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57―どこかにはあるかもと思ってたけど、案外あるもんだな・和風―

背に柔らかな感触を感じながら、呼びかけられる声に意識が引き寄せられていく。体が鉛のように重い気怠さを感じながら目を開くと、ライラやアリエルそしてクラリッサの三人が覗き込むようにして銀二を見つめていた。


「・・・中々いいねぇ、美人三人に起こしてもらえるってのも」

「あらあら、旦那様ったら」

「まったく・・暢気だなギンジ殿は。心配したこちらの身にもなってほしい」

「悪い悪い・・・んで、ここは?」


ゆっくりと体を起こすと懐かしい匂いに気付き周囲を見渡す。薄い緑色の草で編まれた、今や懐かしい畳(の様なもの)が銀二が寝ていた布団を支えていたのだ。とは言っても、日本の畳の様に横一列ではなく、縦横交差して草が編まれている点では少々違うようだが、異世界に来て故郷に近いものを見たことで意識が覚醒していく。


「日本・・・じゃねぇよな」

「ここはティビリだよギンジさん」

「ティビリ・・?俺ぁ、どうやって・・・」


銀二のその言葉に三人は顔を見合わせて、苦笑するようにして言葉を濁す。意識を失う前後の記憶が少しあやふやになっている銀二からすると首を傾げるばかりである。

そんな時にカタっと音を立てて戸が開かれて紙袋を抱えたアスタが部屋に入ってくる。


「戻ったよーって目ェ覚ましたのかい」

「ああ、ついさっきな。心配かけたようで」

「まったくだよ。あの・・・馬?馬がお前さんを乗っけて戻ってきたらみんな慌てて大変だったもんさ」

タマが・・・確かにあの時・・・」


洞窟の中、岩盤を蹴り抜いて現れた黒い影を思い出す。普通の馬とは一回り二回りは大きくなったタマの武士然とした立ち姿が明瞭に思い起こされ、意識を落とす直前に襟を咥えられて背に放り投げられた記憶が薄っすらと蘇る。


「ボク達が隧道を抜けて、水辺で休憩するために馬車から離したら一目散に走って行っちゃって」

「自然と覚えたのか、魔力を身体強化に使っていたからあっという間に見失ってしまって途方に暮れていたんだ」

「でもタマちゃんは賢い子ですからぁ、旦那様を追いかけに行ったのかなぁと思って待ってたんです」

「そしたらアンタ、隧道のある山からは轟音がするしボロボロになったアンタを背負った馬が戻ってくるしで大変だったのさ」


囲炉裏の傍の座布団に腰かけながら沸いた湯で茶を淹れ始めるアスタが、タバコを咥えて思い出すようにして苦笑する。


「傷自体は驚くほどの速さで治ってたから問題ないかもしれないケド、クラリッサが言うには魔力に澱みがあるってんで、安静にしておいた方がいいだろうってさ」

「ギンジさんと別れてからしばらくして凄い音がしてたけど、一体何があったの?」


よっこいせ、と声を上げて重い体を立たせる銀二に軽く手を貸しながらアリエルが言えば、火箸で掴んだ囲炉裏の炭の欠片でタバコに火を着けた銀二が「んー」と声を上げる。


「簡単に言えば、スケルトンとかのアンデッドと戦ってた時に、自然発生した瘴気がドラゴンの骨に憑りついてドラゴンゾンビ的な瘴魔になったんで戦ってた」

「「「「・・・・」」」」

「実際は違うんだろーけど、ドラゴンってすげぇな。本気で死ぬかと思ったわ」


眠そうに目を細めながら煙を吐き出す銀二に、その場にいた全員が呆然とした表情で注目する。それには気付かず宙をぼんやりと見ながら思い出すようにして、またタバコを咥える。


「よくわからねぇけど魔力は澱んでるし、スケルトンはうじゃうじゃいるし、そのうちなんか魔力が変質して瘴気になるし・・・」

「どらごん・・・」

「骨だらけだったからアレだけど、多分昔はドラゴンの巣穴か墓場だったんじゃねぇかな、あそこ」

「ドラゴンは厳密に言えば魔法生命体ですからねぇ、死後に骨となっても多量の魔力が残って魔物や霊といったものを呼び寄せてしまうのかもしれませんねぇ」

「瘴気まとめてブレスにして撃ってくるしよぉ・・・当たると焼け爛れるし辛いのなんの・・・」

「・・・アンタも大概バケモノじみてるねぇ。高速再生なんて上位の魔物くらいなもんだろうに」

「俺を殺したきゃ、一発で頭潰さねぇとな。わははは!」


天井から吊っている自在鉤からヤカンを外し、人数分の茶を淹れたクラリッサから受け取った銀二がケラケラと笑いだす。

しかし、と声を零しながらグルリと周囲を見渡せばもどきや囲炉裏、座椅子に布団と障子に襖と見れば見るほど和風な部屋である。


「ティビリってのは、この国の中でも様式がガラッと変わるもんなんだな」

「元々、この街は隠れ里みたいなもんだったのさ。狐人は異能の力が一際特殊で、呪術とかっていう使い方らしいんだけど、あんまり身体能力は高くないから他とは争わないために小高い山で囲まれたこの地を選んだんだと」

「以来、連邦として纏まるまでほとんど表舞台に出てこなかったそうだよ。とはいっても、率先して国を纏めようとした狼人の補佐や軍師としてチラリと歴史に登場するのだが」


部屋に備え付けられた棚から一冊の本を取り出して表紙を銀二に見せるライラ。タイトルは「建国記」とだけ書かれているその書物は、それなりに厚さはある歴史書の一つのようだ。

パラパラとページをめくり、中盤ほどのところで止めると一文を指し示す。


「”後に歴史の分水嶺となるこの戦において作戦の立案を行ったのは、ユウギリと名乗る一人の狐人であった”か」

「先見に優れ、まるで予言の様に敵の動きを予測した作戦は見事敵を倒し、連邦樹立に貢献されたそうだ」

「へぇ~~・・・ユウギリ・・ユウギリ?」


はて?と首を傾げた銀二はアイテムバッグから封筒を取り出して宛名を見る。そこには確かにユウギリへと書かれており、銀二の頭上にクエスチョンマークが浮かび上がる。


「キキョウから預かった手紙に名前書いてあんだけど・・・そのユウギリってのは、今も生きてんの?」

「まさか。連邦になってから百年以上は経ってるんだよ?いかに長命な種族だろうと流石にねぇ?」

「んじゃ、襲名でもしたんかね・・・」


ぼりぼりと頭を掻きつつ手紙をアイテムバッグへと仕舞うと、咥えていたタバコを灰皿へと落とす。湯呑に注がれた茶を飲めば、「まるっきり緑茶やん」と思わず呟く。


「あー・・落ち着く。もうちょいしたら、そのユウギリさんってのに伺いを立ててみますかね」


―――


「でっけぇ・・・・」


ポカンと口を開けて左右と上を見回す銀二に、その巨大な門の横に立っている門番らしき人物が苦笑し始める。それに気付いたのか、アリエルも少し頬を染めながら苦笑して銀二の袖をクイクイと引いて知らせると、銀二も「おっと」と呟いて頭を掻いて門番にぺこりと頭を下げた。


「不躾に申し訳ない。こちらユウギリさんのお宅で間違いないかね?」

「ええ。・・・この街に初めてくる方は大体この家をみて同じ反応をされますよ。それで、当家に何用でしょうか」

「ルドニから来たんだけど、評議員のキキョウさんから手紙を預かってね」

「・・拝見します」


懐から取り出した手紙を門番に渡すと、神妙そうに受け取って封筒の表裏を検め、最後にスッと頭上に翳して透かして見始める。それが終わると納得したように頷いて手紙を銀二へと返してくる。


「確かに、キキョウ様が出された手紙で間違いありません。どうぞこちらへ。ユウギリ様へ伺いを立ててまいりますので、中でお待ちください」


そう言うや否や門の横の通用門を開いて一行を招き入れると、飛び石を渡りながら建物の一つへと案内する。そこからでも整えられた庭園が見て取れ、ほぉーと感嘆の声を上げる銀二だったが、ふと母屋と思しき建物の屋根から、筒の様なものが飛び出ているのが見える。


「・・・望遠鏡?」

「おや、望遠鏡をご存じで?」

「ああ。故郷にも望遠鏡があってね・・とはいってもあそこまで立派なもんは初めて見たけど」

「当家は古くから星読みの家ですから、歴史と共に望遠鏡の改良がなされたと聞いてますね」

「ほぉー・・・占星術ってやつかね」


そんな歓談をしながらも通されたのは、大正時代にありそうな洋式の建物で、鮮やかな絨毯や手入れのされた家具が嫌味なく配置されていた。


「ただいまお茶をお持ちいたします。どうぞお掛けになってお待ちください」

「こりゃご親切に・・・」


一礼して立ち去った門番を見送って再度部屋を見回しながら近くのソファーに腰かける。


「うおっ、沈み方半端ねぇな」

「わっ、ホントにふかふか」

「あらあら。それしても、こちらも歴史ある建物みたいですねぇ」

「ティビリには初めて来たが、風光明媚ないい場所だね。庭をここまで手入れしているというのもまた風情があっていいものだね」


話をしながら家の備品や庭に視線を向けたりしていると、コンコンと静かにノックが響き一人の女中が姿を見せる。


「失礼します。お茶をお持ちしました」

「あ、はーい。ありがとうございます」

「急に押しかけて申し訳ないね」

「いえ、当家の当主はお話し好きでして、お客様がいらっしゃったら嬉々としますから」


ニコニコとしながらそれぞれの前にティーカップを置いていく女中。その姿をぼんやりと見て、すぐにふっと視線を反らした銀二はまた庭園に視線を向けた。


「ふむ、宿で飲んだ緑茶もおいしいが、この黒い茶もまたおいしいね」

「ありがとうございます。でも、普段飲まれてる紅茶と、宿の緑茶、ここの黒茶は実は元は全部同じなんですよ?」

「えっ、そうなんですか?」

「茶葉を摘んでから、熟成する期間とかを変えると色合いや風味が変わるんです。不思議ですよね」


袖で口元を隠しコロコロと笑いながら言う女中は、特徴的な狐の尻尾や耳をピコピコと動かして楽しそうに話を続ける。


「それにしても、この時期にお客様がいらっしゃるなんて珍しいですねぇ」

「そう・・なんですか?」

「ほら、闘技大会が首都であるでしょう?ですから、出ていく人がいても来る人は少ないんです。まぁ、元々来づらいのであまり人はいらっしゃらないんですけど」


そうして談笑を続けるアリエルやライラと女中をよそに、窓から興味津々に庭園を見回しているクラリッサへと近づいていく銀二。


「こちらの庭園はなんだか面白いですねぇ。木々もそうですけど、砂利も不思議な模様で」

「おーホントだ。これだけの広さだと整備も大変そうだなぁ」

「ふふふ・・・・それであの方に何を見たんです?」


チラリと後ろでお喋りに講じている三人に視線を向けて、すぐに銀二へと向き直って問いかけるクラリッサ。その視線に肩を竦め、懐から出した封筒の宛名をトントンと指で叩く。


「どうやら悪戯好きみたいだな」

「うふふ、お客も少ないから楽しいのでしょうねぇ」

「ま、しばらくは放っておこう。んで、アスタはどっかいったのか?」

「アスタさんでしたらぁ、お仕事の下見にいくとかなんとかで先に出ていかれましたねぇ」

「ふーん・・?」

「アスタさんといえばぁ、旦那様のお持ちの宝具についてなにやら探りを入れてるみたいですねぇ」

「宝具を・・・?」

「その風脈のイヤリングについて少し問われたので、ぼかして伝えてはありますねぇ」

「そーけ。ま、宿に戻ってきたら聞いてみるか」


そう言ってクラリッサを伴って三人の元へと戻ると、黒杖を床についた音で女中がその姿に気付いて「あらいけない」と言葉を零す。


「歓談中スマンね。特に急ぐ訳でもないんだが、先に用件を済ませておこうかと思ってね」

「そういえば門番さん行ってからちょっと時間かかってるね」

「そりゃあそうだろ。来客の知らせを伝えに行ったのに、そのご当主が客間にもう来てるんだから見つかるはずもないだろうしなぁ」

「え”っ」

「うん?」

「あら」


喉の奥から呻きにも似た声を出したアリエルと、静かに首を傾げるライラ。そして目を開いて銀二へと視線を送る女中・・・ユウギリの姿があった。


「お初にお目にかかる。首都のルドニでキキョウさんから手紙を預かってきた冒険者の銀二ってんだ。以後ヨロシク」

「これはご丁寧に。もうバレてしまっているようですから、改めてご挨拶を。狐人の長の家系で、当主をしておりますユウギリと申します。以後よしなに」

「わっわっ・・・えっと、知らず失礼しました」

「あらあら、いいのよ~。当主として出てくると皆さん畏まってしまって中々お話しできないですからねぇ。でもすぐにバレてしまうのは初めて」

「まぁちょいと事情はあるんだがね。さてと、これがその手紙」

「遠路遥々ありがとうございます。キキョウちゃんも忙しいのはわかるんだけど、たまには帰ってくればいいのにねぇ」


手紙を受け取り、部屋の明かりに透かしながら言って一つ頷くと封を切り手紙を取り出す。サササッと視線が素早く動くと、数秒で読み終えたのか手紙を畳んで封筒へと仕舞いなおす。


「どうやら近況報告のようで、こんなものの為に火の一族の方を遣いにするなんて申し訳ありませんわ」

「い、いや。北方街道が封鎖されてしまってティビリを経由していくから何かないかと聞いたのはこちらでもあるし」

「そう言っていただけると・・あの子もいい年なんだからそこら辺の分別もつけばいいんですが・・」


年・と聞いた段階でスッと視線を外した銀二と、それをニコニコと見つめるクラリッサ。種族は多様であれど、女性に年齢の話はタブーなのは変わらないのである。

と、俄かに門のほうから騒ぎが聞こえ始める。ざわざわとした声がこの来客用の館まで聞こえてくると、ユウギリも気になったのか部屋の扉を開き女中を呼び出す。


「来客中ですよ、なんの騒ぎですか」

「ゆ、ユウギリ様!こちらにいらっしゃいましたか。それが、街のギルドの方が緊急の要件との事で」

「まぁ、ギルドの方が?」

「ええ。なんでも、首都へと続く隧道の一部が崩落したとかで・・・」

「あらまぁそれは大変」


言葉遣いは標準的だが、キキョウの持つやんわりとした空気をユウギリも持っているのか、大事でもあまり慌てず受け止めてしまう。そしてその話が中にいる銀二達に漏れ聞こえると、女性陣三人の視線が銀二へと突き刺さる。


「ん”ん”、あー・・・なんだ。ユウギリさんよ」

「あ、はい。どうしました?」

「その隧道なんだがね、原因の一端は俺にもあるんだが・・・」


ばつの悪そうな顔で頭を掻きながらそう言うと、頬に手を添えたままユウギリの首も傾いていくのであった。

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