第六十八話 同盟と帝国と第十六都市と
次回は五月二十七日だよ!!内容が無駄にくっそ長くて遅くなってるから気をつけてね!!
速人は生き残った悪党どもを一か所に集めて正座させていた。
男たちの人数は半分以下の十二人くらいにまで減っていた。
結局大勢の死傷者が出来上がった原因は、仲間の一人が錯乱してボウガンを乱射したことである。
どうやら連中はクロスボウの矢に毒が塗ってあることまで知らず、あくまで護身もしくは威嚇用と考えていたらしい。
投降した男たちは仲間の亡骸を横目で見ながら意気消沈している。
「頼む。後生だ。俺たちを生かして帰してくれ。俺たちはまだデボラ商会の連中に雇われて日が浅いんだ。こんな身ぐるみを剥いだ上に相手を殺すようなヤバイことをしている連中だと知っていれば、ついて行かなかったよ…」
男は生き残った仲間を代表して両手を合わせて頭を下げる。
速人は何も答えない。
このまま下手に関われば、話数的に二、三回まで進んで長引く可能性があるからである。
(さて…、と。助けるフリをして全員殺した後バラバラにして空井戸に投げ込んでおくか…)
「気にするな。誰にだって間違いはある。さあ、向こうでゆっくりと話でもしようか…」
速人は微笑を浮かべながら頭を下げている男たちにゆっくりと近寄る。
しかし両者の間に和解の雰囲気が出来上がってきたその時に、エリオットが男たちと速人の間にやってきた。
「速人。残念な話だが、彼らをこのまま解放するわけには行かなくなった」
エリオットと後からやってきたセオドアの表情も暗いものに変わっている。
コクン、と頭を縦に振る。
速人はツカツカと男たちの方に歩いて行った。
そして、一番ガタイの良さそうな男の腕を掴んで捻じり上げた。
「降参するって言ったのに!!がああああああッッ!!お願いだからこれ以上、酷いことをしなでくれええええッ!!」
男は速人に向かって助けを求めるが、速人は男を見ていない。
速人はそのまま手首を内側に折り曲げて、男の右腕の関節を完全に極めてしまった。
セオドアは解放するように促したが、その一方でエリオットは速人を止める様子はない。
(良識派のエリオットが、思わず俺を止めようとしない。そういう状況か)
速人は男の手首から手を放してやった。
男は自分の右腕を摩りながらすすり泣いている。
速人はエリオットの話を聞く為に向き直った。
「それで何がそんなに厄介な話なんだ?これ以上の面倒事なら御免だぜ」
「これを見てくれ。先ほどの戦闘で彼らの仲間が使っていた連弩なんだが、これの出所はノクターンだ」
セオドアが長方形の銃身が乗ったクロスボウを速人に見せる。
速人は銃のグリップや装飾を細かく観察する。
(ノクターンに掲載されなければならないような作品なら、どこかに美少女のヌードとかが書かれているはずだ。もしかすると銃のどこかにこけしとかローター的なものがついているのかもしれない…)
速人は運営から傾国を受ける前に、18禁要素を排除しようとしたが人を殺傷する機能以外の18禁要素を発見することは出来なかった。
速人は額に浮いた汗をゆっくりと拭いさる。どんな努力も必ず報われるわけではないのだ。
「銃身や銃把の部分に彫られている紋章。これがノクターン公国のものなんだが、流石のお前も知らなかったか?」
速人はセオドアにボケを潰されてイラっときたが、すぐに自分の間違いを認めてそのまま黙っておくことにした。
尚セオドアは速人の心情の変化を察していたのでその辺を突っ込まないようにしている。
速人はセオドアの説明を受けて、クロスボウの銃身と銃把を見入っている。
そこには銀の月と金の太陽、男女二つの顔を持つ古の巨神が描かれていた。
(間違いない。これは巨神アポロニア。するとやはりこの武器は海エルフの後裔を称するノクターン公国軍の武器か)
速人は眉間に皺を寄せながら、奥歯を噛んだ。
理由は至極単純。速人の想像以上に厄介な話に発展していたからである。
セオドアとエリオットは速人の背中から発せられる異様なオーラを察知し、また一歩距離を取る。
「俺がこれを知らないわけがないだろう。少し前までレッド同盟の開拓村で暮らしていたんだ」
速人は舌打ちをした後に、クロスボウをセオドアに突き返した。
そして足元に落ちている矢を拾う。
話題に上がったノクターン公国とはレッド同盟に所属するエルフ族の軍事国家だった。
またノクターン公国は同盟内の多くのエルフ族がティターニアという名前の巨神の末裔を名乗っているのに対して、唯一巨神アポロニアの末裔と称している。
エルフ族ではない速人にはよく理解できない話だったが、開拓村の代官のスタンはこの事についてひどく否定的な熱弁を振るっていたことを記憶している。
曰く「海の巨神縁のエルフ族など、エルフであってエルフではない。見栄っぱりどもめ」と。 さらに少し面倒な話になってしまうがエイリークたち(※エリオットとセオドアも含める)のアポロニア・リュカオン族というリュカオン族も巨神アポロニアの血を受け継ぐ眷属種である。
「ノクターン公国は専用の軍隊を持っている軍事国家だ。もしも他国でノクターン公国の武器が使われたことが明るみに出れば同盟と帝国の間で戦争になる可能性もある」
速人はいつもにも増して真剣な表情で語る。
帝国の内情を知るカッツは額に汗を浮かべながら相槌を打った。
「速人。俺はレッド同盟のことは全く知らないんだが、ノクターン公国のことをわざわざ軍事国家なんて物騒な言い方をするってことは軍事力を主産業にしている国ってのは珍しい部類に入るのかい?」
カッツの故郷はダナン帝国の属州の一つである。
そしてカッツの父ハイデルは一応、騎士の位にあった人物である。
ハイデルは成人して父親から地位を引き継ぐまでに、帝国属州の交易の盛んな都市にある帝国軍属の学校で作法や武術を学んだ経験があるとカッツは父親から聞いている。
幸か不幸かカッツが生まれた頃には都会の学校に若者を送り出す余裕が無くなるほど故郷は廃れていた為にカッツ自身は行くことはなかったがそれでも兵役というものは国が有する軍隊に志願して自発的に獲得するものとばかり考えていた。
またカッツもダナン帝国のドワーフ特有の文化面ではエルフに劣るという劣等感を抱えている。
故にレッド同盟に所属する国の大半が戦時には農民がそのまま兵士になるという封建社会の名残のような社会制度に縛られていたという話を聞かされ、驚きを隠せなかった。
「ああ。ダナン帝国は帝国軍が軍事力の大変を掌握しているけど、レッド同盟は所属する国々の君主がそれぞれ独立した軍事力を持っているんだ。兵士の給料も金銭じゃなくて麦とか土地とかそういう感じなんだ」
カッツの驚く顔を見た速人の表情は苦々しいものに変わる。
帝国の人間がどういう理由で戦わされていたかは知らないが、少なくとも敵対しているエルフや自治都市の巨人族は自国の利益のみ優先する身勝手な連中というマインドコントロールを受けていたのだろう。
ハイデル同様に素直な性格のカッツならば、義憤に耐えぬという心境なのだろうか。
(しかし、…俺にぶつけられてもな)
速人はこのままカッツも井戸の中に沈めてしまおうかと考えていた。
「おいおい。給料の代わりに食料が支給されるなんて、いつの時代の話なんだよ。帝国だったら暴動が起きているぞ」
カッツはボロボロになったハイデルが一人で故郷に戻った時のことを思い出し、声が荒々しくなっていた。
ハイデルとカッツの叔父たちは雀の涙のような給料の為に志願兵として戦争に参加したのだ。
なのに、敵も同じような境遇だったことを考えれば悔しくて声が大きくなってしまうというものだろう。
(若さとは時として羨ましいものだな)
この時、速人(※現在の年齢は十歳)はそんな風に考えていた。
「仕方がないだろ。レッド同盟の鍛冶の技術はお世辞にも高いとは言えないし、頼みの紙幣(※どっちかというとお札っぽい。タリスマンという俗称も持つ)は同盟間のパワーバランスが変わる度に勝ちがしょっちゅう変わるんだから。下手をすると同じ重さの銅貨よりも塩の方が高くなる時だってあるんだ。役に断たない葉っぱよりもパンさ」
気がつくとカッツは沸騰したヤカンのように憤っていた。
カッツは外見から気優しい性格に見えるが、正反対の厳つい外見のハイデルよりも興奮しやすい性格かもしれない。
速人がどうどうとカッツを宥めている時にディーが肩を突っついてきた。
雪近とエリオットとセオドア、そして悪者たちがもうしわけなさそうな顔をしている。
速人の目つきがさらに厳しいものに変わっていた。
「あのさ、速人。キチカ…っていうか他の人が話についてこられないから俺にわかるくらいのレベルまで落として話してくれないかて…、おっ、俺だって好きでこんなこと言ってるわけじゃないよ!!…ねえ!?」
ディーの話が終わった後、速人は試合終了間際に今まで飲んでいたドーピング薬を全て吐き出してしまった時の○ャック・○ンマーのような顔をしていた。
もしもこの時ディーに悪意らしきものがあれば約五分間に渡る無呼吸連撃を食らわせてやったところだ。
「どこからだッ!!どこから説明すりゃあいいんだッ!!まさか地頭の糞悪い受験生みたいにッ!!わからないところがわからない、とかそういう話は止めろよ!!」
エリオットが嬉しそうな顔をしながら「ハイッ」と元気に手を挙げる。
「僕は最初から聞いていて全体的にわからなかったんだけど、ノクターン公国の軍事国家って何の事なのかな?第十六都市の防衛軍とは違うの?」
エリオットは得意の春の陽気と青空の爽やかさを含んだ微笑を向ける。
前髪をまっすぐに切りそろえた金髪が風に揺れた。
エリオットは片目をつぶり愛敬を振り撒く。
だが盛りのついたメスブタビッチどもが相手ならばこれで震えあがるのだろうが速人には通用しない。
速人は昔流行したグロ怪奇漫画の主人公のような顔をしながらも、地頭の悪い三十男の質問に答える。
「まず軍事国家ってのは軍事力を主産業にしている国の事だよ。ノクターン公国の場合、ノクターン公王と議会が軍隊の出資者になっている。同盟内で揉め事が発生した時は連盟軍の次に頼りにされている軍隊だな。ちなみに連盟軍ってのは同盟の前身組織レッドリーブス円環連盟の時の名残ね。他にも同盟に所属している国の要人警護とか重犯罪者の護送なんかの時にも活躍してる。他はあまり大きな声ではいえないが公国で作った武器の輸出なんかだな。これは同盟内でも特に歓迎されていない。ここまで、で何か質問は?」
最初にディーが手を上げる。エリオットも何か質問しようとしていたがセオドアとカッツの二人に止められていた。
「はい。結局、何がどう駄目なの?このおじさん達は全然知らなかったって言ってるし別に見逃してあげてもいいんじゃないの?」
悪漢たちは藁にも縋る思いでディーの言葉に大いに共感し、賛同する。
今やディーは彼らにとって救い主そのものであった。
「良いわけあるか、ボケ。デボラ商会ってのがどういう組織かは知らないがノクターン公国の紋章つきの武器を使って強盗やってた時点でアウトだ。もしもダナン帝国の連中にバレてみろ。レッド同盟が第十六都市の治安を脅かしているっていう難癖つけられて戦争になるに決まってるだろうが。お前のようなゼリー状の脳みその人間は知らないかもしれないがな。この第十六都市を含める自治都市のほとんどは帝国の領土だったんだよ」
速人はディーの意見を真っ向から否定する。
ディーと悪漢たちは落胆し、そのまま固まってしまった。
「ディー。実はうちの親父たちが第十六都市に行こうって言い出したのも、うちの先祖がサンライズヒル周辺の土地の開拓に関わったっていう記録が残っていたからなんだ。まあ、結局うちの遠い親戚連中も市議会の巨人族に追い出されて帝国領に戻っていたんだけどね」
カッツは落胆するディーに一族の来歴について語る。
要するに速人に手の内を明かして、これ以上追い打ちをかけるなと言っているのだろう。
「それで第十六都市の防衛軍とはどう違うんだ?僕はカッツの家の話はもう知っているんでね。その話はもういいよ(※ エリオット死亡フラグ +1 )軍事国家の話は何となく理解できたけどむしろ…、それ以上頭を膨らませると聞けんじゃないかい?…むぐっ!」
話の途中でエリオットはセオドアに羽交い絞めにされたいた。
雪近が恐る恐る速人を見ると、案の定破裂寸前のゴム風船のような顔になっていた。
「ぬぅぅ…ッッ!!第十六都市の防衛軍は基本的に市議会の許可が無くては動くことが出来ない、あくまで私的な組織だ。軍容も大きく分けて巨人族の保有する隊商と各眷属種の保有する隊商から派生したものから構成されている。軍という体裁をとってはいるが所詮は私兵の寄せ集めの組織だな。戦争ならば力を結集することが出来るが、小さな小競り合いではほとんど役に立たないだろう」
頭を下に向けていたディーがある人物のことを思い出して、速人の話に割り込んできた。
「へえ…。エイリークさんもそうだけどさ、レナードさんも苦労しているんだね」
「レナード?ディー、どうして君がレナードのことを知っているんだ?」
ディーの口から想像すらしていなかった知人の名前が出て来た為にエリオットとセオドアは動揺を隠せなくなっている。
ぷっつーん!!(※自慢のヘアスタイルを貶された時の某漫画の第四部の主人公と同じ心理状態)
即ギレした速人は光の速さで回り込み、ディーの背後を取った。
「え?今朝ダグザさんと奥さんを迎えにエイリークさんの家に来た時に、一緒にご飯食べてったよ。…ぐはッ!!」
「ドラララァァーッ!!このまま寝かしつけてやるよぉぉーーーッッ!!」
速人はディーに延髄蹴りを食らわせた後、マウントを取り詠春拳の伝家の宝刀チェーンパンチを叩きこんだ。
土砂降りのようなパンチを食らいながらディーは思った。
これからはもう少し考えてから発言しよう、と。
ドドドドドドドドドッ!!
しかし、いくらディーが反省しようとも、速人の怒りは止まらなかった。