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61―この父親サマ、目力半端ねぇんすけど―

片手でバスケットボールを掴むようにしてライラの頭を掴み、ズルズルと引きずっていく族長を呆然と見送っていると、途中で何かに気付いたように振り返り銀二へと声をかけてくる。


「貴殿が娘を連れ帰ってくれたという御仁か」

「まぁ結果的にはそうなるかね。他にもお届けもんがあるんだが」

「―――、立ち話で済む事ではないな。ついてきなさい、家へ招こう」


そう言うと今度こそ荷物()を引きずって家路につく族長。周囲の人等もそれを苦笑しながら見送ると、ざわざわと声を上げながら解散していく。

銀二達も馬車から降りて手綱を引きながら族長へとついていくと、クラリッサ以外の全員がポカンと口を開けて上を見上げる。


「・・・これ、壁かと思ったんだけどよ」

「古代樹ですねぇ」

「これが!?樹なの!?」

「ここまで育った古代樹も中々珍しいんじゃないでしょうかねぇ」

「こりゃたまげたね」

「先祖代々、一族の長が住まわせて貰っているが、そう畏まらずとも良い。こっちだ」


隆々と盛り上がった根の間を進んでいくと、その隙間に扉がついているのが見える。族長がその扉を開いて荷物()を投げ込むと、その中から悲鳴のような歓声の様なものが響いてくる。

遅れて銀二達が扉をくぐると、ぐったりとしたライラを抱きしめながら号泣する女性と、それを取り囲むように大勢の女性たちが苦笑しながら見ている状況だった。


「皆、客人だ。茶を淹れてくれ」

「あいよー」

「ほらローラ。ライラを奥に連れて行って」

「う゛んっ」


赤髪の少女が泣きながらひょいと自分より大きいライラを抱き上げると、そのまま奥へと入っていく。一種異様な光景に驚いていると、族長が色とりどりのラグの上に腰かけ、指で対面に座る様に指し示しながら苦笑している。


「・・見苦しいものを見せたな」

「ああ、いや。家出してた家族が戻ってきたんだから無理もない」

「まずは娘を連れ帰ってくれたこと、感謝する。まったく、一度決めたら走り続けるのは誰に似たのやら」

「ライラの頑固さは父上譲りでしょーよ。はいお客人、茶だよ」


髪と肌の色こそ違えど、どこかライラと似た面影の妙齢の女性が銀二達へと茶を渡すと、他の女性陣達同様、銀二と族長の座る場の側面に腰を下ろす。


「まずは自己紹介といこうか。火の精霊神にお役目を頂いている火の一族の長、ゾラだ」

「冒険者の銀二ってもんだ。こっちがクラリッサ、アリエル、アスタ」

「話はある程度は聞いている。ルドニのキキョウからと・・・そして精霊様からも」


胡坐をかく銀二と片膝を立てながら湯呑を傾け話すゾラ。


「我らの世界とは異なる世界からの来訪者。そして大地の精霊からの願いを聞き届けた変わり者」

「アナタ、失礼ですよ?」

「そうは言うがな。言ってしまえば自身とはなんら関りの無い事に力を割いてくれているのだ。助かるがな」

「確かに、この世界の事情は知ったこっちゃないがね、大地の精霊神にぁあこの世界に来た時に助けてもらった恩がある。それに、どうせこの世界を見て回りたいってなったことだし、この旅は丁度よかったのさ」


言葉を口にしながらアイテムバッグを取り出して中から焔剣フランベルジュを抜き取る。その特徴的な刀身を目にした一同から、おおっと声が上がりゾラの目が細められる。


「フランベルジュ・・・」

「お届けもんだ」

「・・・よもや、またこの目で見れるとはな」


ゴトリと床にフランベルジュを置くと、ゾラがそれを拾い上げて懐かし気に目を細めてその刀身を眺める。しばらくそうしていたが、フランベルジュを先程茶を持ってきた女性に手渡すと、女性は奥へと入っていく。


「改めて感謝を。一族の秘宝までも取り返してくれるとは」

「どういたしましてってね。これでようやく一つ目を返すことが出来たな」

「それにしても、火の一族の秘宝に手を出すなんて怖いもの知らずもいたもんだねぇ」


アスタが茶を飲みながらそう口にすると、脇に控えていた女性たちの表情が若干強張る。


「・・ギンジ、と言ったな。精霊様は異邦人が宝具を取り返した事しか教えてくれなんだが、どこにあったのだ?」

「お隣のフェルメール王国王城の宝物庫」

「・・・・」

「盗んだ犯人は詳しい事は知らねぇが、黒幕はそっちだな。んで、目的は・・俺じゃない異邦人を召喚するためってとこか」

「異世界召喚・・・」

「本来は通じ合わない世界と世界の壁に穴をあける禁忌の術。大地の精霊神が言うには、精霊の力が弱まる皆既日食の日に各属性の魔力と竜種の生き血を使うことで世界に穴をあけるとか言ってたか」

「・・・なるほど。ギンジの世界がどうかは知らぬが、こちらは精霊の力によって法則が成り立つ世界。ともなれば、世界に穴をあけるなどと精霊が許すはずもなく精霊たちが守護していたという事か」

「だからこそ、精霊の力によってでしか異世界召喚なんてできるはずもなかった。その唯一の代替案が宝具に宿る精霊の魔力を使う事だったのさ」

「・・・随分と大それたことをしたものだ」


呆れを多分に含んだため息を吐き出し、湯呑に手を伸ばして茶を啜るゾラに銀二も苦笑しながら茶を飲み始める。


「ここは閉鎖的な場所故に、多くの情報は入ってこない。だが、随分と前から王国と光のには不穏な空気は感じてはいた。まぁ、まさか懐に飛び込んできて宝具を盗むとは思わなかったがな」

「へぇ?」

「俺が代替わりをする前、この国だけではなく色々と旅をして回ったものだが・・・王国の簒奪王は知っているか?」

「ああ、まぁね」


背中でアリエルの息をのむ僅かな音に気付きながらも、それを見ずにゾラへ続きを促す。


「王位の簒奪などまかり通るものでもないと思ってはいたのだが、一枚上手だったようでな。それ以来、光の王国などと言いつつ暗い影を見せるようになったものだ」

「それにしても、異世界召喚とは言いますが、何を企んでいるんでしょうねぇ」

「あー、そうだな。異世界召喚を手段とした本来の目的か。言われるまで考えたことなかったな」


クラリッサの呟きに顎髭をジョリジョリと撫でながら銀二が答えれば、それを見ていたゾラが脇に控えていた女性の一人に目配せをすると、その女性が部屋の隅にある棚から巻物を一つ取り出して戻ってくる。


「遥か昔、一度だけ異世界召喚がなされたという記録が残っている。それも精霊たちの手による正規の手段によってだ」


巻物を開いて銀二達に見えるようにコロコロと開いていく。文字も多いが、しかし大半は絵によって描かれた絵巻物であった。


「昨今、帝国の者が言う『瘴魔』という存在だが、これは太古の昔から存在していた。瘴魔とは瘴気に侵された生命の成れの果て。では、そもそも瘴気というものはなんなのか」


スッと指さした先にはヒトが魔法を使う姿で、流れを見ていくと放たれた魔法がやがて黒く塗りつぶされていく様子だった。


「・・・魔法?ううん、魔法に使われた魔力?」

「そうだ。今では王国人を筆頭に魔法が使われることになったが、原初の時代では魔法とは神の、精霊の奇跡に他ならない。そして精霊の代弁者、代行者が俺などの魔力同位体と呼ばれる存在だ」

「そしていつしかヒトは自らが魔法を扱うために真理を解き明かすことになりました。しかし、精霊たちが限られた者にしか魔法を使わせてこなかったことも意味があったのです」


巻物を持ってきた眼鏡の女性がゾラの言葉に続いて口を開く。ゾラも彼女なら適任と思っているのかそれ以降は話の続きを待っているようだ。


「問題となったのは、精霊との魔力の『ズレ』です。本来魔法は精霊の魔力によってのみ使われることが『自然』であり、その魔力の波長とのズレによってヒトの放った魔力の大部分が大源に戻ることはなく、澱みとなって現世に残留します」

「澱んだ魔力が何らかの切っ掛けで振り切れた時、瘴気になりかわる・・と」

「その通りです。そして、現在瘴気の多くは魔法を多用するフェルメール王国に多くあると思われます」

「・・・確かに、旅の途中でちょいちょい瘴魔と出くわしたな。ライラと会ったのも瘴魔絡みの一件だったし」

「――――なに?」

「霊峰の王国側の麓の街で、冒険者達が触手付きって呼ぶ魔物が出たって騒ぎになってね。当時街にいた冒険者達が退治に向かったんだが、まぁその中にライラもいてね」


懐かしむように視線を上に向けて顎をさすりながら語る銀二だが、その対面に座るゾラの表情が段々と強張ってきていることには気づいていない。


「順調に倒してる中で一人魔法使いがいて、その魔法を吸収して強化した個体に怪我させられてたんだっけなぁ」

「不覚を取った恥ずかしい話だよ」


カチャと音を立てて扉を開いたのは、強制的に眠らされていたライラその人であった。多少痛む頭を軽く抑えながら、先程運んでいった小柄な女性と共に戻ってくると、ライラは銀二の隣へ座った。


「おー無事だったか」

「なんとかね・・・」


お互い苦笑しながら話している二人に、特に基本的に無表情だったライラが感情を顔に出している姿を見て一族の面々が興味深そうに二人を見やる。


「―――先程、怪我をさせられたと言ったな?」


薄っすらと額に青筋が浮き上がっているゾラの言葉に、「あっ」と思わず声を漏らした銀二とライラ。その上、先程号泣していた小柄な女性もまたもや目尻に涙が浮かび上がっている。


「た、大した怪我ではなかったというか・・怪我を治してもらって大事なかったというべきか・・・」

「――――」

「どの程度の怪我だったの・・?」

「は、母上・・」

「(あ、この人が母親だったのか)」

「「――――」」

「うっ・・・ギ、ギンジ殿・・」

「あー・・・なんだ。ライラの主治医として言えば、瘴魔の触手に腹部を貫かれて臓腑の損傷と、一部瘴気に侵食されかけたって感じだったか」


湯呑を傾けながら視線をライラに送ってそう言えば、ゾラの目がさらに険しくなりローラと呼ばれた女性の目に大粒の涙が浮かび上がる。


「不幸中の幸いで、怪我の直後に俺も合流したんでそのまま治療に入った。臓腑の損傷も瘴気の汚染も問題なく治してある。ついでに傷跡も残さないようにも治してあるし、傍目にはわからんだろ」

「・・・本当に大丈夫なんですか?」

「王国から数カ月もかけてここまできてなんともないんだ。大丈夫だろうさ」

「ギンジ殿には大変世話になった。傷の治癒から看病に、旅の道中も色々と助けてもらったし・・・あとは異能についてもヒントを貰えたしね」


若干頬を染めてはにかみながらそう言うライラの姿を、周囲の女性陣がほぉうと声を上げてライラと銀二の二人を見比べる。ローラも先ほどとは打って変わってまぁまぁと軽く頬を染めて隣に座るゾラの肩をパンパンと叩き始める。


「・・・・」

「ってーことは、ライラも異能を使いこなすことが出来るようになってきたってことかぁ」

「ルリア姉上・・」


感慨深げに腕を組みながらうんうんと頷くのは、銀二達に茶を出した女性であった。その彼女もニヤリと口角を上げると、胡坐をかいた膝に肘杖をついてライラへと声をかける。


「なんだったら後で久々に手合わせしようじゃないか。いいだろ?」

「はい。胸を借ります」

「ハハハっ、アンタは相変わらずかったいねぇ」

「―――ルリア」

「はいはい父上。お話の続きをどうぞ」


降参したように両手をヒラヒラと上げる彼女に、軽くため息一つ吐いて銀二へと向き直るゾラ。


「ギンジ、娘を送り届けてくれたばかりか命まで救ってくれたこと、感謝する」

「どういたしまして。さて、話が脱線しちまったが・・・異世界召喚についてだったか」

「ああ。一度だけ行われた異世界召喚術。それは当時災厄として現れた大瘴魔のためだったと言われている」

「大瘴魔・・?」

「霊峰を超えてきたなら見たはずだ。古代の大壁画を」

「ああ、確か『黒きモノ』のことだったか?」

「そうだ。あの壁画に描かれたものこそ、瘴魔と精霊・・そして異世界人の戦いの記録だ」


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