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第六十九話 続・ウィナーズゲートの町へ!

次回は五月三十日に投稿します。


 エリオットはいつもの様子とはまるで違う、思いつめたような顔つきになっていた。それもそのはずである。

 かつての仲間エイリークだけではない幼い頃から色々と世話になってきたレナードの名前を今しがた聞いてしまったからである。

 ここまで来ればエリオットがどれほど鈍い人間でも速人の素性を疑わざるを得まい。


 「速人。君はエイリークの命令で僕たちを探しに来たのか?」


 エリオットにはいつか必ず罪人として都市に連れ戻される、そんな日が来るという気持ちはいつも必ずどこかに在った。

 しかし、それが先ほど苦難の果てに和解してようやく友人になれた速人(※あくまでエリオット視点)が相手ともなれば落ち着いてはいられない。

 

 これが悪夢であれば今すぐにでも何もせずに過ぎ去って欲しい。

 そんな淡い期待を抱きながら必死の思いで速人に尋ねる。

 しかし、運命の神はエリオットを破滅の運命から解放することはなかった。


 「あのさ。三十過ぎても自分が世界の中心だと思ってる自意識過剰のおっさんって超絶に気持ち悪くない?」


 やはり神はいなかった。


 「!!!!…近所ではまだ僕に気を使ってお兄さんって呼んでくれるのに…」

 

 エリオットはその場で崩れ落ちて、すすり泣く。

 エリオットは自分が中年である自覚はあったのだが、それを認めようとしない自分がいることもまた確かな事だった。

 

 だが速人の「おっさんの…」という下りはこの際どうでもいい。

 しかし、エリオットの「自意識過剰」という性能スキルは多少の自覚はあれども実際に他人に指摘されると立ち上がれないくらいの精神的なダメージとなっていた。

 

 ※ココ重要 

 

 世の女性たちには、三十を過ぎた男の感性など基本自己中シンデレラ(※もしくは初音ミ○の神曲ワール○イズマイン)のそれと断じていただきたい。

 著名人の不倫謝罪会見とかそういう感じでしょ?余計な話はいいとして次の本題に進む。


 「奥さんだってさ、ジェナさんだっけ?ウチの旦那にもそろそろ大人になって欲しいなって思ってるよ」

そして速人はむせび泣くエリオットへと仰向けにダウンした顔面への踏みつけ攻撃よりもエッジの効いた攻撃を追加した。

 

 エリオットは声にならない叫び声をあげながら地面を転がっていた。

 

 (こういう無意味にポジティヴな輩は要所要所でピンポイントに打っておかねばなるまい)

 

 もはや速人の目にはエリオットとセオドアは痛い性癖を持った大きな子供にしか映っていなかったのである。

 エリオットはさんざんゴロゴロした後、仰向けになってすすり泣いている。


 「速人、お前にはつくづくガッカリたよ。本当にお前はやる時は徹底的にやるやつだったんだな。こんな風に男が一番多感な時期(※30~50歳前半。60代以降はパワーアップする)に弱い部分を痛めつけるなんて見損なったぜ!」


 それまで後ろに隠れたいたセオドアはエリオットの頭を撫でている。


 (この互いの傷を舐め合うだけのペロペロホモ兄弟だっちどもが…ッ!!お前らのようなチンタマ無しが男の品位を貶めていることに何故気がつかない!!)


 速人は自動車に踏み潰された牛のウンコとそのウンコにくっつているフンコロガシを見るような目で二人の姿を見ていた。


 「うるさいそ。糞雑魚。俺たちは今エイリークさんの家に厄介になっているが、それだけの話だ。そもそも連れ戻すのが目的なら俺の方からセオドアさんたちだけを外に連れ出そうとするんじゃないのか?」


 セオドアは膝をついて俯いてしまう。

 速人の言う通り、もしもセオドアたちを連れ戻しに来たのだとしたら速人の方から直接接触を図ってきたことだろう。

 むしろ勝手について来たのはセオドアたちなのだ。


 「速人。俺も、ノクターン公国と防衛軍についてはある程度理解できたとは思うのだが彼らの処遇に関してはどうすればいいんだ?」


 カッツが遅れて速人に尋ねてきた。

 エリオットたちの素性に関しては敢えて触れないようにしたのはカッツのなりの配慮というものだろう。 この場において最も精神年齢の高い図体の大きな子供はカッツだった。

 

 速人は事件の真相を知って、すっかり委縮してしまったデボラ商会が雇った男たちを一瞥する。


 (今のところ悪さをするつもりはないだろうが念には念を入れる必要があるだろうな…)


 「とりあえず全員で防衛軍に行って今までやってきたことを全部話した方がいいな。仮にこの場を逃れることが出来てもデボラ商会が追手を差し向けてくるだろうし、場合によっては失敗の責任を取らされて殺される可能性もある。お前らも家族を殺される前に悪い連中と縁が切れて良かったんじゃないのか?」


 速人はもう一度、男たちを睨んだ。まだ発見されてはいないがこの辺りの地面を掘れば被害者の死体が出てくるのは間違いないだろう。

 結果として高い授業料を払うことになったが、犯罪者に協力すればそうなるか自らの身を以て理解できたはずだ。


 「なあ、そのことなんだけどよ。実は俺とエリオは外にいる防衛軍の連中に知り合いがいてだな。俺たちが一緒に防衛軍のところまでついて行ってやったら、こいつらの罪を少しばかり軽くしてやれると思うんだ。お前らもまだ誰も殺してはいないんだろ?」


 セオドアが全身をフラフラさせながらも右手を上げる。

 表情もまだショックから立ち直っていないらしく普段よりも五割増しで頼りなくなっていた。

 しかし、セオドアの言葉に一筋の光明を見出した男たちはほぼ全員で「ハイッ!」と答えた。


 セオドアは苦笑しながら男たちを見た後に再び速人の方を見る。


 「まあセオドアさんがそれでいいって言うのなら、そうしろよ。俺は最初からそいつら全員殺すつもりだったし」


 男たちは手持ちの武器を全てセオドアとエリオットに託し、自分たちで両手を縛り合っている。

 そして、セルフ緊縛した男たちは泣きながら首を縦に振ったりして自分たちには抵抗する意思が無いということを伝えようとしている。

 元悪党のあまりにも憐れな姿を見たセオドアは泣きたい気分になった。


 「俺は死体をカタしてくるから、そいつらの様子を見ておけ」


 速人は吐き捨てるように言う。

 そして地面に唾をぺっと吐く。

 これではどちらが悪党かはわからなかった。


 「速人、恩に着るぜ。お前らもな。もう大丈夫だから泣くなよ。俺だって泣くの我慢してるんだから…」


 そう言ってセオドアはハンカチで目元を拭いていた。

 速人は悪態をつきながら頭の割れた死体やら、クロスボウの矢を受けて死んだ者たちを街道の端に寄せる。

 この先、ある程度時間が経過すれば商用で町を訪れる者たちが通る可能性を考慮した結果である。

 

 淡々と死体を処分する速人の姿を見た男たちから悲鳴が上がる。

 その間、セオドアとエリオットは恐怖と絶望に喘ぐ男たちを必死に宥めていた。

 

 やがて全ての死体が草むらの奥に運搬された後、速人は意に沿わないゴミの始末をさせられた者のような渋面を作りセオドアたちの元に現れる。

 偶然速人と目が合った男の一人が悲鳴を上げた後に転んでしまった。

 しかし、速人は一向に気にすることなく自分で持ってきた手洗い用の水で手を洗っていた。


 「ところで皆さんはこれからどうされるのですかな?」


 気がつくと先ほど悪漢たちに暴行を受けていた壮年の男が速人たちの目の前に立っていた。

 殴られた箇所をまだ摩っているが歩けるほどには回復した様子である。

 差し詰め町を訪れようとしていた人間を代表してやってきたのだろう。

 速人は濡れた手を拭きながら声の方向を見る。


 「俺たちはウィナーズゲートの町にある防衛軍の出張所に行くつもりだ。こいつ等を放っておけばデボラ商会に捕まって何をされるかわからないし後味が悪い話はもう御免だからな」


 セオドアがエリオットやカッツたちに代わって答えた。

 速人は手洗いを終えた後、立ち上がってこの場を去ろうとしている。

 速人の行動の早さに驚いたセオドアは雪近とディーに引き止めるように目配せをした。

 雪近とディーも彼らを放置して出て行ってはいけないと思うところがあったらしく二人一緒に速人の手を引いて元の位置まで連れ戻した。

 壮年の男は連れ戻された速人に軽く会釈をする。

 年功序列を重んじる速人は礼を示した壮年の男に対して頭を下げた。


 (元は礼に対して礼を返すが故に礼節というのだ。然るに俺の恩を仇で返してくる糞虫ども(※雪近、ディー、セオドア、エリオット、カッツのこと)は地獄行きだな)


 速人は頭を下げながら復讐方法について考えていた。


 壮年の男は自分の荷車のところに戻って積み荷を点検していた。

 積み荷の中身は衣類の詰まった箪笥や中身の入っていない壺、壊れかけたランプなどの生活用品ばかりである。おそらくは古道具を売ってここ数日の生活費を稼ぐつもりなのだろう。

 速人とて自分の力だけではどうすることもできないことを知っているので、なるべく男や他の難民連中の姿は見ないことにした。


 速人はセオドアに命じてエリオットには向こうに行かないように言おうとした矢先に、手の空いたエリオットが難民たちの世話を焼きに走っていることを目撃する。

 カッツもまたエリオットの手伝いに向かっていた。

 セオドアは両手を投げ出して申し訳なさそうに笑っていた。

 速人は眉間におそろしいほどの皺を作り、黙々と難民たちの解れかけの荷物を積み直すことになった。


 「皆さん。俺たちで良ければ、ウィナーズゲートの町まで案内しますよ。痛い痛い痛い痛いッ!!速人、キミだって本当は僕と同じ事を考えて…、ア痛タタタタタッッ!!!」


 エリオットが爽やかな顔で提案する。

 本来ならば難民たちも渡りに船とばかりに歓迎したいところだが、当のエリオットは速人によって地面に組み伏せられ腕ひしぎ逆十字固めをかけられている状態だったので何も言い出せないでいた。

 この時、速人の怒りゲージはMAXを越えて既に怒大爆発の状態になっていたことは言うまでもあるまい。


 「我々としては嬉しいところだがエリオット、君は本当に大丈夫かね?」


 壮年の男はエリオットを苦しめ続けている速人の側に行こうとしたが、セオドアに止められた。

 他の難民たちも首を横に振って男に思い止まるように促している。


 「この速人という少年は少し怒りっぽいところがあるけど僕と彼とは心の通じ合った親友なんです。ね、速人?…ガハァッ!!」


 エリオットはそのまま白目を剥いて気絶してしまった。


 (利き腕を破壊するには至らなかったが、これでしばらくは余計なことを言わないだろう)


 速人はエリオットの世話をセオドアたちに任せてウィナーズゲートの町に向かって歩き出した。

 セオドアはエリオットを背中に乗せて速人の後ろを追いかける。

 残ったカッツと雪近とディーは壮年の男と難民たちについてくるように伝えた。


 かくして速人を先頭とした長蛇の列が完成し、一同はウィナーズゲートの町に向けて出発することになった。


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