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第百三十六話 報告終わり。そしてダグザの祖父の家に行く。

遅れてすいません。次回は三月七日に投稿します。


 

 過去に偉大な功績を残した魔術師たちは皆、強い魔力を宿した魔晶石を持っていた。

 ダグザの父ダールも例外ではなくルギオン家の秘宝の一つ”トパーズ”の魔晶石を祖父スウェンスから継承している。

 ダグザは幼い頃から父親の部屋に”トパーズ”を見せてもらった経験があるが、ダールは決まってダグザに”魔晶石を持つのに相応しい力を得た時に譲る”と言っていた。

 そして三十年以上経過した現在(※ダグザ35歳、エイリーク33歳)でもダールは同じ事しか言わない。

 最近はいい加減、ダールが生きている間は自分には渡さないつもりつもりではないかと疑っていた。

 速人はさも”わかりますよ、そのお気持ちは”といった素振りで慈しみに満ちた視線をダグザに贈る。 

 しかし、ダグザは何となく胡散臭さを感じてそっぽを向いてしまった。


 (チッ、この勘の良さは厄介だな‼)


 …速人は小さく舌打ちをする。

 ダグザの懐柔に失敗した速人は渋々と七節星との戦いについて説明した。


 「全身に金色の産毛を生やしたエイリークさんくらいの背丈の、全体的に”濃い”デザインの男が突然俺の目の前に現れて問答無用で宝石を寄越せと言ってきましてね」


 ダグザは速人に言われた通りの人物を想像し、絶句した。

 以前にエイリークが全裸に近い姿で金色のストールをかけて軍の式典に参加した事があった。

 当時ダグザは父ダールと一緒に他の関係者に頭を下げて歩いたという苦い記憶が残っている。

 速人は額に青い線がたくさん出ているダグザの姿を見て、エイリークを物の例えに出すことは控えようと考えていた。

 ダグザは咳払いをした後、頭を横に振って忌まわしい記憶を頭の中から追い出した。


 「その変人がたった一人で機神鎧ヴォーグを連れていたのか?普通は本体を操作する役割の術者と動力を管理する役割の術者と全てをメンテナンスする役割を持つ術者が付いているはずなんだが?」


 ダグザの知る限りでは、機神鎧ヴォーグの最大の特徴としてゴーレムなどの一般的な使い魔とは異なり専任の術者以外の命令は受け付けないというものあった。

 以前に帝国の友軍が連れてきた機神鎧ヴォーグは操縦手、動力管理者、修理工が常にくっついて機動していたのだ。

 正直、戦争では敵軍を威圧する以外では役に立たなかったが、ダグザはダナン帝国の大貴族ナル家の保有する技術力の高さに感心したものだった。


 (いくら魔法が存在するファンタジー世界でも、いきなりガンダムは出て来ないという事か…)


 逆に速人は三人の人間が巨人の周囲でせわしなく動いている場面を想像してげんなりしていた。


 会話再開。


 「まあね。その機神鎧の名前は”緑麒麟”っていうんだけど何か心当りとかある?」


 速人は全身の色が緑と白が主体の機神鎧の姿を思い出しながら語った。

 ダグザには黙っていたが七節星ナナフシの連れていたカミキリムシに似た頭部を持つ機神鎧の複眼には明らかに知性と意志のようなものが感じられた。

 つまり機神鎧に七節星ナナフシの魂が憑依するまでは緑麒麟の意志で速人を攻撃していたことになる。

 この場でそこまで説明しなかったのは情報量の少なさゆえだった。


 「ふうむ、”緑麒麟リョクキリン”か…。まるで聞いたことが無い単語だな。それもお前が住んでいた世界と関係する言葉なのか?」


 「麒麟ってのは、まあ天馬の一種だな。龍の仲間の一つって考える説もある。まあその機神鎧と七節星ナナフシとの戦いに応じたのは俺の勘なんだが、あちらさんも最初から話し合いで解決する気は無かったみたいだから正当防衛だったと思ってくれよ?」


 「正当防衛ねえ…。お前が言うと怪しいものだが一応信じてやろうじゃないか」


 ダグザはニヤリと笑ってみせる。

 信用どころか借りを一つ作ってやったと考えているのだろう。

 速人はやりにくさというものを感じていた。


 そして話はエリオットとセオドア、そしてポルカ、トマソンたちを巻き込んでの戦いに発展するところまで進む。

 途中、ダグザは何度か立ち止まって歩くペースを落とすように行って来た。

 ここ数日、エイリークと一緒に上・中階層の有力者たちに会って交渉をしていたダグザが疲れていることを知っていた速人はベンチを見つけて座るように勧める。

 ダグザは息を切らせながら「面目ない」と申し訳なさそうに頭を下げていた。


 「最初は適当に戦って逃げるつもりだったんだよ。だけどディーがエリオットさんたちを連れてきちゃってさ。七節星ナナフシも理由はよくわからないけど切れっぱなしでさ、そのまま総力戦になったんだ。お茶をあるけど、飲むかい?」


 ダグザはすぐに頭を下げ、両手を出してきた。

 速人は水筒の蓋を開けてダグザに渡した。

 ダグザは目を輝かせながら受け取ると、水筒の中身を一気に飲み干してしまった。


 (ダグザきゅんってば、仔犬みたいで可愛い)


 速人はダグザの年齢(※35歳)に似合わぬ性急さに愛らしさを覚えた。

 ダグザは速人の生暖かい視線に気がつくや否や手で追い払う動作をする。


 後で聞いた話では子供の頃から周囲から本人とって不本意な形で愛され続けたせいで苦手意識が出来てしまったらしい。


 「まあ機神鎧を撃退したというのだからお前の戦闘力は大したものだと思うぞ。ナナフシ?だったか、彼と緑麒麟という機神鎧はどうなったんだ?」


 この時、ダグザは機体が残っているような状態ならば早速ウィナーズゲートの町に向かって回収するつもりだった。

 第十六都市を守る側の人間としてナナフシという怪人を捨て置くつもりは無かったが、技術者として実在する機神鎧に触れてみたいという願望もあったのだ。

 ダグザは再び、つぶらな瞳を速人に向ける。


 しかし…。


 「七節星ナナフシは戦っている最中にさ、魂だけ機神鎧に乗り移ったんだよ。戦いが終わった時に仲間が現れてまんまと連れて行かれた。機神鎧はバラバラになるまでぶっ壊して主動力の緑神龍だったかな?それを壊したら全部消えちまったな…」


 速人の話を聞いた直後、ダグザは真っ白な灰になってしまった。

 人間の魂が機神鎧に乗り移るという話にも驚かされたが、機神鎧を完全破壊してしまっては自身の工房に運んで調べることなど出来るわけもない。

 未知の技術を研究する機会はまた今度の機会ということである。


 「…。話の内容から察するに緑神龍というのは魔晶石の事か。実物を見ないことにはわからないが敵は途方も無い技術を持った連中だな。しかし敵側はこちらを遥かに凌駕するような力を持っていながらデボラ商会のような寄せ集めを使っているんだ?…少し物騒な考え方になるが我々のところに交渉に来てもおかしくはあるまい」


 「まあ、その前に七節星ナナフシの仲間がデボラ商会にノクターン公国の武器を渡しているんだけどね。これサンプルだから」


 速人はデレク・デボラから取り上げた短刀をダグザに渡した。

 ダグザは周囲の視線を気にしながら短刀を観察している。


 (なるほど。よく出ているがこれはノクターン公国製のものを装った贋物だな。これをデボラ商会に譲渡した人間は背後にノクターン公国の存在を匂わせることが目的だったということか)


 ダグザはハンカチで包んでから短刀を速人に返した。


 「速人、残念ながら”これ”は良く出来た贋物だな。刀身や柄の部分に使われている印章には岩から削り出した粉を使っている。エルフの開拓村にいたお前ならば当然知っているとは思うが、エルフの連中は山で鉱石を掘り出すことを極端に嫌う性質がある。ノクターンはオベイロンやゴブニュの信徒が多い国だ。間違っても錬金術で強化された鉄製の武器が出回ることはないだろう」


 速人は道具袋の開けて短刀を戻した。


 (敵の本拠地はレッド同盟にあるものとばかり思っていたんだがな…。そこまでは甘く無かったか)


 ダグザの意見は想定内だったが、少なからずとも速人の推論が的外れだったことには違いない。

 エイリークたちを説得してノクターン公国まで乗り込む予定だったのである。

 敵の協力者は同盟と自治都市と帝国を自由に移動することが可能な人物であることには違いないが、レッド同盟の内部を拠点としている可能性は低くなってしまった。

 速人が今後の対策について考えているとダグザが機神鎧との戦いについて質問をしてきた。


 「そういえばお前は機神鎧を破壊したと言っていたが、まさかそのヌンチャクで壊したのか?昔私が見た機神鎧は図体の大きさと鈍重さが目立っていたがそれでも頑丈さだけはかなりのものだったぞ」


 ダグザは帝国製の人形にそのまま鎧を着せたような巨大な姿を思い出しながら語る。

 上半身の構造は人間に近いものだったが、膝が無い棒のような脚部だった。

 さらに脚そのものを動かしているのではなく脚にくっついている補助輪に魔力を流してノロノロと動いていたものだと記憶している。

 しかし機神鎧が身に纏っている装甲部分だけは熟練のドワーフの職人が鍛造したものだけあってバリスタ、モーニングスター、対軍団用の儀式魔術を何度も防ぐほどの頑健さを誇っていた。

 ダグザとて速人のヌンチャクの威力は嫌というほど知っているが、それはあくまで対人用に特化したもので巨大な機神鎧が相手では有効な手段に為り得ないと考えている。(※昔エイリークが機神鎧に斬りかかって吹き飛ばされている)


 「まあそこはエリオットさんたちの協力もあってね。ノクターン公国の武器とか、”妖精王の贈りギフト”を使って協力してくれたんで何とか倒すことが出来たんだよ」


 「エリオが”妖精王の贈りギフト”を人前で使ってくれたのか…。そうか。お前はよほどエリオに信用されているんだな」


 ダグザは仲間の下を去る直前に見せたエリオットの寂しげな横顔を思い出しながら感慨深げに語った。


 エリオットはエイリーク同様にリュカオン族の出身だったが、”妖精王の贈りギフト”の存在については否定的だった。

 リュカオン族は眷属種ジェネシスには珍しく”妖精王の贈りギフト”に対して肯定的であり、特に名家の者は”持たざる者”を冷遇した。

 エリオットの持つ”戦神の飛礫タスラム”は名家の御曹司としては及第点の”妖精王の贈りギフト”だったが、彼の親友セオドアの持つ”微睡みの神酒ネクタル”は卑怯者の”妖精王の贈りギフト”として忌み嫌われていた。

 幼いセオドアが生傷を作って皆の前に現れる度にエイリークとマルグリットがセオドアの実家まで文句を言いに行った事をダグザは今でも覚えている。

 結局、戦争が長引くにつれて実家と仲違いするようになったエリオットは”戦神の飛礫タスラム”を使わなくなってしまった。


 (敵の力が強大だったとはいえ、エリオが信念を曲げるとはな。おそらくはエリオとテオの心を動かすような事件があったのだろう。そして私は断言する。速人はエリオとテオの居場所を知っていると。事情があって話さないのだろうがいずれ絶対に口を割らせてやろう。小僧めが、大人の無茶を舐めるなよ…)


 ダグザは何かを言いたそうな目つきで速人を見ていた。

 しかし、速人は気づいていないフリをしながら水筒をバスケットの中に戻している。

 即興で吹いた下手くそな口笛がダグザの怒りの炎をさらに激しいものに変えた。


 「ねえ。今日の晩ご飯の準備もあるからさ、そろそろ移動しない?それともここで野宿して行くの?」


 「ノロマで悪かったな!全くエイリークといい、お前といい何かと私を足手まといのように言う!私はまだまだ若いッ!」


 速人はわざと挑発するような言い方をするとダグザは「フン!」と鼻息を荒くしながら一気に立ち上がる。

 そして都市の西側に続く大きな門まで大股で歩き出す。

 ダグザの生来の鋭い目つきと目の周りの隈が相まってかなり怖い顔になっていた。

 近くを通りかかった住民たちが逃げるように離れている。

 速人は怖い顔をしながら早いペースで歩き続けるダグザの背中を追いかけることになった。

 

 速人はダグザを追いかけながら、数百メートル先にある大きな門を見ていた。

 「金樹門」と呼ばれる一際大きな門の先にはダグザの祖父が住むレプラコーン区画に到着する。

 現在の第十六都市には角小人レプラコーン族以外の他の眷属種ジェネシス融合種リンクスにも開放された商業区、工業区が存在するが技術レベルの高さを競うならばレプラコーン区画が最高峰であると速人は聞かされている。

 金樹門は第十六都市の建設に関わったドヴェルク族(※一般的にハイ・ドワーフとして知られる種族。現在、直系の子孫は確認されていない。ちなみにダナン帝国の後続がドヴェルクというのは嘘)が建てたものをダグザの曾祖父エヴァンスが修理した建物らしい。


 ダグザは立ち止まり、黄金の世界樹が描かれた黒い門を見ていた。

 しばらく時間が経過してもダグザは動こうとしなかったので速人はその理由を尋ねてみることにした。


 ダグザは苦虫を嚙み潰したような顔でいつもの自分の非凡さについて愚痴り始める。

 速人は時間の無駄を覚悟しながらダグザの泣き言につき合うことにした。


 「ふんっ。私だって本当はわかっているさ、自分がどれほど駄目な人間かくらい。曾祖父、祖父、父のような偉人に比べれば駄目駄目だってくらいわかっているんだよ。どれほど年を取っても周囲は「ダグザ坊ちゃん」、「ダグザ坊ちゃん」って…」


 そこまで行ってからダグザは大きなため息をつく。

 ダグザはしゃがみ込んでふくらはぎのあたりを撫でている。

 速人はやるせない気持ちになりながらその先を聞いてやることにした。


 「それで要点は?」


 「この際だから乗り合い馬車を使おう。最近全然歩いていないから足が猛烈に痛い」


 ダグザは赤面しながら消え入りそうな声で告げる。

 速人はダグザが肩からかけていたカバンを持って門の近くにあるベンチまで移動した。

 ダグザは先にベンチに座ると靴下を脱いで左足のマッサージを始める。

 運動不足というわけではないが、最近は長時間デスクワークばかりなので足を痛めることが多くなってしまったそうだ。

 ダグザが足を休めている間、速人は門の近くに出向いて馬車が来ていないか確かめていた。

 その時、速人はレプラコーン区画に戻る予定の職人に馬車が立ち寄る話を聞いたのでダグザに伝えに行った。


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