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第九十二話 倒した後に背後から全員で卑怯アタック

次回は8月9日に投稿する予定です。遅れてごめんね。


 先手、ナナフシ。


 ヴァーユの肘から下を伸ばして大きく地面を薙ぎ払う。

 五本の指が土煙を起こしながら、地面を深く抉りながら突き進む。


 (大きな物が自らの意志で動く時には何らかの前兆がある。その機を見逃すような俺ではない)


 速人は轟音を立てながら迫り来る大波のようなヴァーユの腕に自分を追いかけさせるように走り出した。

 ヴァーユは速人を何とか捕らえようと攻撃の軌道を横薙ぎから振り上げに変化させるが、変化を読まれて逆に難無く逃がしてしまう。

 ヴァーユに乗り移ったナナフシは伸びきった腕を元の戻そうとするが、その隙を速人が見逃すわけはなく腕の道筋を辿って機神鎧の顔までやって来る。

 そして目、鼻、鼻の下、額といった人体の顔の急所にあたる部分を攻撃して反応を確かめた。


 「小癪なッ‼居ねィッッ‼‼」


 ナナフシは負けじと強風を起こして速人の身体を吹き飛ばそうとした。

 しかし、速人は攻撃の気配を事前に察知していたのでナナフシの反撃が形となって現れるよりも早く射程外まですぐに逃げてしまった。

 さらに速人は身を翻し機神鎧ヴァーユとの距離を縮める。


 (ナナフシよ。使う力が大きくなった分、狙いが粗くなってきたな…、ってか‼)


 遅れて機神鎧ヴァーユは肩を覆う装甲を展開して風を起こす。

 しかし、風の力が強すぎた為か機神鎧ヴァーユは巨体をグラつかせる。

 苦肉の策としてバランスを保持する為に腕の関節を伸ばして鉤爪を引っ掛けてはみたが目標の姿はそこには無かった。


 ナナフシは機神鎧ヴァーユの中で歯ぎしりしながら速人の姿を探そうとするが、先に背中から一撃をもらってしまった。


 速人は背後に飛び蹴りとヌンチャクを見舞った後すぐに別の場所へと移動する。

 その間、気配を殺しながらゆっくりとエリオットとポルカとセオドアは機神鎧に接近しつつあった。


 「ガァァッ‼」


 機神鎧は怒号を上げながら両手の鉤爪を交互に振り回した。

 もはや戦技もへったくれもない、目についたものを片っ端から攻撃するといった有り様である。

 ナナフシの攻撃で地面が捲れて土の塊をまき散らそうが、速人はその倍以上の速度で移動して回避しつつ反撃に転ずる。

 真の姿となった機神鎧が相手だろうが心が人である以上はわずらわしさというものから解放されることはない。

 速人は熱を発するようになった左肩の痛みをこらえながらナナフシの狙いを自分の方に集める。


 (ナナフシ。お前の未来を見る目の力は察しがついている。その効用は、使用する対象と効果が発揮される時間を絞らなければ不安定な未来の姿を見ることしか出来ない。要するに戦闘向きの能力じゃないってことだ)


 速人はナナフシがエリオットに向かって勁の力が云々と言った時から一つの推論を立てていた。

 即ち、ナナフシの異能は本来戦闘用のものではないというものである。

 仮に戦闘用であったとすれば短い間の未来視の能力など多様すべき能力ではないだろう。

 理由は至極単純なもので、敵に警戒されて集中攻撃を受ける可能性があるからだ。

 ここからは速人の予想の範疇になるが、おそらくはナナフシがより正確な未来の姿を視る為には途方も無い集中力を要求されるのだろう。

 故に能力の使用回数制限は厳しく、乱発させれば視覚にも何らかの影響が現れるかもしれない。

 速人は推論を裏付けする為に、先のナナフシ本人との戦いでは徹底して接近戦を挑むことにした。

 

 そして、案の定ナナフシは未来視の能力を使う度に攻撃や間合いを外すようになった。

 

 さらに機神鎧の修復をする時、片目を閉じていた姿から察するに極端な力の消耗は視覚の消失に繋がるものとも考えられる。


 突然の轟音に速人は顎を引いて、鉤爪を悠々と回避してみせる。


 「発勁の力に頼り過ぎたな、ナナフシ。お前の目はよく見える目じゃない、ただの節穴だ‼」


 速人はヌンチャクを構え、左右に持ち替えながら振り回す。


 ナナフシは速人の動きを止める為に前方に向かって意識を集中する。

 ナナフシの持つ過去と未来と現在の出来事を自在に見通す目、神通眼の力と仙術の併用は術者にとっては命取りの行動である。

 神通眼は一度使えば、勁力(※ロープレのMP的なもの)の無用な放出を避ける為に視界がリセットされるという弱点が存在した。

 さらに今回はナナフシの限界を超えて使用しているので視界が回復する時間が普段の倍近く必要となっていたのだ。


 (このままでは”本体”にまで危険が差し迫ってくる可能性がある。早く決着をつけなければ…)


 ナナフシは先ほど緑麒麟が使っていた攻撃用の仙術”穿風槍”の簡易版である”疾風棘”を発動させる。

 ”疾風棘”とは先端は円錐形の棘、中には意のままに爆発させることが出来る魔力が詰まっている弾丸を相手にぶつける術だった。

 個々の威力は微々たるものだが、数十個も当てれば人間サイズの生き物など容易に倒すことが出来る。 

 さらに利点を挙げれば術式の構造が単純であり、術を行使する際に消費する魔力も少なくおまけに少し手を加えるだけで形や音を隠すことも容易だった。


 「疾ッ‼」


 ナナフシは片や気合を入れて機神鎧の伸縮自在の拳を、そのもう一方で速人に向かって秘術”千条疾風棘”を放った。

 例え速人が機神鎧ヴァーユの拳を回避しても棘に当り、棘が爆散して体勢を崩したところを拳で追撃する。

 正しく盤石の布石だった。


 だが、速人は機神鎧ヴァーユの拳と風の魔力が作り出した誘導式の小型ミサイルの連携を回避する。

 

 否、正確には速人が移動するその先で土が盛り上がり盾となって身を守ってくれたのだ。


 速人は会心の笑みを浮かべながらさらにナナフシに接近する。

 その一方で小さな丘の陰に隠れながら速人の姿を見守っていた老騎士トマソンが安堵の息を漏らしていた。


 「まあ、今回は私の昔の経験が生きたというところか。全く、速人君はとんでもないことを考えるな。生きた心地がしない…」


 トマソンは疾風棘が命中して爆発した土の壁に煙が上がっているところを確認した後に、手に持っていた杖の先を丘に当てて消してしまった。

 

 トマソンは若い頃から槍の腕前は一人前だったが、魔術の方は半人前だった。

 このように土を盛って丘を作っても十分も経過すれば形を維持出来なくなる不完全な物を作ることしかできない。

 しかし、若い頃戦場ではそれが役に立った。

 結果として上手く行ったが、自分の仕事の出来栄えに今一つ納得がいかないという様子のトマソンの尻を彼の孫娘のクリスが勢い良く叩いた。


 「わわッ⁉」


 しかし年齢の為かトマソンは突然の出来事に驚いて前に倒れそうになってしまう。

 トマソンは恨みがましそうにクリスを見ていた。


 「お祖父ちゃん。いつまでも感傷に浸ってないで早く別の場所に行くわよ」


 「クリス。お前のその乱暴なところは一体誰に似たんだか…」


 クリスは悪戯っぽく笑いながら答えた。

 そして次に小さな丘を作り易そうな場所に向かって走って行った。


 「私の頑固なところはお祖父ちゃん譲りで、ちょっと雑なところはお祖母ちゃんに譲りよ」


 「それは言い過ぎだ、クリス。見ろ、お前のお祖父さんが拗ねてしまたではないか」


 走っている途中にシスに怒られて、クリスは舌を出す。

 トマソンは「むう」と唸った後に口をへの字に曲げながらクリスたちの後ろを追いかける。

 すぐにでも反論したいところだったが、心当りがありすぎて言い返せなかったのだ。


 速人がナナフシの注意を引きつけて物理攻撃を回避し、トマソンとポルカが防御の魔術を使って魔法攻撃を防ぐという作戦だった。


 速人が見抜いたもう一つのナナフシの”目”の力の弱点、自分に対して明確な殺意が向けられない限り自動的に未来予測の力が働くことはないというものである。


 仮にナナフシの行動を妨害するような術を使えば、ナナフシの目はそれらの出来事を事前に察知して最適解たる予測を授けるのだろう。

 速人は先のナナフシとの肉弾戦で目の力が発動する条件を探していたのだ。

 そして速人の予想通りにナナフシはトマソンの術を予測することが出来なかった。

 大方、片目になってしまった為に予知能力そのものが低下したのところだろうが十分に効果は引き出すことは出来た。


 (なぜならば…、今ナナフシの注意は完全に俺の方に向けられている‼)


 速人は怒り狂ったナナフシがある程度接近するまで待ってから走り出す。


 一人と一体の機神鎧から少し離れた場所にエリオットとセオドア、そしてポルカの姿があった。

 今三人の男たちはポルカの水の魔術で身を隠している。

 水の魔力で作ったヴェールで全身を覆い、鏡のように周囲の風景を映して身を隠すという子供の悪戯のような術だったが肝心の術者が「魔術が苦手」と広言しているポルカなので仕方ない。


 「本当に大丈夫か、テオ。あの”妖精王の贈り物(ギフト)”、”微睡みの(グッドスリーピング)神酒(ネクタル)”はしばらく使ってないんだろ?」


 セオドアはエリオットに”妖精王の贈り物”の話を切り出されて苦笑する。

 エリオットはセオドアが自分の持つ”妖精王の贈り物”を嫌っていることを知っていたので、成否の確率と二重の意味で心配していた。


 「まあ、例え練習していても成功する確率は五分と五分だな。そもそも、あのナナフシとかいうヤツは魔術分野とかメッチャ得意そうだし。エリオ、お前だって俺の”妖精王の贈り物”が失敗したところしか覚えてないだろ?」


 親友の心配の理由を察してかセオドアはわざとお道化た様子で答える。

 だが、その横顔に一瞬だけ暗いものに変わる。

 セオドアの”妖精王の贈り物”の事を喜んでくれたのは親友のエリオットとエイリークたちだけだったのだ。

 セオドアの両親や親戚は紛い物の”妖精王の贈り物”と評して彼を冷遇した。


 だがタダでさえも鈍いエリオットにセオドアの繊細な心の機微が伝わることは無かった。


 「まあ…、な。だが五割ぐらいは自信はあるだろう?」


 と、こんな具合にエリオットは素でボケてみせる。


 (本当の事を伝えれば大騒ぎして暴れるだろう。俺の親友は見かけ倒しを絵に描いたような男だ)


 セオドアは動揺しきっている内心とは裏腹に「余裕。俺に任せておけ」とばかりに手を広げて笑って見せる。


 セオドアの姿を見た(※ポルカの術が未熟な為に術をかけられたもの同士が極端に近づくと相手の姿が見えてしまう)エリオットは深刻そうな顔つきから喜色満面といった様子に早変わりする。

 そして、二人の様子を見ていたポルカも大声をあげて喜んでいた。

 不幸中の幸いか当時のナナフシは速人の動きに翻弄されて全く気がつくことは無かったが、三人にかけられた術が解けて丸見えの状態となっていた。


 尚大人の男三人が戦場のど真ん中でバカ騒ぎをしている姿を見たトマソンと雪近とディーとクリスは実に微妙な表情となり、ポルカの娘シスに至っては全身から湯気が出ていそうなほど怒っていた。


 その後シスがポルカに向かって大きな石ころをぶつけることによって三人は正気を取り戻し、作戦に戻った。(※効くかどうかわからないが)


 機神鎧ヴァーユと一体化したナナフシにセオドアの”妖精王の贈り物”、”微睡みの神酒”を仕掛けて昏倒させるという作戦である。

 実はこの術というか能力は、要するに術者と術の対象の意識を同調させる性質ゆえ射程が極めて短い。

 

 セオドアはまず機神鎧ヴァーユの胸の部分に向かって両腕を伸ばすような体勢を取る。

 これは目標に触るとか狙いを合わせるといった意味合いがあるらしい。

 本来なら頭部に向けるものだが、速人の推理ではナナフシの意識は胸とりわけ心臓にあるのではないかと話していた。

 セオドアは両手に意識を集中し、ナナフシの意志の源となる部分を探った。

 一つ間違えれば、セオドアの精神そのものが失われる危険な行為だったがこの時ばかりは何故か恐怖を感じることは無かった。


 (親父はかかりつけの医者に俺の”妖精王の贈り物”を調べさせた時にガッカリした顔をしていた。その日からだったな。”もうお前は努力する必要はない”って言われたのは。だけどよ、親父。アンタには必要のない能力ちからかもしれないけれど今は色んな人が俺の事を必要としてくれるよ)


 そして、もう一度ナナフシの精神体に触れる。

 広い海のような水によって満たされた空間の中で煌々と燃える青い炎の塊、それこそがナナフシの精神体だった。

 セオドアは自分の精神とナナフシの精神を包み込むように、”神酒”によって杯を満たしていった。

 そしてセオドアは何者かが杯の中身をゆっくりと飲み干すイメージを幻視する。

 ほぼ同時に、ナナフシの炎の如き荒々しさを持つ精神体もまた心地よく微睡みによって満たされていった。


 ドンッ‼


 機神鎧ヴァーユの巨体が地面に片膝をついた。


 ナナフシは突然の浮遊感に襲われる。

 そして異臭。足元の感覚が不確かなものに変わり、眠気によって意識を保つことさえ難しくなっていた。

 何とか立ったままの体勢だけでも保持しようとするが、例の異臭が鼻についてそれどころでは無くなっている。

 しかし、ナナフシは是が非にでもこの忌まわしい記憶しかない異臭に勝たなければならぬ理由があった。


 その理由とは…。


 「これは酒か…ッ‼クソッ‼よりによってこのような時につまらぬ術を…ッ‼おのれッ‼よくも我が酒がちびっと苦手な事に気がついていたか‼不覚ッ‼」


 ナナフシは下戸だった。

 アルコールの匂いを嗅いだだけで二日酔いになるレベルの下戸だった。

 ナナフシはアルコール臭の根源を見極めるべく周囲の気配を辿る。

 それはナナフシから見て背後の左側、ボロ布のような稚拙な幻術で身を隠したセオドアたちの方から漂ってきた気配だった。

 ナナフシはすぐに異臭の発生源を断とうとするが最接近してきた速人が機神鎧ヴァーユの顔の右半分を狙って攻撃を仕掛けてきた。


 (しまった‼狙いの本命はこちらか‼)


 ナナフシはこの時になって速人が自分の神通眼を封じようとしていることに気がつく。

 すぐに伸ばした腕を元の長さに戻してガードを固めた。

 対して速人は機神鎧ヴァーユの顔面の右半分に向かってヌンチャクの連打を浴びせていた。

 機神鎧ヴァーユの手甲は最初のうちは圧倒的な硬度でヌンチャクの乱打を防いでいたが、時が経過するにつれて亀裂や傷が目立ってくる。


 パキンッッ‼‼


 ついに機神鎧の腕甲にヒビが入り、ガードの為に折り曲げて固めた腕をぶち上げてしまった。


 ナナフシはそれでも酔いと戦いながらも必死に”疾風棘”の術を完成させる為に精神を集中する。

 

 速人は今はその時とばかりに全身全霊で黒いヌンチャクを振り回して、機神鎧の右目を破壊しようとした。

 ヌンチャクで人の顔を模して作られた仮面を叩かれる度に、ナナフシの精神に雑音が混じる。

 これが生身ならば痛みに苛まれている状態なのだろう。

 ナナフシは雀蜂のように執念深く攻撃を続ける速人を追い払う為に、”疾風棘”の術を練り上げながら自分の腕と意識を繋げる。

 されど”微睡みの神酒”は未だに有効でありチグハグになりながらも機神鎧の手首から先を伸ばした。 

 速人は肩から臍に飛び降りて是をやり過ごそうとする。


 ガンッ‼


 機神鎧ヴァーユは自分の顔を傷つけるという失態を演じる羽目となった。

 しかし、ヴァーユの仮面に小さな傷が出来た程度でナナフシの神通眼は健在である。

 速人は機神鎧のへそから腕に飛び移り、肩の天辺を目指した。


 「つくづく頑丈に出来ているな、ナナフシ。だがな俺はお前が壊れるまでぶっ壊してやるから、せいぜい頑張れよ」


 速人は懐から赤銅色の石ころを取り出した。

 そして、機神鎧の顔の近くまで駆け寄ると先ほどの攻撃で出来た隙間の間に次々と石ころを詰めていく。

 速人は五、六個ほどの赤銅色の石を隙間に詰め込んだ後に腰に下げた袋の一つから今度は赤い石の欠片を取り出す。

 それは大喰らいという魔獣を退治した時に使った魔晶石の原石と同じものだった。

 前回は近くにレミーたちがいたので火力を抑えなければならなかったが、今回は敵のサイズが規格外なのでそういった心配をする必要は一切ない。

 速人は魔晶石の欠片を一気に握り潰すと、石を詰め込んだ隙間に捻じ込む。

 そして地面に向かって飛び降りた。


 「おのれ‼卑怯なり‼かくなる上は…ッ‼」


 カッ‼


 ナナフシが負け惜しみの捨て台詞を吐く前に、機神鎧の顔の右側が閃光に覆われる。

 速人が一生懸命に詰めていた石は夜なべして作った魔晶石の粉末に土を混ぜて作った爆弾だったのだ。 

 エイリークの友人であるハンスやソリトンは隊商キャラバンの仕事の他に炭鉱夫や大工の仕事を手伝っている。

 速人は雪近やディーと共にそれらの仕事を手伝う傍ら様々なナインスリーブスの知識を吸収して武器を作っていたのだ。


 ちなみにこの後、ディーと雪近の密告により速人の作った”赤1号”という爆弾は全てダグザに没収される。

 

 爆発の手痛い洗礼を受けた機神鎧ヴァーユは頭部から煙を噴き上げながら前のめりに倒れ込んだ。

 その際、ナナフシは酔いと爆発の衝撃で完全に意識を遮断された状態となる。

 速人はうつ伏せの状態となった機神鎧の背中を昇り、四枚の翅のつけ根から露出している巨大な宝石のようなものを見つけた。


 (これがナナフシの機神核である可能性は低いが、試してみる価値はあるか)


 速人は試しに緑色の巨大な宝石を何度か踏んでみる。

 大理石の床のような感触だったが、中には生きた何かが通っていることには違いなかった。


 「エリオットさん‼トマソンさん‼目的のものを見つけた‼すぐに俺のところまで来てくれ‼」


 速人は大声を上げてうつ伏せになった機神鎧の近くまで来ていた仲間たちを呼んだ。

 

 速人のかけ声を聞いた雪近とディーはトマソン、エリオット、ポルカ、酔っぱらって死にかけているセオドアに向かって、速人がデボラ商会の傭兵たちを惨殺した時に奪い取った武器を次々と渡す。

 魔法の武器の中には血糊がついたものもかなりあったので、受け取った際にポルカが悲鳴をあげたりしていた。


 「なあ、キチカにトロールの兄ちゃん(※ディーはポルカに自分はトロール族であると説明している)、このゴツイ武器の出所とかは教えてくれなくていいからな。多分、夜中一人でトイレに行けなくなっちまうんだろ?」


 雪近とディーは顔を見合わせ、ぎこちなく笑っている。


 ポルカとトマソンは自前の武器があるからと辞退した。


 結局、デボラ商会が作った贋物のノクターン公国製の武器を受け取ったのはシスとエリオットとセオドアだった。


 シスが武器を受け取る際にポルカが文句を言っていたが、逆にシスに怒られるような形となっていた。

 

 かくして速人軍(?)は斥候の速人の号令の下に、うつ伏せになった機神鎧の背中に集結する。


 現役の戦士ポルカは片刃の長刀を、所属は不明だが元・騎士のトマソンは祖先が使っていたという伝家の宝刀ならぬ伝家の羊飼いの杖を、エリオットは氷の魔力を宿した短刀を、足元が安定しないセオドアは炎を纏う戦斧を、ポルカの娘シスは氷の結晶を模した意匠が施された細身の長剣を手に握っていた。


 シスの隣にいるトマソンの孫娘クリスは肘、腕、拳にプロテクターを装備していた。

 さらに両方の拳をゴツゴツとぶつけて調整を行っている。


 「クリス。そんな装備で大丈夫か?あの機神鎧ヴァーユとやらは、殴ってダメージを与えられるような相手とは思えないぞ」


 シスは足元に広がる機神鎧の背中を見ながらクリスに注意を促した。

 機神鎧ヴァーユの背中には棘のついた皮膜に覆われた蝙蝠のような翼が二枚、さらにセミのような薄く透明な羽が二枚あった。

 そのつけ根の部分にはひし形の巨大な緑色の宝石がついている。

 速人の話では、動力の供給源である宝石を壊さなければ機神鎧の打倒は難しいらしい。


 (出来ることならば、あの宝石をそのまま持ち帰ってお嬢様たちに献上したところだ)


 シスは敬愛するドレスデ商会の会長の二人の娘にプレゼントとして何とか持ち帰ることは出来ないか、と考えていた。


 「大丈夫よ、シス。私、これでも結構鍛えているからね。この前だって練習試合で親戚のおじさんをやっつけてやったんだから」


 クリスはシスの目の前で軽くシャドーボクシングを見せる。

 シスは「それはいい」と破顔していた。

 その影でトマソンは青い顔をしながら自分の弟子にあたるクリスの叔父(※トマソンの妹の息子)が試合の後しばらく部屋から出て来なくなってしまったことを思い出していた。


 やがて速人は黒いヌンチャクを持って機神鎧の背中についている宝石を包囲するように指示を出す。

 攻撃に参加した各員は距離を取って武器を構えた。


 「これで…、チェックメイトだ‼」


 速人は上空に向かってヘリコプターのローダーのようにヌンチャクを振り回す。

 そして、数十メートルほど上昇した後にヌンチャクを振り下ろしながら飛び降りて来た。

 同時に全員が宝石に向かって攻撃を仕掛ける。


 その時、攻撃に参加した全員が「後で速人に頼んで空の旅に連れて行ってもらおう」と考えていた。


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