55-厄介事って言っても限りがあるでしょうが―
ダダダダッ!と狭い洞窟内を銀二が駆け抜けていき、その背後からは大小さまざまな骨が剣やら棒やら他の骨やらを持って追いかけてきている。分かれ道を進んでから既にかれこれ一時間は経過しているのだが、一向に合流する気配はなく、いつからか大量のスケルトンに追いかけられ始めているのだ。
「スケルトンって人型だけじゃねぇのな!?」
「―――」
カラカラカラ!と乾いた音に顔だけ振り向かせれば、おそらく猪だったのだろう骨がすぐ後ろまで迫ってきていた。激突するかというところで前方に黒槍を突き立て、鉄棒の大車輪の様に横向きに一回転して骨を吹き飛ばし、後続の大量のスケルトンにぶつけていく。
「ストライーーク!どうよ!?」
「カタカタカタ・・・」
「えぇー・・・もうキメラじゃねぇの・・・」
吹き飛ばされた先の骨を取り込み、猪だったモノが巨大になっていく。多関節の化け物となったそれは、あえて言うならドラゴンのような形か。眼窩にぼうっと赤黒い光が灯ると、顔を銀二へと向き直し、ズシャリと重い足音を響かせて歩き始める。精霊の影響で精神的に補強材が入った銀二でさえ、思わず頬が引き攣っていきそっと踵を返して走り始める。
「無理無理、打撃無効とか無理」
「―――――!!!」
「骨だけでどっから声だしてんだよそれーーー!」
A:鳴き声に似ていますが、物理的に聞こえてくる魔力の奔流のようなものです。
ガッシャガッシャと足元の骨を蹴飛ばしながら走っていく銀二だが、登るどころか徐々に降っていることに気付いていない。
打撃は一応有効だが、吹き飛ばされた先にも骨が落ちているので補給されるという無限ループに流石の銀二も三十六計企てるよりも勝ることをし始める。
「だれかーー!たぁーすけてくれーぃ!」
―――
――
―
「ん・・・?今なにか聞こえなかったかい?」
桃色の髪を翻し、馬車の中でアスタが後方を振り向くが当然誰もいない洞窟が広がるだけである。隣で周囲を警戒していたライラやクラリッサは首を傾げて否定の声を上げた。
「いえ~、私には聞こえなかったですねぇ」
「ああ、私もだ」
「獣人のライラサマやエルフのクラリッサが聞こえてないなら気のせいかね・・?」
はてさてと首を傾げながら口に咥えたタバコをピコピコと動かすと、にゅっとライラが手を伸ばしてタバコの先に電気を通して着火させる。
「ん・・・・ふぅー。こりゃ恐れ多いね」
「気にしなくてもいい。よくギンジ殿にも同じことをしているしね」
「ギンジも隅に置けないねぇ~。こんなキレイどころ囲うなんてサ。んで、その色男はどうしたんだい?」
ガラガラと音を立てて進む馬車の中でアスタが尋ねれば、ライラやクラリッサが事情を話していくと聞いていたアスタのキレイな眉が顰められていく。
「・・・落ちちまったのかい?」
「殺戮兎を道連れにするためにな・・・」
「殺戮兎ぃ?そんなやつここにいたのかい?」
「この隧道に入る直前に予言猫に逃げられて・・・」
「・・・とことん厄介事を巻き込んだわけだ。こりゃ下でも厄介事が起きてそうだね」
ポリポリと頭に生えた耳の付け根を掻きながら言うと、ピコピコと耳を揺らしながらふぅーと煙と共に息を吐き出す。
「参ったねェ・・ギンジにちょいと聞きたいことあったんだケド」
「聞きたいこと?それでわざわざこの隧道に入ってきたのか。一人だったら山道の方が良いだろうに」
「ま、この先のティビリにも用事があるからそれは別にいいのさ。アタシは一人なら逃げ回れるしどこでも行けるしね」
咥え煙草をしたまま人差し指を立てると、その指先に風が急速に集い超小型の竜巻を発生させる。それを馬車の後方に向けて撃ちだすと、数匹のゴブリンがその風で体をズタズタに引き裂かれながら吹き飛んでいく。
「ティビリに通じるこの道でも小物はチラホラ出るけど、下の方はちょいとヤバいのも出るしギンジは大丈夫かねぇ?」
「・・それほど危険な魔物が?」
「危険っちゃあ危険なんだけど、それ以上に厄介ってのが強いかね。この道だけならティビリの連中が定期的に魔物掃除してるケド、下はある意味天然のダンジョンだからねぇ。特にアンデッド系が出るって話さ」
「あ、あんでっど・・・・」
馭者として手綱を引いているアリエルの体がビクリと跳ねると、クラリッサがニコニコとしながら優し気なまなざしでそれを見守る。
「なんでも、その昔狐人のヤバい連中がまじないの為に放った魔物が、中で共食いしたりしてその恨みつらみが溜まって・・・」
「ううぅう・・・っ!耳を塞ぎたいけど手綱引いてるから手が離せない・・・!」
「その上、立地的に賊が隠れるにはいい場所だからね。幾つかの賊が根城にしようとして魔物に食い殺されたり、処刑の一つで手足を縛った罪人を蹴り落したりして下の方には人の死体が山になってるって話さ」
「うぅぅぅぅっ」
「魔獣や悪人たちの怨讐の念が積もり積もって、魔力が淀んじまってアンデッドの温床になってるんだと。アタシの知り合いにその手のことに詳しい奴がいるから、多分全部当たってるんだろうけど」
「ふむ・・・まぁギンジ殿のことだから力技でなんとかするのだろうが・・・」
「前に見たときのギンジの魔力量からすればできなくないだろうけど・・・」
リゲル宅での戦闘を思い出し、とんでもない魔力量とそれにブーストされた身体強化の出鱈目さに密かに驚いていたものである。
「そういえば・・・ギンジが身に着けてたイヤリングってアンタ等知ってるかい?」
「イヤリング?ああ、確か緑色の宝石がついた・・」
「そうそう、それそれ。あれをどこで手に入れたか知らないかい?」
「・・・詳細は本人に聞くのがいいだろうね。だが、一つ言うなら取り返したものである、とだけ」
「・・・取り返した・・ね。ま、あとでギンジに聞くとするよ」
無事に帰ってきたらね、とアスタが呟きながら煙を吐き出しそれが風に乗って洞窟内へと広がっていった。
―
――
―――
ドォォン・・・と遠くまで広がる音を響かせ土煙の中掌底を打ち出して残心する銀二と、掌底と共に放たれた魔力で吹き飛ばされたキメラスケルトン(仮)が宙を舞う。
やたらと広い空間に出たのはいいが、先に通じる道はなくどうやら道を間違えたと気付くのに時間はかからなかった。そして出口はもちろん入ってきた道だけで、その道には各種スケルトンが揃い銀二も覚悟を決める他なかったのである。
手にしていた黒槍は既にオーガのようなスケルトンの頭部を壁の飾りにするために投げ、そして隙間だらけの骨に刺突武器は相性が悪い事に気付いてからは、手足に魔力を纏わせて打撃に切り替えたのである。
「ふぅー・・・・」
調息によって放出した魔力を新たに取り入れ、体内を循環させる。一流の魔術師や魔力運用が命綱になる者達からすればそれこそ呼吸と同義であるそれを、この世界に来てから欠かさず行っていた銀二の魔力循環はまさに一流へと入っていた。すべては出鱈目な魔力量によってなされた訳であるが。
「・・・こんなことなら、アリエルに浄化の魔法でも教えてもらえばよかったか?つってもダメか」
体内に流れる膨大な魔力を感じつつも、自身の欠点に思わず顔を顰める。多くの魔力を持ち、身体強化や治癒術、そして魔力放出の技術は光るものがあるが、銀二自身が魔力に属性を付与することは出来ないのだ。銀二が属性を伴う魔力行使をするときは、宝具による補助があってこそなのである。
そのため、現在出来ることと言えば瞬間的に大量の魔力を相手に注ぎ、魔核とよばれる魔力の中枢をオーバーフローさせて消滅させるという力業のみである。いくら周囲に満ちる魔力を即座に吸収して運用できるとは言え、貯められる魔力には一応限りがある。それを瞬間的に全放出させるため隙が出やすいのが玉に瑕だが、今回に限って言えば有効な戦法であった。
「こいつらのモーションが遅くて助かった・・・あと思考じゃなくて本能的に動いてる部分も」
密室の為か、はたまたアンデッドを相手にしているせいか。妙な息苦しさを感じつつも、取り込んだ魔力を再び体に纏わせる。銀二が準備を整えるころには、無論相手も準備を整えていたということでもあり、人型のスケルトンがぞろぞろと銀二を囲むようにして近づいてくる。
「やるなら粉々にするぐらいやらねぇとな・・・っ!」
ドン!と地面に転がった骨を吹き飛ばしながら踏み込むと、弓引くように引き絞った右腕を震脚と共に打ち出す。ヒト型のスケルトンの胸、胸骨に掌底を当てると同時に高密度の魔力を打ち出すと衝撃と共に閃光がスケルトンの体を打ち抜き魔核ごと粉々に砕き切る。
その隙を狙ったのかすぐ後ろから別の個体が手に持った折れた剣を振り上げるが、体を捩じると手足の魔力光を輝かせながら後ろ回し蹴りを放ち、寸分違わず胸骨を蹴り抜きまたも魔力を放出させる。そこからはさながら独楽のように、魔力放出による反動を利用して宙を舞い、攻撃をしては調息と共に魔力を四肢へと纏わせる。
くるりくるりと宙を舞い、頭上から踵落としで頭蓋骨から蹴り砕き、近づいてくるスケルトンに掌底を放つ。
「ふっ!せいっ!」
纏わせた魔力の残光が幾何学模様に奔っていく。魔核を失った骨は衝撃に吹き飛ばされた後に起き上がることはなく、徐々にその総数が減り始める。
とはいってもその数が数なので微々たるものなのかもしれない。事実銀二はちらりと周囲が見えたとき、その数の多さに思わず呻きを上げ、蹴り飛ばした反動で遠くに離れると深くため息を吐く。
「多いっつーの・・・!」
ガチャリガチャリと近づいてくるスケルトンたちに辟易しながら構えを取り直すが、ある程度の距離まで近づいてくるとすべてのスケルトンの動きがピタリと止まる。
眼窩に灯る赤黒い光が銀二から宙へと向けられ、まるで耳鳴りの様な音を周囲に響かせながら周囲の魔力がその視線の先へと集っていく。
「なんだ・・?」
チリっと首の後ろに奔る感覚に嫌な予感を覚え、調息で魔力を整えるがどうにも体が重いようにも感じられる。やがて魔力は周囲の景色を歪ませ、その塊が徐々に黒く染まっていく。その色合いに見覚えのある銀二は一つの結論に辿り着く。
「・・・・これが、瘴気?」
「「―――――!!」」
「なんかやべぇか?」
ズズズ・・と地鳴りの様に周囲が僅かに揺れ始めると、周りにいたスケルトンたちの口から黒い魔力塊が抜け出て宙へと集まっていく。その場全てのスケルトンがそうして力を失い、カランコロンと乾いた音を立てて地面に転がると、宙に浮いた瘴気の塊から見覚えのある触手が空間を裂くようにして急速に伸びていく。
「あっぶね!」
幾つもの触手が手あたり次第に周囲へと突き刺さっていくと、ドクンドクンと脈動するように触手が蠢いていく。やがてそれは吐き気を催す邪悪さを醸し出しながら、周囲一帯へと瘴気を吐き出し始める
「ちょ・・やべえ・・!」
脈動と共に瘴気が周囲へと爆発的に広がり、物理的衝撃を伴ったそれは徐々に周囲の岩肌へとダメージを与え、パラりパラリと岩の破片が上から落ちてくる。
そして、ゴゴゴ・・と地響きをさせ地面から突き破るようにして白く巨大な何か現れる。所々に黒い触手が侵食するようにして生えているが、それはまさに竜種の骨そのもの。そしてその口にどす黒いほどの魔力が収束し始める。
『――――――ッ!!!』
「うおおおおおおおおおおぉ!?」
僅かな光を飲み込むような、まさに漆黒ともいえる魔力がレーザーの様に放たれそしてそれは無造作に周囲一帯を薙ぎ払っていく。
無論、それは銀二をも巻き込み周囲を吹き飛ばし、そして支えを失った天井は崩れ始め岩塊が落下してくる。
瘴魔・スケルトンドラゴンが生まれた瞬間であった。
台風に地震と災害が続きますが皆さま大丈夫でしょうか。
早期の復旧・復興を祈るばかりです。
どうかご無理をなさりませんように・・。




