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プロローグ 12 子供たちの行方。虐げられても、求められれば救いの手を差し伸べる。やはりヌンチャクと俺は優しい。

次は24日頃に投稿したいと思っています。

 「お父さんっ!エイリークおじ様っ!」


 速人が手についた埃を払っているとキャンプ地の方から何者かが走ってきた。


 灰色が入ったシルバーブロンドの髪、しなやか肢体に長い手足。

 大人びた美貌を持つ少女の名はアメリアという。速人の眼下で倒れているソリトンの娘だった。

 

 アメリアは微妙な表情で自分の父親を見ている。

 ソリトンはクールなイケメン顔のまま「用を足しに行く」と言って消したシグルズの行方について聞いた。シグルズはソリトンの息子でアメリアの弟である。


 「アム。シグはまだ戻っていないのか?」


 言った直後にソリトンの前髪がハラリと流れる。


 イケメンはこんな時でもイケメンのままなのか!?その時、速人はイケメンの悲哀を思い知った。


 「ええ。残念ながらシグもまだ帰っていません。おそらくはレミーたちと一緒にでかけてしまったものと思われますが。お父さん、それよりもマルグリットおば様が怒って大変なことに」


 ソリトンは股間を押さえながらヨロヨロと後退する。


 おそらくはレミーが他の子供たちを連れて勝手に狩りに出かけたことでマルグリットが怒り狂っているのだろう。なぜならば昔、マルグリットは大人たちの言うことを聞かずに子供だけで狩りに出かけてやらかしてしまった苦い思い出があるからだ。しかも自分の子供が禁を破ったとわかれば彼女の怒りもいっそう強いものとなっているはずだ。


 ソリトンは不意に当時の頭に重傷を負った大人に抱かれながら大泣きをしているマルグリットと自分の姿を思い出す。それはソリトンやマルグリット、エイリークに共通する苦い思い出だった。


 「なるほど。マギーが怒ってるのか。まあ、当然だな。アム、俺が一緒に行くからついて来い。ソル、速人様。後で覚えていやがれ、じゃなくてレミーたちのことを頼んだぜ」


 エイリークはいつの間にか復活していた。


 そして素早くアメリアの背後に回り込み両手で中指を立て、挑発する。


 エイリークの顔についた速人の飛び足刀蹴りの跡が実に痛々しい。


 「わかった。雪近にはどうせ役に立たないからおとなしくしていろ、とでも言っておいてくれ」


 速人はソリトンの回復を待たずに他の面子を連れてレミーたちの行方を追いかけることにした。


 幸運にも地面にはまだ子供たちが移動した跡が残っている。

 それを辿ってさえ行けば見つけることができるだろう。


 速人は歩きながら小さな足跡を探している。その途中、背後からソリトンが話しかけてきた。


 「気がついていると思うが俺はウルフ・リンクスの出身だ。俺の息子のシグやレミーたちの匂いを探し当てることくらいは出来るぞ」


 ウルフ・リンクスとは融合種リンクスと呼ばれる種族の一つである。

 歴史をあまり持たない為に下位種族の中に数えられるが実力は高いものとして知られる。

 さらにウルフ・リンクスはハウンド・リンクスと並んで鼻や耳を使った捜索能力を持っている。

 速人もウルフ・リンクスは夜行性とばかり思っていたのだが昼間でも有効だということは知らなかった。 しかし、リンクスの能力にもいくつか欠点があることを知っていたので今の場面では控えてもらうことにした。


 「これは俺の住んでいた開拓村にいたエルフの代官に聞いた話なんだが、リンクスが祖霊を召喚して憑依させると近くにいる動物を脅かしてしまうんだろ。水キツネを刺激したくないから今はまだ使わないでいてくれ」


 強い力には必ず何かしらの反動というものがある。

 例えば強力な魔法が四大精霊の調和を乱し、魔法使いの居場所を教えてしまうように強力な力というものは万能の利器足り得ないのが現実というものだ。

 ソリトンも心当たりがあったらしく黙り込んでしまった。


 速人はなるでく音を立てないように木の葉をかき分けて獣道を進んだ。


 後ろから濡れた水かきのついた足跡が無い以上は、水キツネと接触あるいは追跡を受けた形跡はない。


 何も無ければそれに越したことは無いのだが、先ほどのレミーには冷静さが欠けていた。一刻も早く追いついて連れ戻した方が得策だろう。


 速人は地面を注意深く観察しながら林や茂みの中に入って行く。


 子供というものは大人では想像のつかないような場所を出入りする生き物なのだ。


 「なかなか骨の折れる作業だな。これだから子供は扱いが難しい」


 お前も子供だろう、という言葉をソリトンは胸の奥にしまっておくことにした。


 一行が林を抜けると丘のような場所に出た。

 目の前の坂を上がると崖になっている。

 ソリトンは崖の下に流れる川を見て小首を傾げた。


 以前からこのような場所が会ったか。


 ソリトンは仕事や訓練で何度か、この地に来たことがあったのだが森の中に丘陵地帯のような場所は無かったはずだ。

 気がつくと速人が崖の舳先を何度か行き来している。

 何かに気がついたのだろうか。


 「速人。何かに気がついたのか?」


 速人はしゃがみ込んで地面を何回か叩いている。


 地面の下が薄い、急ごしらえの感触だった。


 この近くに降りる場所があるな。次に速人は川まで降りていく抜け道を探すことにした。


 「ソリトン。多分、レミーたちは川にまで下りている。何か思いつくことはないか?」


 言われてソリトンは少し考える。

 川、遊泳、釣り。ソリトンが子供の頃は別の場所でエイリークの両親に連れられて狩猟の訓練の傍ら川で遊んだ記憶が思い出していた。

 少し前にエイリークが子供たちにその時の話をしていたかもしれない。

 一人で大きな獲物を仕留めた、とかそういう感じの話だ。


 ソリトンはそこからさらに推測を続ける。

 ソリトンもレミーぐらいの年齢の頃は周囲の大人たちから一人前として扱われることを望んだ。

 活発な性格の持ち主であるレミーも同じような願望を抱えている可能性が強い。

 昨日は子供たちを連れて狩りに出かけたが、大人の手伝いばかりで参加させてもらえなかった。

 思い起こせば、レミーはそのことで帰り道に「約束が違う」とマルグリットと揉めていた。

 アメリアが諫めていたがレミーたちが納得していたとは考え難い。


 「昨日、居残り組と子供たちが一緒に小川の上流へ狩りに出かけた時にレミーたちの姿を見えなくなっていたことがあった。おそらくはその時に下まで降りる道か何かを探していたのだろう」


 無論、子供ならではの方法だ。


 速人もソリトンの言葉から何らかのヒントを得たらしく道を行ったり来たりして何かを探し始めていた。


 やがて速人は土砂が積み上げられてそのままになっている場所にまで歩いて行った。


 「何か見つかったか?」


 ソリトンは驚愕の表情で大きな穴を凝視した。

 そして淵の近くまで歩いて行き下を覗いた。

 気を緩めると落ちてしまいそうなので見続けることは出来なかったが、それでもかないの深さがある。  誤って落ちてしまったらまず助かることはないだろう。

 ここから下に降りて行ったのか。

 子供とはつくづく恐いもの知らずだな、と今さらながらに教えられたような気がした。


 「ああ。レミーたちはおそらくここから下に向かったんだと思う」


 実際に穴そのもは大人が出入りできるほどの大きさだが、十分な足場が存在しない。

 レミーたちも無理をしながら下まで降りて行ったのだろう。

 速人だけならば上から下まで行き来することが出来るのだろうが、子供たちを上げる為には大人の協力が必要だ。

 そこで速人はソリトンたちに救出用のロープを用意して上で待機することを提案した。


 「ソリトン。俺が下に行ってレミーたちをこの場所まで連れてくるから、ロープか何かを用意してくれないか?」


 「それは構わんが、お前一人で大丈夫なのか。ダグかエイリークに応援を頼んで合流するという手段もあるぞ」


 成功する確率を考えれば仲間の到着を待った方が高くなるだろう。

 しかし、速人は首を縦に振ることはなかった。


 「いや。さっきも言った通りに下で水キツネに襲われている可能性があるからな。ここからは時間との戦いだ。俺が先行して様子を見てくるからエイリークとダグザに連絡をよろしく頼む」


 ソリトン自身あまり考えたくはなかったが、速人の言うように魔物が近辺を徘徊している気配は強くなってきている。

 ソリトンは信頼を寄せるような目つきで速人を見つめた。


 「俺は急いでキャンプ地に戻り、事の次第をダグザたちに伝えるつもりだ。子供たちのことはお前に任せたぞ、速人」


 「わかった。この命に賭けて子供たちを無事に保護する」


 言った直後に、速人は裂け目に身体を滑り込ませる。


 空洞の天井にあたる部分にまで到着すると壁に点在するわずかな足場から足場へと飛び移りながら真下の川辺を目指した。


 ソリトンとその仲間たちはその様子を驚愕の表情でそれを見守る。


 やがて空洞の地面にまで到達した速人は無事を知らせる為にソリトンたちに向かって手を振った。


 ソリトンは無言で頷くとキャンプ地に向かって走り出した。


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