の当主アドダイ公王に会いに行った時の話である。

 エイリークはアドダイ公王の弟ルジャドが自分よりも背が高いという理由でレスリングを挑んだらしい。

 その時に同行したダグザは宿敵であるナル家のテレオス王子に頭を下げて全面戦争の危機を回避したらしい。

 第十六都市にエイリークたちが帰還した時、ダグザはエイリークにその時の出来事を冷やかされてフライングクロスチョップを決めた。

 以降ダグザはエイリークと外国に行く度に目の下の隈が濃くなったという伝説が残っている。


 「ねえ、アルフォンスさん。前から不思議に思ってたんだけどあのおっさん(エイリークさん)って何で逮捕されないの?」


 「…。結果オーライって話になっちまうが、悪化の一途を辿っていた帝国との関係がエイリークとダグのおかげで良好になってな。まあ親方とダールさんは気合の入ったドワーフ嫌いだから仕方ねえとして、あの凸凹コンビが外に出かけると必ず上手く行っちまうんだよ。で、ここからが問題なんだが。ダグが万年底辺を克服したって事はだな、つまり万年底辺を独占しちまうってわけだ。正直、俺は後が怖い」


 速人は誰もいない王の間で玉座に座るダールの姿を想像して吹き出してしまった。

 アルフォンスはダールがダグザ同様にエイリークの父親マールティネスに悩まされていた事を知っている為に笑うわけにはいかないといった様子だ。

 そこにアルフォンスの息子ケニーは現れた。右手には「七六五」と書かれた札が握られている。速人の視線に気がついたケニーは札を手の中に隠してから最後の番号について尋ねた。


 「速人。ダグ兄の次のヤツの番号をさっさと教えろよ。ダグ兄が当たったって事は俺にも当たる可能性があるかもしれないってことだろ?」


 (もしケニーさんが当たってもシャーリーさんに奪われるだけだと思うが…。夢は夢のままにしておく方がいいだろう)


 速人はケニーに笑いかけると(※この時点でケニーがそうではないことをアルフォンスは気づいたが何も言わなかった)雪近たちのいる場所に戻った。


 「速人。最後のこれ、ちょっとヤバくないか?」


 「これはいないっていうか…当たった人がズルしたって言われちゃうよ」


 速人同様に漢数字を読むことが出来る雪近は引きつった笑いを見せながら最後の番号を見ていた。

 またナインスリーブスの数字を読むことが出来るディーも微妙な表情で最後の番号を見ている。


 速人はナインスリーブスの数字で「777」、また漢数字で「七七七」と地面に書いて最後の当り番号を発表する。

 数字を見た瞬間に、人々は大音量のブーイングを飛ばした。


 「777って絶対に無えよ!速人、手前ェクジに細工しただろ⁉俺様だって引けねえよ‼逆に引いたヤツが恐えよ‼」


 「ダグ兄が当てた後に777って絶対に無いわ。速人、オバサン見なかった事にしてあげるからもう一回引き直した方がいいんじゃないの?」


 既にサンライズヒル行きが決まったエイリークとマルグリットが文句を言いに来た。

 しかし、このクジは一から九までの数字をランダムに選んで三ケタの番号にしてから漢数字とナインスリーブスの数字の二種類を作ったものである。

 二種類のクジには対応しない番号は存在しない。つまり今、速人が持っている「777」に対応した「七七七」のクジはこの中の誰かが必ず…。


 「速人君。私だよ」


 ベックが速人の前に札を持って現れる。

 そして落ち着いた動作で胸ポケットから「七七七」と書かれたクジを見せた。

 結論から言えば、ベックが最後の一人に選ばれた事に誰も反対することは無かった。

 ベックは公私を通じて交友関係が広く、礼儀正しい上にエリオットとセオドアとマティスとの仲も良好である。

 さらにあまり目立った存在ではなかったがアルフォンスと並んでエイリークの父の世代では”高原の羊たち”の主要メンバーとして活躍していた。

 加えてエイリークが暴走した場合は得意の関節技でおとなしくさせることも可能である。

 速人の観点からすればダグザと並んで適任と言うべき人選だった。


 いつもの温厚な顔をしているベックの前にアルフォンスが現れる。


 「おう、ベック。マティスの野郎だが首に縄をつけて引っ張って来いよ。アイツは多分、自分が出て行った後にメリッサが死んじまった事を絶対に知らねえ。あの恩知らずのデカブツに自分のしでかした事の重さを教えてやれ」


 アルフォンスはベックの胸を拳で叩いた。

 中肉中背で猫背の為にベックは肥満と勘違いされているが、実はハンスとエイリークに匹敵するほどの筋肉親父である。

 ベックは温厚な顔から一転して厳しい顔つきでアルフォンスの肩を叩く。

 少し力の加減を間違ったせいかアルフォンスは苦笑していた。


 「任せておけよ、アル。あの頑固者は私が力づくでもここに連れて来てやるさ。それで今度はここのみんなでサンライズヒルに墓参りに行ってやろうぜ。一人だけカッコつけやがって。ガキの頃、いじめっ子(※主にマールティネス)から誰が守ってやったと思ってるんだ」


 ベックはガラにも無く豪快に笑った。


 完全な人選ミスだった。


 速人はダグザと供に事情を説明して、ベックに納得してもらうことにした。

 必死の説得の甲斐もあってかベックは顔を赤らめながら首を縦に振ってくれた。

 速人はダグザにも礼を言う。


 かくして速人は五人の仲間を連れてサンライズヒルの町に行く事になった。


 次に再び全員を集めて、明後日に大市場に再び集合する話を始める。

 スウェンスの話も大事には違いないがエイリーク不在の間に事件が発生する可能性も無いわけではない。

 綿密な相談をした上で確実な連絡手段を考えておく必要がある。


 「ンなモン要らねえよ。今すぐ行くぜ。俺様にはわかる。エリオとテオは今か今かと俺様たちを待っているに違いねえぜ。なあ、ハニー?」


 「そうに違いないね、ダーリンの言う通りさ。きっと今ごろ焚き火の薪木が無くなって自分たちの服を燃やして泣いているはずさ」


 速人はエイリークによってヒョイと後ろから持ち上げられた。

 そして荷物のように肩に担ぎ上げられる。

 速人が本気で暴れれば逃走も可能だったが、周囲の人間たちがエイリークに期待の眼差しを向けていることに気がつき止めることにした。


 「薪木の話の真実は恐いから聞かないけどさ(※真実 = エイリークとマルグリットが全員の服を焼いて林を焼いてしまった)。エイリークさん、本当にいいんだな?今のエリオットさんとセオドアさんが昔と同じじゃなくても、本当に会って後悔しないんだな?」


 最期にこれだけは聞いておかねばならない事だった。


 速人はエリオットたちとエイリークの絆を周囲の人間に聞いた範囲でしか知らない。

 速人が知っているのはサンライズヒルの町の住人であるエリオットだけだった。

 今の姿に幻滅するかもしれない。

 逆にもう二度と会いたくなくなる関係になってしまうかもしれない。

 全てを決めるのはエイリークたちであり、速人は二人を導き、引き合わせることしか出来ないのだ。

 

 エイリークは蒼い瞳に陽光の如き光をたたえながら静かに語る。


 「お前に言われるまでもねえ。結局、あの時二人が姿を消した時に色々と理由をつけて放したのが全部失敗だったに違いねえ。これは全部、俺様が背負うぜ。だからな爺ちゃんが一人で全部抱えて、一人で死んじまう前にあの二人を説得する」


 エイリークは速人を地面の上に置いた。

 速人はもう一度、エイリークの瞳を見る。


 (いつの話かは思い出せない。だが俺はこのエイリークさんの目を見たことがある)


 速人はエイリークに背を向けて大市場の方に向かって歩き始めた。


 「わかった。これから第十六都市からサンライズヒルの町に通じる地下通路に案内するよ。上手く行けば今日中に到着するから来てくれ」


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