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プロローグ 17 その頃、宿営地では……

次回は9月8日に投稿する予定です。

 場所は変わって、調査隊の宿営地。


 いくつものテントが立っている場所から少し離れた広場で二人の大人が言い争っていた。


 一人は金色の長髪、額には赤いバンダナを巻いた偉丈夫エイリークだった。もう一人はエイリークよりも頭一つ分、小さいが女性らしさと頑強さを兼ね備えたエイリークの妻であるマルグリットだった。

 美人は怒ると恐い、という言葉を体現するような剣幕でなさけない顔をしたエイリークに食ってかかっている。


 「だからアタシが連れ戻しに行くっていってるだろ!エイル、そこをどきな!」


 「だからさ、ハニー。そっちこそ聞いてくれよ。俺たちの子供たちもそろそろ巣立ちの時というか、たまには冒険してみたいとかそういう気分になったわけでわかるだろ?」


 エイリークは前髪をかき上げる。そして、笑顔で親指を立てた。

 目の前には猛獣のような顔をしたマルグリットが腕を組んで立っていた。

 状況を簡単に説明すると子供たちを連れ戻しに行くと言ってきかないマルグリットをエイリークが引き止めようとしているのだ。


 「ホラ、俺たちにも一人前としてあつかって欲しくてあっただろ?そういう時がさ。だから今大人になった俺たちは子供を見守らなくちゃいけないんだ。ね?」


 「ああ、わかったよ。とりあえずアンタと話にならないということがねえ」


 そしてマルグリットを相手に下手な言いわけをしたばかりにエイリークはズタボロにした。

 周囲の仲間たちは「その辺で許してやれよ」と止めに入ろうとしたしたが、怒り狂ったマルグリットに睨まれただけで引き下がってしまった。

 お互いつき合いが長い為に、すぐにわかってしまうのも難儀な話である。

 そんな中、ダグザは咳払いをしながらエイリークとマルグリットの間に入る。

 成功率はかなり低いがこういう時に二人を諫めるのはダグザの仕事だった。

 マルグリットはエイリークの襟首を掴んで、まさに止めの一撃を入れる直前という状態だった。


 「マギー、そろそろ止めなさい。子供たちが勝手に出て行ってしまったことは仕方ない。今はソリトンたちを信じてここで待つ他はないと思うのだが?」


 ギロリ。そんな音が聞こえたような気がした。

 マルグリットの血走った目を向けられたダグザはそのまま黙り込んでしまった。

 鉄鎖を引き千切りかねない強力で首根っこを掴まれながらながら二人の様子を見ていたエイリークは「やっぱダグじゃ役に立たねえ」と愚痴をこぼした。

 その時、出入り口から大きな男が後ろに仲間を連れて現れる。

 大男は肩に魔物の死体を担いでいた。

 大きな耳と細い目、馬のような長い顔。伸びた水かきつきの手足。緑色の体毛。水キツネと呼ばれる魔物の死体だった。

 大男は地面の上に魔物を死体を置いた。


 「待ってくれ、マギー。やはりエイリークの言うことは正しい。少なくとも俺たちはここを離れるべきじゃない」


 「お前は、明訓の山田太郎ッッ!!!」と思わず叫んでしまいそうな容貌の男だった。

 男の名前はハンス、シエラの父親である。

 今回は妻のモーガンと一緒に調査隊に参加している。

 ハンスは地面に置かれた水キツネの死体を指さした。腹部の毛が生えているあたりに引き裂かれたような傷がある。


 手負いの獣か。考えようによっては腹を空かせた獣よりも性質たちが悪い。水キツネの死体を見たマルグリットの視線も厳しいものになった。


 「つまり今後はここを狙ってくることがあるってことだね」


 ハンスとモーガンはほぼ同時に頭を縦に振る。モーガンの様子は特に変わってはいないが、心の中ではすぐにでも愛娘のシエラを助けに行きたくて仕方ないというものだろう。

 マルグリットは大きく息を吐いて、頭の中の熱気を追い出そそうとする。

 結局、マルグリット自身もレミーとアインの身を案じるあまり冷静さを失ってしまったのだ。


 「その通りだ。お前の気持ちもわからんではないが、怪我人もいる、今はソルたちを信じて宿営地を守ろう」


 「ハンス、モーガン。悪いね。そっちも大変なのにさ」


 ハンスとモーガンはまたも一緒に頷いた。


 その時、入り口の方からソリトンの声がした。マルグリットたちは倒れたままのエイリークを置いて入り口に移動した。


 「ダグ。速人が子供たちが行った場所を見つけてくれた。そこは出入口が大人では通れないような小さな穴で、かなりの深さがある。速人が子供たちを見つけ次第、出入口まで誘導してくれると言っていた。そこで俺たちは上で子供たちを引き上げる準備を用意したい。道具の中に縄梯子か、長くて頑丈なロープを持ってきたか?」


 ダグザは軽い既視感に眩暈を覚える。

 大人が入って行けないような危険な場所に子供たちが出かけるというのは幼い頃にダグザたちも似たような経験があった。

 ダグザは気を取り直し、倉庫番をしている仲間に今必要な道具があるかどうかを尋ねる。

 結果、縄梯子は無かったがロープは持ってきたという報告を受けた。

 洞窟内の照明関係、ロープの強度は魔術である程度は補うことが出来る。


 「ソル、私も現場に同行しよう。こんな時だが、おそらく私の力が役に立つはずだ」


 ダグザは落ち着いた様子で言った。

 消えた子供たちの中にはソリトンの息子もいる。

 ソリトンは謹厳実直で頼もしい男だが、冷静さにも限度というものがあるだろう。


 「ああ、頼りにさせてもらう。速人にもダグを連れて来い、と言われたからな。やはりダグ兄は頼りになる」


 「変な持ち上げ方をするな、ソル」


 あまり褒められることに為れていないせいか、ダグザはさっさと出て行ってしまった。

 救出用のロープを手渡されたソリトンと他の仲間たちは先に行ってしまったダグザを追いかけて宿営地を後にする。


 「お父さん、気をつけて行ってください」


 「ソル。ダグ兄と子供たちのことを頼んだよ」


 弟のシグのことを心配している為か、アメリアの声には精彩が欠けていた。

 マルグリットの声もまた煮え切らないような印象を受けた。


 「ああ。まかせておけ」


 ソリトンは二人を励ますようにいつもより強い調子で返事をする。アメリアとマルグリットが少しだけ驚い顔をしている。

 ガラでもないことはするべきではないな、とソリトンは苦笑する。

 その後、ハンスたちにも声をかけられながらソリトンたちは再び、速人の入って行った穴のある場所に向かった。


 「速人。絶対に許さん。誰が一番か、はっきりさせてやらねえとな。へへへ」


 失意の中、項垂れたままのエイリークを残して……。

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