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第百八話 話題スパイラル現象(※この話にはよくある)

 最近は遅れまくってすいません。頑張ってはいるのですが結果が出ないのです。とにかく頑張りますので読んでくれている皆さま、誠にもうしわけありません。

 というわけで次回は10月7日になると思います。すいませんでした。


 エイリークは速人の背中を踏み台にしてディーに飛び掛かる。


 ディーは雪近に助けを求めながら部屋の外に逃げようとするが、夜叉猿にも引けを取らない跳躍力をもって一瞬のうちにディーの真上に覆いかぶさりタコ殴りにした。


 (そういえば宮本武蔵って夜叉猿の祖先みたいな生き物に食い殺されてる絵が無かったっけ?)


 速人はエイリークの鉄槌と膝蹴りを食らってボコボコにされているディーの姿を見ながら元の世界で愛読していた漫画の一場面を思い出していた。


 ※ 設定の話になるが、速人は2010年の日本からやって来た少年なので当時は範馬刃牙の連載中ということになる。そう速人は勇次郎と刃牙の親子対決の決着を知らないのだ。


 速人が最大トーナメント編の話を思い出している頃、ディーはエイリークの裸締めによって死の一歩手前まで追い詰められていた。


 「速人、助けてよ。エイリークさんが俺に八つ当たりを…」


 エイリークは額に血管を浮かび上がらせながらディーの首を絞め続けた。

 時間の経過と共にディーの顔が真っ青になっている。


 (あともう少しだけ苦しめばコイツの空気の読めない発言が減るのだろうか)


 速人は今までディーの余計な一言で事態が悪化した出来事を時系列順に思い出していた。


 ディーは最後の力を振り絞ってエイリークの腕を除けようとするが、そこは乙女の如き細腕と力自慢の剛腕の差ゆえか微動だにしない。

 それどころかもがき苦しむディーの姿を見てニタニタと笑っている。


 エイリークとは「天賦の才」と「不断の努力」と「下劣な性格」の三本柱によって支えられた最悪の男だった。


 「ていっ」


 速人はかけ声と共に飛び上がり、空中で一回転してから右の踵をエイリークの首のつけ根に叩きこんだ。

 ダウン攻撃仕様のフライングニールキックである。

 蹴りの威力は大したものでは無かったが(※あくまでエイリーク基準。普通の人なら首の骨を折って死亡している)それでも踵が急所に直撃していたのでエイリークは「えぐうッ⁉」という間抜けな声を上げると白目を剥いてしまった。

 

 エイリークのバックチョークから解放されたディーは必死の形相で速人の後ろに引っ込んでしまった。


 速人はディーに冷水の入ったコップを渡してやると今度はエイリークの背中から喝を入れて元に戻してやった。

 

 こうして遺恨だらけの状態で四人は相対することになった。


 「ところでエイリークさん、こんな夜更けに何の用?俺たち、夜食の途中なんだけど」


 「速人、テメエ最近ちょっと調子に乗ってねえか‼この俺の美ボディの麗ネックに醜キックをかましやがって…。お前のせいで明日ソルやダグが俺様にどんな事されるか今から楽しみにしておくがいいぜ。おい‼キチカ‼ヒョロ長(※ディーの事)‼俺様にも食べ物持って来い‼」


 (その二人は関係無いだろうに…)


 幼なじみのつき合いとはいえ、速人はソリトンやダグザに同情を禁じえない。

 

 エイリークは雪近が持ってきた味噌汁の入ったお椀を奪い取り、そのまま飲み干した。


 (相変わらず憎たらしいほどに美味いスープだぜ。ムカつくから明日ハンスの腹をつねってやろう…)


 次の日、エイリークの腹いせでハンスは下腹に指の跡がつくまでつねられるのであった。


 速人は使い終わった食器を水の入った桶に入れていた。

 案の定、味噌汁を飲んだエイリークは別の食べ物を要求してきた。

 

 速人は新しい食べ物を用意する代わりに残った焼き魚などを皿の上に乗せてエイリークのところに持って行った。


 エイリークは自前のフォークとナイフを両手に持って焼き魚を今か今かと待ち構えていた。しかし…、。


 「なあ、速人。俺さ、こういうのは誰かが解してくれたヤツじゃないと食べられないや。さっきキチカたちにやってたみたいに俺の分も食べやすくしてくれないか?でへへへ…」


 そう言ってエイリークは卑屈に笑って見せる。

 年長者のプライドもクソもないような状況だった。


 速人は一瞬、絶句した後に箸を使って焼き魚を解してやった。

 その際、雪近とディーにも非難めいた視線を向けることも忘れない。

 

 エイリークはお茶を片手に焼き魚をもりもりと食べる。


 速人たちはエイリークが食べ終わるのを待っていたが、その時小屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

 速人は雪近とディーにエイリークの世話を任せて扉の方に歩いて行った。

 ドアノブに手をかけて扉をゆっくりと開けるとそこには死の女神と見紛うまでに凶悪な表情をしたレミーとマルグリット、そして半分眠っている状態のアインを連れたベックとコレットの姿があった。


 速人はぎこちない笑いを浮かべながら死神のような顔をしたレミーとマルグリットに声をかける。


 「こんばんは、レミー。マルグリットさん。エイリークさんを捜しているなら先に部屋の中に入っているぜ。呼んでこようか?」


 レミーとマルグリットは「こんばんは。速人」と挨拶をしてから部屋の中に入って行った。


 部屋の食事スペースでは、真ん中を占拠したエイリークが手で焼き魚を食べている。

 二人は部屋に入るなり、まず無表情のマルグリットが大きく振りかぶってからエイリークをぶん殴った。

 エイリークは殴られた反動で部屋の端まで前転しながら吹き飛ばされる。

 そして、エイリークは壁に激突したところをマルグリットとレミーから容赦ない踏みつけ攻撃を食らうことになった。

 エイリークは半泣きで速人たちに助けを求めるが、来客用のお茶を用意していた為に何もしてやることは出来なかった。


 …十分後、全身足跡だらけになったエイリークが部屋の土間に正座させられていた。


 マルグリットとレミーは出されたお茶をすすりながらエイリークを監視している。

 許してもらうにはまだまだ時間がかかりそうだ。


 「いきなりいなくなったと思ったら一人でご飯食べてるなんて。見損なったよ、エイリーク。どうして誘ってくれなかったのさ‼」


 「いい加減にしろよ、糞親父。いつもいつも自分だけ飯食いやがって。テメエはどんだけ腹空かせてんだよ‼」


 マルグリットは右腕を振り上げ、肘でエイリークの顔を殴る。

 続いてレミーが父親の鳩尾につま先を叩きこむ。

 エイリークは暴行を受ける度に周囲に助けを求めたが素行の悪さが災いして誰も助けようとはしなかった。


 かくしてエイリークは速人とベックが助けに入るまで私刑を受け続けた。


 後日、同じ職場の同僚たちが八つ当たりを受けるわけだがエイリークという人物の評価が功績のわりに高くないのは横柄な性格にあった。

 因果応報というものだろう。


 速人はボコボコに腫れ上がったエイリークの顔を綺麗なタオルで冷やしながら魏の武帝(※曹操の事)の「不仁不孝でも才があるならば用いる」という言葉について考えていた。

 そして、その傍らで治療を受けているエイリークは涼しい顔をしている速人に対して更なる憎悪の炎を燃やしている。


 速人とエイリーク、二人の無益な戦いは終わらない。


 ベックが速人たちの住んでいる小屋まで訪ねて来た理由を説明してくれた。


 「まあ、簡単に説明するとだな。エイリークがお腹が空いたから夜食を速人君に作ってもらおうと言い出して、それでみんなで来たわけなんだよ」


 コレットがベックにお茶を渡す。


 ベックは言い終わった後に湯気の立つお茶を啜っていた。

 エイリークが出て行った後、外で待っている間かなり寒くなっていたらしい。

 レミーとマルグリットもベックと同じくらいの温度のお茶をもらっている。

 

 速人がエイリークの治療に集中できるようにコレットがお茶を淹れる役をやってくれているのだ。


 コレットは良妻賢母の鑑なのだろう。

 

 と尊敬の眼差しを向ける速人の近くでエイリークが「いや、そうでもないぞ。コリーはたまにど忘れして大失敗することもあるぜ」と密告する。

 ギロリとコレットがエイリークを睨んでいる。

 速人は何も聞かなかったことにしてエイリークの顔に冷たいタオルを当てた。


 「夜食が必要なら普通に尋ねればいいのに。何で屋根の上に登っていたんだよ?」


 「あのな。こういう時はお前の方から”お夜食を用意しましょうか、ミスター?”って俺様の所を尋ねるのがフツーだろうが⁉」


 …。エイリークのあまりに理不尽な発言に全員が呆れかえってしまった。

 

 そもそも速人たちに「用事が無いなら家から出て行け」と言いだしたのはエイリークである。


 「じゃあ今からお夜食を用意しましょうか、ミスター・エイリーク?」


 速人はジト目でエイリークを見ている。


 (毎度の事ながらこの性格は何とかならないものだろうか?)


 その時の速人は気がつかなかったが、幼い頃からエイリークの面倒を見ているベックとコレットは居たたまれない気持ちになっていた。


 「応よ。肉メインで頼むぜ。…痛ッ⁉」


 エイリークは吐き捨てるように言った。

 しかし、顔を殴打されている時に口の中を切っていたので痛みを覚える。

 速人は家の方に戻るのかと聞いたが、エイリークは部屋の中から動きたくないと駄々をこねたので結局このままの夜食を用意することになった。

 雪近とディーはエイリークたちの為に食器を並べ出している。エイリークは土間の上に敷物を敷いてそこに寝転がった。


 「俺たち、普段からあんまり肉を食わないからな。魚とか野菜しか用意できないぜ。それでもいいのかよ?」


 「フン。今日は我慢してやる。…グオッ⁉」


 エイリークは上半身を起こして両腕を組んだ。

 しかし、レミーがそこにフライングニードロップを決める。

 仰向けになったところにマルグリットのギロチンドロップが入った。


 「野菜メインでいいよ。私は父さんや母ちゃんほど肉好きじゃないし。ていうか父さんはマジで反省しろよな」


 「速人、アタシもレミーと同じ物でいいよ。夜中に食べすぎると太っちゃうからね」


 マルグリットは片目を閉じながら言った。

 レミーは「体重を気にしていたのか」とか「まだ食べる気かよ」等色々と言いたいことを我慢しながら母親を連れて食卓まで戻った。


 その後、速人は味噌汁や野菜のおひたし、焼き魚を持って食卓にやって来た。


 エイリークはいつの間にか回復して、マルグリットの隣に座っていた。

 それからアインとコレットを除く四人の夜食が静かに始まった。


 「速人。実際、お前今日はどこに行っていたんだよ。そろそろ白状したらどうだ?」


 エイリークは白菜の漬け物を食べながら、使用済みの包帯が入ったゴミ箱を見ていた。


 エイリークの視線の先にあるゴミ箱の存在に気がついたレミーとベックが席を外して確認に行った。

 部屋の仲は基本的に手狭なので、どうしてもドタドタと音が出てしまう。

 ゴミ箱の中に入っている血がついた包帯や布を発見したレミーとベックが驚いていた。


 速人は自分が置かれている状況が良くない方向に傾いている事を察した。


 ベックに後ろから羽交い絞めにされ、レミーには襟首を掴まれている。


 「エイリークさん、明日の朝は何が食べたいんだ?思い切って秘蔵のハムを出しちゃうぜ」


 「…当然ハムは食うが、その前にお前は本当のことを話すべきじゃないか。今日はどこで何をしていた?」


 速人はベックによって上着を脱がされる。

 背中、胸、腹が包帯でグルグル巻きになっていた。

 さらに包帯が巻かれていない箇所にも刃物によるものと思われる擦り傷が多く見られる。

 

 ただのケンカが原因ではないことは明白な事実だった。


 「これは雪近とディーが、俺に噛みついて甘えようとして…」


 雪近とディーは首をブンブン振って全力で否定していた。


 エイリークは呆れたような表情で「フンッ」と鼻息を荒くする。


 「テメエの見え透いた嘘は聞き飽きたぜ。本当のことを話さないつもりなら、俺は俺の関係者全員に本気のしっぺをする。いいか、俺のしっぺはタダのしっぺじゃねえぞ。ハンスやダグは俺がしっぺをするフリをしただけで今でも逃げるんだからな」


 (何てアホな提案なんだ。この男、本当に三十代か⁉)


 速人はその場から二、三歩引いてしまう。

 だが気がつくとその場にいたマルグリット以外の全員が絶望的な表情で速人を見ていた。

 ベックとコレットも例外ではないらしい。

 夫婦そろって手首を押さえている。


 後で聞いた話になるが、その昔二人はエイリークの父親からもしっぺを食らった経験があるらしい。

 

 (このままでは改装パーティーどころの騒ぎでは無くなる可能性があるな)


 速人はエイリークに向かって頭を深々と下げた。


 速人の証言、二回目が始まる。


 尚エイリーク一家とベックは以前よりもかなり厳しい表情で速人の話に耳を傾けていた。


 「ごめんなさい。実は僕たち、市場の仕事を手伝った後で偶然秘密の出入り口を見つけてしまって…」


 速人は秘密の出入り口を通ってウィナーズゲートの町に辿り着き、そこでデボラ商会という傭兵業の他に人身売買を生業としている隊商キャラバンの抗争に巻き込まれたという話をした。

 エイリークとマルグリットには後で機会を見つけて機神鎧と機神鎧を使役する謎の男たちの存在について伝えるつもりだったが、ベックやレミーがいるので全てを話せないという理由があった。

 しかし、デボラ商会の抗争に巻き込まれたという話だけでもエイリークとベックは良い顔をしてはいなかった。

 マルグリットとコレットもレミーとアインを母屋の方に連れて行こうかと相談していたほどである。

 しかし、レミーは断固として是を拒んだ。レミーに押し切られる形で速人の話は別の隊商キャラバン「鋼の猟犬」と代表であるポルカとの出会いに続くことになった。

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