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8―ま、魔法・・・?魔導・・?―

筋肉の化け物、正規名称マッスルホーンラビットを無事討伐した銀二はそこで出会った女性と共に街へと戻ってきていた。赤紫色の髪の毛をどこかしょんぼりとさせながら歩く彼女の手には、道中銀二の助けにより発見した金属製の杖がある。


「はぁ~・・ホントありがとうございます・・・。これが無くなってたら死んでもしにきれないから」

「どーいたしまして。その杖、そんなに大事なものなのかい?」

「ええ、これ一本で小さな家が一軒は買えます」

「・・・緊急時とはいえ、んなもん放り投げるなよ」

「うぅ~・・・だってあんなギャグみたいなのに遭遇するとは思わないじゃない」


生きた心地がしなかったと呟く彼女は、ため息一つ吐くと肩を落とした。そんな様子を苦笑いしながらみる銀二。


「今日はとことんついてない・・・よりにもよってマッスルホーンラビットと出会うなんて悲劇よ」

「(傍から見てると喜劇だったんだよなぁ・・・とは言わないほうがいいか」

「声、漏れてますよ・・・。はぁ・・・・」

「おっと、そいつは失礼。つい本音がゲフンゴフン。ほれ、ギルド着いたぞー」


空笑いをしながらギルドに入っていく銀二に恨めしそうに視線を送る。最後に一つため息を吐くと小走りでギルドに入り、受付嬢と話していた銀二の横に立つ。


「あら、ヒルデさん。珍しいですね~普段はずっと研究なさってるのに」

「ええ、研究費をちょ~っと使い込んでたのをすっかり忘れて金欠になったのよ。それより聞いてよイルセ、あの森に筋肉の化け物が出たわよ」

「えっ、マッスルホーンラビットですか?それじゃ討伐依頼出さなきゃ・・っ」

「大丈夫よ、遭遇して逃げてた私をこの人が助けてくれたの」


そういって顔を銀二へと向ける。銀二も頷きアイテムバッグから兎の耳をつかみ顔をグイっと持ち上げて見せる。


「ええっ、ギンジさんが!?す、すごいです!低位冒険者の方が討伐するなんていつ以来でしょうか」

「いやーたまたまさ。ぶっちゃけ結構辛くて途中逃げたかった」

「逃げられてたら今頃私ミンチにされてたわね・・・というかギンジさんって低位冒険者だったの?」

「ああ。つい二か月前くらいに登録した新米さ」

「普通、新米はマッスルホーンラビットを見かけたら脱兎のごとく逃げるのがセオリーなんですけどね・・・」


苦笑しつつ受付嬢―イルセ―が書類を書き込み、隣の職員にそれを渡す。渡された職員も書類を持ち奥の部屋へと入っていく。


「マッスルホーンラビットとなれば中型の魔物ですから、あちらの解体部屋で提出をお願いします」

「あいよー、普通のホーンラビットもそっちに出せばいいのかい?」

「はい、ギンジさんは結構な数を狩られますから、そのほうがこちらも助かります」


そういうや銀二は手をひらひらと振りながら奥の部屋へと入っていく。赤紫色の髪の女―ヒルデ―はギンジの背中を興味深そうに見ていた。


「それにしても、あのギンジって人見ない顔よね」

「あはは、ヒルデさんは普段から自室に引きこもってますからね~」

「うぐ・・・」

「まぁ、ギンジさんがこの町に来たのも数日前くらいですから、知らなくても無理はないかと」

「へぇ、旅をしてるんだ」

「ええ、なんでも王都から旅をしてるんだとか。ほら、大地の精霊教会のローブ着てますし、本人も巡礼の旅って言ってましたよ」

「巡礼!?へ~珍しいわねぇ、前に比べて巡礼者なんて見なくなったのに・・・。あ、私の換金もお願い」

「はい、ホーンラビットですね。え~っと・・・・はい、こちらが報酬になります」


カウンター横の金属の箱にホーンラビットをドサッと置くと、その数を数えたイルセが報酬の銀貨を袋に詰めて渡す。そうしているうちに奥の扉が開き、銀二が姿を現した。フードで表情が隠れているものの、嬉しそうな雰囲気が漂っているので、それなりに稼げたようだ。


「そっちの姉ちゃんは災難だったがいい稼ぎになったぜ」

「それは何よりだわ・・・。ねぇ、助けてもらったお礼もしたいし、どこかで食事でもどうかしら?」

「お?おう、んじゃご相伴にあずかりますかね」

「ええ、安くて美味しい店があるの。それじゃイルセ、またね」

「はい、またのお越しをお待ちしております」


―――

――


カランコロンとドアベルが鳴り、少し薄暗いくらいの店内に外の空気が入り込む。カウンターでグラスを拭いていた男が入口に目を向ければ、赤紫の髪が特徴的な女と白いローブに目深にかぶったフードが特徴的な男が入ってくる。


「おや、ヒルデさんいらっしゃい。珍しいですな」

「みんなして私を見るなり珍獣みたいに言うのはなんでかしらね・・?」

「日頃の行いからかと。そちらの方もいらっしゃいませ、どうぞこちらへ」

「ほぉ~随分落ち着いた雰囲気で・・いい店だな」

「恐縮です」


にこやかにほほ笑みカウンターに手を差し伸べる店主。ほほ笑んで浮かぶ目尻のしわや口元に蓄えたヒゲ、ロマンスグレーの髪からして古き良きナイスミドルといった風情の男だ。案内された席に座り、銀二も珍しくフードを外して顔を晒す。


「あら、あまり見ない顔立ちだけど、いい男ね」

「そりゃどうも。アンタもいい女さ・・・店主もいい男だし、帝国人ってのはみんなそんな風に美男美女が多いのかい?」


お絞りを受け取り、手を拭き顔を拭きながらなんでもないかのように銀二が言えば、ヒルデもそしてカウンターの店主もひどく驚いたように目を見開く。


「私、帝国出身だなんていったかしら?」

「いいや、名前くらいしか聞いてないな」

「どうしてわかったのか、聞いても?」

「アンタらの顔立ちがちょっとこの国の奴らとは違うって話さ」

「顔で・・?」


ゴシゴシと顔を拭いていたお絞りを離せばうすく茶色に汚れがついていた。それを見てうへぇ・・と呟きを漏らす銀二。


「アンタらの顔・・・特に鼻がこの国の連中よりも高いのさ」

「たしかに王国の人たちは少し鼻が低いけど・・それだって誤差のようなものじゃない?」

「いくつか資料で調べたが、王国は基本的に一年を通して温暖な気候であることが多い。冬もまぁ寒さはあるが連日吹雪く様な環境ではない。対して帝国はここからずっと北に位置する雪国って話じゃないか。そうすると特に鼻が環境に適応する」

「・・・そんな話、聞いたこともないわね」

「寒い雪国の環境では、冷たい空気を吸うことになるが、凍り付く寒さの空気を直接取り込めば肺が凍えっちまう。そこで鼻を高くして鼻の中の空間を広く長くすることで、体温で空気を温めて肺に送るようになる。生まれは知らんが、アンタらのルーツは北国の帝国って推理ができるわけさ。俺みたいに顔が平坦な奴からすれば目鼻立ちが結構目に付く」

「・・・実に面白いですな。それなりに長く生きておりますが、私でも初めて聞くお話です」

「そうかい?・・・まぁ医者の真似事をする以上、人の体の仕組みなんかも覚える必要があってね」


白いローブの襟元を持ち上げるように示せば、それを見て店主も納得したかのように頷く。


「精霊教会の方・・・ですな。この国では久しくそのローブを見ておりませんが」

「これは旅の途中で弟子入りした師匠から譲られたもんさ。隠居するってんで姿を消しちまったがね」

「なるほど」

「それに、帝国の人らからすればこのローブも珍しいもんじゃないだろ?」

「まぁ帝国は大地の精霊教会が国教でもありますから、本山にいけばそのローブは多く見かけますよ」

「この国で見なくなったのは・・・やっぱりアレよね、宝具強奪事件があってから・・・」

「ええ。当時はそれはそれは騒ぎになったものです。そしてその後にこの国に聖光教会が発言を強め、他の精霊教会を弾圧しだしましたからな。最近は少し落ち着いているようですが・・・」

「おおヤダヤダ。平和が一番だねぇ・・・。それで、この店のおススメもらえるかい?」

「畏まりました。ヒルデさんも同じもので?」

「ええ、助けてもらったお礼にね」


カウンター裏の竈に火を入れ、鍋を温める店主。ヒルデの言葉に眉をピクリと動かしながらも深くは聞いてこない。


「そういえばギンジさんって巡礼してるんだって?」

「んー?ああ、さっきも言ったが師匠みたいな人の跡を継いでね。ひとまず隣のグラナドス連邦から各地の精霊教会回って・・最後に帝国になるか」

「それ、この大陸の上半分はまわることになるわよ・・・」

「ま、しゃーない。王都からここまで何とかなったし、多分大丈夫だろ」

「どうぞ、当店自慢の兎肉のシチューです」

「おおこりゃ旨そうだ」

「大陸を巡る旅ですか・・・。最初の関門はこの霊峰ですな」

「ああ、知り合いから話を聞いたが険しい山道を歩き続けるんだってな」


ヒルデの前にもシチューを置き、店内の風下側でパイプに火をつける店主。銀二の言葉に頷き紫煙を吐き出す。


「王国最大の要塞、と言っても過言ではありません。今では国交がありますから連邦からの旅人や行商人が通る道がありますが、草木を払い轍ができた程度のものですな。山頂には唯一の関所がありまして、そこで国土防衛を行ってるわけです」

「はぁ~関所ねぇ」

「あまり大きな声では言えませんが、僻地も僻地ですから左遷先として有名なようです。詰めている兵もあまり品がよろしくはないですしな・・」

「そうねー私は商人の馬車を護衛しながらだったから面倒事は避けられたけど、場合によっては賄賂を要求してきたり、なんてことも聞くわね」

「ほうほう。やっぱ馬車で移動したほうがいいかねー・・」

「え、なに徒歩で行くつもりだったの?流石に無謀よ?」

「いやー、一人旅だしそれでいいかなーなんてな?」

「なんてな、じゃないわよ・・・。それじゃ連邦に入るまでに2,3カ月はかかわるわ」

「他の山と違って、霊峰山脈は登り切ってから暫くはそのまま歩きどおしです。大きな町もなく、精々が山小屋があるくらい。山小屋のある間隔も馬車で移動することを前提で建てられていますから、徒歩で行けば野宿は避けられませんな」

「それに、ギンジさんまだ低位冒険者でしょ?移動の間にクエスト受注期間過ぎちゃうわよ?」

「あ?ああー・・・そうか、そんなものもあったなぁ・・・」

「だから馬車で素早く移動するか、国境越えの護衛でクエストを受けておかないといけないわけ」

「なるほど・・・ね、あいわかった。感謝するよ」


空いた皿にスプーンを置き、天井を見上げて思案に耽る銀二。その姿を見ながら店主は皿を下げ、ヒルデに視線を向ける。


「ヒルデさんもこの町に来てから長いですが、しばらくはまだこちらに?」

「ええ、まだ研究したいことはあるしね」

「確か魔法の研究をなさっておいででしたか」

「そう。帝国だと魔法よりも魔導の方が主流でしょ?私だって魔導の方が扱いやすいけど、魔法の技術を盛り込めば魔導技術の発展にも繋がるしね」


盛り上がる二人を見ながら銀二はなんのこっちゃとばかりに首を捻る。それを見てヒルデが苦笑しながら銀二へと振り向く。


「ああ、ごめんなさい。帝国以外の人だとよくわからないわよね」

「ん、ああ。まぁ・・あんま魔法自体も詳しくは知らねぇしなぁ」

「あら、そうなの?」

「ああ。生まれはそもそもこの大陸じゃない小さな島国さ。そんで故郷には魔法なんてものはなかったからな」

「魔法がない・・・なるほど、そんな国もあるのね」

「魔法がない、といえば隣のグラナドス連邦に近いでしょうな。あそこは魔法を使わず、自身の小源オドを使い異能を発揮すると聞きますし」

「・・・チンプンカンプンになってきたぜ」


本格的に頭から煙が出そうな銀二を見かねて、ヒルデが笑いながら外を指さす。


「ふふふ、ねえギンジさん。もし時間があるなら私の部屋にこない?そこで魔法の事とか教えてあげるわよ?」

次回アタリ作者でも頭痛くなる設定的なお話をするんじゃよ(多分)

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