60―家で娘にはこれが一番、かな?―
いあーめっちゃ期間空いちゃったよ申し訳ない
書きたい話は思い浮かぶのに、それはもっと先の話だったりで中々続きが書けなかったのです・・・
ガラガラガラと久しぶりに感じる車輪の音を聞きながら、馭者席に座る銀二は視界一杯に広がる緑色に視線を巡らせていた。
アスタが正式に一行に加わって数日、ティビリで所用を済ませた一行は旅を再開させていた。場所はティビリ北側の出口である谷を抜けたところにある、深い森の中。旅の第一目標である鎮守の森と地続きである森で、古代樹の森という場所なのだとライラが言っていたのを思い出す。
「しっかし・・・・でっけぇなぁ・・・・」
口をポカンと開けたまま森の木々を見上げる銀二。彼の驚きも無理はなく、その木々の一本一本が日本で言う縄文杉を上回る太さと大きさなのだから。その横で銀二から手綱を預かっていたクラリッサがクスクスと笑い声を漏らしながら木々を避けさせるように手綱を捌く。
「あの太い樹が古代樹ですけど・・・あれはまだ年若い樹ですねぇ」
「うぇ、あれで若いのか?」
「はいー。名前の通り、古代の頃からある樹の一種ですが、年月を重ねた樹はあれの2倍から3倍はありますねぇ」
「はぁー・・・・」
「そうだぞギンジ殿。私の故郷はアレの倍はある樹の洞で暮らしているんだ」
「火の一族が樹の中で暮らすってのもなんかあぶねぇ気が・・・」
「ハハハ、私達とて毎日毎日燃えているわけではないからね。戦闘にならなければ普通のヒトと同じさ」
幌の中で座ったままのライラが声をかけ、視線は中にいるアリエルとアスタへと向ける。なにやら握手をするように手をつないで、二人共に少し難しそうに眉を顰めている。
ティビリを出発してから行っているアリエルの魔力操作の練習のようだ。出力は多いが精度と速度に難があるアリエルが、流れるように魔力を扱うアスタに習っているのだ。
「むー・・・やっぱり細かい魔力操作は苦手だなぁ」
「ま、最初は誰だってそんなもんサ。でも、今まで習ってなかったのかい?王国人なら当たり前の様に魔法を使うって聞いてたけど」
「普通はそうなんだろうけど・・ボクは小さいころから閉鎖的な環境にいたし、そこじゃ皆魔法より剣の方が得意な人たちだからね。教えてもらったのは基礎の基礎だけってわけ。魔法は義父さんから資料もらって教わっただけだし・・・」
「フーン?ん、ほらまた乱れが出たよ。しっかり制御しな」
「うぅ・・はーい」
背後で練習をしている二人をちらりと見ながらも、銀二は懐から取り出したタバコを口に咥えて火を着けようとした時、ふとどこからか視線を感じ取る。
「・・・見られてるな」
「はい~。あ、あそこですねぇ」
ついっと手綱を持ちながらも指示した先には、古代樹のデコボコとした幹に立つ一人の男がいた。褐色の肌に赤い髪の毛を風に揺らし、此方を睨みつけるようにして見つめている。
「何者だ!これより先は鎮守の森!不用意に足を踏み入れれば森が貴様らを殺すぞ!」
「お構いなく、ちょいとしたもんを届けに来ただけだよ」
「届け物・・?行商の類か?冒険者か?」
「冒険者さ。ついでに、お宅の一族の娘さんを届にも来た」
「娘・・・?」
「いるだろ?十年近く前に飛び出した家で娘が」
「ギンジ殿、人聞きの悪い事を言わないでくれ。一応、族長には話したんだから」
怪訝そうな表情をする男を他所に、話を聞いていたライラが幌から顔を覗かせると、その特徴的な銀髪に男の表情が驚愕のそれへと変わっていく。
「・・・ライラ?ライラか!?」
「ああ、その声はミゲルだね。久しぶり、といったところかな」
「久しぶりってお前・・・ああ、もう!」
スタっと音を立てて古代樹から降り立ったミゲルという男は馬車まで歩み寄ると、ライラの顔を確認したのちに呼吸を整える様に一つ大きく息を吐いた。
「最近、族長が落ち着きがなかったのはお前が帰ってくるって知ってたからか。ここにいるってことは里に戻ってくるんだな?」
「ああ。先ほどこっちのギンジ殿が言った通り、『探し物』が見つかったからね」
「なに―――?」
「私の旅の目的が見つかったんだ。だからこそ届けに来た。ミゲル、申し訳ないが族長たちに先触れとして向かってもらっていいかな?」
「お前の話が本当なら、狩りをしてる場合じゃないってのは馬鹿な俺でもわかるさ。わかった、先に里に戻って族長に知らせておこう」
「感謝するよ」
「別にいいさ。・・・・だけどライラ、覚悟はしておけよ?」
ミゲルが真剣な表情でそう告げると、一瞬言葉が詰まるライラだが静かに頷き返す。二人が話している間にタバコに火を着けた銀二がその煙を吐き出すと同時に、ミゲルは踵を返して森の中へと消えていく。
「よし、これで私達がつくころには向こうも出迎える準備ができるだろう」
「・・・まぁ、それはいいんだけどよ。ライラ、本当に族長に旅に出ることは話してあるんだな?」
「ああ。話はしたよ」
「――――、はぁ。まぁ、いいさ。それより水でも飲んどけ。少し顔色が悪いぞ」
「ん、いや・・・・わかった。少し中で休んでおこう」
そういってゴソゴソと幌の中へと入っていくライラを見送り、銀二とクラリッサは顔を見合わせて同時に苦笑を漏らす。明らかに緊張が隠せていないことが見え隠れしていた。
「やれやれ、こりゃ一波乱でもあるかね」
「うふふふ、こっぴどく叱られちゃうんでしょうねぇ。旦那様は助けてあげないんですか?」
「程度が過ぎるなら口出しするがね。まぁ、最初は静観しておくさ。無粋だろ?」
「ライラちゃんも可哀そうに・・・」
「そう言ってるお前さんだって口出ししない気だろ?」
「家族を心配させたなら叱られるのは当たり前かとー」
のほほんとしながらもそう言ってクラリッサは手綱を操り、僅かに見える轍へと馬車を誘導する。先ほどのミゲルが走って行った先と合致することから、この先に鎮守の森と火の一族の里があるのだろう。
「さ、行くか」
―――
――
―
銀二達が森を進んでいる頃、別の場所では一人の女性が瓦礫の上に腰かけながら薬草煙草に火を着けていた。アスタが所属する義賊の頭である蒼銀の髪の美女である。
口から薬草煙草の煙を吐き出しながら、懐から取り出したのは先日届いたアスタからの手紙だった。少し大きな鷹に着けられた小さな鞄に入っていたそれは、アスタのティビリでの調査報告書だと思っていたのだが、どうやらそれ以外にもあったようで最初に目を通したときには少し驚いたものである。
「・・・宝具の奪還と、それらの返還の旅か。件のギンジとやらは災禍の種か、はたまた希望の芽か」
イフリートの暴威の深い谷底、義賊の塒としている洞窟の入り口にある廃墟の上で呟くと、彼女の長い耳がホンの僅かな足音を捉えて揺れる。
書類をすぐさま懐へとしまい込むと、その切れ長の目を周囲へと向けて声を上げる。
「誰だ」
「私だよ、ハンナ」
「その声・・・まさかアンナマリアか!?」
日の当たらない暗闇からぬるりと姿を現したのは、クラリッサと同じく褐色の肌に長い耳を持つダークエルフの族長、アンナマリアであった。そしてその姿はハンナと呼ばれた義賊の長と瓜二つとはいかないまでもかなり似通っていた。
「ああ、ハンナ。久しぶりだね」
「・・・どうしてここに。アンタたちが出ていってから一度だって戻ってこなかったのに」
「なに、ちょっとした用でね。安心してほしい、君達がここをどう使おうと、もうここは君たちの場所だからね」
懐かしむように廃屋の柱を撫でながらそういうアンナマリアを他所に、その彼女の姿を警戒するようにして睨みつけるハンナ。
「そう警戒しないでほしいものだね」
「アンタは昔っから眉一つ動かさないから何考えてるのかわかりづらいんだよ」
「ふむ。クラリッサにもよく言われるが・・・これでも私としては喜怒哀楽を表現しているつもりなんだが」
「・・・・それで、昔の居住地には戻らないダークエルフの族長様が、なんだってここに来た」
「そう邪険にしないでほしいものだが、まぁそれはいい。私がここに来たのは、ここに用があるのではなくこの先に用があるからだよ。精霊様の杖が見つかった」
「――――なんだって?」
「ここは外部のことが分かりづらいから無理もないけれど、しばらく前に精霊様の魔力が流れた」
「誰かが精霊を呼び出したって事か・・・?」
「それを調べにクラリッサを向かわせたんだけど、戻ってこないとなると持ち主に同行しているのだろうね」
「クラリッサ・・・アンタの同位体か。そいつが殺されたってことも考えられるんじゃないか?」
「クラリッサの魔力は私が一番わかっているからね。何かあればわかるさ」
「相変わらず魔力探知は化け物レベルだねアンタは」
「実の姉に向かってバケモノはないだろう?」
そういうアンナマリアだが表情は一つも変わって・・・いや、よぉぉく見るとほんの少しだけ眉が下がっていることから悲しんでいる・・・ような気がしないでもない。
「アンタ等とは袂を分けただろう。私の家族は・・・血は繋がってないが、あいつ等だよ」
そういってチラリと洞窟の方を一度見てから、再度アンナマリアへと視線を戻す。アンナマリアも一度だけチラリと洞窟を見た後、一度だけ頷いてハンナへと顔を向ける。
「まぁ貴女がどう思おうが、私は貴女を唯一の妹であると思ってはいます。ですから、ひとつだけ」
「なに?」
「ありがとう。風の噂で杖を探し続けていたと聞いていますから」
「―――っ」
「さようなら、ハンナ。またいつか会いましょう」
そう言って現れた時と同様に、闇に溶けるように姿を消すアンナマリア。それを見送ったハンナは、うっすらと紅をさした頬を隠すようにタバコを咥えなおして踵を返して洞窟へと入っていく。
「お前たち、仕事の時間だ。準備は出来てるか?」
「へい頭ぁ!全員準備万端でさぁ!」
「よろしい。諸君、速やかに動け」
―
――
―――
日が暮れる頃、銀二達一行は巨大さを増した古代樹の樹々を抜けて火の一族が暮らす里へと辿り着いていた。ざわざわと喧騒が聞こえてくることから、森で出会ったミゲルは無事に伝えてくれたようだ。
「ライラちゃん、こっちきて皆さんに無事を見せないと」
「う、うむ。ギンジ殿、隣失礼するよ」
「あいよ」
クラリッサが手綱を銀二に返し幌の中に入っていくと、それと入れ替わりでライラが銀二の隣へと腰かける。するとその姿を見た一族の者達から歓声があがる。
「ライラ!お前無事だったのか!」
「何年も連絡もせず心配かけて」
「おかえりライラ!ほら、見ておくれよ。私にも子供が出来てね」
「隣の方は?冒険者仲間?それとも彼氏?」
「なんだって?ライラが男連れて帰ってきたって?」
「マジか、おーい!ライラが男連れて帰ってきたってよー!」
「「「「おおおー」」」」
「(愉快な一族だなぁ)」
「(赤面)」
なるべくスルーしようとする銀二と、律儀にリアクションが顔に出るライラに周囲の人達からはやんややんやと声がかかる。それがしばらく続いたころ、ふと強い魔力の流れと威圧感が周囲を包み込み、その場にいる全員の表情が変わる。
「―――随分と久しい顔だ」
「族長!」
「皆、不肖の娘と話がしたいようだが、今しばらく娘を預かってもよいかな?」
一族全員が褐色の肌に赤い髪を持っている中、族長と呼ばれた男はほぼ黒と言ってもいい程に暗い色の髪を靡かせながら一向に近づいてくる。ドレッドの様に編み込んでなお腰にまで届くほどに長い髪を見ながら、銀二は一つ頷いてライラの背を軽く叩いて馬車から降ろさせる。
「父上・・・」
「――――」
細身ではあれど凝縮したような筋肉を持つ男は、腕組みをしながら娘が目の前に来るのを静かに待つ。まさに獅子、というほどに王の風格を漂わせる男は、ライラが目の前に来ると何も言わずジッと彼女を見つめる。
「―――」
「・・・・」
「――――――」
「・・・うっ」
「―――――――――――」
「・・・・た、ただいま戻りました」
「――――――――――――――――」
「・・・その・・長らく家を空けて申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げたライラの言葉に、ただ沈黙を以て返す。どれくらいそうしていただろうか、誰かがその空気に耐えられなかったのか、唾を飲み込むような音が聞こえた様な気がしたとき、族長の口から一つため息がこぼれ、ライラの肩が僅かに震える。
「顔を上げよ」
「・・・・はい」
返事と共に頭を上げて目を合わせると、族長はジャリジャリと足音を立てながら近づき、腕組みを解いて軽く腕を上げる。それを見た瞬間、目を瞑り衝撃に備えるライラ。
「――っ・・・・・・?」
来るであろう衝撃の代わりに、ポンと頭上から軽く手を置かれる。
「えっ・・・」
「馬鹿者、心配をかけおって。・・・・よく戻ったな」
「父・・・上・・・」
「あとで皆に頭を下げよ。皆、我が子の様にお前の身を案じてくれていたのだからな」
「・・・はいっ」
穏やかな表情と声、そして先程とは打って変わって柔らかな魔力に包まれたことで、ライラの緊張の糸が切れたのかその目からは大粒の涙が零れ落ちる。それを見ていた周囲の者達からも安堵の声と貰い泣く様な啜る音が聞こえる中、馬車から降りた銀二達もその光景を見守っていた。
「うう・・・よかったライラさん・・・」
「とても良いお父様ですねぇ・・・」
「良い話だなぁ」
「後で母にも頭を下げよ。気丈に振舞っていたが、アレも心労が溜まっておろう」
「はいっ・・・はいっ・・・・」
「まぁ・・・それはそうと・・・」
「はい゛っ・・・いい゛!?」
妙に濁った返事が聞こえ、全員が頭上にクエスチョンマークを浮かべたとき、族長の表情を見て全員が察した。にこやかな表情に見えて米神にうっすらと血管が浮き上がったその表情。頭上に置かれた手は、やんわりとライラの頭を掴み耳をすませればミシリミシリと音が聞こえてくる。
「い、いたっ・・・父上、いたい!ま、参り、参り」
「―――一方的に焔剣を探しに行くと告げて、気がつけば姿を消したバカ娘には丁度いい仕置きであろう?」
「ご、ごめん、ごめんなさい父上ぇ!」
「反省しろ馬鹿者!!」
ゴチン!!といかにも痛そうな音が広場に響き渡り、皆の肩が怯えるように一度震える中、咥え煙草の口元から煙を吐き出す銀二。
「イイハナシダッタノニナー」




