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プロローグ 13 「大河は水たまりをしかりはしない」とか言いながらも楯突くものはギチっとしめる。秘技・転蓮華炸裂。ヌンチャクはやはり最強だ。

 次回は8月27日くらいに投稿するよ!もしも投稿できなかったらお詫びに全裸でエベレストを制覇するから期待して待っていてね!

 

 速人は子供がようやく通れそうな穴を潜り、見つけた縁につま先が触れた。

 やはり足場の地質は脆く、不安定なものだった。大人が乗ればすぐに崩れ落ちてしまっていただろう。

 速人は身体についた土を払いながら周囲の気配を探った。

 空洞の天井は今さっき通った穴のようなものがいくつかあって、そこから僅かな光がさしている為に不自由を強いられることはなかった。速人は周囲の気配に注意しながら下流に向かって歩き出した。


 不意に血の匂いが鼻腔をくすぐる。


 速人はブタのように大きな鼻をふがふがと蠢かせながら臭気の発生源を探した。


 血というものにはその生物特有の匂いというものがあり、古今東西のあらゆるスパイスを嗅ぎ分ける速人のブタ鼻は血の匂いが人間の血液ではないことを知っていた。

 しかし水キツネは狩りの最中に共食いをするような愚かな生き物ではない。彼らは限りなく狡猾な、生まれながらにしての狩人ハンターだった。

 実は水キツネの脳みそを叩いてこっそりと入れたが死んだ仲間たちから高評価を得ていたことを思い出す。

 賢い動物の脳みそはおいしいのだ。


 つまり人間のそれは美味ではないということだろう。


 「こいつの出番か」

 と独り言ちた後に腰に下げている道具袋の紐を解いた。

 速人はボロボロになってしまったヌンチャクを取り出した後に一方の柄を片手で持ち、もう一方の柄を脇の下に隠す。

 ヌンチャクという武器は身体に巻き付けるとうにして構えると体の線の中に武器を隠すことが出来るので遠目には武器を持っていることが分かりづらい。暗器の本領発揮というものだろう。


 背丈の低い草の上を歩けば音を立てずに済む。まばらに生えた雑草を踏みながら、足音を殺して目標のところまで歩みを進める。

 他の小動物が水キツネ餌食になったのか。速人はそれを見るまではある意味、楽観していたのだ。

 

 例えるならばそれは何かに捧げる為に作られた小塚だった。

 腐敗臭を好む羽虫がそれの上を飛んでいる。

 水キツネの死骸だった。

 身体を引き裂かれ、腸を食い荒らされた水キツネの死骸が何者かによって数多く積み上げられていたのだ。殺されてからまだそれほどの時間が経過していないにも関わらず、この腐敗臭。速人は顔をしかめてこの惨劇の犯人に見当をつける。

 かつて速人が開拓村で奴隷として過ごしていた頃、スタンというエルフから数種の魔獣が持つ特性について教えてもらっていた。

 スタンは開拓村で新人ニューマンの監督役をする傍ら未開の地に住む生物の研究をしていたのである。

 魔に属する生物には魔物と魔獣が存在する。

 これらの種族はは基本的に人類(ナインスリーブスではエルフやドワーフが人類の主流として数えられる。新人は獣の仲間だと考える者も少なくない)と同様に自然体系から逸脱した存在であり、その中でも”大食ビッグイーターらい”と呼ばれる魔獣は別格であるとスタンは熱弁していた。

 爪や唾液から何でも溶かす毒液を出す、という話が特に引っかかっていた。

 さらに自身の縄張りと言わんばかりに積み上げられた水キツネの死骸で作られた山。

 まず”大食らい”と考えて間違いないだろう。


 速人はヌンチャクを力強く握り締める。

 これはまたとない幸運だ。真紅の機神鎧アレスに匹敵する強敵と戦う機会がこんなにも早く訪れるとは、何という好機。速人は好戦的な笑みを浮かべすにはいられなかった。


 「やはり俺はついている。これも毎日、善行を積んでいるからだな」


 速人は両目を閉じる。神経を研ぎ澄まし、敵の所在を探っているのだ。

 かの魔獣”大食らい”は巨大な熊のような外見に反して地上での活動時間は短いのだ。

 おそらくは川底に潜って身を隠しているのだろう。だ

 が、速人の期待に反して魔獣は上陸してくる様子を見せない。反応も遠のく気配さえ感じている。

 

 速人は構えを解いてさらに下流の方に向かった。

 しばらく歩くと渓流に到着した。

 川が流れる音をかき消すような子供の悲鳴が聞こえてきた。


 聞き覚えのある声だ。ソリトンの息子、シグルズのものだろう。

 速人は地面を蹴って悲鳴が聞こえる方角に急行する。


 「もうやだああ!誰か助けてええええッ!」


 やはり悲鳴の主はシグルズだった。

 数人の子供と一緒に大きな岩の上に避難している。

 速人は岩の上に避難している子供たちの数を確認する。八人、九人といったところだった。

 キャンプ地から抜け出した子供たちの数は十二人なので、三人は足りない。

 次に周囲を見渡し、状況を確認する。


 うなじに糸くずのようなものが触れる。

 鞘から抜かれた抜き身の刃の如き殺気。

 振り向くとそこには猛獣の本性を現した水キツネの姿があった。

 その時、速人は身を翻しながらヌンチャクを抜き放った。

 電光石火の勢いで白刃を鞘走りから滑らせる抜刀の極意が如く、振り向きざまに腰を切ることで完成するヌンチャクの打撃。

 水キツネは鼻先を砕かれ、悲鳴を上げる。

 しかし、決して怯むことを許さぬ獣の性はヌンチャクを持った速人を暴威でねじ伏せようとする。

 次に速人の頭部に狙いをつけて一気に噛みつこうとした。


 噛みつきは生物の本能。俺のヌンチャクは本能のさらに凌駕するのだ。


 速人は迫る水キツネの頭部をかいくぐり、下顎の真上からヌンチャクをぶち当てる。

 さらに人間でいうところの額や頬を攻撃する。

 一瞬で水キツネの顔は急所という急所を打たれ、潰されて血まみれになってしまった。

 水キツネは戦意を喪失し、逃げようととした。

 

 !!!???

 

 逃走を試みた水キツネは立ち止まる。

 動けない。

 首に違和感を覚える。喉元に何かが巻きついて、息が続かない。

 

 「お前はここで死ぬんだよ」

 

 速人は獣よりも獣じみた笑みを浮かべる。水キツネの首に速人が足を絡ませて貼りついていた。

 

 速人の背中からは白い蓮華のオーラが立ち上っている。もう水キツネは悲鳴をあげることさえ出来ない。 速人は水キツネの首の上に両足を極めた状態で騎乗していた。


 「烈海王直伝」


 両脚で捕らえた首を締め上げる。速人の太腿と脛の筋肉が膨らみ上がり、肉の枷と化した。

 その刹那水キツネの脛骨全体が軋んで歪んだ。

 例えるならばそれは湖面に浮かぶ蓮の花。

 本来ならば絶叫しているはずの水キツネの口からは血の泡が零れるばかり。

 かっと見開いた両目からは血の涙を流している。


 「転蓮華」


 速人は首関節を極めたまま、時計の振り子のように身体を左側に落とした。

 首に嵌ったままの両足がさらに骨を破壊する。

 内部では首の酸素を運ぶ気道が潰され、血涙を流す瞳そのものが赤くなっていた。

 失神した水キツネは口からだらだらと血を吐き出した。


 「貴様には死こそふさわしい」


 速人は水キツネの頭を中心に一回転する。

 次の瞬間、水キツネの死体から渇いた木の皮が剥がれるような音がした。


 それは首の骨が完全に砕かれたことを告げる音だった。


 速人は水キツネの頭部から飛び退き、別の水キツネたちに向かって手招きをする。


 「どうした?お前たちの仲間の仇はここにいるぞ。かかってこないのか?」


 挑発された水キツネたちは低い唸り声をあげる。


 所詮は獣。圧倒的な戦力差というものを理解していない。

 突然、水キツネが速人に向かって飛びかかる。


 回避する必要もない。

 速人は両手にかまえたヌンチャクを素早く振り回した。

 次の瞬間、強風の如きヌンチャクの一撃が水キツネの腕を薙ぎ払った。さらに水キツネの頭部めがけてヌンチャクが振り下ろされる。

 一瞬で頭蓋を砕かれ、血と脳漿が一気に飛び散った。

 速人は地面に横たわる水キツネの顔を踏み潰した。

 脳に混じって地面に落ちた水キツネの目が忌々しそうに速人を睨んでいた。


 踏みにじって未練を断ってやった。


 仲間を失った水キツネたちは次々と速人に襲いかかる。

 その有り様は飛んで火にいる夏の虫か。水キツネたちは暴風と化したヌンチャクに全身の骨を砕かれて死んでいった。


 「ヌンチャクに挑む者は、ヌンチャクによって滅びる。これ即ち世の掟よ」


 速人は地面に転がっている水キツネたちの死体を一顧だにすること無く、子供たちの姿を探した。

 さっきまでは岩の上にいたはずだが、わずかに目を離していた隙に姿を消している。


 そこで速人は考えた。もしかすると子供たちは水キツネを速人がやっつけている姿に感動し、ヌンチャクの弟子入りを望んでいるのかもしれないと考えるに至ったのだ。


 しかし、水キツネを恐れて下の様子を見ることも出来なくなってしまった為だろうか。子供たちは一向に降りてくる気配を見せない。


 「クックック。照れ屋さんどもめ。今なら月謝は通常の30パーセント引きだ」


 速人は待っていても埒があかないと判断したので岩の上に登ることにした。


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