プロローグ 1 宿命との邂逅
不定期新連載です!!
ある日、俺は鎖によって繋がれた二本の棒に心を奪われた。
さながら黄昏時のマジックアワーめいた今も色褪せぬその名はヌンチャク、至高の響きだ。
当時テレビでやっていたカンフーのアクション映画で見たのがきっかけだったような気がする。
幼い頃の俺の実家は貧乏だったので親に「ヌンチャクを買ってくれ」とは言うことは出来なかった。
早くも俺と俺の夢の前に絶望的な壁が立ち塞がる。
これではいけない。
そう思った俺は実家の近くにある材木店で仕事を手伝いながら余った材木を使い、ヌンチャクを作った。
出来上がったのはずいぶんと不細工なヌンチャクだったが、仮初めといえど憧れの対象を手にしたあの時の興奮は忘れたことがない。
あの日、俺はヌンチャクになったのだ。ヌンチャクを手にした日から俺は何かに憑りつかれたようにヌンチャクを振り回し、ヌンチャクを究めようとした。
雨の日も、風の日も、雪の日もヌンチャクを振り回した。
汗を流し、血を流し、気を失うことになっても俺はヌンチャクを手放すことはなかった。
苦節二年の時を経て、8歳の俺のヌンチャクは大岩を砕くほどの威力を持つようになっていた。誰も来ないはずの裏山の修行場で一人、修行の達成感に酔いしれる俺の前に一人の男が現れる。
黒曜石の如き輝きを放つ褐色の肌。肉の鎧と形容する以外に言葉が見つからないほどに(上半身メイン)鍛えられた肉体。腰には黄色い帯、黒いズボンを穿いた長い髪を三つ編みに結った半端なく濃ゆい男だった。
この男、只者ではない。
本能的にそれを感じ取った俺はとりあえずヌンチャクを振り回して男を威嚇することにした。
左手から右手へとヌンチャクを回しながら、相手からの攻撃を受け流しつつ機先を制する。我ながら完璧な構えだったと思う。
しかし、男は目を閉じたまま首を横に振る。
何故だ。俺が一体何を間違えたというのだ。
「日本の勇敢な少年よ、それではヌンチャクに振り回されているだけだ。いっぱしのヌンチャク使いになりたければまず基本をマスターしなさい」
その男は見抜いていた。
俺のヌンチャクはカンフー映画の猿真似、言わば我流の無手勝流にすぎない。
知りたい。どうすれば真のヌンチャク使いになれるというんだ。
「ヌンチャク道の奥義、それは言葉で教えてどうにかなるものではない。考えるな。感じ取れ」
俺の手作りヌンチャクが突然、爆発した。
そうか。これは俺の作り出した偽りのヌンチャク。
道具に頼る限り、俺はヌンチャクマスターになれないのだろう。
俺は涙を流しながら、地面に両膝をついた。
「少年よ、ようやく己の愚かさに気がついたか。今からお前を異世界ナインスリーブスに転移する。真のヌンチャクマスターになりたければ鍛え直してこい。そこでお前がお前だけの心のヌンチャクを手に入れた時にもう一度死合ってやろう」
こうして俺は謎の男に導かれるままに異世界に転移することになった。
俺はここに誓う。
例え何があっても異世界とやらで心のヌンチャクを手に入れて、必ずここに帰って来ると。
これは俺の、不破速人というヌンチャクに魅入られた男の物語である。
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